照柿(下) の商品レビュー
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上巻からしつこく描写される工場の様子が、 詳細に過ぎてイメージしにくい箇所はあったけれど、 この怒涛の後半に向けて積み上げられていくためには、 絶対的に必要だったことがわかる。 これぞ高村薫という執拗さは、 30年前から健在である。 達夫の追い詰められていく精神状態も、 雄一郎の崩壊一歩手前の逸脱も、 もはや記憶の底に埋もれていた、 彼らのこどもの心にたどり着くためには、 そしてその心が救われるためには、 通り抜けなければならない彷徨だったのか。 そうであったのであれば、 あまりにも悲しい道程であった。
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上巻から延々と続く合田刑事のパートと野田達夫のパート。 自分の貯金を切り崩してまで、ヤクザの開く賭場で博打をうつ合田。 もちろん職場にばれたら首だ。 だけどそれは、捜査のためなのだ。 350万円の借金も含めて。 …そんな刑事いる? 家に居場所がなく、職場は常に問題をはらんでいて、上に掛け合っても相手にされないし、下の者には冷たくあしらわれる野田。 腹の中にいくつもの怒りを抱え、しかし頭は休むことなく問題解決について考えているのだが、身体的にも精神的にも限界が近い。 周囲の人たちの身勝手な言い分に、読んでいてうんざりする。 しかし野田は、東京に出てくるまではすこぶる付きの問題児で、かっとなって起こした暴力事件などは日常茶飯事であったはず。 その粗暴な野田と、冷静に問題解決に向き合おうとする野田が、重ならない。 延々と続くサイコロの出目の描写。 延々と続く熱処理の作業工程。 合田が目撃した電車飛込事件も、合田が追っている強盗殺人事件も、一向に解決に向かわない。 なのに延々と…いったい私は何を読まされているのか? 「つまらん」と思いながら上巻も併せて700ページ以上も読んで、ようやく面白くなってきたら、あっという間に数10ページを読み終え、消化不良のまま本を置いた。
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上巻よりも良かったという印象。 スピード感かな。 下巻が始まって早々に1つ目の見せ場がくる。 雄一郎が、組長の秦野と手ホンビキを興じるシーン。 終始緊張が張りつめていることが伝わってくる。 「それはもうどこを切っても市井とは無縁の、構成員二千人の広域暴力団を抱える男の顔と身体だっ...
上巻よりも良かったという印象。 スピード感かな。 下巻が始まって早々に1つ目の見せ場がくる。 雄一郎が、組長の秦野と手ホンビキを興じるシーン。 終始緊張が張りつめていることが伝わってくる。 「それはもうどこを切っても市井とは無縁の、構成員二千人の広域暴力団を抱える男の顔と身体だった。修羅場の上に純白の布を広げたような、残忍な感じのする獣の静けさだった。」 いやいや…土井を追い詰める為とはいえ、雄一郎自らここまで足を踏み入れるなんて。 大丈夫なんだろうか。 読んでいるこちがヒヤヒヤしてしまった。 けれど後に雄一郎のこの踏み入れは、ある程度は報われることとなるのだけれど。 雄一郎も達夫も、これまでの自分とは逸脱した方向へと向かっていることを自覚している。 達夫。 「いったい美保子を始め、みな似たようなところのある女ばかりに巡り会うのは、自分がその手の自虐と破滅に惹かれているということに違いなかったが…」 「…達夫はその空のように自分という人間が刻々と明るみに出されてゆくような感覚を味わい、興奮を覚えた。これまで深く塗り込められてきた欠陥や無秩序や乱雑が、いまや被うべくもない克明な素顔を現しつつある、と思った。」 雄一郎。 「これでもう、こころは死んだか。余計な自省や逡巡は死に絶えたかと自問し、…」 「雄一郎はあらためて冷え冷えとし、喜代子にも佐野美保子にも、野田達夫にも元義兄にも背を向けたいような心地で、ただぎりりと身体を固くした。」 そして第三章「転変」内で、文字通り自体は大きく転じる。 じっくりじっとりの1巻に比べて、2巻は転がり落ちるようにあれよあれよ…だった。 ああ、まただ。 この前読んだ『冷血』の時も感じたが、何故こうなってしまうのだろうという虚しさ。 順風満帆とは言えなくとも、懸命に積み重ねてきた日常が、些細な出来事を切っ掛けにガラガラと崩れてしまう恐ろしさ。 それはきっと、何が起きているのか本人にも分からない程のスピードだ。 「…達夫の人生の川がいま、氾濫してめちゃくちゃになっていることは手に取るように分かった。」 P336からの小学生時代の雄一郎の走り書きの件は、なんだか本当に悲しかった。 子供同士の些細な出来事が、巡り巡ってこんな結末になっていること。 改めて合田雄一郎と野田達夫という人物像を振り返らずにはいられない。 P342でついに涙してしまった。 元義兄からの手紙で、私も救われた。 そう、雄一郎がまともに美保子と対面したのはたったの3分なのだ。(映画館は除いて) それなのに読者である私まで佐野美保子という人物に惑わされてしまっていた。 狂うような夏の暑さと照柿という臙脂色。 対比するように持ってくる青色。 追い詰められ、混乱する脳内を形にするかのようなキュビズムの絵画。 惑わされ彷徨う男に対して用いられたダンテの神曲。 この重厚な読み心地。 やっぱり高村薫さんは上手いなぁ。
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上巻ですごい引き込まれたわけでもなく下巻もそんな感じ。 刑事合田雄一郎にイマイチ共感できないというか好きになれなかった。 野田達夫も結局何だったんだろう?芸術的な天才ゆえの変わった人だったのか。 最後もなんかよくわからぬまま終わってしまい、「あー面白かった!」って満足感がないまま...
上巻ですごい引き込まれたわけでもなく下巻もそんな感じ。 刑事合田雄一郎にイマイチ共感できないというか好きになれなかった。 野田達夫も結局何だったんだろう?芸術的な天才ゆえの変わった人だったのか。 最後もなんかよくわからぬまま終わってしまい、「あー面白かった!」って満足感がないままになってしまい不完全燃焼。 でも最後の野田達夫が捕まるまでのところは、一気読みした。展開があんまりないお話だったからなんとなく満足感がなかったのかなー。 高村薫さんの『マークスの山』をだいぶ前に読んで面白かったから高村さんのを買ってみたんだけど… でもマークスの山にも合田刑事は出てたみたい。もうすっかり忘れてしまっている。
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読んだ本 照柿(下) 髙村薫 20220116 合田雄一郎シリーズの第二弾ということで、刑事ものなんですけど、大きな事件は起きません。 「マークスの山」や「レディ・ジョーカー」のような犯罪自体にドラマがあり、それを取り巻く人間にまたドラマがあるような作品とは一線を画した、様々な...
読んだ本 照柿(下) 髙村薫 20220116 合田雄一郎シリーズの第二弾ということで、刑事ものなんですけど、大きな事件は起きません。 「マークスの山」や「レディ・ジョーカー」のような犯罪自体にドラマがあり、それを取り巻く人間にまたドラマがあるような作品とは一線を画した、様々な意味で破滅というものを描いた小説だと思います。 しかし、自分自身や自分の置かれている環境を突き詰めて思考しながら、衝動と偶発によって運命が定まっていく。また、それが必然であるかのように描きこまれる、やっぱりすごい作家さんです。 正直、登場人物の行動原理が理解できずに違和感を抱えながら、いろいろな描写に引きずり込まれてしまったのですが、やはり衝動と偶発、理解できない行動原理さえも描きこまれた装置だったってことでしょうかね。 347Pの最後4行、美保子の容貌について書かれたところが、すごく痛かったな。 それにしても、自らの境涯に絶望し、所属する組織に絶望し、自分自身に絶望する。そして怒りを孕みながら絶望から抜け出せない。登場人物の多くがそう描かれている。髙村薫という作家の人生観ってどんなんだろう。 読み応えありました。
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下巻では、壊れていく人間の心の内側がとても心に残りました。 合田が語っていたように、達夫は人とはちょっと違った視点を持っていて独自の考えで世界を捉えていたように思います。 だから強さと弱さが人一倍大きな波となって現れ、自らに襲い掛かり、それに自分が潰されていってしまう。 生...
下巻では、壊れていく人間の心の内側がとても心に残りました。 合田が語っていたように、達夫は人とはちょっと違った視点を持っていて独自の考えで世界を捉えていたように思います。 だから強さと弱さが人一倍大きな波となって現れ、自らに襲い掛かり、それに自分が潰されていってしまう。 生々しい描写による、殺人をテーマにした作品なのに不快感がないのが不思議。 そして、ラストの2人のやり取りには何故か涙が出ました。 この作品の感想は簡単に言葉にできません。 とにかく重く強い作品でした。
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作中にたくさんの色が出てくるが、全て幸せな色ではなく、どこか物悲しくて、息苦しさを感じる。 達夫や雄一郎のような繊細さを持ち合わせていない私は幸せだなぁ。
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高村薫を読んだ後はいつも腹の中に重いしこりが残る。合田と旧友の野田、そして美保子。どろどろした愛憎と殺人、罪と罰。やりきれない。途中まで丁寧に書いていたが、野田が画商を殺すあたりで意味がわからなくなった。なぜ、そうなる?感情は揺さぶられない。ただ沈んで考え込んでしまう。リアルにこ...
高村薫を読んだ後はいつも腹の中に重いしこりが残る。合田と旧友の野田、そして美保子。どろどろした愛憎と殺人、罪と罰。やりきれない。途中まで丁寧に書いていたが、野田が画商を殺すあたりで意味がわからなくなった。なぜ、そうなる?感情は揺さぶられない。ただ沈んで考え込んでしまう。リアルにこういう思考で生きている人たちがいるのだろうか、とまで思ってしまった。
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再読 初読は10年以上前、ただただ工場の描写の熱に圧倒され、その印象しかなかった あとがきにもあるが、読んでも全ては分からず考えさせられるお話 読後は物悲しくなる
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ミステリーに分類はされるのかもしれないが、実際はミステリーの形式を借りた雄一郎と野田の心の動きを描く作品。 謎はなにも解決していない(あるいは最初から謎はなかったのか) 拝島の飛び込み事件も、八王子のホステス殺しも作品の中にエピソードの一つ。 高村薫の作品に共通しているが、一つ一...
ミステリーに分類はされるのかもしれないが、実際はミステリーの形式を借りた雄一郎と野田の心の動きを描く作品。 謎はなにも解決していない(あるいは最初から謎はなかったのか) 拝島の飛び込み事件も、八王子のホステス殺しも作品の中にエピソードの一つ。 高村薫の作品に共通しているが、一つ一つの分のセンテンスが長く、修飾語が多すぎ読み進めて行くのががしんどい作品。
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