うたの動物記 の商品レビュー
馬、カメレオン、オウムなど105の動物に焦点をあて、詩歌を引きつつ日本人の心の風景と、その詩的世界を探った随筆集。 動物の歌が突出して多いのは茂吉である。偏執的な性格で、3日に1回は鰻重を食べていたことがあった。「これまでに吾(われ)に食(く)はれし鰻らは仏となりてかがよふ...
馬、カメレオン、オウムなど105の動物に焦点をあて、詩歌を引きつつ日本人の心の風景と、その詩的世界を探った随筆集。 動物の歌が突出して多いのは茂吉である。偏執的な性格で、3日に1回は鰻重を食べていたことがあった。「これまでに吾(われ)に食(く)はれし鰻らは仏となりてかがよふらむか」と骨太の歌が残る。ナマケモノを詠んだのは岡井隆。週に1度、地上に降りて排便をすませるほかは、樹の枝から逆さにぶら下がっている可笑しさを、「枝々(えだえだ)に数かぎりなくぶらさがる天(あま)つ陰嚢(いんのう)と思はざらめや」と昇華させた。ゴキブリさえもが島田修三にかかると、「さんざ騒ぎ果ててしばらく居残ればゴキブリだらけの穴ぞこの酒場(バー)」となにやら抒情がかもしだされる。 何度も吹き出してしまうのは、著者の機知のなせる業。芥川の「蜘蛛の糸」を引き合いに、彼はニュートンの法則を知っていたのかしら、と洒落るあたりもいい。 (「週刊朝日」 2011/9/9 西條博子)
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