芸術の蒐集 の商品レビュー
『美の歴史』『醜の歴史』に続く、エーコの芸術史第3巻。 美と醜の枠を飛び越えて、蒐集の大海へと碩学が誘う。 原題は”Vertigine della lista”、「目録の眩暈」もしくは「めくるめく羅列」というような意味であるらしい。 「リスト」が本書のテーマである。書物にしろ、...
『美の歴史』『醜の歴史』に続く、エーコの芸術史第3巻。 美と醜の枠を飛び越えて、蒐集の大海へと碩学が誘う。 原題は”Vertigine della lista”、「目録の眩暈」もしくは「めくるめく羅列」というような意味であるらしい。 「リスト」が本書のテーマである。書物にしろ、絵画にしろ、数多くのものを描いていても、結局は有限である。『神統記』や『イリアス』の時代から、人間は膨大なリストを以て世界の無限に挑んできた。数え切れないほどの人物たちが描かれた群像画もまた、額縁を超えて広がる宇宙を感じさせる。 視覚的リスト、物のリスト、場所のリスト、脅威のリスト、驚異の部屋(ヴンダーカマー)などのテーマのもとに集められた美術作品や文学作品。 これでもかというほど列挙される羅列の例の洪水には、眩暈を通り越して悪心をもよおすほどだ。この本自体が「リストのリスト」と呼べるものになっている。 博物館やコレクターとも通じる、「網羅したい」という思い、あるいは欲望。圧倒の1冊である。 *個人的には、ちょっと手に余った。自分はあんまり世界を把握したいって欲望がないんだな、きっと。リストというものにそれほどの興味を持てない。 *三部作のうち、自分としては『醜の歴史』が一番おもしろかった。 *第16章「一貫性のある過剰」の中に、エーコ自身の作の抜粋も採られている。前段に弁明があってちょっと微笑ましい。 *前2作に比べて、テキスト引用部分が多いような気がする。基本的には本書の訳者さんが訳されたものらしい。リストが延々と続く、訳に苦労しそうな文章が山ほど。いやもうとにかくその労力に「お疲れさまです」と言いたい。 *創世記の抜粋を呼んでいたら、筒井康隆の『バブリング創世記』を思い出してしまった。もう何年も前に読んだきりなのに。記憶って不思議。
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