笛吹川 の商品レビュー
甲斐の武田三代の時代が舞台。例えれば川が海へ流れ入るごとくに、戦で無為に命を奪われ続ける反復。戦にかかわる理由は個々にあれ、好むも呪うも等し並みにどうしようもなく巻き込まれる人間を、おそろしく無慈悲に描く。
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時代小説というと、智謀に秀でた軍師が策を廻らし、勇猛な武将が血湧き肉躍る合戦を繰り広げ…、という筋書きをおもいうかべる人が多いと思います。 しかし、さすがは普通に生きる人々に常に優しい視線を持ち続けた深沢七郎です。戦国の世、山梨の石和・笛吹川沿いに生きる小さな農家一族にスポットを当てた物語。 向こう見ずで恐れられた半蔵が戦争に出て功を立て、お屋形様(武田信玄で有名な武田家)の部下に召し抱えられます。しかし、半蔵の祖父が祝いの席である粗相をしでかし、斬殺されてしまい…。それを皮切りに一族の者たちは病死や焼き討ち、戦死などさまざまな死を迎えます。 それぞれの死の影にはお屋形様がつきまとい、好むと好むまいと権力(=お屋形様)に引き寄せられてしまう人の在り方がテーマとなっています。 「どうしてこんな描き方ができるんだ!作者は鬼のような人じゃないか?」と思えるくらい、人が死んでいく様を感情をまじえず即物的・客観的に描写しています。しかし、それだけに感情が湧き上がってきて、最後の壮絶な展開は読み進めるのが辛かった…。 深沢は、頭でわかっていても誰もが受け入れるのが難しい、人が死んで行くのは当然だという認識をすっかり受け入れてしまっているのでしょう。 「楢山節考」「みちのくの人形たち」もそうでしたが、深沢七郎の描くムラ社会には権利とか民主主義とか、西洋流の価値観の影響を全く感じさせません。それだけに、普遍的な共同体の本質を捉えることができているように思えました。 この小説が刊行されて50年以上もたっているのに、いまだに古びないなんて、やはりこの作家、ただものではありません。
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戦国時代。江戸の士農工商というカースト制度が、各身分を分離する以前、このころは、農民が領主のためにいくさに参戦し、死に、あるいは手柄を立てて褒美をもらったものらしい。 この小説に出てくる農民の一族は、武田信玄の一族のために戦い、死ぬ。あるいは富裕になりすぎて妬まれ殺されたり。や...
戦国時代。江戸の士農工商というカースト制度が、各身分を分離する以前、このころは、農民が領主のためにいくさに参戦し、死に、あるいは手柄を立てて褒美をもらったものらしい。 この小説に出てくる農民の一族は、武田信玄の一族のために戦い、死ぬ。あるいは富裕になりすぎて妬まれ殺されたり。やがては武田氏の敗退とともに、追い詰められることになる。 それでも彼ら農民は領主にさからうでもない。黙々と肉体を捧げ、黙々と死んでゆく。この無限の繰り返しが、妙に日本人的であるとともに、不気味な生の成り立ちをイメージさせる。 最後の方で末子が 「この土地の者は、みんなお屋形様のおかげだ」 と言いだし、周囲の者たちはそれは逆ではないか、われら一族、お屋形様のせいで犬死にしていったではないか、といぶかる。 しかしこの<転倒>がこの小説の要であって、虫けらのごとき平民が殿様のためにひたすらに生命を捧げてゆくその円環を決して壊さないために、歴史は言い換えられ、<主人>の権力の強さへの盲目的な賛美を要求するのである。 かくして円環は永遠に回り続ける。生はそこに呑み込まれ、無言で従うだけだ。犬死にで終わる生のすべては再び、何度でも、繰り返される。永劫回帰である。 しかし小説としてはやはり冗長な感じがないでもなかった。土俗的な世界観は面白いのだが・・・。
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未知との遭遇〜〜。ほんと、どうしたらいいかわからない。町田康さんが解説で言うように、「作者が文章に対して調節•調律の意識を排しているから」。普段小説を読む時は、作者が物語に込めた意味や意図を意識し、「感動」とかを受けることを期待しながら読んでいる訳だけども、そんなもんないし。開高...
未知との遭遇〜〜。ほんと、どうしたらいいかわからない。町田康さんが解説で言うように、「作者が文章に対して調節•調律の意識を排しているから」。普段小説を読む時は、作者が物語に込めた意味や意図を意識し、「感動」とかを受けることを期待しながら読んでいる訳だけども、そんなもんないし。開高健は形容詞が無いと言っていたが、ほんとにそうで、ここでもまた、これまでの読み方ではどうにもならない超越感を感じずにはいられない。なんかをとびこえなくてはいかないらしいが、、ラブミー農場主恐るべし。年譜も必読です。
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武田信玄ものはいろいろ読んだが、 この作品は甲斐の国の領民を描いている。 領民と言っても笛吹川沿いに暮らす最下層の農民たちの 六代にわたる物語である。 日常の中に飢えがあり、自然死があり、農民の逞しさあり、 洪水で家が流される・・・・ 若い時読んだ印象に比べ。、いま再び読んでみる...
武田信玄ものはいろいろ読んだが、 この作品は甲斐の国の領民を描いている。 領民と言っても笛吹川沿いに暮らす最下層の農民たちの 六代にわたる物語である。 日常の中に飢えがあり、自然死があり、農民の逞しさあり、 洪水で家が流される・・・・ 若い時読んだ印象に比べ。、いま再び読んでみると「笛吹川」が問題作、名作と言われる所以が少しはわかる気がした。
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全体としては淡々としているのに、ぐんぐん読み進んでしまう異様な面白さが凄い!最後のほうの、映像が目に浮かぶような迫力も、物凄い!解説が町田康ですが、思い返せば町田康の『告白』などは、この作品(というか深沢七郎)へのオマージュ(というか影響)のようにも思えてきます。『笛吹川』、素晴...
全体としては淡々としているのに、ぐんぐん読み進んでしまう異様な面白さが凄い!最後のほうの、映像が目に浮かぶような迫力も、物凄い!解説が町田康ですが、思い返せば町田康の『告白』などは、この作品(というか深沢七郎)へのオマージュ(というか影響)のようにも思えてきます。『笛吹川』、素晴らしく面白くて物凄くて、良い作品でした!
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「楢山節考」の作者の出世作として有名だったが、ようやく読了。 笛吹川の側に住む農民一家5世代と、勃興する武田信虎、そして版図を広げる信玄、武田家を滅亡させた勝頼との関わりをあざやかに描き出した名作。 日本中、この時代の庶民たちが多かれ少なかれ体験した人生を鮮やかに描いており、深く感動した。 小説臭くない、主人公の心象をそのまま文字にしたような独特の文体、今は珍しくないが、当時は斬新だったろうな。
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男より始まり、 男で終わる話。 連なる人生と 飛び交う会話。 歴史で光が多くあたるのは殿や手柄を上げた人々だけども、歴史のなかには、必ず民がいる。 川の脇に、土が必ずあるように
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待望の文庫化。しかも解説は町田康。私の祖母は甲州弁のネイティブスピーカーだったのだが、それを聞いて育ったおかげでこの本の語りにすんなりと入っていけた。祖母には全く感謝することろがなかったが、その点だけは感謝したい。
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深沢七郎は、「楢山節考」以来20年以上ぶり。 武田三代に翻弄される、「ギッチョン籠」と呼ばれる農家一家の物語。 人の生死の場面を中心に淡々と語られ、最後、勝頼の天目山の戦いで一気にクライマックスを迎える。意表をつく展開が続き、読む人を飽きさせない。 まだ兵農分離がはっきりし...
深沢七郎は、「楢山節考」以来20年以上ぶり。 武田三代に翻弄される、「ギッチョン籠」と呼ばれる農家一家の物語。 人の生死の場面を中心に淡々と語られ、最後、勝頼の天目山の戦いで一気にクライマックスを迎える。意表をつく展開が続き、読む人を飽きさせない。 まだ兵農分離がはっきりしていない、戦国時代初期の雰囲気も充分に伝わる。武田信玄は仮に病に倒れなかったとしても、組織力で勝る織田信長軍には勝てなかったのではないか、という私の持論にも少々自身が持てた。 ちなみに、松本市立図書館蔵書、昭和33年の第二版本。相当年季が入った本を、アメリカ出張にまでもってきてしまいました。大事に持って帰らねば。
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