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失われた時のカフェで の商品レビュー

3.9

17件のお客様レビュー

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2015/01/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

逃げ去る時、誰かの前から消え去っていく瞬間にだけ、私はほんとの私自身だった。  ミニマリズムのエステティックといわれる、2014年のノーベル文学賞作家の短編集。文学だ。すごく…。  ミニマリズムというのはどうやら、日常の何でもないような風景を描写する中で表現していく手法らしい。  フランスのパリに生きるなんでもなくて、何者にもなれなかった人間の姿を描いていて、あまりになんでもないような事ばかり書かれている。でも、その文章は知らないうちに心に響いているらしい。  だから偉大な文学者なんだろう。  日本人は昔はミニマリズムの文化を持つ、繊細な民族だったらしい。そういえば、川端康成とか谷崎潤一郎とか読んでいてピンとこない、さざ波のような文学だな。  だから、モディアノは日本人向きらしい。  しかし、ミニマリズムのエステティックって、なんかエロいな。 ____ p90  逃げ去る時、誰かの前から消え去っていく瞬間にだけ、私はほんとの私自身だった。  この一節はすごい心に響いた。  くだらねぇ糞みたいな世の中を生きるにはペルソナを被っていくしかない。そんな普段の自分は、私自身なんかじゃあない。じゃあ、本当の自分が出せるのはいつか、それは、誰もいなくなった時だ。その人と別れる時である。  人間関係という、重荷から解放されたとき、人は自分に戻れる。帰れる。だから、別れは必要なの。

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2015/01/12

霞がかったような、あのころカフェで出会った彼女についての記憶を巡る物語。 思い出を語る人々の声は儚げながら輝いているように見える。 それは過去という定点の美しさからでしょうか? なんだか心地よい読後感。

Posted byブクログ

2014/12/26

初めて読んだ小説のはずなのに、既視感(デジャヴュ)のように、見覚えのある光景がちらちらと仄見え、聞き覚えのある口ぶりが耳に懐かしく甦る。何ひとつ家具らしいもののないがらんとした一室は『さびしい宝石』、探偵が相棒の口癖を思い出すのは『暗いブティック通り』、馴れ親しんだ界隈を歩いては...

初めて読んだ小説のはずなのに、既視感(デジャヴュ)のように、見覚えのある光景がちらちらと仄見え、聞き覚えのある口ぶりが耳に懐かしく甦る。何ひとつ家具らしいもののないがらんとした一室は『さびしい宝石』、探偵が相棒の口癖を思い出すのは『暗いブティック通り』、馴れ親しんだ界隈を歩いては女が歩いたはずだと確信するのは『1941年。パリの尋ね人』だ。なんのことはない。かつて読んだモディアノ作品で使われていた設定や背景を、まるで映画のセットや俳優を使い回すようにして作られた新作である。ふつうなら、がっかりしたり腹が立ったりしそうなものなのに、モディアノだと、馴染みの店に久しぶりに入ったようで妙に落ち着いて心地よい。これがモディアノ中毒なのだろうか。 「つまるところ、唯一の興味深いひと、それはジャクリーヌ・ドゥランクだった」。ルキという名でカフェ・コンデの常連仲間に愛された女の正体とは。四人の話者によって語られる一人の女のそれぞれ異なる横顔。女を追いつづける男たちがパリ市街を歩き回る焦燥感に満ちた足どり。アイデンティティの不確かな女を核に、五月革命前夜のパリ、セーヌ左岸のカフェにたむろする男たちの在りようをスケッチし、かつて確かにそこに流れていた時代の風景を鮮やかに甦らせるパトリック・モディアノらしさの横溢した一篇。 モディアノは探偵が後を追うように、ルキの周りにいる男たちにルキについて語らせる。たしかに男の気をひく女なのだろうが、外面ではない。よく、心ここにあらずというが、所在のなさというか、どこにいてもそこが本来の居場所ではないような、ルキのそんなところが皆の注目を引いたのだろう。ルキは、モディアノ文学にはお馴染みの、舞台で稼ぐ母を持ち、かまってもらえないことから、夜間外出を繰り返す少女が大きくなった姿である。 小さい頃に親にしっかり面倒みてもらえなかったことが、長じてその子の自我に与える影響は強いものなのだろう。モディアノのオブセッションともいえる。《永遠のくりかえし》が、ここでもその主題となっている。探しても探しても確かな手応えとなって帰ってくることのない「私」という存在。それを見つけるための悪あがきがかえって自分を追いつめてゆく。過去の自分を知る界隈(カルティエ)から逃げ、年上の男やグル的人物を頼り、空っぽの自分を埋める何かを探す女。その女ルキの自分探しの顛末を、彼女に魅かれた男たちの証言でつづってゆく。 いくら言葉をつくしても彼女を知りつくすことができない男たちの無力感が色濃い。パリという都市を線引きし、異なる相貌を見せる地区を区切り、その中心に「中立地帯」を夢想する、作家自身を思わせるロランという同い年の青年がいちばん彼女の近くにいると思われたのだが、ルキはその手からもするりと抜け落ちてゆく。強い肯定の意を響かせるニーチェの『永劫回帰』とちがい、モディアノのいう《永遠のくりかえし》は、たぐってもたぐっても自分のもとによって来ない過去の空白の記憶を充填しようとする、報われない行為のように思えてならない。 年上の知識人が集うカフェにも、隠秘学を奉じるギ・ド・ヴェールの主催する集会にも、ルキと呼ばれる女の居場所はなかった。目印のように記される地名は今もあるのに、もうそこにはない店や学校。たしかにいたはずなのに、回想の中でしか立ち現れてこない一人の女。存在というものの不確かさを時間と空間の中に、記憶と脚を頼りに追いつづけるパトリック・モディアノの彷徨は終わることがない。 気鋭の翻訳は原文の息遣いを感じさせるが、日本語の文章表記として斬新すぎる。もしかしたら元の原稿が横書きなのかもしれないが、縦書きで一人を1人、十月を10月、と書かれると違和感がある。それ以外にも「ジェスト」、「ボールポイント」のような日本語としてこなれていない外来語の使用頻度が必要以上に高い。フランスには、モディアノ中毒という言葉がある。これだけ訳書が刊行されていれば、日本にもモディアノ中毒患者の数は少なくないと思う。これぞモディアノという翻訳をしようという意欲は買うが、翻訳は自分だけのものではない。構文はともかく、用語の選び方など、他の訳書とのバランスも考慮してほしいところだ。

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2014/10/19

ヌーヴェルヴァーグの、そう、たとえば初期のゴダールなんかに撮ってもらいたいような映像感覚の、そんな物語。 カフェ・コンデに現れるミステリアスな若い女性「ルキ」とは何者なのか?4人の主語によるそれぞれの見方にて、時間と場所が錯綜しながら次第に明らかになる背景。しかし、背景が明らかに...

ヌーヴェルヴァーグの、そう、たとえば初期のゴダールなんかに撮ってもらいたいような映像感覚の、そんな物語。 カフェ・コンデに現れるミステリアスな若い女性「ルキ」とは何者なのか?4人の主語によるそれぞれの見方にて、時間と場所が錯綜しながら次第に明らかになる背景。しかし、背景が明らかになればなるほど、逆に離れていく「ルキ」という人物との距離感。とらえどころのない「ルキ」の行動がますます物語のミステリアスさを増幅してゆく。 フランス人の日常生活に溶け込んでいると思しきカフェを物語導入の舞台とし、パリの街並みを縦横に思う存分紹介してくれているにもかかわらず、主語の「語り」が感覚的で柔らかでありながらどこか神秘的で抑制の利いた文体が、逆にイマジネーションの世界かと見紛うほどに不可思議な感覚へ読者を誘ってくれる。 「ルキ」の現状からの逃避と脱出の繰り返しは、訳者解説にもある通り、本書のテーマの「永遠のくりかえし」を象徴する行為であり、絶えまなく漂流している若者の漠然とした心情をよく表現していたといえる。 パリを舞台にそのようなふわふわ感を大いに楽しませてくれる、そんな物語。 その訳者解説によれば、本書はモディアノの「ベスト盤」的な一作とのことで、4人の主語それぞれの語りがそれぞれの短編となって、これまでのモディアノ作品の魅力をぎゅっと凝縮したものとなってるという。そう聞かされてみれば少し得をした気分にもなった。(笑)

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2014/04/21

モディアノは『家族手帳』『サーカスが通る』の原文に当たったことがあるが、そのときの何とも言えないモディアノ文学のニュアンス、雰囲気などが本書の翻訳において損なわれておらず、まるで原文を読んだ時と同じ印象を受けた。そういった意味で訳者の『初めて本書を読んだ時の感動を伝える訳をする』...

モディアノは『家族手帳』『サーカスが通る』の原文に当たったことがあるが、そのときの何とも言えないモディアノ文学のニュアンス、雰囲気などが本書の翻訳において損なわれておらず、まるで原文を読んだ時と同じ印象を受けた。そういった意味で訳者の『初めて本書を読んだ時の感動を伝える訳をする』という試みは成功していると感じた。 とは言っても、文学的に”読みにくい”翻訳であることは否めない。しかしこの味わいこそが、モディアノ作品の個性なのだから、この作品はこの翻訳で良いと思う。

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2013/04/13

正直に告白します。 途中で読むのを断念しました。 ワタシには判りにくく、物語の進行が掴めなかった。 何年か後に悟りを開いた後で再度挑戦します。

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2011/10/11

著者はフランスの現代作家の第一人者なんだそうです。タイトルに惹かれて手にとりました。フランス映画のような本でした。

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