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アニマルズ・ピープル の商品レビュー

4.2

10件のお客様レビュー

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2017/08/21

インド・マッディヤプラデーシュ州の州都ボーパール。害虫対策とスラム 街の雇用問題の解決の為、アメリカ資本の殺虫剤工場が建設された。 1984年12月2日から12月3日の深夜にかけて、史上最悪のプラント事故 が発生する。工場から流れ出した有毒ガスは人々を襲い、被害を被った ...

インド・マッディヤプラデーシュ州の州都ボーパール。害虫対策とスラム 街の雇用問題の解決の為、アメリカ資本の殺虫剤工場が建設された。 1984年12月2日から12月3日の深夜にかけて、史上最悪のプラント事故 が発生する。工場から流れ出した有毒ガスは人々を襲い、被害を被った のは15万人とも30万人とも言われる。 このボーパールを「カウフプール」と言う架空の町に置き換えて、事故で 後遺症を負った青年を主人公とした小説が本書だ。 両親のことは知らない。発見された時、彼は毛布にくるまれた赤ん坊で あった彼は、成長する過程で腰が曲がり、二本足で歩くことが出来なく なった。 「おれはかつて人間だった」。手足を使って歩き、走る自分を彼は「動物」 と称する。そして、「動物」の生い立ちを聞こうと訪れたオーストラリア人 ジャーナリストの求めに応じ、「動物」はジャーナリストが残して行った テープに自身の生い立ちを吹き込む。 「動物」が語った内容を忠実にテープ起こしをした内容を掲載する。そんな 体裁を取った小説である。 スラムで生まれ育った「動物」の使う言葉は下品だ。下品だが、そこに したたかさと強さが秘められている。時にシニカルに、時にユーモラスに。 スラムで生きる仲間たち、自分の用紙に関する悩みが語られる。 現実に起こったプラント事故は深刻な問題を抱えている。だから本書も シリアスかと言えばそれだけではない。 両親はなく、フランス語しか解さない老修道女に育てられ、体は変形 し、健康体の人々とは目線も違う。これだけを書き連ねたなら、不幸の どん底なのだが、そんな環境・境遇にいても「動物」はその名の通りに たくましく生きている。 「動物」のたくましさとしたたかさが、かえって原因企業の狡猾さを 浮き彫りにしているんだな。全体的にエネルギッシュな作品である。 尚、実在する方のボーパールでは現在でも汚染物質が放置され、 原因企業であるユニオン・カーバイトから業務を引き継いだダウ・ ケミカルは被害者たちへの補償に応じていない。

Posted byブクログ

2014/08/08

「ここには未来はないからな。全力で今日を生き延びなきゃなんないのに、明日のことなんか考えられるか?」 かつて化学工場がおこした大事故のため、一夜にして多くの人々が死に、生き残った者も病や障害を負った街・カウフプール。そこは貧しい者の王国、または黙示(アポカリス)の街。 生まれて...

「ここには未来はないからな。全力で今日を生き延びなきゃなんないのに、明日のことなんか考えられるか?」 かつて化学工場がおこした大事故のため、一夜にして多くの人々が死に、生き残った者も病や障害を負った街・カウフプール。そこは貧しい者の王国、または黙示(アポカリス)の街。 生まれて間もないころに巻き込まれたこの大事故の後遺症のために脊椎が湾曲し、両手をついて四足で歩くしかないために“動物”と呼ばれるようになった青年が、饒舌に、ユーモラスに、まだ短いが数奇に満ちた人生を語り出す。 満足な水や食べ物もなく、まともな医療も受けられない貧困のどん底でたくましく生きる街の人々、事故を起こした企業”カンパニ”と戦う仲間、そして動物を引き取って育てた“フランシかあちゃん”のこと――。 「おれは人間であることを、とっくの昔にやめたんだ」と嘯きながら、同時に体が治ることを切望する“動物”の生き様を描く、泣き笑いの長編小説。

Posted byブクログ

2013/11/27

作者のIndra ShinhaはOgilvy Londonのコピーライターだったらしい。 この物語のモチーフになったのは1984年にインドのボーパールという町でユニオンカーバイト社の向上が起こした史上最悪規模の化学工場の炎上事故とそれによって地域にもたらされた想像を絶する健康被害...

作者のIndra ShinhaはOgilvy Londonのコピーライターだったらしい。 この物語のモチーフになったのは1984年にインドのボーパールという町でユニオンカーバイト社の向上が起こした史上最悪規模の化学工場の炎上事故とそれによって地域にもたらされた想像を絶する健康被害をうけた人々とのこと。語り部となったのは自分をAnimal:動物とよぶ一人の障害者で彼によって語られる事故後に戦う人たち、ボランティアでやってくる心優しき人たちなどとの出会いを通じて語られる本来あるべき人間像とはというお話がぐっとくる。 悲しい話ではあるが、力に満ちたお話だった。あまり翻訳物は読まないのだが、この作品の翻訳は原作のパワーをそのまま伝えられているように思う。すごくテンポよく読めるので。

Posted byブクログ

2013/03/19

【第2回 twitter文学賞 投票】 辛辣な言葉とユーモアな台詞に宿る熱いココロ。オスカー・ワオと迷うがこちらに一票。荒井良二さんの装画も素晴らしい!

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2012/10/16

スラム街近くの工場の実際の事故で 有害物質が垂れ流され、大勢の人が後遺症を背負った。 主人公は、背骨が曲がり4本足での歩行を余儀なくされ 以来、「動物」と呼ばれる身に。 その動物が異国のジャーナリストから渡されたテープに 吹き込んだ話をユーモラスに。

Posted byブクログ

2012/03/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

主人公はインドのスラム街に住む“動物”と呼ばれる青年。彼はある化学工場事故の後遺症で4本足で生活することを余儀なくされていた。「おれはかつて人間だった」と独白で始まる本書は、工場事故を背景に、育ての親のフランシス、愛しの女子大生ニーシャ、アメリカ人医師エリなど、スラム街に住む人々の生活の様子と、青年の苦悩をユーモラスを交えて描いている。 化学工場事故、4本足、動物と呼ばれる主人公…そうしたキーワードだけを見ると、とても悲惨な物語のように感じるかもしれないが、このお話の中心はとてもユーモアに富んだ人間ドラマである。化学工場の事故は物語の背景にはなっているが、決してメインテーマではない。あくまで本書のテーマは不遇な青年の思春期における葛藤である。 人は誰しもコンプレックスを持っている。背が低い、足が遅い、胸が小さい…etc。思春期にあってそれは特に顕著に自己意識の表面に上がってきて、ときには自己嫌悪に陥ってしまう。”動物”と呼ばれる青年のコンプレックスには底がない。事故の影響で四本足で歩く事を余儀なくされ、他人からは“人”としての扱いを受けない。いわば、コンプレックスの塊のような存在だ。しかし、そんな主人公にも自分を人として扱ってくれる存在が現れる。それが女子大生のニーシャであり、アメリカ人医師のエリだ。 物語は中盤から一気に“動物”の初恋物語へと転じる。しかし、それは決して甘美な語り口ではなく、現実世界に生きる青年の心情を反映したどぎつい語り口で。どうしたら彼女とヤレるか、恋に落ちた“動物”は次第に性欲にまみれるが、コンプレックスの塊である主人公は、四本足歩行で学もない自らを蔑み、ライバルの前になす術もなく立ち尽くす。恋人にもいけすかない態度をとってしまうあたりは、自分の中・高時代を見ているようでツラい。 コンプレックスを受け入れることは大変難しい。現実世界で人はコンプレックスを受容するというよりは、必死に打ち消しながら生きているようにも思える。激しい拒絶反応をコントロールするためには、ある程度の経験が必要だが、その「決定的な出来事」が起こらないまま思春期が過ぎてしまう人も多いのではないか。 ある事件をきっかけに自らのコンプレックスと向き合い、受容することになる主人公の“動物”。4足歩行は確かに不遇だが、そうした事件を経験できることはある意味、幸運のような気もする。コンプレックスを打ち消す愛の力に、読者である私は圧倒された。 物語を一環する”動物”のユーモアに溢れる語り口は読んでいて思わず笑ってしまうし、“動物”の恋模様は物語の推進力となっているので500ページという分量の割にはあっさりと読めてしまう。酔った挙げ句に主人公が初めて女を知るシーンなど、美しい描写にはっとされられる部分も多々あり、さすがブッカー賞の最終選考に残ったのもうなずける。 化学工場のエピソードが背景になりすぎている点や、クライマックスへ向けた盛り上がりに物足りなさは感じるが、性モラルに厳しいインドを舞台にしているとは思えない大胆な描写がいくつもあり、読み応えがある本であった。

Posted byブクログ

2012/01/10

豊崎社長のレビューを聞いて購読。 これはレビュー以上の内容!!読んで良かった一冊でした。恥ずかしながらボーパールの事故は知りませんでした。。。モチーフになった薬害事件を善悪だけの被害者目線で切り取ると多分つまらない内容になったでしょう。 主人公のジャアンバアがたまらなく攻撃的で可...

豊崎社長のレビューを聞いて購読。 これはレビュー以上の内容!!読んで良かった一冊でした。恥ずかしながらボーパールの事故は知りませんでした。。。モチーフになった薬害事件を善悪だけの被害者目線で切り取ると多分つまらない内容になったでしょう。 主人公のジャアンバアがたまらなく攻撃的で可愛い!インドならではの感覚描写がすごく良い味付けになってます。まさにマサラ・マジック。 お気に入りの一冊になりました。 また、ミラ・ナイール監督の映画『サラーム・ボンベイ!』をまた見たくなりました。 インドスラムものをおかわりしたい。

Posted byブクログ

2011/07/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

1984年。インドのスラム街が毒ガスに襲われた。 アメリカ企業の建てた殺虫剤工場が事故を起こしたのだ。 何万という人が命を奪われ、その何倍もの残された人々は、大切な人たちを奪われた上に身体の自由も奪われた。 責任問題は未だ解決しておらず、多くの人が肉体的、精神的苦痛を抱えたままだ。 その上、汚染された水は、さらなる被害者を生みだしていると思われる。 恥ずかしながら、この悲惨な事件のことを、この本のあとがきを読むまで知らなかった。 この作品は、この実際の事件を下敷きにし、フィクションとして描かれている。 主人公の「動物」は、この事故により背中が曲がってしまい、まっすぐに立つことができない。両手をついて四足で生活している。 周囲からも「動物」と呼ばれ、自ら「動物」と名乗る少年が、ゴミをあさり命をつなぐ生活から 仲間とともに事件の加害者であるカンパニ(企業)と戦う中で、 次第に人間らしくなっていく過程が描かれている。 読みながらふと気づくのだが、この人間らしくなる様子は彼が「動物」だからではなく、思春期の少年のそれそのものかもしれない。 悲惨な事故を啓蒙するための作品というよりも、「動物」の成長を描く青春物語なのかもしれない。 えぐい表現が目立ち、はじめは読み進めるのに抵抗があったが、ぐいぐいと引き込まれる不思議な作品。 強く生きていくこと、自分自身を受け入れることとはどういうことか、考えさせられる一冊。 表紙の絵がとてもステキで、作品の内容とリンクした時には心が震えました。

Posted byブクログ

2011/07/10

舞台はインドのカウフプールという街のスラム。 史上最悪といわれる化学薬品工場の事故によって、多くの人々が死に、多くの人々が20年たった今でも後遺症に悩まされている。 主人公の少年は赤ちゃんの頃この汚染事故で漏れ出た毒ガスを吸ったために、背骨が極端に曲がり四本足の生活を送っている。...

舞台はインドのカウフプールという街のスラム。 史上最悪といわれる化学薬品工場の事故によって、多くの人々が死に、多くの人々が20年たった今でも後遺症に悩まされている。 主人公の少年は赤ちゃんの頃この汚染事故で漏れ出た毒ガスを吸ったために、背骨が極端に曲がり四本足の生活を送っている。 ケツを突き出し両手をついて歩く少年がみるのは、地上45cmの世界。見上げるとちょうど視線は人の股ぐらあたり。 本書は、この「おれは四本足の動物なんだぜ?」と自らを”動物”と言い切る少年が、記者との約束のためカセットテープに向かって自分とその仲間たちの物語を語りかけるという形式で描かれる。 冒頭の「おれはかつて人間だった」という言葉は、訳者が鋭くも指摘したように殆ど呪文のように我々を"動物”という名の少年の世界に誘う。 巨大権力"カンパニ"と何も持たざる人々との闘い、容姿に悩む少年が持て余す性欲、一日4ルピーで暮らす貧しいスラムの生活、災厄ともとれる希望、描かれているテーマはかなりヘヴィなので、これが第三者の目線でみた物語ならば物語として耐えられるものではなかったかもしれない。 だが意外なほどに明るく、本当にごく普通に"動物”は語る。 そして、”動物”は貧しい生活を気の毒がるエリにこういって怒る。 「おれが心底ムカつくのは、あんたら外の人間が腫れ物にでも触るような目でおれたちを見ることだ。偽善に満ちた優しい声で話しかけてくることだよ。よっぽど惨めにみえるんだろうな」 これはそのままの威力を持って、驕慢な我々を打ちのめす。 境遇を受け入れられる人ほど強いものはない。 「おれは、動物。強くて自由。この世の中にこんなやつ、ほかにいない。」 彼は自らのことを"動物”だ、人間じゃない、とうそぶきつつも誰よりも人間として誇り高く今を生きる。 ラストにちらりと明かす"動物”たちの計画はとても素敵だ。 http://spenth.blog111.fc2.com/blog-entry-102.html より

Posted byブクログ

2011/06/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

実際にあった化学工場事故による公害を受けた街のスラム街を舞台にした話。 背骨が曲がっているために直立できず、両手を足のように使い四本足で歩く「動物」と名乗る主人公が、外国人の記者の依頼で自分がどうしてこうなったのか、自分を取り巻く環境をカセットテープに吹き込んだ体裁で話は進む。 作者は実際に作品のモデルとなった街・ボーパールの被害者支援に長く関わっているそうで、インドのスラム街の描写は空気まで伝わってきそうなリアリティがある。 二本足で歩くことのできない動物は、アムリカ(アメリカ)からやってきた女医のエリに詳しく診察してもらえばもしかしたら自分も普通の人間のようになれるかもしれないという希望を抱く。しかし、エリが事故を起こした工場の会社の持ち主と同じアメリカ人であるという事実、エリに近づくことによって自分の愛する人を裏切ることになるという後ろめたさ、愛すると同時に憎んでもいる、街の指導者ザファルに対する想いから、散々逡巡し、行動を決めかねる。 そうこうしているうちに公正な裁判を求める街の空気は不穏になり、ついに・・・。 というような感じ。 ここに至るまでの盛り上げ方がとても上手い。 全編にわたって動物の葛藤が語られていて、彼は街のみんなを嫌っているが同時に愛してもいて、それがとてもよく伝わってくる。 特にただひとり愛する女性・ニーシャは、街の指導者・ザファルと恋仲で、そのふたりがふたりとも自分に優しくしてくれるのが嬉しいけど腹立たしいという、そのどうしようもない気持ちがよく伝わってきた。 ラストの動物の意外な選択も含め、とてもいい作品だった。 物語の舞台となるカウフプールは架空の街だが、作中冒頭に挙げられた http://www.khaufpur.com/ に実際にアクセスしてみると結構作りこんであって面白い。

Posted byブクログ