オウム真理教の精神史 の商品レビュー
大田/俊寛 1974年生。専攻は宗教学。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻宗教学宗教史学専門分野博士課程修了。博士(文学)。現在、埼玉大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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(01) 95年の地下鉄サリン事件をピークとして、近代日本のあり方にテロリズムというかたちで波紋を投げかけたとオウム真理教について、社会における近代宗教の特性を踏まえながら、その暴力や信仰の体系の一般性について論述している。 ロマン主義、全体主義、原理主義という括りの中でオウム真...
(01) 95年の地下鉄サリン事件をピークとして、近代日本のあり方にテロリズムというかたちで波紋を投げかけたとオウム真理教について、社会における近代宗教の特性を踏まえながら、その暴力や信仰の体系の一般性について論述している。 ロマン主義、全体主義、原理主義という括りの中でオウム真理教をとらえることを本書は試みている。巻末の索引や参考文献を眺めても、この教団に流れ込んだ精神たちのありようをうかがい知ることができるかもしれない。 精神史を裏付けるモノのありかた、事物史としてはどのようなことがいえるだろうか。 サティアンをはじめとする道場などの施設群、そして宗教的な開発に必要となる設備と備品類、また、広報等の宣伝媒体などオウム真理教が展開したモノが精神とどのように絡んでいるのかを考察するためにも、本書の整理は、有効な見通しを与えてくれる。
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2回目の通読。やはり素晴らしい。オウム真理教そのものを詳述するまでの前振りが長いのだけどそれにはワケがある。オウムという新興宗教があの時期に現れあのような教義を持ちなぜあそこまで多くの信者を獲得しえたのか—— 。教祖・麻原が直接間接に摂取してきたであろう海外・国内のニューエイジや...
2回目の通読。やはり素晴らしい。オウム真理教そのものを詳述するまでの前振りが長いのだけどそれにはワケがある。オウムという新興宗教があの時期に現れあのような教義を持ちなぜあそこまで多くの信者を獲得しえたのか—— 。教祖・麻原が直接間接に摂取してきたであろう海外・国内のニューエイジや精神世界の諸文献や唱導者の活動内容を地道に紹介することでオウム出現に至る必然性を歴史的に跡付けてみせた。
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扱っているテーマは好きだが、言説にいい切り表現や自己言及のパラドクスが多くて読む気をなくす。そして主観論っぽく、共有されていない前提まで勝手に決め付けている感じを否めないというか。。けっこうイライラする荒さがある
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評者はオウム真理教についてというより、ダーイシュ(「イスラム国」と呼ぶのはやめよう)について考えながら本書を読んでいる。 筆者はオウム真理教事件がどう総括されたかと問い、事件後出版された関連著作を、内部からみていた元信者の手記、外部から記録・観察したジャーナリストの著作、全...
評者はオウム真理教についてというより、ダーイシュ(「イスラム国」と呼ぶのはやめよう)について考えながら本書を読んでいる。 筆者はオウム真理教事件がどう総括されたかと問い、事件後出版された関連著作を、内部からみていた元信者の手記、外部から記録・観察したジャーナリストの著作、全体像を客観的に分析しようとする学術的著作に分類し、最後のものに関してはいまだ十分ではないと断ずる。そして代表的著作として以下の5つを上げ批判を加える。 中沢新一「「尊師」のニヒリズム」、宮台真司『終わりなき日常を生きろ─オウム完全克服マニュアル』、大澤真幸『虚構の時代の果て─オウムと世界最終戦争』、島薗進『現代宗教の可能性─オウム真理教と暴力』、島田裕巳『オウム─なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』。反省することのない中沢新一の独善は読むに堪えないものと痛烈に批判、他の著作もポストモダンの風潮に乗っていて視野が狭すぎるという。 筆者によるオウム真理教の教義の要約をさらににべもなく簡略化するとこうなるだろう。解脱のために超能力者になれ。そのためには最終解脱者である尊師に帰依しろ。尊師を認めない社会には最終戦争が起こり、その後、千年王国が建国されるだろう。 この手の思想はさして珍しいものではない。ナチスだったら、アーリア人が総統に帰依してユダヤの陰謀に立ち向かうのであり、ダーイシュなら、真のムスリムがカリフに服従して異教徒と最終戦争するのである。 そしてこうした思想はロマン主義・全体主義・原理主義から把握可能であるというのが本書の議論の流れである。 筆者は宗教とは何かと考えるに当たって、人間がまったく未成熟な状態で生まれてくることを重視する。生まれてすぐに自立することのできない人間はすでに存在している人間の世界に依拠して生きていくしかない。そこで「祖先の霊」などといった「虚構の人格」を中心とした社会を作りだし、生死を超えた人間の「つながり」を確保するのが宗教であるとする。であるからかつては国家は神権国家であった。それが世俗国家に取って代わってくるという歴史も重要な視点である。オウム真理教もダーイシュも神権国家の復興という点で共通するのだ。 そして本書で評者が学んだことは「馬鹿こけ」といえる心を養うことである。 ロマン主義は理性で捕らえられないものがあるという考えだが、オウム真理教への流れとしては「宇宙という無限の闇のなかに本当の自分を見出す」というモチーフとなる。馬鹿こけ、本当の自分なんてあるものか。 全体主義について筆者は未成熟なまま出生するがゆえに幼児的万能感を持つ人間というフロイトの説を持ち出して、それゆえにカリスマを希求しカリスマに同一化して支持してしまう人間の心理、さらにはパラノイアとカリスマの相同性を指摘する。アノミーに陥った現代人は自分を特別なもの(超人)と思わせてくれるカリスマを求め、自分以外を畜群=末人と侮蔑する。馬鹿こけ。 評者にとって目下のところ一番興味があるのは原理主義である。これはもともとは20世紀初頭のアメリカのプロテスタントについて言われたものだそうだ。処女懐胎とか復活とかを文字通りに信じ、科学を否定する一派である。この原理主義の特徴は聖典の無謬性とそれゆえに終末論の近日中の実現である。遡ると近世以降の日蓮宗も原理主義といえ、イスラム過激派ばかりでなく、いずれの宗教においても原理主義があり得るわけだ。当然、この終末論から社会破壊的な活動が生じてくる理屈である。 とすると馬鹿こけというべき点は、科学的に荒唐無稽な教義そのものに対してではない。寄る辺ない人間に何とか「つながり」を作り出そうとした営みを侮蔑はすまい、だが、千何百年も前に作られた教義を何の批判もなく現代に当てはめること、それは、馬鹿こけである。 であるから、ダーイシュには、正統カリフの後継者? 馬鹿こけ。奴隷制の復活? 馬鹿こけ。麻原彰晃には、空中浮遊? 馬鹿こけ。皆が言ってやればよかったのだ。
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評価:★★★★☆ ーー幽霊の正体見たり枯れ尾花 本書はオウム真理教を宗教学の側面から考察した一冊だ。 オウム真理教に関しては “チベット仏教を麻原彰晃がカスタマイズしたもの” 程度の認識だったが、本書や著者である大田俊寛の発言などによって、そんな御大層な代物ではないというこ...
評価:★★★★☆ ーー幽霊の正体見たり枯れ尾花 本書はオウム真理教を宗教学の側面から考察した一冊だ。 オウム真理教に関しては “チベット仏教を麻原彰晃がカスタマイズしたもの” 程度の認識だったが、本書や著者である大田俊寛の発言などによって、そんな御大層な代物ではないということがわかった。 ひとことでいえば、“オカルトのつまみ食い” だ。 具体的には、神智学、ニューエイジ、終末論、陰謀論、催眠術、超人思想など。 ムーを読めば仕入れられるような知識で「地下鉄サリン事件」や「坂本弁護士一家殺害事件」が起こされたのかと思うと、背筋が凍りつく。 巨大なムーブメントは、決して重厚な知識や強固な理論によって起こされるのではなく、周囲の状況との相関関係で起こるのだ。 経済成長で人々の生活が “流動的・根無し草的” になり、抱えた不安を支えてくれるものを探してふと手を伸ばした先に、たまたまあったのがオウムだったにすぎないというのは単なる不運か、それとも時代が生み出した必然なのか。 こんなことを考えていて脳裏をよぎったのは、不思議に思う人もいるだろうが、昨今の「選択的夫婦別姓制度」に関する議論だ。 この制度に反対する人たちはその理由として“伝統”を持ち出すが、本当の理由はもっと別にあるのではないか。 それは選択肢が増えることによる自由の肥大だ。 選択肢が増えるのは良いこととされているが、実際ものを選ぶのは、しんどい。 論理的に話し合えば物事を解決できるなどというのが単なる理想論だということくらい子供だって知っている。 できれば話し合いなんてしたくない。 制度や因習で「決まってるからしょうがないのよ」で済ませた方が、多少不自由でも楽だし、なにより自由の海を漂う不安から逃れられるから大助かりだ。 自分をもやう為の杭なしに人は生きられない。 自由も不自由も塩梅次第だ。
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『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 』が素晴らしかったので、こちらも期待して読む。 タイトルにオウムを掲げているが、ほぼ現代宗教論。新書で読んだことの繰り返し部分もあるが、そもそも宗教とはなんぞや、というところから掘り下げていて、特に政教分離のあたりは大変勉強になった。オウ...
『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 』が素晴らしかったので、こちらも期待して読む。 タイトルにオウムを掲げているが、ほぼ現代宗教論。新書で読んだことの繰り返し部分もあるが、そもそも宗教とはなんぞや、というところから掘り下げていて、特に政教分離のあたりは大変勉強になった。オウムがどのような形でメディアに取り上げられていたかを機関誌のみならず一般雑誌『ムー』や『トワイライトゾーン』等に掲載されていた記事などから論じた箇所は興味深い。 〔井上嘉浩が、ラッシュアワーの人の渦に紛れて生きる大人たちの生を嫌悪し、それを端的に「救われない」と表現していたことはとても印象深い。麻原は5人の信者にサリンの散布を命じ、全員がそれに踏み切っているが、わたしはその事実が、オウムによる「洗脳」が徹底されていたことのみに起因するとは考えない。おそらく信者たちは心の根深い部分で、群衆社会を自ら強く嫌悪していた。井上と同様、彼ら自身もまた、ラッシュアワーの人混みに紛れる群衆の生き方を「救われない」と感じていたのである〕
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宗教学に良心が残っていることがわかって安心した。 ロマン主義といっても、いわいる「ロマンチック」な話ではない。 全体主義に関しても、アーレントの議論を踏まえた話だし、原理主義もキリスト教原理主義の話がわかっていないとピンと来ない。 もちろん本文の中で用語の定義はきちんと行われてい...
宗教学に良心が残っていることがわかって安心した。 ロマン主義といっても、いわいる「ロマンチック」な話ではない。 全体主義に関しても、アーレントの議論を踏まえた話だし、原理主義もキリスト教原理主義の話がわかっていないとピンと来ない。 もちろん本文の中で用語の定義はきちんと行われていて、明瞭な議論が展開されるのだが、一般読者が副題から内容を想像するのは難しいだろう。 しかし、だからこそ読む価値のある本であり、大変誠実な労作である。
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地下鉄サリン事件からおよそ17年、この間我々は同事件およびオウム真理教を十分に検証して来ただろうかと、著者は問う。というのも、過去にオウム真理教について書かれた著作の多くは視野が狭く、オウム真理教のような「カルト」を説明するには、それに先行するさまざまな歴史的要因の蓄積を必要と...
地下鉄サリン事件からおよそ17年、この間我々は同事件およびオウム真理教を十分に検証して来ただろうかと、著者は問う。というのも、過去にオウム真理教について書かれた著作の多くは視野が狭く、オウム真理教のような「カルト」を説明するには、それに先行するさまざまな歴史的要因の蓄積を必要とするのに、それらへの目配りが明らかに足りないからだ。 この点を踏まえて、著者は「ロマン主義」「全体主義」「原理主義」という3つのキーワードを詳細に論じることで、なぜ、オウム真理教がこの現代日本に姿を現したのかを本書で解明しようと試みる。 オウム真理教関係を1冊読むのなら断然お勧めしたい、宗教学者としての著者の切実な使命感にあふれた力作。
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カルト宗教の言ってる事やってる事は荒唐無稽で理解し難く、こんなの信じるのがよくいるよなあと思うのだが、カルト宗教が誕生し発展する背景・経緯の説明は納得感がある。が、どうしても飛躍というかカルトに突き進む過程において、そのオカシサに気がつかないものだろうか?という疑問は残る。 国家...
カルト宗教の言ってる事やってる事は荒唐無稽で理解し難く、こんなの信じるのがよくいるよなあと思うのだが、カルト宗教が誕生し発展する背景・経緯の説明は納得感がある。が、どうしても飛躍というかカルトに突き進む過程において、そのオカシサに気がつかないものだろうか?という疑問は残る。 国家と宗教(死・葬儀)の乖離から生まれる、ロマン主義による「本当の自分」、全体主義による「強固で緊密な共同体」、原理主義による「神との結びつき」これらを求める事による幻想というのは一歩間違えば誰でも入り込んでしまう世界であるように思う。しかも著者はマインドコントロールではなく、近代社会がもたらす空虚で放恣な自由に満たされず自分の意思で自由を放棄しカルトに身を捧げると言う。大学生に狙いを定めるのはこの辺が理由だろう。 世界の全体像を知りたい・生きる意味を知りたいという心理的欲望が幻想を生み、淀んだ快楽と倦怠に満ちた孤独の生を過ごすか、ある全体の中に見も心も没入していしく事の二者択一を迫られるのならば、虚構の人格で社会を組織し、生死を越えた人間同士のつながりを確保を求めて人は宗教に向かうのかもしれない。それは良いとしても、カルトに入り込む手前で踏みとどまれるか否かは論理や哲学といった判断能力の有無(宗教と哲学は背反するので実はここでも選択を求められるのだが)か、何者でもない自分への諦観の有無なんだろう。 が、幸か不幸か日本では宗教は疎まれる。世界の全体像や生きる意味には興味ないし、淀んだ快楽と倦怠に満ちた孤独の生を過ごす事を選択する人が多いという事か?(だから絆が叫ばれる?)
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