渡邊二郎著作集(第10巻) の商品レビュー
『芸術の哲学」(1998年、ちくま学芸文庫)と『美と詩の哲学』(1999年、放送大学教育振興会)のほか、七編の論考が収録されています。 『芸術の哲学』で著者は、感性における「美」を解明する「美学」の基本的な立場に同調せず、「美」に触れることにおいて存在の真理が開示されるというハ...
『芸術の哲学」(1998年、ちくま学芸文庫)と『美と詩の哲学』(1999年、放送大学教育振興会)のほか、七編の論考が収録されています。 『芸術の哲学』で著者は、感性における「美」を解明する「美学」の基本的な立場に同調せず、「美」に触れることにおいて存在の真理が開示されるというハイデガーの立場を引き継ぎながら、存在論的美学が展開されています。著者はまず、アリストテレスの『詩学』を考察の対象にとりあげ、そこに著者自身の存在論的美学に通じる発想を見いだすとともに、「悲劇は、人間的性の普遍の真実を、知りかつ学ぶ喜びに繋がっていた」ところにカタルシスの概念の意義があったと主張しています。 つづいて著者は、ニーチェ、ハイデガー、ショーペンハウアーらの美学思想に同様の発想を認めるとともに、カントの『判断力批判』の検討をおこない、近代的な主観主義美学を越える存在論的美学の着想があったと論じています。 一方『美と詩の哲学』では、プラトン、プロティノス、アウグスティヌス、偽ディオニシウスなど古代から中世の美学思想がとりあげられ、美を「秩序・調和・均衡」とみなす考えかたと、美を「光輝き」ととらえわれわれに対して呼びかけて来るものとみなす考えかたが西洋の美学思想史のなかに共存していることを明らかにしています。著者が共感を示すのは後者の見かたであり、ハイデガーから受け継いだ存在論的美学の発想に通じるものだとみなされています。さらに著者は、ドイツ・ロマン主義の代表作のひとつであるフリードリヒ・シュレーゲルの『ルツィンデ』を紹介しながら、近代的な思想の枠組みのなかで自然的生命の美が表現されていることを明らかにし、それを存在論的美学の近代的な変奏として解釈しようとしています。
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