寛容論 の商品レビュー
18世紀半ば、フランスのトゥルーズにて発生したある冤罪事件を口火に、ヴォルテールが人類の宗教への寛容について説いた作品。ここでいう「寛容」とは異なる宗教観の対立解消のために人を殺すな!ということである。 口火となった冤罪事件は、キリスト教のカトリック教徒と新教徒の憎悪に満ちた対立...
18世紀半ば、フランスのトゥルーズにて発生したある冤罪事件を口火に、ヴォルテールが人類の宗教への寛容について説いた作品。ここでいう「寛容」とは異なる宗教観の対立解消のために人を殺すな!ということである。 口火となった冤罪事件は、キリスト教のカトリック教徒と新教徒の憎悪に満ちた対立を背景としていたが、ヴォルテールはそれから発展させて、宗教対立、党派対立の歴史を紐解き、古来より宗教の対立で虐殺が行われたことはないとした上で、いかにキリスト教の党派対立が非寛容で、多くの人々を異端として殺戮してきたか、またそのような殺戮の思想を醸成してきたかを白日の下にさらし、そうした殺戮の思想ではなく、異なる宗教観であっても結局暴力によって他者を変心させることはできないのだから、寛容の精神により国家発展の道を選ぶべきだと支配者層へ訴えかけている。 ヴォルテールが示す宗教対立による殺戮の歴史は恐ろしいものばかりだが、だからこそ当時にも残る対立の根深さが鮮明となり、ヴォルテールの説く寛容論を誰もが身につまされる構成になっているように思われる。キリスト教以外の諸国、とりあわけ清国の寛容さや日本が全人類中もっとも寛容な国民として対比させているのは興味深い。 対立する貴族ら(!)への舌鋒鋭い記述の反面、フランス王への媚に似た態度、そして、ユダヤやエジプトなどへの蔑視発言などは、当時ヴォルテールが置かれた立場や社会的意識などが見てとれる。 アンシャン・レジーム下における先鋭的啓蒙文学者として、諸国から忌避される人生を辿ったというヴォルテール自身への「寛容」要求を裏に潜ませていると考えるのは穿ち過ぎであろうか。
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