昆虫未来学 の商品レビュー
私が所属していた研究室で、現在の教授の藤崎先生の本。残念ながら私とは入れ違いで着任されたので、直接の面識は無いのですが、おもしろそうなので手にとってみました。 学際領域というか細分化しすぎた学問領域を統合する必要性をうったえているだけあって、非常に多岐にわたる話が取り上げられて...
私が所属していた研究室で、現在の教授の藤崎先生の本。残念ながら私とは入れ違いで着任されたので、直接の面識は無いのですが、おもしろそうなので手にとってみました。 学際領域というか細分化しすぎた学問領域を統合する必要性をうったえているだけあって、非常に多岐にわたる話が取り上げられていてたのしかったです。 学部からの同期でいまは岡山大学の松浦くんのシロアリの研究もたくさん書かれていて、懐かしい想いも。 バイオミミクリーとかバイオミメティクスというのは、単に工学的に構造や素材の点で生物を模倣するだけの話ではなくて、その適応の仕組み(つまり進化戦略)や生態系全体の中での相互作用に学ぶところまで含めた話だ、というのが個人的に新鮮でした。 オススメの一冊。
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昆虫の最も古い化石は、4億年前のデボン紀の地層から出土した無翅類。石炭紀後期に有翅類が現れた。カゲロウやトンボの旧翅類は幼虫が水生で、翅を後ろに折りたたむことができないのが特徴。ペルム紀に現存の昆虫目の大部分が出現した。系統樹では、昆虫はエビやカニなどの甲殻類に近く、クモやダニな...
昆虫の最も古い化石は、4億年前のデボン紀の地層から出土した無翅類。石炭紀後期に有翅類が現れた。カゲロウやトンボの旧翅類は幼虫が水生で、翅を後ろに折りたたむことができないのが特徴。ペルム紀に現存の昆虫目の大部分が出現した。系統樹では、昆虫はエビやカニなどの甲殻類に近く、クモやダニなどの鋏角類は三葉虫に近い。 非飛翔型の昆虫は複数の昆虫目に多数存在する。アブラムシには有翅型と無翅型があるが、有翅型の生殖腺のサイズは20%小さい(器官のトレード・オフ)。飛翔のコストは大きいため、その利益が上回らなければ飛翔性を喪失する。 変態は、蛹期のない不完全変態と蛹期のある完全変態がある。不完全変態は、バッタのように幼虫と成虫が似ている小変態と、トンボのように幼虫と成虫の形態や生息環境が異なる半変態がある。完全変態の昆虫は、幼虫と成虫が生息場所と食物を変えることによって環境変動に対するリスクを減らすことができる。昆虫目ごとの種の数は、上位4つを完全変態が占めている。 昆虫の体表の毛には、音、嗅い、味、湿度、温度、振動の受容器があり、これらの感覚細胞は全神経細胞の90%を占める。 ブナ林では、10年くらいの周期でブナアオシャチホコというガの幼虫が大発生するが、食害されたブナの葉は翌年タンニンの含有量を増やして大発生を終息させる。 ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが樹幹下部にたくさんの穴をあけ、餌として運ぶ菌類に対して過剰な抵抗反応を示して水分を吸収できなくなることによって起きる。原因として、温暖化や薪炭林を放置した影響が考えられている。 キルギスの草原を麦畑に変えた例では、昆虫の種は57%減少したが、全種類の個体数は2倍に増え、個体数の大部分を少数の種類が占めるようになった。単一種を栽培する農業によって、特定の昆虫種が害虫化することになる。 トマトの7割がハウス栽培されており、受粉には1992年から輸入されたセイヨウオオマルハナバチを利用し始めた。これは殺虫剤を使わない害虫防除法も促したが、野外に逃げ出したセイヨウオオマルハナバチが在来種を脅かす問題が発生している。
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幅広い昆虫の「特殊技能」がコンパクトに紹介されていて、めっぽう面白い。後半がちょっと間延びしたかな。
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はじめに 第1章 昆虫とはどんな生物か 六脚の節足動物/昆虫のルーツは/新種が続々/なぜ多様化したのか/昆虫と植物の共進化 第2章 昆虫たちのみごとな進化 機能分化の成功/強固な外骨格の功罪/翅という大発明/飛翔のエネルギー論/飛ばないという選択/飛翔性の放棄はネオテニー?/完全...
はじめに 第1章 昆虫とはどんな生物か 六脚の節足動物/昆虫のルーツは/新種が続々/なぜ多様化したのか/昆虫と植物の共進化 第2章 昆虫たちのみごとな進化 機能分化の成功/強固な外骨格の功罪/翅という大発明/飛翔のエネルギー論/飛ばないという選択/飛翔性の放棄はネオテニー?/完全変態の発達/体サイズの小型化/毛だらけの体表/どこにでもいて何でも食べる/果報は寝て待つ/移動という臨機応変な進化/柔軟な表現型/性の進化/さまざまな配偶システム/精子競争と父権の確保/メスの選り好み/オスとメスの対立 第3章 昆虫が群れるわけ 協力して生き延びる/フェロモンを上手に使う/群れで襲う/他人同士の群れ/毒を持つチョウが群れる意味/ミズスマシの利己的な群れ/亜社会性の群れ/真社会性の群れ/群知能 第4章 生態系における大きな役割 食物連鎖を支える/花粉媒介者として/分解者として/植物以外の生物との共進化と共生/共生関係を利用したユニークな防除法/カメムシと共生微生物との関係/昆虫の性を操る菌 第5章 地球温暖化センサーとしての昆虫 温暖化の昆虫への影響/温暖化と生物の多様性/温暖化とマラリア/温暖化と生物の相互作用/モデル昆虫を使った温暖化の研究/温暖化は世界的大害虫多発生の原因なのか/ナラ枯れ現象 第6章 昆虫と人類の闘い 害虫化はなぜ起こったか/誘導多発生とは何か/殺虫剤抵抗性の宿命/抵抗性品種とバイオタイプの出現/遺伝子組み換え作物の功罪/減反と斑点米カメムシ/大規模植林と果樹カメムシ/大規模植林とシカ害/環境変化とバッタ問題/昆虫の国際化/温暖化と外来昆虫 第7章 害虫を上手にコントロールする 農薬万能から総合防除へ/総合防除からIPMへ/環境にやさしい殺虫剤/サソリ毒を利用する/フェロモンを使う/誘引剤を使う/土着天敵を利用した生物的防除/カブリダニハウス/植物免疫力の活性化/IPMからIBMへ/有機農法をどう捉えるか/生物多様性の復活 第8章 バイオミミクリー革命と昆虫 バイオミミクリー革命とは何か/エアコン完備のシロアリの家/空気から水を得る/高感度赤外線センサーを持つ甲虫/褪せない色/ガの複眼を模倣したスーパー反射防止フィルム/トンボの翅を模倣したプロペラ/麻薬蜂?/痛くない注射針/スズメバチから脂肪燃焼ドリンク/タイワンカブトに学んだ病原菌を殺す薬/ガンの進行を遅らせるヤママユの休眠物質/マゴットセラピー/サメ肌水着とイルカ肌スーツ/ロータス効果/ヤモリの足に学んだ接着材料/表面が汚れないカタツムリの殻/アワビの殻の強度/強靭でしなやかなクモの糸/トンネル掘削と新幹線の騒音対策/京都大学のエントモミメティクサイエンス/アメンボの水面滑走/アメンボの振動情報処理メカニズム/アサギマダラの翅の超撥水性/サーボスフェアの開発/匂い識別のメカニズム/化学センサーシステム/アトピー性皮膚炎診断薬の開発/ヤドクガエルの毒はダニ由来/新しい家畜の飼料/昆虫型六脚歩行ロボット/日独エントモミメティクワークショップ/中国南京におけるシンポジウム/バイオミメティクスの展開と将来/師としての昆虫――環境教育における活用――/昆虫と人間の関係――その基本構図―― あとがき 主な参考文献・図表引用文献 人類よりも長く4億年の歴史を持つ昆虫。人間の様に脳を発達させて、どのような環境にも適用していく進化をしたのではなく、置かれた環境ごとにその生態を変えた進化の方法とった昆虫。 その彼らの知恵、それを人類に生かす知恵を俯瞰できる本。
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