紀元二千六百年 の商品レビュー
戦時中は暗く悲惨な時代とこれまで考えられてきたが、1940年頃までは観光旅行が行われていたこと、紀元2600年=1940年を迎えるにあたって、観光が帝国主義やナショナリズムを鼓舞するものとして政府や自治体・民間企業などによって積極的に使われていたことが示されている。日本ではドイツ...
戦時中は暗く悲惨な時代とこれまで考えられてきたが、1940年頃までは観光旅行が行われていたこと、紀元2600年=1940年を迎えるにあたって、観光が帝国主義やナショナリズムを鼓舞するものとして政府や自治体・民間企業などによって積極的に使われていたことが示されている。日本ではドイツやイタリアのような臣民を動員するファシズムは無かったとされてきたが、こうした観光人気をファシズムのひとつの現れ方と位置づける考察は面白い。 元号が代わり、神社界は積極的に「御朱印ブーム」を巻き起こしているが、改元・代替わり限定御朱印を出したり、そこに皇紀○○年などと書かれていたりするのを見ると、国家神道というのは今日でも根強く生き続けているように思う。筆者は、こうした万世一系思想を果たして戦後の日本人が断ち切ることをしてきただろうかと問うているが、断ち切るどころか、今の日本では強化するような潮流が見られるようになってきている。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
官民が渾然一体となって仕掛けた「ディスカバー・ジャパン」としての『紀元二千六百年』 本書を読んで驚いたのは、“国威発揚”のイベントというものは、何かしらの当局がその思惑のもとに総動員を下すのではなく、いわば官と対極にある民がそこにすり寄って、補完・補強していくという構造だろう。 オリンピックを想像すればそのことは用意だ。東京オリンピックといえば1960年のそれを『三丁目の夕陽』的に思い出せばそのメカニズムを容易に把握することが可能であろう。しかし、開催中止となった1940年にも東京オリンピックは開催の手はずだった。日中戦争の激化で開催を返上したと言われるが、その1940年こそ、“国威発揚”の節目となる『紀元二千六百年』でもあった。 本書を読むと恐ろしいほどにその時代の空気を感じることができ、それが遠い世界でないことにも驚く。そして、1940年の空気には、翌年末に突入する太平洋戦争の息吹は全く感じることができない。 いうまでもなく総力戦へむけての体制の準備は着々として進んでいる。しかし、庶民の生活はそれとは程遠い現実でもあったようだ。明るい側面や活気が見えるからだ。 本書の副題は、「消費と観光のナショナリズム」。 戦後の高度成長期に日本は「明治百年」を迎える。そこでブームになるものと、1940年のそれが同じ光景……すなわち、「消費と観光のナショナリズム」であったことはこれまた驚いてしまう。すなわち、国史ブーム、大衆参加と大量消費、朝鮮満洲観光。まさに1940年の日本は戦争など予期できないイベントと金儲けの時代であったということだ。そしてその「消費と観光のナショナリズム」が日本という国家を大衆レベルで実感・共有させていく翠点となっていく。決して過去とは思えぬ筋道なのである。 さて、冒頭で言及した通り、百貨店、新聞社、出版社、レコード会社、鉄道会社などが盛んに記念行事を煽ったことは忘れてはいけないだろう。一体感を演出する記念イベントはビジネスチャンスであったということだ。広告と消費、そしてマスメディアと戦争の関りは丁寧に探究されるべき。過去を知ることが現在を映しだす。 このところ喧しいのが官か民かという二元論だが、結局のところ、「儲け」の前に、経済性に軸を置く「民」の正常性は担保されないのは現実なのかもしれない。 紀元2600年つーうのは、要するに官民が渾然一体となって仕掛けた「ディスカバー・ジャパン」なんだよね(´Д` )
Posted by
聖蹟観光、植民地観光というあまりスポットのあたらない分野を通して戦前~戦中の消費やナショナリズムに焦点をあてている。戦後世代としては神武天皇の名前を教育課程で教わった記憶が無かった為一種のカルチャーショックを感じた。
Posted by
紀元2600年と言われても、今の若い人達には、「2001年宇宙への旅」と、錯覚してしまいそうだが、紛れもなく、西暦に対して、こういう呼び方が、まかり通っていた時代があった。昨年の暮れ間近に、友人である訳者の木村剛久君から,戴いた本(ケネス・ルオフ著)を、改めて読み返してみた。著者...
紀元2600年と言われても、今の若い人達には、「2001年宇宙への旅」と、錯覚してしまいそうだが、紛れもなく、西暦に対して、こういう呼び方が、まかり通っていた時代があった。昨年の暮れ間近に、友人である訳者の木村剛久君から,戴いた本(ケネス・ルオフ著)を、改めて読み返してみた。著者は、「国民の天皇」=戦後日本の民主主義と天皇制を著しているが、戦争が激しくなる前に、空前の消費と朝鮮半島・満州国等への観光旅行が、巻き起こり、それらが、軍事的なロジスティックに、安全を裏打ちされたものであり、且つ、百貨店などの催し物とのリンクで、一大消費ブームと化した時代があった。後半の章で、取り上げられた「日本人」、とりわけ、「海外植民地に在住する日本人のアイデンティティー」に対する論述に、今日的な課題として、大変、興味を持った。ナチス・ドイツのようなゲルマン民族の血統を、重んじるのではなくて、飽くまでも、大和魂的なイデオロギーを、中核にしつつも、海外に移民した2世・3世の抱く、祖父母や曾祖父母の母国、日本に対する想いと、現実に住んで、生活を営んでいるその国に対するロイヤリティーとの「矛盾的狭間と相剋」は、戦後、今日に至るまで、どうやら、新しい創造的な概念を描ききれず、解決・止揚しきれていないように、思われる。むしろ、内向きに、萎縮してしまった感が強い。当時の大和魂や大和なでしこの概念に対して、現代の「中華思想」や、「海外華人ネットワーク」は、どうなのであろうか?そして、「日僑」と呼ばれる海外在住者の存在の増加や、経済グローバリズムの中で、その国に、土着を任務とせざるを得ない日本人は、どのような国家意識を、アイデンティティーを核に、有し、子供達に、伝えてゆくのであろうか?大変、興味深い課題だと思う。小松左京の「日本沈没」ではないが、日本人は、どこへ,漂流してゆくのであろうか? http://kimugoq.blog.so-net.ne.jp/
Posted by
日中戦争真っ只中の皇紀2600年(1940年)、戦時下の大日本帝国では、なぜか観光旅行ブームが最高潮を迎えていた。 いわゆるファシズムには大衆の参加が不可欠であるところ、当時の大日本帝国にあっては、旅行を媒介にして、 「日本の旅行者が利用した言説、象徴性、記念建造物は、当時の軍...
日中戦争真っ只中の皇紀2600年(1940年)、戦時下の大日本帝国では、なぜか観光旅行ブームが最高潮を迎えていた。 いわゆるファシズムには大衆の参加が不可欠であるところ、当時の大日本帝国にあっては、旅行を媒介にして、 「日本の旅行者が利用した言説、象徴性、記念建造物は、当時の軍国主義・拡張主義的な政策をさらに支持するように仕組まれていた。国は余暇旅行を史跡に向けるよう仕向け、いまと同様に「人と同じもの」が欲しくなる消費者意識が当時の消費者にも働いていた。」(p169) という形で、当時の臣民はファシズムに、積極的にというか無邪気に加担していたのではないかといたというお話。 神武天皇の史跡を公定する(できっこないのに)のに最もらしい理屈をひねり出す国史学の帝大教授は御用学者の極北。これはひどい。 あと、植民地も観光旅行先として人気があったが、余りに「日本化」を推し進めてしまうと旅情が失われてしまうという身勝手極まりない話には、「帝国主義的旅行」の矛盾そのものが現れているようで面白かった。これもひどい話だが。 立体的に読むために参照してみた本 ・井上章一「夢と魅惑の全体主義」(文春新書) ・曽我誉旨生「時刻表世界史」(社会評論社) ・「満洲朝鮮復刻時刻表」(新潮社)
Posted by
常々、大衆というのは支配されたがるものなのではないかと感じていたので、ヒットラーやムッソリーニのようなカリスマの代わりに、日本では、神武天皇という神話上の天皇をヒーローに据え、それを商業主義が利用したことによる、いわゆる民衆によるファシズムという見方が新鮮でした。 中国や朝...
常々、大衆というのは支配されたがるものなのではないかと感じていたので、ヒットラーやムッソリーニのようなカリスマの代わりに、日本では、神武天皇という神話上の天皇をヒーローに据え、それを商業主義が利用したことによる、いわゆる民衆によるファシズムという見方が新鮮でした。 中国や朝鮮半島からの非難にはヒステリックに反応してしまう日本人ですが、歴史と伝統と資本主義によって、自分たちが自分たちを抑圧したという視点は、検証してみる必要があるのではないでしょうか。
Posted by
山口新聞2011.02.13書評欄。 暗澹たる時代ではあったがけっこうたくましくビジネスチャンスとしてイベントを利用していたというようなことが書かれてあるらしい。 そういえば「紀元は二千六百年っ!!」ていうような歌詞をなんとなく知っていたりします。 名前からすると外国人ですね?...
山口新聞2011.02.13書評欄。 暗澹たる時代ではあったがけっこうたくましくビジネスチャンスとしてイベントを利用していたというようなことが書かれてあるらしい。 そういえば「紀元は二千六百年っ!!」ていうような歌詞をなんとなく知っていたりします。 名前からすると外国人ですね?そういう人がこのテーマで書いていることにも興味をひかれる。
Posted by
- 1