偶然世界 の商品レビュー
フィリップ・K・ディックの1955年に発表された第一長篇。世界観や用語の説明不足などは、最初の作品からだったのかと納得。という訳で、誰にもおすすめできませんが、個人的にはとても面白い作品だと思いました。 世界を統べる権力者が、公共偶然発生装置(ボトル) による無作為な攣動(トイ...
フィリップ・K・ディックの1955年に発表された第一長篇。世界観や用語の説明不足などは、最初の作品からだったのかと納得。という訳で、誰にもおすすめできませんが、個人的にはとても面白い作品だと思いました。 世界を統べる権力者が、公共偶然発生装置(ボトル) による無作為な攣動(トイッチ)によって決められる世界。それは、ランダムに抜擢し、あるいは蹴おとし、ランダムな間隔でランダムに権力者を選び出す。人は、権力を独占できず、安泰した地位など存在しない。誰も独裁者になろうとしてもなれない世界。 そのような社会機構である、九惑星連邦の最高権力者(クイズマスター)であったヴェリックがこれにより退位(クワック)させられ、代わりに選ばれた(ボトルされた)のは、プレストン会(謎の太陽系10番惑星「炎の月」の存在を示唆したジョン・プレストンを信仰する)会長のカートライト。 その地位についてから24時間後には公認の刺客が指名大会で選任されて、一度に一人ずつクイズマスターを殺しにくる挑戦方式が、退任まで続きます。周囲を守ってくれるのは、ティープと呼ばれる人の思考波を捕えるテレパスの部隊。その間隙をついて命を狙う第一の刺客は、退位させられたヴェリックが送り込んだキース・ペリグ。果たしてティープ部隊は守り切ることができるのか…。 と、ここから怒涛の展開が始まるのですが、はっきり言ってこのキース・ペリグのスペックがチート過ぎて笑えます。読みながら「そんなアホな…」と呟いてしまうほど無茶苦茶でした。それにしても、最高権力者になって、日々命を狙われる世界…しかも全世界公認とは何という罰ゲームなんでしょうね。着任早々、キース・ペリグのようなチートキャラに命を狙われるカートライトが気の毒でした。 ラストは謎の太陽系10番惑星での、あるメッセージで終わりますが、遥か西の方で起きている戦争を考えると、現代では受け入れられない考えですね。ある意味、時代を反映した考え方だなと思いました。
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ディック27歳のSF長編第一作。権力者がくじびき機械のランダム性によって決められるという設定を皮切りに、テレパシー、最終戦争、植民惑星、管理階級社会、人造人間、など、この時期からすでに世界観ががっつり作り込まれていて、読者を引きずり込むディックらしさが感じられる。ただ、得体のしれ...
ディック27歳のSF長編第一作。権力者がくじびき機械のランダム性によって決められるという設定を皮切りに、テレパシー、最終戦争、植民惑星、管理階級社会、人造人間、など、この時期からすでに世界観ががっつり作り込まれていて、読者を引きずり込むディックらしさが感じられる。ただ、得体のしれない不安感を誘うところや、現実崩壊感覚などはまだ強くはなく、刺客ペリグの設定と手に汗握るアクション的な攻防が最大の見所だと思う。近年大ヒットしたあの3D映画を思い出した人も多いだろう。この小説が1955年発表のものであることに驚く。未知の世界へ宇宙船でたどり着いた果てに聞こえる最後の言葉は、若かりしディックの前向きな心情を感じる。
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ディックの長編処女作ということで読んでみた。 権力者を完全ランダムに選抜する社会システムや、ティープやキース・ペリグといったガジェットは面白い。 が、物語としては短調に感じた。
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とてもストレートなSFだった。ディックらしくないといえばそれまでだけど、「炎の月」へのある種の信仰などは、その後の作品にも通じているような気がする
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正確に書くと3.5かな。 ハヤカワ文庫が相変わらず嫌いなんだけども買ってしまった。 どうしてサイズ合わせないかな。 これはずっとぶつぶつ言い続けてやる。 ツイッターでも書いてやる。 久しぶりのディック。 最近はこういう完全なるエンターテイメントのものは再読ばかりで 新しいもの...
正確に書くと3.5かな。 ハヤカワ文庫が相変わらず嫌いなんだけども買ってしまった。 どうしてサイズ合わせないかな。 これはずっとぶつぶつ言い続けてやる。 ツイッターでも書いてやる。 久しぶりのディック。 最近はこういう完全なるエンターテイメントのものは再読ばかりで 新しいものは仕入れていなかった。 試験が終わって一息つきたい目的で 純粋なる楽しみとして購入。 作品はディックの長編一作目ということで選択(一説には三作目)。 この文庫版には表紙にわざわざ 「PKD's First Published Novel」 と記載してある。 短編はNovelじゃないのか(実際中編以上らしい)。 表紙ついでに書くと、 「Solar Lottery」 という原題が書かれていて、邦題に?と思ったら、 放題はイギリス版のタイトル 「World of Chance」を元にしているんだそうだ(後書きより)。 何故イギリス版から邦題が? も謎だが同じ英語でタイトル変えるのも謎だ。 アメリカ版のタイトルもディックがつけたものは却下され 出版社がつけたらしいので、 やっぱり出版社の意志は大きいのかな。 くじによって権力者や階級が選ばれるという ザ・ディックなディストピア設定。 物語進行と状況描写のために複数の主人公視点があるのも ディックらしい。 安定のディックらしさなので、 それを求める人には良いと思う。 ディックを多数読んでいて、 意外性や刺激を求めたい人には違うかも。 しかし、 この物語は希望がある終わり方だったけれど、 ディックの闇は選ばれし者とその他という二極化にあるんだな、 と感じずにはいられない。 まあそこが好きなんだけど。
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未来は完全な階級社会で自由はない。世界の最高権力者は上位階級から無作為で選ばれるが、そこには常に暗殺の危険がつきまとう。暗殺に差し向けられる者と、これを阻止しようとする者。そこには他人の考えを読み取る超能力者も存在し、権力をめぐって闘争する。
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フィリップ・K・ディックの処女長編は、ランダムによる無作為な権力交代が行われる九惑星系社会が舞台。クイズマスターなる最高権力者は、ボトルという偶然をつかさどる装置により選り抜きされます。時のクイズマスター、ヴェリックはこのボトルにより失脚。代わって権力の座についたのは、無級者のカ...
フィリップ・K・ディックの処女長編は、ランダムによる無作為な権力交代が行われる九惑星系社会が舞台。クイズマスターなる最高権力者は、ボトルという偶然をつかさどる装置により選り抜きされます。時のクイズマスター、ヴェリックはこのボトルにより失脚。代わって権力の座についたのは、無級者のカートライトですが、指名大会で選出された刺客により、命を狙われることに… そんな中、主人公ベントリーは解職を機にヴェリックと雇用の誓いをたてるが… ディックの長編はやっぱり無秩序な印象を受けます。 二十三世紀の九惑星社会、先にあげたボトルによる権力交代制度、パワーカードに無級者、そして《炎の月》などなど、背景やガジェットが入り乱れて登場します。しかし、これらがうまく物語に組み込まれているかというと、そうではありません。ランダムな社会制度といいつつも、実際には作為的な関与がありますし(これはその社会が既に破綻しているとみることもできますが…)、なにより《炎の月》の存在意義なんて、読解力不足でしょうが、読み終えてもよく解らなかった笑 ただ、だからといって、面白くないわけではなく、ディックの場合はこの無秩序さがなんだか心地よく、楽しめるんですよねぇ。短篇がきれいにまとまった作品が多いだけに、長編のこういう無秩序さは、かえってディックらしさを感じるのでした。
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SFらしいSF!ディックは初めて読んだけど、他のも読んでみたいと思った。後半の方の駆け引きが面白かった。
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ディック祭りあらため、ディックの足跡をたどる月間。古本やさんから初期の本をかき集め準備は整った! 出版の順番からいくと処女長編となる本書。公共的偶然発生装置によって、ランダムに変化させらる世界、ティープ部隊、偶然によって即位させられる最高権力者、選抜される公的な刺客、太陽系外縁...
ディック祭りあらため、ディックの足跡をたどる月間。古本やさんから初期の本をかき集め準備は整った! 出版の順番からいくと処女長編となる本書。公共的偶然発生装置によって、ランダムに変化させらる世界、ティープ部隊、偶然によって即位させられる最高権力者、選抜される公的な刺客、太陽系外縁にあるとされる炎の月に向かう狂信者集団、光速を超えて飛翔できる人造ボディ、等々説明抜きにあふれるガジェットの数々。ドラッグを使用していると思しきシーンは出てきますが、ぐじぐじ病んでいる分裂病的な人物はこの作品では出てきません。(こんなのも書いていたんですね) きっと、謎が仕掛けられているに違いないと思った設定があっさり破壊されていしまったり、と寓意に満ちていると感じられたり、何の脈絡も無かったりとなかなか印象深いディック版スペースオペラ!
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SF界では有名な方らしいというのと、本屋で見た装丁がかっこよ(略)厨二心をくすぐられたので購入。よく耳にする「~は~の夢を見るか?」というタイトルの元ネタでる「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」という作品を書いたフィリップ・K・ディックの長篇処女作。らしい。本当はどこかの作品でオマージュだか参考だかにされているから手に取ったんだと思うけど、その作品かは忘れてしまった。 ボトルという装置によってランダムに権威者が無作為に変動していく近未来の世界で、従属契約や刺客とディープの争い。《炎の月》。 絶対的君臨者として存在するヴェリック。それにつき従うエレノアとムーア。テッドは翻弄されるがままにその最高権力を取り戻すための戦いに巻き込まれていく。無級者として惨めな生活を強いられるカートライトも、そのボトルが巻き起こす嵐の真ん中に放り込まれていった。 突然始まるボトルという装置が支配する世界に戸惑うこともありつつ、SF世界として楽しめた。カクテルや飲み物にすら近未来の要素を持たせ、登場人物たちが交わす言葉も当たり前のようにSF要素が飛び交う。 いまいち登場人物たちの心情が理解できない部分も多かったが、おおよそ因果の破綻なく物語が進められるので、プロットの正確さを感じた。これまで私が手にした翻訳本の中ではかなり読みやすい。 エンターテインメントとしてストーリーの破綻は感じられず気持ちのいいテンポで進んで行く。絡み合う隷属関係はあまり意識しなかった。それが最も効果を表すのは後半になってからだ。また、《炎の月》という理想的世界と過程される惑星への希求も同様に。 全体を通してランダムに当てがわられる殺し合いゲームに主眼を添えられているので、ゲームならではのハラハラ感や攻略感も楽しめる一方でどこかグレーに彩られた世界で生きる登場人物たちの言葉がいやに光る。 物語の途中ではテッド・ベントリーが自分は精神病質なのか苦悩するシーンがある。違法は我々なのか世界なのか。異質なのは自らなのか周囲なのか。それはぺリグ・ボディにムーアの悪意によって突然放り込まれたテッドの戸惑いのように、ヴェリックに依存するしか存在できなかったエレノアのように自らのアイデンティティについて問いを少しづつ投げかける。 Mゲームによって歪められた世界から九惑星を越えて新たな世界を手に入れるその欲求、テッドがヒルを飛び出し違法を犯し社会と自分との折り合いを苦悩させるまでに至らしめた彼の欲求、それはどちらも物語最終の台詞のように前進する志向が含まれたからこそ成し遂げられ、虐げられるものではない。そして、ひとつのゲームが終わったのである。 「SFの古典」というおとで読みいにくいかと不安だったが、エンタメ要素は多く充分に現代でも楽しめる作品である。これを切り口に、「ニューロマンサー」や「アンドロイドは~」なども読んで、SF的世界の造詣を深めるための一歩にしては充分の役割を担えるだけの実力のある作品だった。
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