攘夷の幕末史 の商品レビュー
開国は手段であって全て攘夷の範疇に入る。 朝陽丸事件の事は全然知らなかったが、とばっちりみたいなノリで殺害された方々に哀悼したい。
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調べもの読書。前半は幕末の歴史が分かりやすく書いてあってよかった。ただ後半になると特定の事件についてやたら詳しく書かれていて全体像が見えなくなった。坂本竜馬のエピソードなど想像の部分が多いような気がするし史実に基づいているとは言えないのではないか。幕末、日本人は全員少なからず攘夷だった、というのも本当かどうか怪しい。歴史的事実が書かれたところのみを拾い読みした感じ。
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「鳥の目と蟻の目」という言葉がある。「鳥の目」とは大空を舞う鳥のような視点から全体を鳥瞰すること、「蟻の目」とは地べたを這うように詳細な内容を見ることを表しているが、歴史を見るにはこの両方の視点が必要と思われる。 本書は、この「蟻の目」の視点の本としておもしろく読めた。 幕...
「鳥の目と蟻の目」という言葉がある。「鳥の目」とは大空を舞う鳥のような視点から全体を鳥瞰すること、「蟻の目」とは地べたを這うように詳細な内容を見ることを表しているが、歴史を見るにはこの両方の視点が必要と思われる。 本書は、この「蟻の目」の視点の本としておもしろく読めた。 幕末期のいわゆる「尊皇攘夷」の思想についてはわかりにくいところがあったと思う。ざっくりといえば、後日明治政府を構成する薩摩・長州の反徳川勢力が「攘夷」という対外戦争を主張し、旧体制の幕府側が「開国」を主張したのが歴史の推移だ。一見逆のように見えるこの関係を本書は詳細に解き明かしている。 本書により幕府の対外政策をみてみると、幕府はイギリス捕鯨船とのトラブルを受けて1825年(文政8年)に攘夷のさきがけと言われる「無二念打ち払い令」という強硬方針を決定。 その後1842年(天保13年)「薪水給与令」という対外融和政策に政策を転換した。 そしてぺリーの来航(1853年、嘉永6年)と日米和親条約(1854年、嘉永7年)の締結だが「この段階では鎖国を堅持したというのが同時代人の認識だった」と本書は語る。 その後鎖国政策の転換である日米修好通商条約(1858年、安政5年)の締結となるわけだが、攘夷思想に凝り固まった孝明天皇の勅許獲得をめぐる混乱や、有力諸侯の動き等々で情勢が一気に流動化していく経過が本書では克明に描かれている。 本書では「政争の本質はどこにあるのか?」という点を詳細に分析し、当時の対立点は「攘夷vs開国」ではなく、「大攘夷vs小攘夷」だと論証している。 大攘夷とは「現状の武備では西欧諸国諸国にはかなわないとの認識に立ち、通商条約を容認しその利益を持って海軍を起こし、大海に打って出る」という帝国主義的な路線であり、「小攘夷」とは「幕府が締結した通商条約を一方的に破棄し、それによる戦争も辞さない」というものだという。 本書による歴史の詳細な解説は幕末の時代を立体的により深く理解できるとおもしろく読めた。 本書最終章の「幕末の攘夷の残影」についてはいろいろと考えさせられると思った。 幕末の時代認識としては「尊王攘夷vs公武合体の観点で理解してはならないのだ。通商条約を容認するのか破棄するのか、武備充実後まで攘夷実行を先送りするのかしないのか、これらの考え方の相違から政争が繰り広げられた時代だったのだ」というのだ。 本書末尾の「先の未曾有の大戦も、つまりは、幕末の呪縛によるものなのだ」との結論には思わずため息が漏れた。 ただ、本書はとっつきにくい。いろいろおもしろいと感じたのは、本書の後半となってからで、前半は学術書のように細かい展開が続いている。それを乗り越えなければおもしろさにはたどりつけない。 これは「蟻の目」の視点とはそういうものなのか、それとも筆の力なのかどちらかなのだろう。本書は幕末期への理解を進めることができる良い本であると思った。
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坂本龍馬も、勝海舟も、みんな「攘夷派」だった。「尊王攘夷VS公武合体」の定説を覆す。 序章 幕末のイメージと攘夷 第一章 東アジア的視点から見た江戸時代 第二章 幕末外交と大国ロシア 第三章 坂本龍馬の対外認識 第四章 攘夷実行と西国問題 第五章 攘夷の実相・朝陽丸事件 終章 攘夷の転換と東アジアの侵略 とても刺激的な本であり読んでいて頭がくらくら揺さぶられた。 幕末を思想史からひもとくとみんな攘夷派になるという。一般に開国派と称される人々も、いますぐ攘夷は出来ないから、一時的に開国して軍備を養った上で攘夷をしようという意見だという。幕末から征韓論が論じられているのも面白い。坂本龍馬については踏み込みが浅い気がする。 本書を読むと、西国諸藩による攘夷の実行や小倉藩と長州藩の対立。幕府の武威の低下状況なとがよくわかる。幕府の軍艦に大砲が打ち込まれようと、奇兵隊に威圧されようと、為す術は無く、挙げ句に使者が殺害されてしまうのが驚きである。(これらの事件か八月十八日の政変につながるというのも面白い。) 明治以降、日本は大陸に進出するがその萌芽が幕末の尊王攘夷思想にあるという見方には説得力を感じた。 本書は幕末の思想を知る上で欠く事の出来ない一冊といえる。
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幕末期(特に文久期)の対外政策・認識を巡る政争を、一般的な「開国」対「攘夷」、「公武合体」対「尊王」の対立軸ではなく、当時の日本人すべてが東アジア型華夷秩序観に基づく「攘夷」観を内面化していたということを前提として、当面の通商条約を受容して武備充実の暁の海外勇躍を目指す「大攘夷」と、条約の即時破棄・武力行使を目指す「小攘夷」との対立抗争として整理している。 当時の「開国」論が基本的には「万国対峙」のための国家富強策であったこと自体は古くから知られていることだが、「開国」論の根底に「攘夷」イデオロギーが深く根付いているという指摘は目新しい。たとえば「蘭癖」堀田正睦は貿易振興による国力増強の末に日本国が「全地球上の大盟主」となることを夢想していた。安政五カ国条約交渉の「主役」岩瀬忠震にしても「日本ノ旗号、五州ニ遍」すことを目指し、最終的には通商条約体制を否定した上での日本を頂点とする華夷帝国を想定していた。さらに、本書では勝海舟や坂本龍馬の「開国」論も「攘夷」を下地にしていると断じる。勝は岩瀬と同様の「大攘夷」主義に立ち、対馬の上地や「征韓」を幕閣に提起し、朝鮮国や清国を日本傘下におさめて海軍力を増強した上で列強に対峙することを目指していた。坂本龍馬も勝と同様の視座を有しており、「海援隊」の本来の設立目的は「未開」地の占領と開拓であり、実際に鬱陵島への侵出・開拓を計画していた。著者は龍馬が同島が慣習的に朝鮮領であることを認識した上での侵略計画だったと指摘する。 文久期の「攘夷」の実相として、幕府が「攘夷」実行期限として朝廷に答申した1863年5月10日以降、8月18日政変までの諸藩による具体的な「攘夷」行動を明らかにしている。長州藩による下関海峡での外国船砲撃のほかに、同年6月鳥取藩が英国船へ実弾射撃を実施したが、それ以外は具体的な武力行使がなく、過激攘夷派主導下の朝廷は無二念打払令を幕府の頭越しに発して「攘夷」を督促した。これは横浜鎖港交渉を理由として外国側から攻撃があった場合以外は砲撃を禁止する幕府の命令と対立し、西国諸藩は「政令二途」に混乱した。徳島藩・明石藩・延岡藩が勅命に従い外国船と誤認した日本船に砲撃する一方、薩英戦争の緊迫下の薩摩藩は無謀な朝命を批判し、長州藩との対立を深めていく。朝命と幕命の矛盾は下関海峡を挟む長州藩と小倉藩との一触即発の緊張を招き、朝廷は「攘夷」非協力の故をもって小倉藩の官位剥奪と所領没収を指令、長州側は奇兵隊過激派の突き上げにより小倉領の海峡対岸を占拠、長州糾問のために来航した幕府艦朝陽丸の借り上げを要求し、ついには幕府の糾問使の殺害に至った(朝陽丸事件)。この事件は暴挙として京都や江戸はじめ各地に伝えられ、会津・薩摩藩などが8月18日政変を引き起こす主たる動因となるという。 本書はこれまでいわゆる「尊攘」派による外国人へのテロや薩摩・長州のような大藩が関わった「攘夷」事件の影に埋もれていた「攘夷」の実態を歴史的経緯も含めて明らかにし、特に8月18日政変の直接の引き金として小倉藩処分問題とそれに伴う長州藩による幕使殺害事件に光を当てたことは高く評価すべきだろう。他方、前近代の日本版中華思想(華夷秩序)から近代の攘夷論を経て「大東亜共栄圏」に至る「日本」中心主義を一本の線でとらえることが妥当なのか、また民衆を含めて本当にすべての江戸時代の「日本人」が「攘夷」観を保有していたと断言できるのか疑問がないでもない。
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本書で紹介されている幕末に行われた攘夷運動の中には初めて知るものが多かったので、大変興味を持って読むことができました。枝葉に別れ細分化して複雑な攘夷思想ですが外交策、国防論いずれにしてもその究極目的は日の丸の旗の下に世界統一(征服)する事であり、その手法の違いが幕末に混乱を招いた...
本書で紹介されている幕末に行われた攘夷運動の中には初めて知るものが多かったので、大変興味を持って読むことができました。枝葉に別れ細分化して複雑な攘夷思想ですが外交策、国防論いずれにしてもその究極目的は日の丸の旗の下に世界統一(征服)する事であり、その手法の違いが幕末に混乱を招いたひとつの要因だったのだと改めて思います。この攘夷思想が後に大東亜共栄圏や八紘一宇のスローガンなどに繋がったと思うと、良し悪しは別として歴史の連続性を感じます。考えてみれば神武東征も古代の熊襲や蝦夷征討も攘夷なのですよね。
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この本を読んで幕末の長州諸隊と昭和の関東軍、長州藩政府と陸軍中央、幕府と帝国政府が、おいらの中でカブるようになりました…
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