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根をもつこと(下) の商品レビュー

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4件のお客様レビュー

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2023/05/02

下巻は第3部「根づき」の方法についての記述となります。上巻が「根こぎ」の悲惨な状態についての記述であったのに対して、下巻はいかにして人間が(特にフランス人を念頭においていますが)ふたたび根を張ることができるか、そして魂の糧を得ることができるか、についてのヴェイユの提案・主張が書か...

下巻は第3部「根づき」の方法についての記述となります。上巻が「根こぎ」の悲惨な状態についての記述であったのに対して、下巻はいかにして人間が(特にフランス人を念頭においていますが)ふたたび根を張ることができるか、そして魂の糧を得ることができるか、についてのヴェイユの提案・主張が書かれていることになります。 主張は正直難解に感じましたし、一言で説明せよと言われると非常に難しいのですが、ポイントとしては人間の生命維持に直結する労働に焦点をあてていることでしょう。またヴェイユの主張で面白いと感じたのは、思考は万物を動かしている必然性すらも支配できる、というコメントです。つまり世の中で起こっていることは思考(感覚含む)が現前化した事象であり、私のつたない理解ですが、何事も考え方次第であって、全ての事象が愛に満ちたものだと考えることで、仏教的に言えば彼岸の智慧と此岸の知恵が融合されるような感覚を述べているのかと思いました(一言で言おうとするとどうしても稚拙な表現になってしまいますが・・・)。 本書を読んでハンナ・アーレントの「人間の条件」を思いだしました。アーレントは、望ましい人間像として、思考停止に陥る労働中心ではなく、政治や言論活動などの「活動」領域をもっと拡大すべきだと考えているのに対して、ヴェイユは、労働に思考を宿すことで霊的な根付きを生み出すべきだと主張します。私は個人的に両方正しい気はしましたが、もしかすると「根こぎ」にあっている人間に対する処方箋としてはヴェイユの方がより正しいのかもしれません(※根付きの状態になったらアーレントの処方箋のように活動領域を増やす)。本書は主に、ドイツに祖国を占領されたフランス人の立場から「根こぎ」の対策を論じているわけですが、「社会的、地理的、霊的な根こぎ」は現代社会においてもあちこちで起こっている問題だと思いますので、ヴェイユの主張は傾聴に値すると感じました。

Posted byブクログ

2014/12/01

下巻。 思考実験として非常に興味深く読んだ。 キリスト教的な価値観に立ちながら、ヴェイユが求めていたのは仏教的な何かだったんじゃないのか、と思えてならない。 仕方ないことではあるがとにかく訳注が多いw 本編だけなら1冊に纏まってたよなぁ……(分厚くなるけど1冊でも良かったと思う...

下巻。 思考実験として非常に興味深く読んだ。 キリスト教的な価値観に立ちながら、ヴェイユが求めていたのは仏教的な何かだったんじゃないのか、と思えてならない。 仕方ないことではあるがとにかく訳注が多いw 本編だけなら1冊に纏まってたよなぁ……(分厚くなるけど1冊でも良かったと思う)。

Posted byブクログ

2013/04/01

上巻は、ヴェイユが私的憲法草案を著すに際した基本理念(服従、名誉、秩序、言論の自由など)から始まり、労働者、農民、国民の、中世から続き第二次世界大戦敗戦に至るまでの「根こぎ」の過程と、根を取り戻すための実際的な要領を提案している。 下巻は丸一冊分「根づき」について。 敗戦という絶...

上巻は、ヴェイユが私的憲法草案を著すに際した基本理念(服従、名誉、秩序、言論の自由など)から始まり、労働者、農民、国民の、中世から続き第二次世界大戦敗戦に至るまでの「根こぎ」の過程と、根を取り戻すための実際的な要領を提案している。 下巻は丸一冊分「根づき」について。 敗戦という絶好のチャンスに、いかにしてフランス人に真理を重んじる霊感(これは魂とかそういう意味)を復活させるか。 真理と科学・労働が現状いかに乖離しているか、その滑稽さなどをかなり辛辣に綴っている。 ”いまこの瞬間つぎの二つの運命からの二者択一を迫ってみよう~”の下りは、ヴェイユの真理に対する崇敬の度合いと厳しさが一番よく出ているくだり。 正直上巻の「根こぎ」は分析ばかりで退屈だったんだけど。 ヴェイユの強さは半端じゃないな。 目覚めさせられる部分もあり補強してくれる部分もあり、自分の人生に力強い味方を得たような気分。 「考える」にあたって、善と正しさに興味を失ったら人間として終わりだと思っている。

Posted byブクログ

2012/01/04

ヴェイユには特に関心を持っていないが、観念論に走ることなく、実際に工場で労働するなど誠実な行動と、その生活実感に基づいた言説には好感が持てる。 この「根をもつこと」はヴェイユの晩年、第2次大戦下に、ナチス=ドイツに敗北した故国フランスからのがれ、亡命先で故国のための活動を志願した...

ヴェイユには特に関心を持っていないが、観念論に走ることなく、実際に工場で労働するなど誠実な行動と、その生活実感に基づいた言説には好感が持てる。 この「根をもつこと」はヴェイユの晩年、第2次大戦下に、ナチス=ドイツに敗北した故国フランスからのがれ、亡命先で故国のための活動を志願したところ、戦後のフランスのために精神的支柱となるような本を書け、と言われて書いた本。ということらしい。 上巻の第1部では、人間の義務や集団に関して、短い倫理的な考察が並ぶ。その後の章では、歴史における「力」の推移などが考察され、とりわけヒトラーをめぐる記述に興味ひかれる。 「われわれのいだく偉大さの(誤った)構想は、まさしくヒトラーの全生涯に霊感を与えた構想にひとしい。」(p.58) なるほど、彼女が考察してきた文化史で育まれてきた「偉大さの構想」=力の論理が、ヒトラーを必然的に輩出するというのは正しいだろう。 ふと、この「偉大さの構想」は現在の日本でも、いままさに人びとの間で成長し続けているのではないかという気がした。 橋下徹氏が「日本に必要なのは独裁者だ」などと言い、その橋本氏を多くの人びとが支持している現在、われわれはアドルフ・ヒトラーを待望しているだけなのかもしれないのだ。 小泉純一郎、石原慎太郎や、虫のようにわき出すネトウヨやその予備軍、ネットをかけめぐるもろもろの扇情的な言説。ヒトラーが出現することを、私たちは無意識のうちにねがっているのかもしれない。

Posted byブクログ