笹まくら の商品レビュー
米原万里さんが絶讃していたので期待して読んでみたが、私には合わなかった。今まで読んだことのないタイプの作品で、その意味では新鮮で面白かった。しかし、ポジティブな登場人物が誰一人いないし、誰にもシンパシーを感じない。読後、すっきりしない思いが残る作品だった。
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ずいぶん前から読みたい本のリストには登録していたが、ようやく読めた。どういうきっかけで知ったのかまったく忘れてしまったが、え、こんな小説だったのか、という驚きがあった。まず題材。日中から太平洋戦争にかけて徴兵を忌避した過去を持つ男が主人公となっている。そういう人もいたのか、という...
ずいぶん前から読みたい本のリストには登録していたが、ようやく読めた。どういうきっかけで知ったのかまったく忘れてしまったが、え、こんな小説だったのか、という驚きがあった。まず題材。日中から太平洋戦争にかけて徴兵を忌避した過去を持つ男が主人公となっている。そういう人もいたのか、という感じで、いや戦争を内心忌避していた人はいただろうし醤油を飲んで徴兵を逃れるような話はこれまでも読んだことがあったが、本作のように身分を偽って全国を流浪することで徴兵を逃れるというのはいままで全く思いもしなかった。そして、構成。現在はコネで得た大学の総務で働く主人公は、逃避行を一緒にした女の訃報に接して、戦時中に心を引き戻されていくが、過去と現在をシームレスに行き来する構成はいまの眼から見てもかなり斬新。それでいてわかりにくさはまったく感じさせないのはさすが大作家の技術が光るということだろうか。
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リービ英雄が引用していた本である。文庫本ではなく、新潮現代文学63の中で読んだ。 徴兵忌避で砂絵描きとして戦争中に生活していた青年が、戦後に私立大学の庶務課長補佐として勤務しているという場面である。高岡の附属高校の庶務係長として赴任するか、退職して他の職業につくかという場面で、...
リービ英雄が引用していた本である。文庫本ではなく、新潮現代文学63の中で読んだ。 徴兵忌避で砂絵描きとして戦争中に生活していた青年が、戦後に私立大学の庶務課長補佐として勤務しているという場面である。高岡の附属高校の庶務係長として赴任するか、退職して他の職業につくかという場面で、戦争中のこと、妻の万引きのこと、大学のことなどいろいろな場面が突然出てくる。
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大学の職員として働く浜田庄吉の現在と、徴兵忌避者として全国を転々としていた過去が交錯する。 突然場面が転換して、はじめは時間軸が把握しづらいが、それが独特のグルーヴを生む。 笹の葉がかすれる音にすら不安を覚える流転の日々。 不安が作品全体の通奏低音となっている。
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今更の初丸谷。素晴らしい作品。 戦争忌避の過去を持つ大学職員が、現在と20年前の回想をシームレスに行き来する内容。 構成も文字表現もどこか知的で、独自性があった。ネーミングも完璧。 半世紀前を全く感じさせない鮮やかさで、他作通読確定。
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この小説は1966年初版だからもう40年前なのに、斬新な手法の小説だなんてやっぱり、いまさらながら丸谷才一の非凡さに感心しきり。 過去と現在を自在に往きかう変化に富む筆致を駆使して、徴兵忌避者のスリリングな内面と、現在の日常に投じるその影をみごとに描いて、戦争と戦後の意味を問う...
この小説は1966年初版だからもう40年前なのに、斬新な手法の小説だなんてやっぱり、いまさらながら丸谷才一の非凡さに感心しきり。 過去と現在を自在に往きかう変化に富む筆致を駆使して、徴兵忌避者のスリリングな内面と、現在の日常に投じるその影をみごとに描いて、戦争と戦後の意味を問う秀作。(表紙裏より) 過去がよみがえるという手法が効果的なミステリーは数々あれど、こんな日本的な情緒に富んだものは読んだことなかった。(とあえて言う) ついこの前のあの戦争と後に来た時代を文章が往復して、徴兵忌避者一人の青年の逃げおおせた記憶と現在の閉塞した心のうちが生々しく迫る。 日本列島のひなびた地方を旅して困窮も恐怖も恋も喜びも、一人の青年の青春譚にしてはあまりにも哀切な。 国家と一人の人間という対峙からも「徴兵忌避」を通して心にしみる思想となっていく。 スリリングなすじを辿るのも興奮するが、最終の文章の叙情に思わず涙してしまった。まさに効果絶大。 この本は米原万理の「打ちのめされるような小説」といういやがうえにも刺激される文からどうしても読みたいと思い、「笹まくら」を思いつくその文章の導入の本トマス・H・クックの「夜の記憶」から読みたかったのだが…。 やっぱり私も諸手を挙げてお薦め賛成の本!
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徴兵忌避者の20年後の話。 過去の経緯と現在とが絶妙に入れ替わりながら話が続くのだけど、その時代に応じた主語(主人公のおかれる立場)に変えることで、なるほどこれはいつ頃の話だなというのが直感的にわかるのがとても面白い。 徴兵忌避をした過去が心にひっかかり、すべてのことに対して敏感になったり、上手くいっているときも実はこれって何か罠が…と懐疑的になったり。 一度犯した罪(その当時の社会の中での話だけど)は、人間の中でなかったことにはできないということ。 それは自分も周りも同じことで、過去と共に生きていかなけれならない辛さが心にずっしりときた。
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大学の時に先生に勧められて読まされた本だったと思う。 戦争中に兵役拒否した男が主人公の話だが、章ごとに語り手が変わって、当時、なかなかに強い印象を受けた話だった。 そのうち読み返してみたい。
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戦時下の日本で徴兵忌避をした男の、内省する長い人生を綴る物語。 主人公の思考が雪崩のように押し寄せ、戦争のもたらした影をくっきりと浮かび上がらせる。 時代の変化というのは緩やかに、しかし確実に起こるということが、この本を読んだ今は恐ろしく感じる。 戦後、主人公の歩んできた道の真実が詳らかになるラストが本当にいい。当時の生の空気を感じ取れるだけでなく物語としての面白さがしっかりとあり圧倒された。
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主人公の心理描写が秀逸でした。過去に残した記憶がブワッと蘇り焦りや不安感が襲ってくるような。読んでて自分まで不安になってくる…。 懲役忌避者という、ある種珍しい立場から描かれた話はとても新鮮で一気に読めました。
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