敗走記(文庫版) の商品レビュー
朝ドラ「ゲゲゲの女房」で取り上げられ、急にAmazonでの売り上げが伸びた戦記漫画短編集。全体から浮かび上がってくるのは不条理。現地女性を慰安婦にする、しないという話もあり、衝撃的。戦地に赴いた作者ならではの物語ばかり。
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NHK朝の連続ドラマ『ゲゲゲの女房』も先週の100回を超えるあたりから、やっと何十枚も溜っていた質札を元に戻せるくらい収入が安定し、ようやく水木家にも貧乏神が去っていく兆しがみえてきたようです。 つまり、すたれていく貸本屋マンガから時代は週刊マンガ誌へと移行、一部のマニアの間で...
NHK朝の連続ドラマ『ゲゲゲの女房』も先週の100回を超えるあたりから、やっと何十枚も溜っていた質札を元に戻せるくらい収入が安定し、ようやく水木家にも貧乏神が去っていく兆しがみえてきたようです。 つまり、すたれていく貸本屋マンガから時代は週刊マンガ誌へと移行、一部のマニアの間でしか読まれていなかった俗悪な貸本マンガ家の水木しげるも、何十万部という雑誌に掲載されるやいなや一気に読者層の拡大を得て人気沸騰、例のあのサンデーVSマガジンの火花を散らす闘いの鍵みたいな存在と目されていたようですが、でも、その狭間に「少年ブック」や「漫画王」や「少年」や「ぼくら」や「少年画報」や「少年クラブ」という月間マンガ誌の時代があって、マンガもさることながら付録についてくる忍者の極意を書いた巻物やなんかも楽しみのひとつだったと私の父などは言いますが、調べてみると、この月間というスタイルが時代のニーズに合わなくなって60年代後半にほとんど休刊や週刊誌との合併に追い込まれています。 ただ、わずか10年前後しかない月刊誌の時期だったとしても、どうして水木しげるの活躍できる余地がなかったのか不思議です。 それにしても、あの伝説の青林堂によるマンガ誌「ガロ」の長井勝一をモデルにした嵐星社発行のマンガ誌「ゼタ」の深沢洋一(演じるはわが村上弘明!)や、東考社による貸本マンガからインディーズ出版を極貧のなかで貫徹した桜井昌一をモデルとする北西社の戌井慎二(俳優は梶原善)、このふたりのような地位や名声や富を求めないマンガへの無上の愛と、マンガをみる確かな目がなければ今のこのマンガの隆盛も広汎な才能の開花もなかったような気がします。 ところで、『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』だけが水木しげるではないと知っていても、なかなかその他のハードなものに手が伸びないのが水木ファンではない普通のマンガ愛好家というものでしょうが、それは絶対に惜しいと断言できます。 というのは、彼の戦記物は同種の娯楽的に書かれたものと比べても告発的な体験者によるものと並べても、まったく異質な肉体的な水木しげるという個別な人間的なものにあふれたもので、それは、何も戦争の無意味さを訴えたり、もちろん格好よさを吹聴したりするわけではなく、ただあるがままに自ら経験した惨めさ汚さ空腹さ痛さ苦しさを書き表し、勝ち戦も負け戦もないただ死へと向かうだけの行進でしかなく、その残酷な現実と向かい合うためには天皇陛下万歳とかお母さんとか言ってはいられず、幾分は半狂乱気味にでもなって、森の精霊や石と遊んだり純朴な現地の人と交流したりしなきゃやってらんないとばかりに、戦争の真っ只中にありながら戦争そっちのけで、せっかく戦争で南島に行ったのだからと、ちゃっかり生来の妖怪趣味を活かしてちゃんと南洋編を編纂してくるあたりやはり水木しげるという人はとことん只者ではありません。 願わくば、水木しげるの戦記マンガを読んで、一人でも多くの方が戦争を生理的に嫌悪する感性と肉体を持たれんことを!
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