春の夢 新装版 の商品レビュー
ふと死にたくなったり、ふと生きたくなったり、人は簡単に生死を扱うときもあるけれど、生きることは、そんなに容易くない。正解も解らない中で、意味など知ることもなく、ただ生かされている、そんな風にかんじる時もある。 でもキンのように、いつか自由になることを夢見て生きていいんじゃないかな...
ふと死にたくなったり、ふと生きたくなったり、人は簡単に生死を扱うときもあるけれど、生きることは、そんなに容易くない。正解も解らない中で、意味など知ることもなく、ただ生かされている、そんな風にかんじる時もある。 でもキンのように、いつか自由になることを夢見て生きていいんじゃないかなぁ。 ただ生きてることの尊さ。力強さ。 それだけで、誰かを突き動かす原動力になったりすることもある。 「春の夢」ってきれいな題だなぁ。読み終わって、余韻に触れた時の題1の感想がこれだった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
なんとも感想が難しい。 1982年、のちにバブル経済とよばれる好景気の直前が舞台でしょうか。 中途半端に過去なので、ちょっとした違和感がすごく気になってしまう。 主人公は大阪の大学生だが、父が亡くなる直前に残した借金のため、京都にほぼ近いようなはずれのボロアパートに暮らし、ホテルのボーイのアルバイトで生活している。 借金取りに追われ、母親とも別れて身を潜めて暮らしているが、時々ちょっと贅沢だな、と思う部分もある。 贅沢をする、というのではなく、例えばホテルで出る賄いを食べずに帰るとか、お金を借りる相手をわざと怒らせて借りずに返すとか。 そんな場合じゃなかろう?って思うのだけれど。 生活の糧はアルバイトで得ているはずなのに、失恋したと思えば20日も仮病で休むし、スマホのない時代、無断欠勤も当たり前…だったっけ? とはいえ、バブルの前なので、自己破産なんて知恵もなく、ホテルのボーイなのに借金取りに何度も顔をボコられても、割と普通に「酔っ払いにやられた」とか言って仕事してるし。 お客さん、びっくりしないのか? など、突っ込みつつも、その極限で生きている大学生が、辛いことも経験しつつ腐らずに、誠実に、時には弱く、短慮だったとしても、明るい未来を思わせる終わり方なのは、さすが宮本輝というところでしょうか。 哲之がボロアパートに越してきた日、ケチケチ大家が電気の契約をするのを忘れていたため真っ暗な部屋で壁にくぎを打ったことで、壁に打ちつけられたままその一年間を生き通した蜥蜴が助演賞。 蜥蜴はただ生きているだけなのだけど、哲之がそれをもとに哲学的にいろいろ思索するわけです。 時に宗教であったり、時に自らの人生についてだったり。 それから哲之の彼女がかなりキュート。 女子大生のわりには懐が広く、かと思えば他の男性にちょっとゆれてみたり。 そして、最後の一行が秀逸。 このためにこの作品があるのではないかと思うくらいの、良いエンディングでした。
Posted by
色々な問題を抱えた大学生が様々なことち苦悩しながら送る日々が描かれる。 蜥蜴の存在が哲之の考え方や行動に変化を与えているように感じる。 時代状況などを知らない面もあったものの、面白く読めた。あと陽子みたいな彼女ほしい。
Posted by
生きていく上でままならないこと、逃れられないことって誰にでもあって、それがたとえすごく小さなことだったとしてもそれによって傷ついたり深く落ち込んだり。 そういうときに答えが出ないことは分かっているのに死というものについて考えることはよくあるなぁと思った。 明日はもう来ないって覚悟...
生きていく上でままならないこと、逃れられないことって誰にでもあって、それがたとえすごく小さなことだったとしてもそれによって傷ついたり深く落ち込んだり。 そういうときに答えが出ないことは分かっているのに死というものについて考えることはよくあるなぁと思った。 明日はもう来ないって覚悟でなきゃ生きれないほどに切羽詰まっていても、明日は必ず来るし、どんなに暗くても必ず光はあるはず。 生と死が隣り合わせであるように光と影も隣り合わせにあることを実感させられた。 読めば読むほどキンちゃんが愛おしく感じられる。
Posted by
釘で打ち付けられても生きてるトカゲと過ごした大学生の1年の話というあらすじに惹かれて読んでみました。 ある時代のただの青春小説ではなく、生きることの意味のようなものを主人公の生き様から学べた哲学的な1冊でした。
Posted by
なんか色々とモンモンし続ける青年の話、と思いきやのトカゲである。 いやトカゲを飼うというのもなかなかないけど、釘で柱に打ち付けてっていうのはかなりアツいのではないか。今どきこの設定では、大家がグリーンピースあたりに通報して活動家が大量に押し寄せて人生が終わること間違いなし。ネット...
なんか色々とモンモンし続ける青年の話、と思いきやのトカゲである。 いやトカゲを飼うというのもなかなかないけど、釘で柱に打ち付けてっていうのはかなりアツいのではないか。今どきこの設定では、大家がグリーンピースあたりに通報して活動家が大量に押し寄せて人生が終わること間違いなし。ネットにも情報がばらまかれ、借金取りの比ではない苦労が待っているわけで。 なもんだからこの設定にしつつも妙な愛情を注ぐ主人公のある種の狂気もこの時代だから許されて、なんかどーしよーもねーなーこの若者は、というありきたりな展開に実に味が出ているではないか。
Posted by
冒頭から食らいついてしまった。 当に社会人1年目、 大東市 野崎のアパートに私も居たせいか哲之に自分を重ねる所があった。 懸命に生きる哲之親子と陽子 幸せであれと祈りつつ ページを繰る。 物悲しさと 刹那が同居し、あっと言う間に読み終えた。 蜥蜴のキンチャンが良い味を添えていた。
Posted by
読書力養成読書、11冊目。 なんだろう、この、読むにつれて少しずつ少しずつ、じわじわと心に染み込んでくる、コクとうまみ。 始めはあまり好みじゃないかもと思いながら読んでいたのが、いつの間にか抜け出せなくなっていて、気がつけば懸命に生きる主人公に喝采を送っていた……。こう...
読書力養成読書、11冊目。 なんだろう、この、読むにつれて少しずつ少しずつ、じわじわと心に染み込んでくる、コクとうまみ。 始めはあまり好みじゃないかもと思いながら読んでいたのが、いつの間にか抜け出せなくなっていて、気がつけば懸命に生きる主人公に喝采を送っていた……。こういうのって、もしかしたら、これこそが、優れた文学作品というものなのではないかと思いました。 主人公の井領哲之は大学留年中。死んだ父が残した借金のために、母と別れて大阪の大東市にあるアパートに住んでいます。この物語は、このアパートで過ごした哲之の1年間を描いています。 哲之は、やくざの取り立てに怯えながら、恋人陽子との幸せなひとときに安らぎを感じ、多くの人たちとの交流により人生経験を積んでいきます。アルバイト先の、〈梅田にある大きなホテル〉で出会った上司やボーイ・キャプテンの磯貝晃一、ドイツ人のラング夫妻と沢村千代乃、さらには高校時代からの友人中沢雅見など。 この作品、想像以上に濃く、深かった。そしてけっこうスピリチュアル。要所要所でそう感じさせるのですが、その最たる要素は、部屋の柱に釘づけにされても生きている蜥蜴キンちゃんでしょう。この子が哲之や読者にいろいろなことを考えさせ、本書のタイトルへとつながっていきます。 人間てこんなにも心が揺らぐものなんだなぁと思うと同時に、自分も確かにこういうときあるなぁと気づきます。でもこれこそが生きている証拠。喜怒哀楽を味わい尽くしてこその人生、人間こうでなくちゃと、哲之を見ている神様が「いいね!」と満足げに笑っているような気がしました。〈キンちゃんも俺も、どいつもこいつも、自分の身の中に地獄と浄土を持ってるんや。そのぎりぎりの紙一重の境界線を、あっちへ踏み外したり、こっちへ踏み外したりして生きてるんや〉 この小説は、1980年代に書かれ出版されたものなので、哲之がバイト先のホテルで宿泊客からチップとして500円札をもらったり、誰かと連絡を取りたいときは公衆電話を探したりします。でもこの2点以外ではそんなに時代の古さは感じませんでした。 宮本輝さんの作品を読むのは、数十年前に『ドナウの旅人』を読んで以来だったのですが、今回、改めてもっと他の作品もじっくり読んでみたくなりました。『読書力』の中で目にしなければ、本書は読んでいなかったかもしれません。この出会いに感謝、読んでよかった。
Posted by
詳しく当時の時代背景を知るわけではないが、自分が生きたわけではないセピア色の日本が書かれているようで、素敵な空気感の作品だった
Posted by