暢気眼鏡/虫のいろいろ 他十三篇 の商品レビュー
十五の短篇私小説集、約300ページ。作品のテーマは妻、故人にまつわる回想、虫や植物といった身近な自然など。代表作を含む芥川賞を受賞した作品集からの収録や最晩年の作品も含み、執筆時期は幅広い。 まず、やはり表題の「暢気眼鏡」をはじめとする冒頭から四作品ほどの妻を題材にした作品に目...
十五の短篇私小説集、約300ページ。作品のテーマは妻、故人にまつわる回想、虫や植物といった身近な自然など。代表作を含む芥川賞を受賞した作品集からの収録や最晩年の作品も含み、執筆時期は幅広い。 まず、やはり表題の「暢気眼鏡」をはじめとする冒頭から四作品ほどの妻を題材にした作品に目を引かれる。天真爛漫でユーモラスな若い妻の言動を闊達に描き、単純に読んでいて楽しい。いまでいえばエッセイ漫画に近いだろう。その他のやや落ち着いた筆致の作品内でも、妻を描くシーンにかぎっては著者の筆も滑らかに思える。 その他は自然観察や故人の思い出を材とする作品が多く、いずれもがどこかに生と死を見つめる静かな視線を想像させられる点で共通する。死を思わせる小説といえば陰鬱なイメージだが、著者の作品の場合はさばけた自然体で暗い印象を抱かせず、落ち着いた静けさにある。このあたりは先に読んだ同著者の作品集、『閑な老人』にも通じ、楽天主義と厭世が同居したような独特の安定感がある。 大きく上記のような二つの傾向にある作品集だった。後者に類する作品については『閑な老人』にも収録があったため、個人的には、前者にあたる妻をメインに扱った小説を新鮮に読んだ。いちばん面白く印象的に読んだのは「玄関風呂」だった。
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ベストセラーばかり、追いかけて読むなら別だが、読書は個人的な体験である。 小学校の多分、まだ高学年にはならない僕の誕生日に、両親から、二冊の本を贈られた。 著者名は忘れてしまったが「おやじと息子」という本と、偕成社の少年正直文学全集の「末っ子物語」(尾崎一雄)の二冊である。 僕が...
ベストセラーばかり、追いかけて読むなら別だが、読書は個人的な体験である。 小学校の多分、まだ高学年にはならない僕の誕生日に、両親から、二冊の本を贈られた。 著者名は忘れてしまったが「おやじと息子」という本と、偕成社の少年正直文学全集の「末っ子物語」(尾崎一雄)の二冊である。 僕が住んでいた所は、当時まだ町で、現在のようにコンビニどころか、一番近い商店まで大人の足で片道30分くらいかり、ネットで本を買うなどということも出来ず、本屋がある街に行くには、路線バスと電車を乗り継いで行かなければならなかった。 両親と一緒に書店に行ってその二冊を選んだ記憶が無いので、二人で選んで買ってくれたのだろう。 一人っ子だった僕に、何となく合うような書名の本である。 「暢気眼鏡・虫のいろいろ」は何の気なしに、書店の平台で見つけて、暫く積読されていたものである。 今回読んでいて、「虫のいろいろ」を確かに偕成社版で読んだのを思い出した。 「命冥加な奴」という表現を覚えていて、確か脚注を読んだ覚えがある。 収録順としては、年代順のようで、初期はいわゆる私小説っぽいもので、後半は自然観察や人生の懐古譚のようになっている。 「虫のいろいろ」以外では、落第を救ってくれた恩師の死を知らされる「山口剛先生」が印象的である。 かつての大学生と教師との関係が分かって、興味深かった。 尾崎一雄は志賀直哉の弟子だということだが、若い頃通り一遍に読んだ短編や「暗夜行路」を読みたくなった。
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いやあ、これはよかったなあ。読めてよかった。貸してもらってこれを今読めたのが最高に運がいい。 二作目の芳兵衛から、完全に作品の中に入った。p54-55の夫婦の会話(これは灯火管制)がすごくいいなあとなり、ここまでの三作がまず繰り返し繰り返し読みたくなる作品なのは間違いない。 虫のいろいろの好きなところは、いろいろな虫の特徴と、人間の性格を照らし合わせて主人公が自分とも重ねるところで、解説にも書いてあったけれど、尾崎一雄のそういう思考を覗きやすい作品でもある。 ここまでで大満足なのに、後半の蜂についての話がまたよかったなあ。家のそばの自然をよく見、よく書かれている。そういえば振り返ると松風もかなり印象に残っている。庄野潤三ののほうが後だけど、なんとなく似たものを感じたりもした。
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素晴らしい。 尊敬する多岐祐介先生が、Youtubeに落ちている動画の中で、尾崎一雄について語っていた。大変興味深い内容で、テープに録音してもう何遍も聴いた。かねてより読んでみようと思っていたが、月日は流れもう三年。漸く読んだ。もっと早く買って読めば良かったのに。 生活の中から己の人生・哲学をきちんと見ている所に深く感動した。 妻の芳兵衛の書き方が良い。純文学を読んで大きく笑うのは久しぶりだ。
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[ 内容 ] 出世作「暢気眼鏡」以下のユーモア貧乏小説から「虫のいろいろ」、老年の心境小説まで、尾崎一雄(1899-1983)の作品には一貫して、その生涯の大半を過した西相模の丘陵を思わせる洒脱で爽やかな明るさがある。 [ 目次 ] [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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やはりベストは『虫のいろいろ』。額のしわで一匹の蠅をつかまえながら(くしゃおじさんに匹敵)、そこから確率論、宇宙の有限or無限まで話がいって、最後は「うるさくなったのだ」というサゲ。笑える。 続く「蜂」の連作もよい。対象即自己。『城ノ崎にて』を落語にするとこんな感じか。
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曲が終わった.すると蜘蛛は,卒然といった様子で,静止した。それから,急に,例の音のないするするとした素ばしこい動作で,もとの壁の隅に姿を消した.それは何か,しまった,というような,少してれたような,こそこそ逃げ出すといったふうな様子だった。――だった,とはっきりいうのもおかしい...
曲が終わった.すると蜘蛛は,卒然といった様子で,静止した。それから,急に,例の音のないするするとした素ばしこい動作で,もとの壁の隅に姿を消した.それは何か,しまった,というような,少してれたような,こそこそ逃げ出すといったふうな様子だった。――だった,とはっきりいうのもおかしいが,こっちの受けた感じは,確かにそれに違いなかった。 蜘蛛類に聴覚があるのか無いのか私は知らない。ファーブルの「昆虫記」を読んだことがあるが,こんな疑問への答えがあったか無かったかも覚えていない。音に対して我々の聴覚とは違う別な形の感覚を具えている,というようなことがあるのか無いのか。つまり私には何も判らぬのだが,この事実を偶然事と片付ける根拠を持たぬ私は,その時ちょっと妙な感じを受けた。これは油断がならないぞ,先ずそんな感じだった。 (「虫のいろいろ」本文p.111)
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尾崎一雄の奥さんが面白く描かれている。本当にそうだったのかは知りませんが、こういう人なら気楽でいいなと思ってしまいます。虫のいろいろもよく観察しているなと感心してしまう。この本はおすすめです。
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