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聖餐城 の商品レビュー

4.1

23件のお客様レビュー

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  2. 4つ

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2024/08/23

 タイトルを見て、ダークファンタジーだと思ったら、壮大な歴史小説でした。 世界史に疎いので、分厚さにまず畏れをなす。 17世紀のヨーロッパが舞台で、『30年戦争』(1618年〜1648年)の中を生きる主人公を描いている。 場所は、現在のドイツ語圏あたり。 旧教・カトリックと、新教...

 タイトルを見て、ダークファンタジーだと思ったら、壮大な歴史小説でした。 世界史に疎いので、分厚さにまず畏れをなす。 17世紀のヨーロッパが舞台で、『30年戦争』(1618年〜1648年)の中を生きる主人公を描いている。 場所は、現在のドイツ語圏あたり。 旧教・カトリックと、新教・プロテスタントの「宗教戦争」を発端に、領土争いや掠奪合戦で泥沼化。末期には王政に対する市民の蜂起にもつながっていく。 戦争で国土が荒れる、とはよく耳にするけれど、ドラマなどではややもするとナレーションで終わってしまいがちなところを、傭兵による激しい掠奪、放火、村人は面白半分に腹を裂かれたりして殺され、女はさんざん犯されて殺され・・・という地獄の光景をこれでもかと言うほど生々しく描いている。ぐちゃぐちゃの臓物が脳裏に浮かんだり、血のにおいがムッと鼻をつきそうである。  主人公のアディは、馬の腹の中に首だけ出して縫い込まれていたところを女商人に助けられたという生まれで、文字通り、何処の馬の骨とも知れない。 傭兵を稼業とする貴族・フロリアンに憧れて兵士となり、その青年時代・壮年時代のほとんどを戦争の中で生きて、成長していく。 戦争の行方をも左右する財力を持ったユダヤ人一家の、末息子・イシュアとの友情と絆。 差別階級の女性への変わらぬ思い。 しかし、アディの一番の忠誠は、常にフロリアン隊長に捧げられていた。 アディは過酷な運命の中にあっても、誠実である。しかし、彼が自分の思いに正直であろうとするほどに、愛する人たちを無意識に傷つけてしまうこともある。 アディ、イシュアに次ぐ三人目の主人公とも言っていいのが、イシュアの長兄にして、コーエン家の家長シムションである。 シムションは、悪い人物ではない。 常識的であり、商才もあり、ユダヤ人社会のために貢献したい気持ちも大きいが、どこか人間が小さく、姑息な手を使っては信用を失うなど、残念な人である。しょうがないなあ・・・と思いながら見守りたくなる。 高潔な英雄がいれば、こういう人物も必要である。 コーへン家の次男のバアルは、大人物ではないが手堅く生きている感じがする。 イシュアこそは・・・ファンタジーの登場人物の様相を呈している。身体的な弱味があるが、頭脳は極めて明晰で博学、占星術で戦の行方を占い、冷静で思慮深く・・・そして執念深い。アディに対して一途な思いがあるようだが、時にポロッとこぼす一言にも、戦闘に忙しいアディが全然気づいていない様子なのがやれやれ。イシュアはひねくれて見えるが健気でもある。 アディも、イシュアも、シムションも、戦争の中でそれぞれの夢がある。それは、生あるうちに叶うものなのか・・・ ———————————————— 余談になるけれど、この30年戦争(1618〜1648)の時代、日本では戦国時代が終わり、3代将軍家光(将軍在位1623〜1650)のもと、幕府が安定に向かっている時期である。 この家光の時代に日本は鎖国状態に入り、キリスト教の禁止令も出された。 この小説でヨーロッパの状況を知るにつけ、陸続きは大変だなあと思う。 遠く離れた島国でよかったと思うし、さっさとキリスト教と縁を切った徳川幕府は賢明だとも思えた。

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2021/11/04

分厚い単行本でかなり威圧感があったが、中だるみする事なく、最後まで一気に読めた。 歴史的な背景と多くの登場人物はノンフィクションで、戦争の経緯だけでなく、当時の風俗や経済事情なども分かって楽しい。

Posted byブクログ

2020/04/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

三十年戦争のことをきれいさっぱり忘れていたので、馴染みのない地名、人名などを連発されると世界史の教科書を読んでいるようで前に進めず、最初の100頁位まで苦労した。 でも錬金術などのワードが出てきた辺りから俄然面白くなり、教科書的な記述は時々は調べ、時々は読み流し…という風にしてどんどんペースを加速させていった。 一番印象的なのは戦争の描写が見てきたような臨場感で描かれること。地理的にも年代的にも遠い世界を追体験させる文章はさすが皆川さんの一言。教科書的な記述は読者への配慮だと思うので、歴史を頭の中で整理し、理解を深めていればもっと楽しめたと思う。 正直、この物語の中であまり語られなかったこと(アディやイシュアの出生の秘密、イシュアの内面、錬金術関連…)の方に興味があったので少し物足りなさが残った。

Posted byブクログ

2019/05/26

とても分厚いのですが、とても読みごたえがあって面白かったです。 三十年戦争は忘却の彼方でしたが、戦争によってのしあがる人、戦争で儲けようとする人、多くの人々が入り乱れていました。 中心となる、傭兵のアディとユダヤ人のイシュアの思いが切ないです。というか、イシュアがわりと一方通行だ...

とても分厚いのですが、とても読みごたえがあって面白かったです。 三十年戦争は忘却の彼方でしたが、戦争によってのしあがる人、戦争で儲けようとする人、多くの人々が入り乱れていました。 中心となる、傭兵のアディとユダヤ人のイシュアの思いが切ないです。というか、イシュアがわりと一方通行だったのですが、何故アディにそこまで…と思うと、はっきりとは描かれなかった二人の旅が尊かったのだなきっと。 「聖餐城」と「青銅の首」と、ホムンクルスのイシュアで幻想的になりそうですが、描写は現実的でした。 イシュアの兄の、シムションとバアルの会話で出てきた、「世界の富はユダヤ人のもの」という考え方すごいと思いました。タルムードが何なのか不勉強でわかりませんが、経典みたいなものなのかな。。 様々な思惑は醜い、戦争は醜い…と思いましたが、静かな最後が印象的でした。 歴史はもっと勉強しましょう。。

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2019/04/06

あのような時代であのような戦乱の中、愚直なまでの純真さ忠誠心を持ち続け、何にもその強さを侵させなかったアディに心を打たれた。 それでいて、イシュアの兄ちゃんの人間臭さにも共感できてしまう。

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2019/02/24

純粋というわけではなく、愚直に隊長に誓いを立て しかし幼き恋心、不条理な制度と、からめとられて 自分の弱さと向き合いながら必死に生き抜くしかない、 この無秩序な世界に秩序を求め 不条理な死に向き合い、なすすべもなく流され 何か何者かになろうとしながら 他者のために生きる他者のため...

純粋というわけではなく、愚直に隊長に誓いを立て しかし幼き恋心、不条理な制度と、からめとられて 自分の弱さと向き合いながら必死に生き抜くしかない、 この無秩序な世界に秩序を求め 不条理な死に向き合い、なすすべもなく流され 何か何者かになろうとしながら 他者のために生きる他者のためにも祈ることで 約30年間、戦争、いや略奪や暴虐のなか国が荒れ果てる この世を嘆きながら、希望を追う主人公 そんななか、現実を突き付け、冷たく突き放すようで ずっと寄り添い、同意できないかもしれないけど 手を差し伸べ続ける『友』の姿。 分厚い、なぜ上下巻にしない、でも三十年戦争だから 30年分ならこれぐらいのボリュームになるでしょうか。 歴史の、駆け引き、謀略、なんかそういう”汚さ”の中 何が本当のきっかけかわからないけど 男二人の人生の、魂の共鳴を中心として すがすがしく一気に読める気がするのだ。

Posted byブクログ

2016/09/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

17世紀という馴染みの薄い時代を、ここまで描き出してくれるなんて。 しかし酷く野蛮。 そんな中でアディの憧れるフロリアンの高潔さが目立つ。 「アディーイシュア」と「シムションーイシュア」の視点があり、どちらでもイシュアの内面は描かれず。 描かれないからこそ胸に来る。 描かれなかったといえば、アディとイシュアが出会ってからの旅。 そしてイシュアの幽閉の時間。 ちょうど漫画「イノサン」を読んでいたこともあり。

Posted byブクログ

2016/03/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ドイツを中心に30年間続いた戦争が舞台。学生時代には殆ど省略されて学んだから知識がないのでなかなか難しかった。始めは宗教戦争だったのが諸外国の介入で政治的利益を求めるものになったような感じであってるのかな(-_-;) フロリアンへの忠誠とユーディトへ恋の狭間で揺れ動くアディがもどかしく、兄への復讐の時を待ちながらアディに見返りもなく献身するイシュアが痛々しい。 物語自体はアディとコーヘン家の長男シムションを視点としているのでイシュアの感情が語られることがなく余計に想像を掻き立てられ、読み終わった時に孤独な感じがして寂しくなった。

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2015/06/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

理想を求める自分と、冷徹な自分が、アディとヨシュア。 大変な時代に、青臭い理想を抱いて生き抜く話が好きだ。戦争や拷問の表現はなるべく想像しないように読んだ。 アディは視点を変えたら、女の人生を振り回した男なんだろう。 アディは、ユーディトを無二だと思いながらも、いつも違う人に命を捧げている。法が駄目でも内縁関係とか(それもつらいか)抜け道はあるがな( ゚Д゚) 「大事だと言われながらも、一番欲しいものをもらえない」関係だよね。悪い人間でないからこその残酷さ。 でも、読んでた時は、淡い恋の感じがしてよかったよ(突然ほめる) アディに共感して読んでいたけど、ラストでヨシュアに持っていかれた。さみしくなった。 ベルセルクをアニメでみたせいか、序盤にヨシュアが行かされた牢獄を想像したらどぎつ過ぎて怖かった。 シムションをみていて、生かされる人間は生かされるんだなと思った。たまにいるよね。 海賊女王の時も思ったけど、彼女の作品好きかも。

Posted byブクログ

2015/04/06

聖餐城とは?青銅の首とは?謎に導かれ壮大なゴシックロマンの世界へ。傭兵アディと異形のユダヤ人イシュアとの友情、刑吏の娘の悲恋、上官に対する思慕と忠誠、戦乱の悲惨。17世紀 神聖ローマ帝国を舞台に疾風怒濤の全850頁。大作とはいえ、読み終わるのにかなり時間がかり…というのも、全編通...

聖餐城とは?青銅の首とは?謎に導かれ壮大なゴシックロマンの世界へ。傭兵アディと異形のユダヤ人イシュアとの友情、刑吏の娘の悲恋、上官に対する思慕と忠誠、戦乱の悲惨。17世紀 神聖ローマ帝国を舞台に疾風怒濤の全850頁。大作とはいえ、読み終わるのにかなり時間がかり…というのも、全編通して描かれているのは戦闘シーン。皆川氏の筆力ゆえすごい迫力!素晴らしい、が戦記ものに興味が持てない自分には集中力が続かず…。とはいえこの時代のカトリック、プロテスタント、そしてユダヤ教の在り方は大変勉強になった。

Posted byブクログ