思い出袋 の商品レビュー
内田樹氏のブログで「大学生が読んでおくといい本」として紹介されていたもの。 1922年生まれでハーバード大学に行った著者は、第二次大戦中に交換船で帰国したという。そんな世代の思想家が80歳を越えて人生を振り返るエッセイ集。年寄りの思い出話のように同じ話が何回も出てくるが、雑...
内田樹氏のブログで「大学生が読んでおくといい本」として紹介されていたもの。 1922年生まれでハーバード大学に行った著者は、第二次大戦中に交換船で帰国したという。そんな世代の思想家が80歳を越えて人生を振り返るエッセイ集。年寄りの思い出話のように同じ話が何回も出てくるが、雑誌に連載されたものだからだろう。 古典的な本かと思ったら2010年3月初版なので意外に新しい。そして中身も割と軽く読めるが、浅いわけではない。あっさりした語り口なのでつい読み流してしまうが、よく考えるとかなり深いことが書いてあった気がする。
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一月一話で連載されたエッセイ テーマごとにまとめられているが、重複した内容もあり 何か新しい議論をするとか、そういったものではない。 鶴見俊輔がどういった人だったかは知らないが 電車の中で毎日数話ずつ読んでいく 読みやすい 単純に読み流す話もあれば興味深いエピソードもある 偉大な先人が、老年になってまとめた、この著書は どこか人を勇気づけさせる何かが存在する気がする ●気になったメモ ・ジョン万次郎のエピソード 彼を救った船長は有色人種を受け入れる教会を探して 移籍までした。万次郎は彼に「尊敬する友」と呼んだ ひざまずき感謝するのでは彼の心にそぐわない ・大臣、国会議員は今年、来年しかみない 歴史的観点でみることができない痛烈な批判 ・イランで人質となった日本人 日本では反日分子扱い、自己責任で追い落とす アメリカでは「社会を前に押し出す」と評価 この違いは何か。 ・ある中国人が親から伝えられた日本人観 心をうちあけてはならない。個人として良い人でも 国家方針が変わればがらりと変わる ※日中戦争時代の話 ※この本では書かれてないが鶴見俊輔の父親は 家では日本は戦争の敗北を示唆しつつも 仕事では戦争支援(国会議員だった) 日本人というものが何か、と考えさせる 鶴見俊輔は「一番病が日本をダメにする」と 語った ・消滅にむかう老人 昨日までできたことができなくなる もうろくの中心に、「ある」という感覚 亡くなった人と生きている人の境界があいまい (そういえばマイルスディビス自伝でも、マイルスは 似たことを発言していた) ・言葉 死刑宣告された韓国の詩人への署名活動 それを届けに行った時に、詩人から受けた言葉 “Your Movement cannot help me. But I will add my name to it to help your movement.” 単純に「ありがとう」ではなく、自分の主張を込め、 かつシンプルな言葉で伝えることが自分にできるか 鶴見俊輔は自分に問いかける ・日露戦争での誤ち 勝ったのではなく負けなかった だが日本は「勝った」と考えた 講和条約を結んだことへ反発での焼き討ち だが続ければ日本は負けていたのではないか この戦争を評価して大正、昭和が生まれていく ・耳順 言葉の意味に自身が持てなかったが 人の発言から自分に適切な意味の可能性を引き出す、 と解釈している 相手の言葉を聞かず、相手を否定、たたきのめす それは欧米から日本へ伝わった習慣 ゆとりを持つべきではないか ・文学 戦争中に看護師らが演じたプッチーニの演劇 原作への忠実度はわからない だが、文学は欠片として人間の歴史の中を伝わる ・横浜事件 2008年最高裁は事件を事実無根と認めることを拒否 この罪は戦後日本の特色 ・人の強さ 空襲後。焼け出されて無一物になったことを ものともしない明るい声。 ・黒人 南北戦争後に選挙権は与えられたが行使権はなかった 選挙に行こうとすると、KKKによる首吊りリンチ 鶴見俊輔の知人も車を爆撃された(1970年のこと)
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「波風立男氏の生活と意見」で書いた感想参照→ http://blog.goo.ne.jp/namikazetateo/e/888587fa24219a873c7fe653bb84a2e2
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開戦時にアメリカのハーバードで過ごし、戦時中は海軍で過ごし、戦後は知識人としてオピニオンリーダーとして過ごされている著者の自伝的エッセイ。様々な時代を通り、経験され、足元のしっかりされた人の言葉は心地よい。
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吉本隆明「追悼私記」 「中井英夫戦中日記」 「おだんごぱん」 「いっしょうけんめい生きましょう」 内山節
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氏の思想の基層を成しているのは、5歳のときに号外で知った張作霖爆殺と米国による日本への2発の原爆投下という歴史であるように思えました。並外れた知性と感性から語られる言葉のひとつひとつに強い共感を覚えました。また、この書で触れられているピアズ・ポール・リード著『生存者-アンデス山中...
氏の思想の基層を成しているのは、5歳のときに号外で知った張作霖爆殺と米国による日本への2発の原爆投下という歴史であるように思えました。並外れた知性と感性から語られる言葉のひとつひとつに強い共感を覚えました。また、この書で触れられているピアズ・ポール・リード著『生存者-アンデス山中の七〇日』や水木しげる著『河童の三平』を読んでみたいと思います。
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・驚くべき博識、柔らかい感受性、抑制の利いた名文。まさに範とすべき珠玉の文章群だ。しかし、そのような賛辞ですら本質的ではないと思えてしまうのは、氏が本物の思想家であるからだろう。 「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、...
・驚くべき博識、柔らかい感受性、抑制の利いた名文。まさに範とすべき珠玉の文章群だ。しかし、そのような賛辞ですら本質的ではないと思えてしまうのは、氏が本物の思想家であるからだろう。 「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした」(p34) 「日米交換船に乗るかときかれたとき、乗ると答えたのは、日本国家に対する忠誠心からではない。なにか底に、別のものがあった。国家に対する無条件の忠誠を誓わずに生きる自分を、国家の中に置く望み」(p225) ・その「気」や「なにか別のもの」について、氏は、「ぼんやりしているが、自分にとってしっかりした思想」(p34)という曖昧な表現を与えるのみで、明晰に語ろうとしない。おそらく、明晰に語ることによって、思想が思想でなくなることを深く自覚しているからであろう。氏ほどの文筆家が、「言葉にならない思い」を大切にしているという、この一事を以って、私は氏を本物の思想家と見なす。 ・惜しむらくは、過去の著作との重複が多かったこと。
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「自分にとってしっかりした思想」という話が印象に残った。 「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした。」という一文。
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不良少年として生きる……国家と個人との関係を思考し続けてきた鶴見俊輔氏の力強い回想録。 「くに」にしても「かぞく」にしても、それは現象として仮象的に存在するものにすぎず、モノとしての実体として存在するわけではない。しかし、誰もが一度は「くに」や「かぞく」を巡って「引き裂かれてしまう」のが世の常だろう。戦後思想史に独自の軌跡をしるす哲学者・鶴見俊輔さんは「不良少年」としてその歩みを始めた。名家・後藤新平の孫として生まれるが「不良少年」は日本を追われるように15歳で単身渡米、ハーバード大学へ進学して哲学を学ぶ。日米開戦とFBIによる逮捕、そして交換船での帰国と軍属の日々……。 本書を著した時点で氏は88歳、自身の経験した出来事や人々との交流、そして印象的な書物の思い出を率直に綴っている。 鋭利な知性と人間味溢れる感性が光る多彩な回想のなかでも、北米体験と戦争経験は、著者の思想的原点を鮮やかに示している。そしてみじんも変節がないことには驚くばかりだ。 戦前、友人と日米開戦はあり得るのかと議論になったという。そのとき氏は次のようにいう。「日本の国について、その困ったところをはっきり見る。そのことをはっきり書いてゆく。日本の国だからすべてよいという考え方をとらない。しかし、日本と日本人を自分の所属とすることを続ける」。国家と個人の関係を正視眼で思考し続けてきた氏ならではの重みある言葉だ。 しなやかな知性とは、神の眼をもつことではない。たえず揺れのなかで自己を鍛え上げていく事なのではないだろうか。そのために必要なのは「私は、自分の内部の不良少年に絶えず水をやって、枯死しないようにしている」ことだろう。 社会の不条理に苛立つことは避けられない。そんなとき本書をゆっくり読むことをお勧めする。読むごとに目を閉じ、その言葉を噛みしめることで、もう一度歩み出す勇気をもらうことができる。
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