1,800円以上の注文で送料無料

さすらう者たち の商品レビュー

3.8

17件のお客様レビュー

  1. 5つ

    3

  2. 4つ

    5

  3. 3つ

    5

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2024/08/10

文化大革命の少し後が舞台になっている。 1人の女性が死刑になる。 共産党に批判的なことを言ったからというのが表向きの理由だが、実際には、共産党に良く思われていない家系出身のボーイフレンドが評価されたくて彼女を売ったこと、党の偉い人が腎臓移植をしたかったので、適合しそうな彼女を死...

文化大革命の少し後が舞台になっている。 1人の女性が死刑になる。 共産党に批判的なことを言ったからというのが表向きの理由だが、実際には、共産党に良く思われていない家系出身のボーイフレンドが評価されたくて彼女を売ったこと、党の偉い人が腎臓移植をしたかったので、適合しそうな彼女を死刑にしたことが背景にある。 その死が理不尽だとして、地元の社会で抗議集会が起きる。集会の中心人物は危険を知っていたが、多くの人々は、無力な自分達が意見を言ったところで、無視されるのがせいぜいで罰は受けないかもと思っていた。しかし集会後に参加者は逮捕されて拷問を受ける。 その社会で、それぞれの立場で悲しみや秘密を抱えて生きる人々の群像劇。 一方的な暴力と理不尽な世界。まだ貧しく、お互いに助け合う力も十分ではない。 1980年ごろと考えるなら、今から44年前。父親が自身の過ちにより拷問され、障害者になった少年が出てくる。今なら50過ぎか。今の彼なら、振り返った時どう思うのだろう。 また、日本なら、1923年の特高警察から1967年の変化になるのだろうか。 登場人物たちの哀しさや、私たち全体を取り巻く社会のありようなど、考えが広がっていく。深くて大きい感動で、色々と考えてしまう。

Posted byブクログ

2023/04/02

“ちゃんと彼らをみて”と本の向こうからイーユン・リーが語りかけてくる。“目をそむけないで“と。 だから僕は、痛みと哀しみに満ちた時代に生きる人々の物語を読む。 単純に共感できたり、入れ込める人物はいない。党という暴力装置に誇りと家族を奪われて擦り切れて行く老人、虐げられ世間に唾を...

“ちゃんと彼らをみて”と本の向こうからイーユン・リーが語りかけてくる。“目をそむけないで“と。 だから僕は、痛みと哀しみに満ちた時代に生きる人々の物語を読む。 単純に共感できたり、入れ込める人物はいない。党という暴力装置に誇りと家族を奪われて擦り切れて行く老人、虐げられ世間に唾を吐きかける少女、英雄に憧れる世間知らずの少年、蔑まれ軽んじられている小児性愛傾向がある青年。 だが、繊細に描かれた彼らの心の震えを追っていくと、僕の心も強く揺さぶられる。いつしか遠い見知らぬ誰かではなくなる。寝ぼけた価値観が蹴飛ばされる。 中国全土を混乱に陥れた政治運動「文化大革命」の終結が宣言されてから2年。中国建国初の民主運動として、首都で民主の壁運動(北京の春)が起きる。政治の思惑で許された束の間の言論の自由は、たちまち弾圧されていく。 そんな時代背景を纏って作中で渾江市民がとった行動は、1989年天安門事件、2014年雨傘運動、2022年白紙運動と続く隣国の苦しみに続いている。 ニュースが伝えることの後ろに、一人ひとりが抱える葛藤や怯え、迷いがあることに思いを馳せる。 リーが語る通り、人々は歴史の中ではなく、それぞれの今を生きているのだから。

Posted byブクログ

2022/06/15

おそろしなるかな全体主義国家。 改革解放路線になったとはいえ、著者はこれを書いた後、中国に帰れているのかしら。

Posted byブクログ

2021/06/23

文化大革命の終期にあたる時代の転換期、まさに中国全土がさすらっていた頃。 ある女性が無実の罪で、生きたまま腎臓を取られた状態で処刑された。 女性の同級生だった人気アナウンサーは、地位も名誉も夫も幼い息子も捨て、抗議運動を起こす。 それは、女性の両親や同じ町に住む平凡な人々を巻き込...

文化大革命の終期にあたる時代の転換期、まさに中国全土がさすらっていた頃。 ある女性が無実の罪で、生きたまま腎臓を取られた状態で処刑された。 女性の同級生だった人気アナウンサーは、地位も名誉も夫も幼い息子も捨て、抗議運動を起こす。 それは、女性の両親や同じ町に住む平凡な人々を巻き込んで思わぬ方向に進んでいく。 凄い筆力でぐいぐい読ませるが、残酷なシーンも多く読むのが辛かった。 辛いからこそ、読むべき本とも言える。

Posted byブクログ

2021/06/13

読むのが辛かった。中国共産党の抑圧の闇とかその中で立ち上がる勇気とか、天安門事件に触れるのはいまだにタブーとされている国の歴史の一部を書くことで作者は大丈夫なのか、等々。 日本もかつて五人組とか治安維持法とか同じような事をやっていたので、他人事ではない、とも思う。 立ち上がり、そ...

読むのが辛かった。中国共産党の抑圧の闇とかその中で立ち上がる勇気とか、天安門事件に触れるのはいまだにタブーとされている国の歴史の一部を書くことで作者は大丈夫なのか、等々。 日本もかつて五人組とか治安維持法とか同じような事をやっていたので、他人事ではない、とも思う。 立ち上がり、そしてつぶされてしまった人々の感情、それを見て見ぬふりをする大多数の人々。 絶望的な展開だけど、八十と妮妮の二人には未来を感じられる。庶民の強さというか。 自由を求める心を押さえつける事は出来ない。 それにしても親とは辛いものだなぁ。  

Posted byブクログ

2020/10/21

文化大革命終結後、29才の女性政治犯が10年収監ののち処刑される。 文化大革命に関する話を読みたいと手にしたが、「人々は歴史の中で生きているとは思っていない」と著者は言い、歴史的事実を巡って絡み合った街の人々の生活や感情に光を当てた。 市井の人々には日々の暮らしがあり、生きてい...

文化大革命終結後、29才の女性政治犯が10年収監ののち処刑される。 文化大革命に関する話を読みたいと手にしたが、「人々は歴史の中で生きているとは思っていない」と著者は言い、歴史的事実を巡って絡み合った街の人々の生活や感情に光を当てた。 市井の人々には日々の暮らしがあり、生きていくのに必死だ。高潔だけでは生きていけない。善も悪も合わせ持った人々の心の機微を丁寧に描くことで逆に当時の怖さを身に引き寄せられた。 子どもが政治的活動に向かう親の気持ち、娘が処刑された父親と母親の気持ちの違い、女だからと捨てられる赤ん坊を7人拾い育て、取り上げられた親、障害者の娘を持つ親、様々な親の悩みと痛みが描かれている。愛だけじゃない、打算や欲までも。 立派な大人になる信念を持ち努力している小学生トンは、純粋なぶん当時の空気に素直に染まる。文化大革命の紅衛兵の若者たちも同じだろう。 状況に合わせて変わる人々。 人の心はなんて不安定なんだろう。 生きていることの寄る辺なさを覚える。『さすらう者たち』タイトルの意味は、そんな人々のことなのか。

Posted byブクログ

2021/01/03

「千年の祈り」に心を動かされて、イーユン・リー2冊目。 元紅衛兵だった若い女性の処刑をめぐる物語。 予想より陰惨な事件や当時の社会状況にちょっとショックを受けたが、何故か嫌な気分にはならない。 おそらく登場人物たちが非情や裏切りや悪意にまみれていても、愛情や義理堅さや正義感等の熱...

「千年の祈り」に心を動かされて、イーユン・リー2冊目。 元紅衛兵だった若い女性の処刑をめぐる物語。 予想より陰惨な事件や当時の社会状況にちょっとショックを受けたが、何故か嫌な気分にはならない。 おそらく登場人物たちが非情や裏切りや悪意にまみれていても、愛情や義理堅さや正義感等の熱い心もどこかにあって、どこか納得できるからかもしれない。 舞台が平和で民主的な日本では、まず生まれ得ない凄みのある文学。貧困の恐ろしさも伝わってくる。 ところで、中国にも日本と同じく「情けは人の為ならず」のような諺があるらしいが、迷信?扱いされているとか。 親以外は信用するなと幼いころから教えられる社会ってやっぱりハード。 今回もつい一気読み。さて3作目は何を読もうか。 

Posted byブクログ

2015/07/20

中国の文化革命期が終わった後の市井の人々を描いた作品。 幼い少年でさえも、父や母を守るために密告に手を貸すことになるのは、一体…。 この周りの人間が信用できない、家族すら信用できない世の中で、家を持たず、さすらうものが1番よかったりする。 すごい世の中だなとつくづく思う。生きにく...

中国の文化革命期が終わった後の市井の人々を描いた作品。 幼い少年でさえも、父や母を守るために密告に手を貸すことになるのは、一体…。 この周りの人間が信用できない、家族すら信用できない世の中で、家を持たず、さすらうものが1番よかったりする。 すごい世の中だなとつくづく思う。生きにくそう。

Posted byブクログ

2013/08/13

最初はなかなか寄り添える人物がでてこず複雑な気持ちで読み進めましたが、後半、ナルホドこれが表面には出せないけど熱いものを持った当時の中国なのだと理解しました。

Posted byブクログ

2012/11/23

文化大革命終了からすこし経った中国で、実際に起きた悲惨な事件をもとに書かれた長編小説です。ここで描かれている文化大革命時代の中国社会の恐ろしさはずいぶん前に読んだワイルド・スワンを思い出しました。あちらはエリート階級の話でしたが、この小説では社会の底辺から上流まで様々な階層の人々...

文化大革命終了からすこし経った中国で、実際に起きた悲惨な事件をもとに書かれた長編小説です。ここで描かれている文化大革命時代の中国社会の恐ろしさはずいぶん前に読んだワイルド・スワンを思い出しました。あちらはエリート階級の話でしたが、この小説では社会の底辺から上流まで様々な階層の人々が描かれていて、文化大革命とその後の政変がエリートだけでなく下々の人々の生活に大きな影響を及ぼしていたんだなぁということがわかります。こういう話を読むたび、共産主義に関わらずイデオロギーや宗教などすべての超越的な思想はまとめて豚にでも食わせてしまえと思いますが、何らかの理想がないとまとまっていかないのが人間社会なんだろうし、今もこれからもこういったことが繰り返されるのかと思うとせめて自分の娘、孫の世代くらいは風通しのよい社会でおだやかに生きていってほしいもんだと思います。 三人称の語り口で、ある地方都市に生きる様々な世代、階層の人々の行動・思考を丁寧に描いたこの本には、英雄は登場しません。例えばもっとも英雄的行動をとる女性(友人の名誉回復のため抗議行動を決意する)もその行動のエゴイスティックな面もしっかりと描かれ、単純に英雄視できるキャラクターにはなっていません。また同様に、もっとも悪役として描かれるべき人間にも情状酌量の余地を残します。あらゆる人を感情的に一定の距離を保ちながら、群像劇として描く作者に、その底力を感じました。 読む前には、ぼんやりとして少し暖かく感じられた表紙の絵が、読後には寒々しく寂寥として感じられ、描いた祖田雅弘さんという方の良い仕事ぶりに感銘を受けました。

Posted byブクログ