人間の建設 の商品レビュー
「〔岡〕昔の(日本の)国家主義や軍国主義は、それ自体は、間違っていても教育としては自我を抑止していました。だから今の個人主義が間違っている。自己中心に考えるということを個人の尊厳だなどと教えないで、そこを直してほしい。 《中略》 神風の恐しさは見たものでなければわからない《中略》...
「〔岡〕昔の(日本の)国家主義や軍国主義は、それ自体は、間違っていても教育としては自我を抑止していました。だから今の個人主義が間違っている。自己中心に考えるということを個人の尊厳だなどと教えないで、そこを直してほしい。 《中略》 神風の恐しさは見たものでなければわからない《中略》ものすごい死に方をしている。」(p.119) 「〔岡〕私は日本人の長所の一つは、《中略》神風のごとく死ねることだと思います。《中略》 あれができる民族でなければ、世界の滅亡を防ぎ止めることはできないとまで思うのです。」(p.139) 「〔小林〕特攻隊というと、批評家はたいへん観念的に批判しますね。悪い政治の犠牲者という公式を使って。特攻隊で飛び立つときの青年の心持になってみるという想像力は省略するのです。」(p.140) 批評家・小林秀雄と数学者・岡潔の対談。 話題が広範に渡り、無限の知の泉が2つ湧いているかの如く。 岡氏の専門である数学と物理学との関係、ベルクソンと時間概念に焦点を当てた哲学議論、ピカソやゴッホなどの絵画芸術 、ドストエフスキーとトルストイに関するキリスト教とロシア文学論、など。 哲学史や美術史から物理学の簡単な解説まであり、登場人物も多いので、手元に置いておくと、ちょっとした「大人の百科事典」のように使えそうだ。 その中で特に印象的だったものを、ここの冒頭に引用した。 戦後の個人主義とそれを基礎とした教育制度についての問題提議である。 個人主義の反対概念として、特攻のような「自己を捧げる」行動については、バーリンやラインホールド・ニーバーが主張し、或いはタルコフスキー監督がスクリーンに描いた、「自己犠牲の精神」と通ずるものがある。 これは今自分が掘り下げたいテーマだ。 近代思想のメインストリームである単純な個人主義礼賛・全体主義批判では、特攻とは若者の未来を奪う許されざる戦法と批判される。 現代の日本では、自分も含めて、そういうパターンがどこかに染みついている。 その思考停止を指した小林氏の、「悪い政治の犠牲者という公式を使って」と言う言葉は、あまりに核心をついている。 この対談の当時、両氏のように異なる視点を提議する人がいたことは、社会の財産であったと感じた。 この本はたまたま飲みつつ読んだが、知的な肴のおかげで大変良い時間を過ごせた。 茂木健一郎は解説で、本書について、「声に出して読みたい対話」「音楽に似ている」と語っていたが、飲酒で程よく脱力した脳にすっと吸収するような読み方も悪くなかった。 そのような体験を提供してくれる読書は素晴らしい。 酒の肴になるような、知性溢れる本が他にも無いものか、と探してみたくなった。 蛇足であるが読書メモとして、 去年読んだ小林秀雄の『本居宣長』は「失敗作」という評判であることを読後に知ったのだが、本著で小林氏が『本居宣長』執筆のくだりから、 「この頃、仕事をしていて、とんでもない失敗をするかもしれないなと、いつでも思う」 と自ら予告しているのには思わず吹いた。 作家の永井龍男と小林秀雄が友人同士、ということも知り、洒落た2人にもほのぼのした。
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「知の巨人」同士の対談は、緊張感に溢れている。これを本当に読んでいくには、自分自身にいろいろな蓄積がなければならない。古今東西の古典、そして、それをめぐる思索をいかに巡らしてきたかによって、この対談がどれだけ楽しめるかが決まってくるのであろう。そういう意味で、自分自身ももう少し行...
「知の巨人」同士の対談は、緊張感に溢れている。これを本当に読んでいくには、自分自身にいろいろな蓄積がなければならない。古今東西の古典、そして、それをめぐる思索をいかに巡らしてきたかによって、この対談がどれだけ楽しめるかが決まってくるのであろう。そういう意味で、自分自身ももう少し行くとして、将来もう一回読んでみたい対談であった。
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批評家の小林秀雄と、数学者の岡潔による、 まさに知の巨人といった2人の対談。 正直難しくてわからない数学の話しもありましたが、理系とか文系とかのベクトルを超越した地点での、高度な知性での対話は、圧倒的で伝わってくるものがありました。 小林秀雄がベルクソンを評価している理由など...
批評家の小林秀雄と、数学者の岡潔による、 まさに知の巨人といった2人の対談。 正直難しくてわからない数学の話しもありましたが、理系とか文系とかのベクトルを超越した地点での、高度な知性での対話は、圧倒的で伝わってくるものがありました。 小林秀雄がベルクソンを評価している理由など、情緒的かつ逸脱を許さない人生観の情が伝わってきて、そういう感覚が岡潔との共通点だと思いました。 キリスト教の不信や資本主義の蔓延、または敗戦からの個人主義の導入によって、民衆の知力の低下を憂う、有意義な対話であると思います。
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数学者と文章家の歴史的対談。 何かを究めた人たちは畑は違えど、物事に対する考え方、表現の方法が似通うものなのか。 喧嘩のようなやり取りになるかと思いきや、お互いをリスペクトする両者の考えの調和は小気味良い。 理解ができない事柄も多々あるが、再読を繰り返し、歳を重ねながら、理解を深...
数学者と文章家の歴史的対談。 何かを究めた人たちは畑は違えど、物事に対する考え方、表現の方法が似通うものなのか。 喧嘩のようなやり取りになるかと思いきや、お互いをリスペクトする両者の考えの調和は小気味良い。 理解ができない事柄も多々あるが、再読を繰り返し、歳を重ねながら、理解を深めたいと感じる。 茂木健一郎氏の「情緒」を美しく耕すために の締めが秀逸でこの本に相応しい。
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※このレビューにはネタバレを含みます
友人に勧められて。 小林 …誰でもめいめいがみんな自分の歴史をもっている。オギャアと生れてからの歴史は、どうしたって背負っているのです。伝統を否定しようと、民族を否定しようとかまわない。やっぱり記憶がよみがえるということがあるのです。記憶が勝手によみがえるのですからね、これはどうしようもないのです。これが私になんらかの感動を与えたりするということもまた、私の意志ではないのです、記憶がやるんです。記憶が幼時のなつかしさに連れていくのです。言葉が発生する原始状態は、誰の心のなかにも、どんな文明人の精神のなかにも持続している。そこに立ちかえることを、芭蕉は不易と読んだのではないかと思います。(p.133) ベルクソンの「物質と記憶」にその後言及。
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薄い本ではありますが、一度読んだだけでは理解できません。とても深い本だと思います。何度も繰り返し読む価値のある本のような気がします。 年齢によっても感じ方は異なるでしょう。 ドストエフスキーやトルストイと言ったロシアの小説家の名前が出てきましたが、まだ私は読んだことはありません。...
薄い本ではありますが、一度読んだだけでは理解できません。とても深い本だと思います。何度も繰り返し読む価値のある本のような気がします。 年齢によっても感じ方は異なるでしょう。 ドストエフスキーやトルストイと言ったロシアの小説家の名前が出てきましたが、まだ私は読んだことはありません。罪と罰や白痴にチャレンジしてみようと思います。 私の故郷、三重出身の本居宣長や芭蕉の話も出てきました。この2人に関する私自身の無知さにも忸怩たる思いです。少しは勉強したいと思う読後感です。
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面白いが、文理の碩学泰斗が対談していることに価値があるのであってその内容に価値があるかは疑問である。 世の中の中年男性が2人と同じくらい理性的でかつ低俗でないならば、きっと同じような会話をするのだと思う。 もちろんここから何らかのインスピレーションを引き出すこともありうるのだろう...
面白いが、文理の碩学泰斗が対談していることに価値があるのであってその内容に価値があるかは疑問である。 世の中の中年男性が2人と同じくらい理性的でかつ低俗でないならば、きっと同じような会話をするのだと思う。 もちろんここから何らかのインスピレーションを引き出すこともありうるのだろうけど、一読した限りではそれは難しかった。
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数学界の天才と評論界の天才による対談。 解説にもある通り、内容は雑談であり、テーマは多岐にわたる。 二人の対話は非常に高度かつ知的で、すんなりと理解するのは難しかった。そんな私でも、知情意に関する数学論文の話は、相手を理詰めで追い詰める昨今の風潮に対して1つの気づきとなった。
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以前、尊敬する友人に薦められて読んだ。 その時は所々しかわからなかった。 全部を理解することは一生ないのだろうけど、これから長い年月をかけて何度も何度も読み返す必要あり。
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図書館で借りたのですが、読み終わった後に思わずamazonでポチり。何回も読み返したいし、子供にも読んで欲しいな。 岡潔先生、数学というごりごりの論理的な学問の学者さんなのに知性だけでなく感情の満足を得ないと数額が進まないと悟ったことに驚愕。 キーワードは「情緒」。 グローバル...
図書館で借りたのですが、読み終わった後に思わずamazonでポチり。何回も読み返したいし、子供にも読んで欲しいな。 岡潔先生、数学というごりごりの論理的な学問の学者さんなのに知性だけでなく感情の満足を得ないと数額が進まないと悟ったことに驚愕。 キーワードは「情緒」。 グローバル化の中で日本が、そして日本人がどうあるべきかを考える上でもとても参考になるなー。 数学者と批評家という異色の組み合わせ、そしてそれぞれの分野で異彩を放つ天才同士の対話は、現代社会に生きる我々が気づいていない、あるいは忘れてしまっている世界や社会の本質に切れ味の良い洞察を与えてくれること間違いなしだろう。初読では消化不良なのだ、買ったものをもう一回よもっと。
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