人間らしさとはなにか? の商品レビュー
「池田信夫」 著者は脳神経科学の第一人者であり、特に分離脳の研究者として知られる。彼の行なった次の有名な実験は、脳科学の入門書によく出てくる: 分離脳の患者の視野をまん中で仕切って右と左が別々に見えるようにし、右目(左脳)にはニワトリの足先を見せ、左目(右脳)には雪景色を見せた。...
「池田信夫」 著者は脳神経科学の第一人者であり、特に分離脳の研究者として知られる。彼の行なった次の有名な実験は、脳科学の入門書によく出てくる: 分離脳の患者の視野をまん中で仕切って右と左が別々に見えるようにし、右目(左脳)にはニワトリの足先を見せ、左目(右脳)には雪景色を見せた。そのあと別の絵を見せて、患者に先ほどと関係のある絵を選ぶようにいうと、右手(左脳)でニワトリ、左手(右脳)でシャベルを選んだ。そこで仕切りをとって、患者に「なぜニワトリを見てシャベルを選んだのか?」と質問すると、「ああ単純なことです。ニワトリ小屋を掃除するにはシャベルが必要だから」と答えた。(本書p.415) この患者の言語中枢は左脳にあるので、右脳(左目)が雪景色を見たことを知らない。右脳(左手)は雪景色を見てシャベルを選んだのだが、それを知らない左脳は、ニワトリとシャベルを結びつける物語を咄嗟につくったのだ。しかも患者には物語をつくったという意識がなく、「私の行動の理由は私が知っている」と主張した。 このような実験例は多く、夢も左脳がランダムな記憶を無理やり奇妙な物語に編集したものと考えられている。右脳が感じるばらばらの感覚を左脳が「私の感覚」として統合する機能が「自我」の意識を生み出し、行動の整合性を生み出しているのだ。脳が分離している患者も自分が2人いるとは感じず、すべて「私の行動」だと考えている。 「人間が合理的である」というデカルトの仮説は、脳科学の実験では否定されている。それどころか「我思うゆえに我あり」という場合の「我」が実在するかどうかも疑わしい。ただ生存競争では、敵に襲われたとき右脳と左脳が別々に指令を出したら死ぬだろう。だから1000億のニューロンを1人の<私>として統率する感覚は、進化の過程で形成された辻褄合わせの機能と考えられる。 合理性とは、このような進化上の要請から作り出された物語であり、辻褄が合うというだけなら宗教も科学も同じく合理的だ。近代社会では、工学的に応用可能な実証科学の合理性が特権的な地位をもったが、今では脳科学にみられるように、自然科学の多くは素朴な合理主義を否定している。しかし経済学は、いまだに合理的個人というフィクションにしがみついている――まるでニワトリをシャベルと結びつける患者のように。
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かなりのページ数で読み進めるのに時間はかかったが、退屈することなく最後まで読み終えられた。 『わたしはどこにあるのか』『脳の中の倫理』とはやや趣が異なり「人間と他の異性物との違い」をテーマに脳の側面から人間らしさを掘り下げていく。また人間と芸術の関係、他人の情動を感じる機能など...
かなりのページ数で読み進めるのに時間はかかったが、退屈することなく最後まで読み終えられた。 『わたしはどこにあるのか』『脳の中の倫理』とはやや趣が異なり「人間と他の異性物との違い」をテーマに脳の側面から人間らしさを掘り下げていく。また人間と芸術の関係、他人の情動を感じる機能など、あまりガザニガらしくないとも思える視点があってこれはこれでおもしろい。 なぜ「私」は他者と区別できるのか、といった話題もかなり読めた。ただし社会性にはあまり触れていないところが不満といえば不満。 美とは何か?「今、ここ」という動物的な中核意識から、どのように延長意識や自己認識が発達したのか? おぼろげながらも答えらしきものが見えつつあるのがよく理解できた。 https://twitter.com/prigt23/status/1098531498439860224
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大御所ガザニガによる脳科学の最前線の包括的な概論書、集大成という感じかな? もちろん、タイトルの「人間らしさとはなにか」という問いにストレートに、そして多面的に答えようという野心的な作品でもある。 最近、脳とか、進化心理学関係の本を何冊か読んだので、ものすごく新鮮というこ...
大御所ガザニガによる脳科学の最前線の包括的な概論書、集大成という感じかな? もちろん、タイトルの「人間らしさとはなにか」という問いにストレートに、そして多面的に答えようという野心的な作品でもある。 最近、脳とか、進化心理学関係の本を何冊か読んだので、ものすごく新鮮ということもないのだけど、いろいろなところで読んだことが統合されていく面白さというのはある。 初めてこういうのを読む人は、新しいことがいろいろ学べて面白いだろうなー、と思う反面、本が分厚いわりには、一つ一つのトピックがかなり早いテンポで説明されていくので、読んでかなり難しいだろうな。2~3冊、この類いを読んでから、挑戦する必要があるだろう。
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扱ってるトピックは興味を惹かれるのだけど、言い回しが堅苦しくてなかなか読み進まず、段々と放置してしまった。また気が向いたら読むかも。原著の方がかえって読みやすいかもしれない。
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メタには「高次な」「超」といった意味がある。ヒトは五感情報を統合し、更にもう一段高いレベルで自分の思考や感情を客観的に捉えることができる。これをメタ認知という。脳にダメージを受けると高次脳機能障害となる。メタ認知機能の崩壊といってよい。 http://sessendo.blogs...
メタには「高次な」「超」といった意味がある。ヒトは五感情報を統合し、更にもう一段高いレベルで自分の思考や感情を客観的に捉えることができる。これをメタ認知という。脳にダメージを受けると高次脳機能障害となる。メタ認知機能の崩壊といってよい。 http://sessendo.blogspot.jp/2014/03/s.html
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こんなにもワクワクする本は他に無い。現代脳科学の視点を中心としながら遺伝学や機械工学の分野も網羅し、倫理や芸術の様な人間固有のメカニズムについて踏み込んでいく本作は、かつて哲学が命題としてきた分野に更なる謎と興奮を提示する。原題は『HUMAN』とそのものズバリな本作はハードカバー...
こんなにもワクワクする本は他に無い。現代脳科学の視点を中心としながら遺伝学や機械工学の分野も網羅し、倫理や芸術の様な人間固有のメカニズムについて踏み込んでいく本作は、かつて哲学が命題としてきた分野に更なる謎と興奮を提示する。原題は『HUMAN』とそのものズバリな本作はハードカバー600頁の大著だが、驚きの実験結果の数々と小気味よいジョークのおかげで全く飽きることのなく最後まで読み終えてしまう。中でも自己感覚を解釈装置の副産物だとする説は衝撃であり、読了後には「私」についての感覚は完全に一新されてしまった。
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もとより結論など求めようもないテーマに、ガザニガは正攻法で挑んでいく。すなわち、人間ならではのユニークさを、「脳、動物、社会性、道徳・倫理、芸術、意識、サイバー化」といった切り口で、解読していくのだ。 本書は脳科学を超えて、人間科学としての統合をめざす果敢な一歩である。 (院生ア...
もとより結論など求めようもないテーマに、ガザニガは正攻法で挑んでいく。すなわち、人間ならではのユニークさを、「脳、動物、社会性、道徳・倫理、芸術、意識、サイバー化」といった切り口で、解読していくのだ。 本書は脳科学を超えて、人間科学としての統合をめざす果敢な一歩である。 (院生アルバイトスタッフ)
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1 人間らしさを探究する 2 ともに生き抜くために 3 人間であることの栄光 4 現在の制約を超えて
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脳神経科学としての心理学についての常識を学ぶにはいい本である。さらに、動物の例があるので比較心理学としても役立つであろう。残念なことに図版がひとつもないことである。なくても意味が分かるようになっているが、あればもっと理解が進む。しかし、この本で卒論を書く場合には、特殊装置がある実...
脳神経科学としての心理学についての常識を学ぶにはいい本である。さらに、動物の例があるので比較心理学としても役立つであろう。残念なことに図版がひとつもないことである。なくても意味が分かるようになっているが、あればもっと理解が進む。しかし、この本で卒論を書く場合には、特殊装置がある実験室がないと難しいであろう。
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進化心理学から辿って見つけて読んだ本。心に興味あって、脳のエンジニアリングの入門には丁度いいかな?という印象。まとまっていて、キーワードを追ってくと他の「!」本に辿りつける、と思うよ。
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