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古書の来歴 の商品レビュー

4.1

48件のお客様レビュー

  1. 5つ

    15

  2. 4つ

    18

  3. 3つ

    6

  4. 2つ

    2

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2024/04/26

地中海地域をキリスト教、イスラム教、ユダヤ教のせめぎ合いと融和の中で流れてきた一冊の書物の来歴を追う。 この書物が人間の意思に翻弄されているようにも、逆に人間の論理を超越した存在のようにも思えてくるのが面白い。 各々の時代に注目すると人間の愚かさによって人間の叡智が翻弄されるとい...

地中海地域をキリスト教、イスラム教、ユダヤ教のせめぎ合いと融和の中で流れてきた一冊の書物の来歴を追う。 この書物が人間の意思に翻弄されているようにも、逆に人間の論理を超越した存在のようにも思えてくるのが面白い。 各々の時代に注目すると人間の愚かさによって人間の叡智が翻弄されるということが意識されるが、想像(作中では全てが語られないので私の想像も含む)によって補われた五百年の物語においては古書はあるべき場所に自然と収まっているように感じられる。 この説得力こそ物語が持つ力だと思う。そして現代(作中では1996年)の主人公もその物語の一部となり、そして今後何世紀か先の誰かの記録に新たな物語として加えられる。

Posted byブクログ

2024/02/24

東京創元社さんから文庫化されたタイミングで、評判がいいので気になっていた。 親本はランダムハウス講談社。なつかしい… 作品はとても面白かった。ゆっくり読もうと思っていたけど、一気読みしてしまった。 1冊のハガダーをめぐり、シミから歴史を辿ろうとする専門家の時代と、それらの手がか...

東京創元社さんから文庫化されたタイミングで、評判がいいので気になっていた。 親本はランダムハウス講談社。なつかしい… 作品はとても面白かった。ゆっくり読もうと思っていたけど、一気読みしてしまった。 1冊のハガダーをめぐり、シミから歴史を辿ろうとする専門家の時代と、それらの手がかりが残された時代が交互に描かれる。 過去パートは何代も持主を遡り、ついに作者(画家?)までたどり着いたときには長い旅の終着点まで来られた、と感じる。 ユダヤ人迫害の歴史に翻弄されながら、ハガダーが現代まで残存したことに感動をおぼえる。 モチーフは史実で、エピソードは創作のようだが、十分楽しめる。

Posted byブクログ

2023/12/29

・本に関係がありさうだとすぐに買ひたくなつてしまふ。それでまた1冊、ジェラルディン・ブルックス「古書の来歴」(創元推理文庫)である。これは帯に「焚書と戦火の時代、伝説の古書は誰に読まれ、守られてきたのか?」とある通りの内容である。従つて、ミステリーであらうがなからうが、私には買ひ...

・本に関係がありさうだとすぐに買ひたくなつてしまふ。それでまた1冊、ジェラルディン・ブルックス「古書の来歴」(創元推理文庫)である。これは帯に「焚書と戦火の時代、伝説の古書は誰に読まれ、守られてきたのか?」とある通りの内容である。従つて、ミステリーであらうがなからうが、私には買ひである。この古書を「サラエボ・ ハガダー」といふ。 Sarajevo Haggadahと書く。「この小説はサラエボ・ハガダーとして知られるヘブライ語の実在の書物に着想を得たフィクションである。そのハガダーの現時点で明らかになっている歴史に基づく部分もいくつか含まれているが、大半の筋と登場人物は架空のものである。」(「あとがき」571頁)と著者が書くやうに、基本的には実在の書にまつはるフィクション、物語である。これは「14世紀中葉のスペインで作られたハッガーダー。(中略)中世の細密画が描かれたヘブライ語の本としては最古に属する。」(Wiki)といふもので、検索すると、ハガダーの由来等、本体に関する内容が多く出てくる。大体は細密画がついてをり、うまくいけばほぼ全体を見ることができるサイトもある。現在はサラエボの国立博物館蔵である。複製も含めて、この手の本を、当然のことながら、私は手にしたことがない。しかし、その絵は細密画におなじみのもので、いろいろなところで、似たやうな細密画を写真で見たことがある。そのハガダーに残されたいくつかのものから作品は生まれた。残されたとい つても隅から隅まで目をこらして見なければ見落としさうなものである。それが物語となり、次の物語を生んでいく。時代をさかのぼるやうに作られてをり、最後はハガダー制作現場に行き着く。1996年から始まり1480年までゆく。その後に2002年があるのだが、これは別と言ふべきかどうか。この500年間の物語は実におもしろい。実際にこんなことがあつたのではと思つて見たりする。 ・物語の中心にゐるのはユダヤ人である。ヘブライ語の書だから当然のことだが、ハガダーはユダヤ人に守られてきた。それがいくつもの物語になつてゐる。そこに共通するのは虐げられたユダヤ人である。ナチスドイツの時代も含めて、ユダヤ人は虐げられてきた。15世紀も同様である。そんな中でこのハガダーがいかに作られたのか。1480年は「白い毛」と名づけられた物語である。その毛は猫の毛であつた。ただし、「毛表皮から、猫の毛にあるはずのない粒子が検出されたわ。黄色のとくに強い染料に含まれる粒子が。」(426頁)といふものであるがゆゑに、この毛がい かなるものかは分からない。それを明らかにするのが「白い 毛」である。その最後、主人公 がモーセの魔法の杖の話をききながら、「もし、ここにもそんな杖があれば、私も自由になれる。」(490頁)と考へる。 さうして「自由と祖国。そのふたつこそユダヤ人が切望していたもの」(同前)だとして、「大海がふたつに分かれて、私は歩みだす。故郷へ通じる乾いた果てしない道を悠然と。」(同前)本当に歩き出したのかは分からないのだが、自由と祖国を求めるユダヤ人の心がここにある。これは1996年の物語にも共通する。のみならず、現在進行中のガザの戦争にも共通する。常識的にはそれがいかなる悪であれ、ユダヤ人には祖国と自由を求めるためにはさうせざるを得ないといふことであらう。それでも、イスラエルはガザの戦ひから直ちに手を引くべきだと私は思ふ。手を引いて自由と祖国、自由な祖国が得られるかどうかは分からない。本書はそんな政治的物語ではない。あくまでハガダーをめぐるミステリーであつた。

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2022/01/18
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サラエボ・ハガダーと呼ばれるヘブライ語の祈祷書の六百年を超える、スペインからサラエボへの逃避行の物語。 扉のハイネのエピグラフ「書物が焼かれるところでは最後に人も焼かれる」。だから、ヨーロッパの迫害、異端審問・魔女狩り、焚書や数々の戦争、民族闘争を越え、1冊の稀覯本が現存することは奇跡かもしれない。そして、同時に奇跡を繋いだ名もなき人たちの”命”が引き換えられた証拠かもしれない。 ハガダーに残された、蝶の羽、留め金の跡、ワインの染みなど。その原因となった事件を追いながら、本の歴史を辿る。創作とのことですが、事実のようにも感じさせる。似たようなことはあったに違いないと。そして、一つひとつの出来事が、また、泣かせてくれます。人は、異なるものにこんなに残酷なのだろうか、と。 ただ、この祈祷書を創る土壌・コンビベンシアもあったことを、初めて知った。そのまま、いろんな違いを認めていけばよかったのに、と。 もう一つ、主人公の母親の話が切ない。ガラスの天井の存在を、どこでもいつまでも、感じる。 本書を閉じて、現物を。と、思ったけど、さすがに、サラエボは遠いかな。でも、Webで沢山の画像があがっていたので、画面を見ながら、六百年の旅に浸ってしまいました。

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2019/02/19

14世紀半ばに作られた、サラエボ・ハガターとして知られる実在書物に着想を得た小説。 ハガターとは、ユダヤ教徒が過越しの祭で使う本なのだが、このサラエボ・ハガターはユダヤ教が禁じている絵画的な表現を使って描かれていた。 サラエボ・ハガターが作られたのは、14世紀半ば、ちょうどユダヤ...

14世紀半ばに作られた、サラエボ・ハガターとして知られる実在書物に着想を得た小説。 ハガターとは、ユダヤ教徒が過越しの祭で使う本なのだが、このサラエボ・ハガターはユダヤ教が禁じている絵画的な表現を使って描かれていた。 サラエボ・ハガターが作られたのは、14世紀半ば、ちょうどユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒が比較的平和に共生していた時代のスペインと考えられている。 それから長い長いユダヤ迫害をどうやってかいくぐってきたのか? サラエボの民族紛争の戦火をどうやって免れたのか? 民族紛争からようやく平和が戻ったサラエボ国立博物館での展示に向けて、サラエボ・ハガターの修復を依頼された保存修復家のハンナは、修復中にサラエボ・ハガターの中からいくつかの小さな物質を発見した。その物質を調べることにより、サラエボ・ハガターが作られてから現在までどのような旅をしてきたがが想像できる。 ハンナがその謎を解明していく物語と、実際にハガターが辿ってきた500年もの物語が交錯する。 サラエボ博物館がそのハガターの終着点かと思いきや、ハガターの旅はまだ終わっていなかったのだ。 また、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の対立と融合が、サラエボ・ハガターによって表現されているのだということ、その最後の安息地が民族紛争から平和を手にしたサラエボであるということも、意味が深い。 500年もの壮大な歴史ミステリーである。

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2021/04/19

ユダヤ教の祭礼で用いる経典「ハガダー」。偶像崇拝を厳しく禁じているはずのユダヤ教において、大変珍しい挿絵入りの古書「サラエボ・ハガダー」が発見された。本に残るほんのわずかな染みを一つずつ最新の科学技術で分析することで、本辿った数奇な運命が解き明かされていく。 ストーリーは著者の...

ユダヤ教の祭礼で用いる経典「ハガダー」。偶像崇拝を厳しく禁じているはずのユダヤ教において、大変珍しい挿絵入りの古書「サラエボ・ハガダー」が発見された。本に残るほんのわずかな染みを一つずつ最新の科学技術で分析することで、本辿った数奇な運命が解き明かされていく。 ストーリーは著者の想像の産物とのことだが、時代考証の緻密さが覗われとにかく滅法面白い。 イスラム教徒に占領されたイベリア半島をスペイン人が取り戻すレコンキスタ運動にユダヤの資金力が存分に活用されたこと。そしてイスラム教徒が駆逐されたとたんユダヤ排除・異端審問が激化したこと。 17世紀のヴェネツィアではすでに、少なくとも教養ある人々はサイコロの出る目の確率について色々な条件の有利・不利を数学的に理解していたこと(あるギャンブルの大損でハガダーが商人の手に渡ることになる)。 サラエボに進駐してきたナチス・ドイツ軍からユダヤの文化遺産を命がけで守ったのがイスラム教徒の学芸員であったこと。そして反ナチスゲリラ戦に参加し、最後の最後にチトー率いる共産党に裏切られるあまりにも悲惨なユーゴ・パルチザンの運命。 こうした歴史の中で書物が人から人へ手渡され現代までたどり着くさまが描かれる。 ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」など、「隠された歴史」物が好きな人にとっては必読ではないだろうか。

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2018/06/06

一冊の古びた本はどこで生まれ、どこから来たのか。本に挟まっていた蝶の羽や動物の毛からそれを解き明かしていく。

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2018/04/30

100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本「サラエボ・ハガダー」が発見された―― 連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。 ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われるヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。 今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在す...

100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本「サラエボ・ハガダー」が発見された―― 連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。 ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われるヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。 今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在する最古のハガダーとも言われており、 500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。 また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていることでも知られていた。 それが1894年に存在を確認されたのを最後に紛争で行方知れずになっていたのだ。 鑑定を行ったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。 それを皮切りに、ハガダーは封印していた歴史をひも解きはじめ・・・・。 異端審問、焚書、迫害、紛争―― 運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた1冊の美しい稀覯本と、 それにまつわる人々を描いた歴史ミステリ。

Posted byブクログ

2017/10/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

『マーチ家の父』もよかったけど、それよりもっと好みだった。本を作り、守りたい心に宗教も人種も関係ないか。特に女性が頑張った。ラストで本を作った女性と保存しようとする女性が時を超えて通じたようで心を打たれた。「キリスト教徒は軍隊を生み、イスラム教徒は建物を生み、ユダヤ教徒は金を生む」なるほど。

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2014/08/24

500年前に作られたとされる「サラエボ・ハガダー」という古書が発見された。ユダヤ教の祈りや詩篇が書かれたそれは、100年前から行方不明になっていた。古書鑑定家のハンナは、現代の科学捜査の技術を使い、その古書に含まれた歴史を解明する。迫害、紛争など、その本に痕跡を残した人々の人生、...

500年前に作られたとされる「サラエボ・ハガダー」という古書が発見された。ユダヤ教の祈りや詩篇が書かれたそれは、100年前から行方不明になっていた。古書鑑定家のハンナは、現代の科学捜査の技術を使い、その古書に含まれた歴史を解明する。迫害、紛争など、その本に痕跡を残した人々の人生、それが次々と繫がっていくところにあっとさせられます。

Posted byブクログ