戦略の不条理 の商品レビュー
現・慶應義塾大学商学部教授の菊澤研宗による戦略論。 【構成】 序章 第1章 旧陸軍将校・山本七平と孫子の思想 (1)旧日本軍は 戦略的に誤っていたのか (2)『孫子』の本質 第2章 「戦略の不条理」発生のメカニズム (1)戦略研究とは (2)経営の世界から見える世界の変...
現・慶應義塾大学商学部教授の菊澤研宗による戦略論。 【構成】 序章 第1章 旧陸軍将校・山本七平と孫子の思想 (1)旧日本軍は 戦略的に誤っていたのか (2)『孫子』の本質 第2章 「戦略の不条理」発生のメカニズム (1)戦略研究とは (2)経営の世界から見える世界の変化 (3)ポパーの多元的世界観 (4)多元的世界と「戦略の不条理」 第3章 クラウゼヴィッツと物理的世界の戦略論 (1)クラウゼヴィッツの生涯 (2)クラウゼヴィッツの戦略思想 (3)物理的世界の経営戦略と「戦略の不条理」 第4章 リデル・ハートと心理的世界の戦略論 (1)リデル・ハートの世界観と人間観 (2)リデル・ハートの間接アプローチ戦略 (3)心理的世界の経営戦略と「戦略の不条理」 第5章 ロンメルと知性的世界の戦略論 (1)ロンメルの人間像 (2)アフリカ戦線でのロンメルの戦略 (3)ロンメルの悲劇的最期 (4)知性的世界の経営戦略と「戦略の不条理」 第6章 「戦略の不条理」回避のメカニズム (1)キュービック・グランド・ストラテジー (2)ハンニバルのキュービック・グランド・ストラテジー (3)ナポレオンのキュービック・グランド・ストラテジー (4)『孫子』のキュービック・グランド・ストラテジー 第7章 新しい戦略の哲学-「戦略のキュビズム」 (1)多元的世界観と「戦略の不条理」 (2)キュービック・グランド・ストラテジーの原理1-多元的アプローチ (3)キュービック・グランド・ストラテジーの原理2-批判的アプローチ (4)クリティカル・マネージング・フロー 本書は、戦略の本質を「生存するためのアート(技法)」と捉え、そのためのアプローチを紹介する。紹介されるのは、孫子、クラウゼヴィッツ、リデル・ハート、ロンメル、ハンニバルなど著名な軍人達である。 本書では、アプローチの対象となる世界を3つに区分し論じていく。まず、基層となる(1)物理的世界(物体・肉体)、その上に(2)心理的世界(理解・感情・心情)、(3)知性的世界(観念・理論・知識)があると規定する。そしてこの三者に対する総合的な戦略をキュービック・グランド・ストラテジー(CGS)であるとする。 物理的世界の戦略論の好例が、クラウゼヴィッツである。一般の軍事戦略(というよりは戦術に近いものだと思うが)は、敵部隊の脅威を実力で排除することを第一義的に考えられているが、これはまさしくクラウゼヴィッツが『戦争論』で説く敵部隊の撃滅の方策である。 しかし、これだけでは不十分である。すなわち物理的世界の合理性だけに基づいて、戦争(企業の経営)を行ったとしても、その外部の敵国の国民であったり、顧客が必ずしも物理的合理性を有する者に軍配をあげるとは限らないからである。 そこで心理的世界の戦略が必要となってくるのである。つまり、リデル・ハートの「間接アプローチ戦略」に代表されるように、物理的直接攻撃だけではなく、相手に対する心理戦・精神的攻撃を総合して、自陣に有利となる環境を整えることが心理的世界におけるアプローチである。 これをさらに進めたのが知性的世界であり、より具体的には戦略の実行に伴う「取引コスト」の存在を指摘する。取引コストとは、対象となる相手が行動を選択する際のリスク計算である。そのリスク計算には自陣から相手に与えられるイメージが大きく関わっており、この際に有利なイメージを植え付けることができれば、相手は自陣の意図した行動を取る確率が高くなる。 このような、物理、心理、知性の世界にはそれぞれの合理性があるが、一者の合理性を究極的に追求すれば、他の二者における合理性が欠けてしまう可能性が高い。それゆえに、三者を総合した大戦略が必要である。単なる軍事戦略にとどまらず、ポーターの競争戦略、ブルーオーシャン戦略、行動経済学理論など経営戦略理論を紹介しながら、それらの合理性はどこが「欠けている」のかを指摘している。 引き合いに出される軍人達の戦略(戦術)への評価に、やや偏りを感じるが、楽しく読めた一冊である。
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経営戦略論として読む意義があるかと問われると少々返答に困るが、純粋に読み物としておもしろい。孫子はともかくも、リデル・ハートやエルウィン・ロンメルを取り上げた経営書を少なくとも私は他に知らない。
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物理的世界、心理的世界、知的世界の3つの世界に立体的にアプローチするキュービック・グランド・ストラジティを紹介。軍事戦略論と経営戦略論を取り混ぜ、戦略の不条理を説明。
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現代の戦略論を歴史的観点から考察した必読の書。 なぜ合理的な行動は失敗するのか。世界は少なくとも三つの存在論的に区別される部分社会から成り立っている。物理的世界、心理的世界、知性的世界である。この三つの世界に適用できない場合、組織は合理的に淘汰される事になるという。 まとめ...
現代の戦略論を歴史的観点から考察した必読の書。 なぜ合理的な行動は失敗するのか。世界は少なくとも三つの存在論的に区別される部分社会から成り立っている。物理的世界、心理的世界、知性的世界である。この三つの世界に適用できない場合、組織は合理的に淘汰される事になるという。 まとめて書いてしまうと何のこっちゃという感じであるが、本書は孫子、戦争論、戦略論やロンメル、ハンニバル、ナポレオンの戦い方を考察して分かりやすく分析している。 最後に新しい戦略の哲学、キュービック・グランド・ストラテジーの基本原理について詳細に説明されている。 本書を読んで、三つの世界の相互作用を知る事と人間は限定合理的であるという事に気付く事は有益である。値段以上の価値をもたらしてくれる事であろう。
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著者は、防衛大学校の教授など、数々の大学で教授職に就いているいわば、学者ですが、それだけ緻密に過去の戦略論を検証されています。 その検証の結果が本書で提唱されているキュービック・グランド・ストラテジーなわけです。 詳細は本書を読んでいただくとして、戦略とは何ぞやを比較的丁寧に...
著者は、防衛大学校の教授など、数々の大学で教授職に就いているいわば、学者ですが、それだけ緻密に過去の戦略論を検証されています。 その検証の結果が本書で提唱されているキュービック・グランド・ストラテジーなわけです。 詳細は本書を読んでいただくとして、戦略とは何ぞやを比較的丁寧に解説されていると思いますので、読んだことのないビジネスパーソンにぜひおススメしたい本です。
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[ 内容 ] 21世紀に、企業が生き残るために必要とされる戦略とはなにか。 それは、「物理的世界」「心理的世界」「知性的世界」の3つの世界に立体的にアプローチする「キュービック・グランド・ストラテジー」である。 本書は、孫子、クラウゼヴィッツ、リデル・ハート、ロンメルの軍事戦略を...
[ 内容 ] 21世紀に、企業が生き残るために必要とされる戦略とはなにか。 それは、「物理的世界」「心理的世界」「知性的世界」の3つの世界に立体的にアプローチする「キュービック・グランド・ストラテジー」である。 本書は、孫子、クラウゼヴィッツ、リデル・ハート、ロンメルの軍事戦略を手がかりとして、キュービック・グランド・ストラテジーの本質を解き明かす。 [ 目次 ] 第1章 旧陸軍将校・山本七平と孫子の思想 第2章 「戦略の不条理」発生のメカニズム 第3章 クラウゼヴィッツと物理的世界の戦略論 第4章 リデル・ハートと心理的世界の戦略論 第5章 ロンメルと知性的世界の戦略論 第6章 「戦略の不条理」回避のメカニズム 第7章 新しい戦略の哲学―「戦略のキュビズム」 [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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勝利へのプロセスは偶然や運に大きく関係している。 新古典派経済学は、市場は消費者と企業家を主体としている。 それぞれを完全合理的に①物理的な効用を最大化をねらう。 消費者は、自らの労働力を供給し、財を需要する。 企業家は、利益を最大化するために労働力を需要し、財を生産する。 これ...
勝利へのプロセスは偶然や運に大きく関係している。 新古典派経済学は、市場は消費者と企業家を主体としている。 それぞれを完全合理的に①物理的な効用を最大化をねらう。 消費者は、自らの労働力を供給し、財を需要する。 企業家は、利益を最大化するために労働力を需要し、財を生産する。 これを基本とし、競争戦略≒ブルーオーシャン戦略が生まれた。 しかし、市場の働きにより、商品の最適化が必ず行われるわけなく例外もある。 理由は、人間は完全合理でなく限定合理的である。心理的バイアスがかかる。という2つのことにある。 それで、行動経済学の研究が進み、心理面での消費者の特性が検討された。 ②いま持っている商品に満足していれば、 後発の優れたものがたとえ安くても購入に至らないことがある。 ③取引コストが多すぎると、人間は効率的な状態に留まろうとする。 1から3までを統合したCubic Grand Strategyが今は必要。
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1.戦略の不条理とは? ポパー(科学哲学者)によれば、我々の世界は多次元的世界であり、次の三つから成っている。 ①知性的世界・・・知識・観念 ②心理的世界・・・感情・欲望 ③物理的世界・・・物体・肉体 人間の行動が、三つの世界の内一つか二つの世界で合理的であっても、 他の世...
1.戦略の不条理とは? ポパー(科学哲学者)によれば、我々の世界は多次元的世界であり、次の三つから成っている。 ①知性的世界・・・知識・観念 ②心理的世界・・・感情・欲望 ③物理的世界・・・物体・肉体 人間の行動が、三つの世界の内一つか二つの世界で合理的であっても、 他の世界で不合理であったために敗者となってしまう現象。 これが「戦略の不条理」というものらしい。 勝者となるためには、三つの世界を考慮した「立体的大戦略」を組み立てる必要がある、ということだ。 ※戦略の不条理、立体的大戦略(Cubic Grand Strategy)は、著書独自の用語らしい。 ※戦略:筆者によれば、生き残るための知恵 2.立体的大戦略とは? 三つの世界、各々の損得勘定の合計がプラスとなるような戦略である。 ただし、戦略は状況に応じて柔軟に変化させる必要がある。 戦略の展開は、知性的世界→心理的世界→物理的世界、の順で行う。 何故なら、多次元的世界は、最上位に知性的世界、その下に心理的世界、土台が物理的世界、 という形で成り立っているからである。 低次の世界の戦略は、より高次の世界の戦略と整合性を取る必要がある、ということだろうか。 ※戦略の展開方法は、下記のように違っているが「整合性」という考えでまとめてみた。 ・軍事戦略→知性的世界と心理的世界の戦略だけで勝利するのがベスト ・経営戦略→より低次の世界へのアプローチを成功させておくことは必須 ※「孫子の兵法」は、立体的大戦略に基づいている。 3.物理的世界の戦略とは? (1)軍事面 クラウゼヴィッツ(軍人)の戦略論[強者の戦略]を例に説明している。 敵より上回る戦力を集中させて勝つという事だ。 攻撃対象は【戦力】だろうか。 (2)経営面 新古典派経済学を例に説明している。 資源を集中して、より安くより高品質な製品を製造・販売するという事らしい。 競争対象は【製品】だろうか。 4.心理的世界の戦略とは? (1)軍事面 リデル・ハート(軍人・歴史家)の戦略論[弱者の戦略]を中心に説明している。 できるだけ戦闘を回避し、心理状態を利用した手段で、兵力の均衡に持ち込むという事らしい。 攻撃対象は【戦意】だろうか。 ※体系だっていなかったが、興味深かったのでメモをしておく。 ○敵の物理的側面への攻撃だけではなく心理的側面への攻撃を併用すれば、敵のバランスは崩れる。 ○攪乱行動 ・敵の配備を混乱させる ・敵の兵力を分断する ・敵の補給を危機に陥れる ・敵の足場固めの為の路線を驚異に晒す ○重要なアプローチ ・最小予期線への攻撃・・・敵が心理的に最も予期していない攻撃を展開する ・最小抵抗線への攻撃・・・物理的に敵の抵抗が最も弱い箇所を攻撃する (2)経営面 行動経済学の「プロスペクト理論」を例に説明している。 プロスペクト理論によれば、人間の心理が満足状態にあれば行動を起こし辛く(リスク回避的)、 不満足状態にあれば行動を起こし易く(リスク選好的)なる。 だから、消費者の心理を不満足状態にして購買意欲を高めるという事らしい。 競争対象は【満足】だろうか。 5.知性的世界の戦略とは? (1)軍事面 ロンメル(軍人)の戦略を中心に説明している。 イメージ・固定観念などの概念を確立し、始めから優位に立つという事らしい。 例えば、ロンメルがドイツ軍は強いという固定観念を作ろうとしていた事がそうだ。 攻撃対象は【観念】だろうか。 (2)経営面 新制度派経済学の「取引コスト理論」を例に説明している。 取引コストとは、物を買ったり買い換えたりする時に発生する様々な労力(調査・交渉・監視等) のことで、これが大きければ現状で我慢しようとする。 だから、情報技術を使用して取引コストを小さくするという事らしい。 競争対象は【情報】だろうか。 ※知識、技術も知性的世界に含まれる。 6.まとめ 最初に結論を述べ、次に概略に入り、それを詳細に展開しているため流れはわかりやすい。 ただし、以前の内容を引き継いで説明しているため、主旨をまとめるのが難しい。 特に、知性的世界はわかりづらい。この中に含まれる知識・技術の戦略とは、どのようなものだろうか。 正しく理解したかどうかも不明である。 クラウゼヴィッツやリデル・ハートの戦略の位置付けは、大変参考になる。 戦略に興味があるなら、これだけでも読む価値があろう。 ※本書の内容は、経営よりも軍事的色彩が強い。
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人間が持つ世界観をモデル化すると、物理的世界、心理的世界、知性的世界の3層からなる多元的世界となる。 1つの世界では合理的に行動しても、別の世界ではその行動が不適格な行動となる(この現象を「戦略の不条理」と呼ぶ)のは、3つの世界を視野に入れた戦略を描いていないからである。
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孫子によると最初から型にはめないで、常に自然体で対応すべきだというのが基本的な考え。人間の心は知性的世界と結びついており、人間の合理性やすべて反省的思考は知性的世界と人間の心理的世界との相互作用の結果。 ポーターの競争戦略: 1.低コスト構造のもとに製品価格を下げて競争を勝ち抜く...
孫子によると最初から型にはめないで、常に自然体で対応すべきだというのが基本的な考え。人間の心は知性的世界と結びついており、人間の合理性やすべて反省的思考は知性的世界と人間の心理的世界との相互作用の結果。 ポーターの競争戦略: 1.低コスト構造のもとに製品価格を下げて競争を勝ち抜くコストリーダーシップ戦略 2.他社との競合を避け、棲み分けるために製品を差別化する差別化戦略。
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