カティンの森 の商品レビュー
カティンの森事件を舞台にした三人、三世代の女性の物語。 ソ連と不可侵条約を結んだナチス・ドイツは1939年9月にポーランド侵攻を開始した。そしてソ連も同時に東側からポーランド侵攻を開始し、東部地域を併合した。これによってポーランド国軍の多数の将校がソ連の捕虜となったが、ソ連は捕虜...
カティンの森事件を舞台にした三人、三世代の女性の物語。 ソ連と不可侵条約を結んだナチス・ドイツは1939年9月にポーランド侵攻を開始した。そしてソ連も同時に東側からポーランド侵攻を開始し、東部地域を併合した。これによってポーランド国軍の多数の将校がソ連の捕虜となったが、ソ連は捕虜とした2万人以上のポーランド将校を虐殺し、カティンの森など三箇所の地中に埋め、隠蔽をはかった。 戦争中既にこの虐殺事件は西側諸国の知るところとなり、調査も行われたが、ナチス・ドイツはこれをソ連によるものと主張したが、ソ連はこれをナチス・ドイツによるものだと強く主張していた。 こういう歴史的事件を背景に、戦後、ポーランドのクラクフで、ソ連の捕虜となり、消息不明となっている夫アンジェイを待つアンナ。夫の母であり、息子は必ず戻ってくると信じ、あらゆるものにその兆しを見つけようとするプシャ。幼い頃の父の思い出しか記憶になく、父を愛しているが、父の亡霊に束縛されている母に反発するヴェロニカ(ニカ)。 三人の女性の暮らしが描かれる。 アンナは夫アンジェイがカティンで虐殺されたものと思っているものの、見つかった犠牲者のリストには夫によく似た名前があるのみで、未亡人としても認められない。また、それ故に一縷の望みを抱いているが、そんな時に夫の部下だったという兵士が家を訪ねてくる。 彼は夫と親しかった事の証拠としてアンジェイの持っていたシガレットケースを渡すが、彼はソ連軍に協力する見返りとして解放されたため、アンジェイのその後については知らなかった。 果たしてアンジェイはどうなったのか。カティンについて調べることがタブーでもあるソ連支配下のポーランドでアンナは夫のその後について調べようとし始める。 三世代の女性のうち一番若いヴェロニカは母や祖母が帰ってこない父がまだ生きていると信じているかのように話す事に反発している。父は既に亡くなっており、その遺体が見つからないだけだという事を認めようとせず、「カティン以前」に囚われて前に進もうとしないことに苛立っているからだ。 しかし、その彼女がユルという青年と出会い、ユルがソ連の支配に反抗する反乱分子として捕えられ、収容所に入れられ、その生死も定かではなくなった時、母アンナと同じ気持ちとなってユルを探し続ける展開が、痛ましい。
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いわゆるカティンの森事件を題材にしたフィクション。全編通じて美しくも陰鬱な雰囲気に満たされた内容でした。 とはいえ、カティンの森事件の内容を説明するものではありません。当事件に巻きこまれた男性の家族の、彼を「待つ」その心情のコントラストを描く作品です。 ・・・ 物語のあらすじをざっと言えば、カティンの森事件で家族を亡くした3世代の女の話です。出征した息子の帰りを信じている母ブシャ、夫の死をほぼ確信するも貞節を守りながら未亡人として生きる妻アンナ、父の死を受け止めつつも寧ろあらたな人生を切り開きたい娘ヴェロニカ。彼らに訪れる戦後の動乱と人々の心象を描くもの。 ・・・ やはりやるせないのは、解消されざる母娘の「今」に対する感情。母アンナからすれば残りの人生はまさに「敗戦処理」に過ぎない。一方娘にとっては、白紙のノートブックのような人生が開こうとしている。その考えの違いが家庭内でも不協和音を奏でます。 「母は、苦しみを独占する権利があるという想いなしではいられないのだ、そうすることによって、喪失の痛みを人生のたった一つの意義に変えているのだと。彼女のただ一つの愛の対象が帰ってくるという望みを絶たれ、最後までその愛に忠実になろうとしながら、母の選んだのは、犠牲とならずに済んだものへの憎しみと遺恨だった」(P.243) 自分が幸せでない時、他人の幸せを祝福することは難しいことが多いわけですが、この違いが母娘に起こるところに、運命的ともいえる悲劇性を見て取れます。娘ヴェロニカは自身の恋愛をせめて家族に祝福してもらいたい一方、母アンナは厭世的な発言が多い。 やや作りすぎの嫌いはあるものの、娘ヴェロニカの恋人が更なる犠牲者を生み出し、また彼自身体制の犠牲となることで最終的にヴェロニカも母の立場を理解するようになります。つまり、悲劇は繰り返されることになります。 また読中、ポーランドという国の経緯についても、つくづく何とも言えない思いになりました。 ロシア、プロイセン、オーストラリアの3列強による3度の国土分割を経て、第2次世界大戦ではドイツとソ連により通算4度目の分割を経験することになります。加えて、アウシュヴィッツはユダヤ人虐殺の現場となり、ポーランド人将校はロジアのカティンへ連行され虐殺される。戦後はソ連の影響を受けた共産体制の下、真実を探ることも許されない。 また物語では妻アンナは、夫の名前がカティンでの死亡者リストに名前が誤って掲載されていたことから、夫の死亡も認定されず、恩給の代替受給も許されず、厳しい立場に追い込まれました(この誤報に一縷の望みを託す点がまたなんとも・・・)。 ・・・ 実に重苦しい作品でした。 この家族の救いの無さは、胸にどんよりとした嫌味を残す一方、なぜポーランドはこのような他国の蹂躙を受けることになったのか、なぜロシアは虐殺の事実を画したのか等の歴史的事実とその背景も知りたく思いました。 ヨーロッパ史、東欧史、近現代史に興味がある方にはおすすめできる作品だと思います。
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ポーランドを旅行してから、ポーランドへの興味が尽きない。 アンジェイ・ワイダ監督の映画「残像」を観た後、カティンの森のことを知り、この本を読みはじめた。 こんな残酷な事件があったとは、知らなかった。 ポーランドという国は、本当に先の大戦でドイツからもソ連からも傷つけられた国だった...
ポーランドを旅行してから、ポーランドへの興味が尽きない。 アンジェイ・ワイダ監督の映画「残像」を観た後、カティンの森のことを知り、この本を読みはじめた。 こんな残酷な事件があったとは、知らなかった。 ポーランドという国は、本当に先の大戦でドイツからもソ連からも傷つけられた国だったんだと改めて思う。 観光客で溢れていたクラクフを思い出し、戦後よくぞ復興されたと思うと同時に、アンジェイ・ワイダ監督が、自国の暗い歴史を忘れず、映画を作り続けてこられたことに胸を打つ。
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レポートのため読破。 カティン以前以後、という表現が何度も登場。それだけでこの事件の衝撃が伝わってきた。 また社会主義の最も恐怖的な面としての「監視社会」が物語に止めをさし、社会主義の性質である「秘密」という名の情報隠しで全てがストップしてしまう。 カフカの城・審判の雰囲気を持つ。 カフカもユダヤ人であることから、こういったところがよく分かっているのではないか。 ソ連が一時的に連合国側として闘ったため、戦後も連合国各国は事実を秘匿してしまう。そこに社会主義ということが重なる。 登場人物の人生、一度しかない人生、全て「何も分からないまま」終わっていってしまう。
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1939年9月17日 独ソポーランド侵攻、分割占領 1940年4-5月 ソ連による1万人を超えるポーランド人将校の大量虐殺 1943年 ソ連に侵攻したドイツによる現場発掘、検証 ソ連はドイツのやったことと主張 そして第二次大戦後のソ連とポーランド共産党政権による虐殺の隠蔽 真実を求め、追究する遺族や関係者は裁判もなく消されてゆく その後 1990年ゴルバチョフソ連大統領が自国の犯行と認めポーランドに謝罪 カティン事件の被害遺族であるアンジェイ・ワイダ監督 (父親が犠牲者)により映画制作、2007年9月17日試写 ポーランド文学者工藤幸雄が邦訳、最後の作品となった (2007年12月映画『カティンの森』を見て年末に着手、 2008年3月7日訳了4か月後逝去) 行方不明となった将校の母、妻、娘の戦後の生活を描くことをとおして ソ連、ポーランド共産党政権による捏造とそれを維持する過酷な政治の実態が語られている
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第二次世界大戦中にソ連の捕虜となったポーランド人将校がソ連内のカティンの森をはじめとする数箇所で密かに虐殺されたという実際の事件を基に描かれている「真実」の物語です。女性たちの姿が心を打ちます。 この本はいまだにその真実が明らかになっていない2万にも上るポーランドの将校がソ連...
第二次世界大戦中にソ連の捕虜となったポーランド人将校がソ連内のカティンの森をはじめとする数箇所で密かに虐殺されたという実際の事件を基に描かれている「真実」の物語です。女性たちの姿が心を打ちます。 この本はいまだにその真実が明らかになっていない2万にも上るポーランドの将校がソ連によってひそかに虐殺された「カティン事件」を基にした映画のノベライズ版です。描かれているのは、行方不明となったアンジェイ・フィリピンスキ少佐の帰りを今か今かと待ち続ける母ブシャ、妻のアンナ、そして娘のヴェロニカ(ニカ)を軸にして描かれています。 ポーランドの歴史の闇とユルという青年とニカとの恋。アンナの前に現れるカティンの森の生き残りであるヤロスワフ・セリム大佐も物語に絡んでくる中盤になってくるにつれて、アンジェイがもう二度と彼らの前に帰ってこないんだという事実と、彼が残した遺品。手帳の中に俘虜となってから自分の今際までを書き記した言葉がどうしようもなく、陰鬱にさせました。 僕がこの事件を知ったのは、高校の世界史の授業で、サブテキストである資料集にカティンで発見された遺体の写真が掲載されており、これがおそらくカラーだったら直視ができないようなむごたらしい写真で、どこをどうしたらこういうことができるのかと、ずっと長年の疑問で、この本の巻末に書かれてある答えがひとつ、スターリンがソ連とポーランドとの戦争で完膚なきまでに負けて、それ以来彼らに強い恨みを持っていたこと。第二にインテリ階級である彼らを抹殺することで指導者層に空白地帯を作るという目的があったのだそうです。なるほどなとは思いましたが、決してこれが許されるものではないことはここで言うまででもないでしょう。 すべての結末は本書に譲るとして、アンジェイはもちろんのこと、母親のブシャやニカとユルの恋の結末や、アンナやセリム大佐の運命も国家や歴史に翻弄されたのだ、ということはあくまでフィクションながら、僕の心に迫ってくるものでありました。 さいごに、この映画を創作したアンジェイ・ワイダ監督の父親もまた、カティン事件の犠牲者だそうです。NHKのインタビューで 「これはどうしても作らなければならない映画だった」 と語っていたのが印象的でした。
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映画のカット割りのような文章、堅い訳文が読みにくく序盤で断念。テーマには関心があるので、DVDで見るか。
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専用機墜落で死亡したポーランド大統領夫妻が出席予定だったのがソ連によるカティンの森でのポーランド捕虜虐殺慰霊祭。その犠牲者の家族の物語。
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物語の時代背景は 1939年、ナチス・ドイツとソ連は不可侵条約を結び、二国による ポーランド分割を秘密裏に決定。9月1日、ドイツが西から、同月17日ソ連が東から ポーランドに侵攻。ソ連の捕虜になった将校は、ソ連国内の各地に収容された。 1940年3月5日に下されたソ連共産党政治...
物語の時代背景は 1939年、ナチス・ドイツとソ連は不可侵条約を結び、二国による ポーランド分割を秘密裏に決定。9月1日、ドイツが西から、同月17日ソ連が東から ポーランドに侵攻。ソ連の捕虜になった将校は、ソ連国内の各地に収容された。 1940年3月5日に下されたソ連共産党政治局の決定により、同年4、5月に ソ連内収容所に抑留されていたポーランド人将校一万数千人が虐殺された。 犠牲者の遺体はカティンをはじめとする三ヶ所に埋められた。 しかしこの事実は、公式にはナチス・ドイツの犯罪とされた。(帯より引用) 著者は事件関係者に取材を重ねてモデルらしき人物もいたと、訳者あとがきに書かれてるので そうした史実に基づいて描かれたものである。 大学の講義か。考古学者である女性講師がプロジェクターに映し出される 始皇帝戦闘部隊の兵馬俑などの映像で講義をしてる。 北京郊外で発掘された50万年以前の北京原人の骨片 彼らが食人風習の儀式となって死んだことを示すものであると 講義の冒頭、彼女はこう語った 「食人の悪習は存続しました。二十世紀になってその姿は変えはしましたが。 それはもはや個人が対象ではなく、一国の国民が他の国民を食い尽したのであり、 遺骸はすべて地中に埋められました。 こうすれば、後々、何千年となく、発見されずに終わるとの悪企みによって・・・・・」 そして、彼女は、ソ連の捕虜となっていたポーランド人将校一千数千人が虐殺された とされるカティンの森へと旅立つ列車に乗り込むというのが、物語の導入部である。 主人公である彼女・ヴェロニカの高校時代にまで遡り 母のアンナとともに家族の回想として 事件の真実に迫っていく姿が描かれていく。 カティン事件の生き残りであるアンジェイの同僚・ヤロスワフ大佐が ある遺品を渡すように託されたと、 アンジェイの母・ブシャ、妻・アンナ、一人娘のヴェロニカの前に突然現れるのである。 無事帰還を信じる妻アンナもヤロスワフも互いに惹かれあっていくが貞節を守り通す。 そんな様子をヴェロニカは察知しているのであるが ヴェロニカもまた、元地下活動家で画学生のユルという恋人と出会う。 事件の真実を探ろうとすればするほど 男たちが突如として彼女たちの前から姿を消してしまう・・・・・・。 戦争に送り出す際に、寒いからと冬外套持って行くように云う。 持っていくのをアンジェイが渋っていたら 「戦争するのは、男だけど、負傷兵の世話は女の仕事ですからね」と 母・プシャの一言が、残されていく者の切ない思いがしてならない。 大国の思惑や論理によって事実が隠ぺいされ葬り去られる怖さ 時代によって正義が逆転してしまう。 その国、その民族が悪者であるとかイメージし人をモノ化してしまう戦争の狂気 一番の犠牲者は残された女性や、子どもたちであると改めて感じた。 P:S この原作は、カティン事件の被害遺族でもあるアンジェイ・ワイダ監督により12月5日より映画公開される。
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