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翳りゆく楽園 の商品レビュー

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5件のお客様レビュー

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2011/12/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

読みました。 ものすごくおもしろい本なんだけれど、まあそれはいいとして、問題はこの表紙ですよ。著者名ですよ。 解説の名前が一番でかいってどういうこと? ジェネレーションギャップ、ってあると思うのだけど。 生物多様性がなぜ重要かといえば、あなたのふるさとの独自性を守るためだ、てな意見が出てくるんですが。今50歳のひとと30歳のひとと10歳のひととじゃ、見てきた風景が全然違うわけで。ただ、誰かが「自分の」故郷のふうけいを守ろうとしない限り、その差は広がり続けるのだろうね。世界中のどこにいっても似通った植物が、動物が蔓延ってしまうのを考えると、たしかにちょっとぞっとする。 ただ、作中でもさんざん論じられている問題ではあるけども、そもそも変化こそが「自然」なのであって。人間という種の繁栄によって、さまざまな種の拡散が急速に起こっていることも、「自然のなりゆき」の一部なのだよね。「人工的な~」という言葉があるけど、人によってつくられたものは自然ではなく、それ以外の「もとからあるもの」が自然であるという考え方は不自然だし、自然というのはむしろ常に失われ続けていく風景そのものなのだと思います。そしてすべてが収束していくのもまた自然のさだめであるのかもしれない。 こういう研究は、たぶん本当にしんどいと思う。事象が複雑すぎて必要なだけのデータを集めることも困難だし、なにかが進行していくことだけはわかっていても、それに対して有効な手段が発見のはつねに事後のことだからね。基礎研究とはまた違った意味で。自分の小ささが身に沁みるというか、生きている、って本当に不思議だなと思う。

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2011/06/24

 ハワイや海洋の生態系について、研究者への取材を行いながら問題点について語っていく紀行文。  ただ単に"生態系を保全しなきゃいけない!"と主張しているわけではなく、"生態系に対しては様々な考え方ができる。どうしていけばいいのだろうか"と問い...

 ハワイや海洋の生態系について、研究者への取材を行いながら問題点について語っていく紀行文。  ただ単に"生態系を保全しなきゃいけない!"と主張しているわけではなく、"生態系に対しては様々な考え方ができる。どうしていけばいいのだろうか"と問いかけを行っており、それにいたるまでのアプローチもとても面白い。  また特定の種についての考察もところどころあり、この本を基点に生物種等の単語を調べていけば、生態系に関してしっかりとした知識を得ることができるだろう。 生態学の入門としてもおすすめできる。完成度の高い本だ。

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2010/08/31

アラン、ある晩、ニューヨーク。メルヴィル『白鯨』を読んでいて、鯨とともに回遊するフジツボにふれたくだりに目をとめる。気になったアランは、研究者カールトンにEメール。鯨はフジツボのほかの生物もはこんでいるのか、メキシコで乗ってマジョルカで降りるといった気ままな旅なのか、鯨も船のよう...

アラン、ある晩、ニューヨーク。メルヴィル『白鯨』を読んでいて、鯨とともに回遊するフジツボにふれたくだりに目をとめる。気になったアランは、研究者カールトンにEメール。鯨はフジツボのほかの生物もはこんでいるのか、メキシコで乗ってマジョルカで降りるといった気ままな旅なのか、鯨も船のように外来種を世界にばらまいているのか、などなど。カールトンの返事のひとつは、メルヴィルは有柄のエボシガイを「海のキャンディ」と呼んだのだろう(あるいはただの文学的修辞かも)、というものだった。(p.326) サイエンス紀行を、読みものとして上質なものに仕上げています。 興味ぶかかったのは、グアムとハワイです。グアムなど行きたいと思ったことはありませんが、この本のおかげでますます行く気にはなれません。鳥のいない島など、悪夢でしかありません。ハワイについてのルポは示唆に富んでおり、歴史の勉強にもなります。 本書の問題意識は、生物の多様性とはなにか、というものです。この多様性のなかに、人間をいれるのかいれないのか、そこが最大の論点になります。欧米人は自然と人間を対立させます。日本人はそのような発想をもちません。感受性豊かなアランですが、まだまだ人間を絶対的に優位なものとして捉えており、私が読んで感じるものたりなさは、そういうところです。 ふじつぼや勇魚がはこぶ世界かな -草芥

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2009/11/13

各地を巡り、現場の研究者たちに話を聞きつつ、人間にとっての自然環境と生態系の変化について、外来種と在来種の関係をもって考えていく。科学に明るい文章のブロによる著作で読みやすかったです。

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2009/11/07

人の移動とともに侵入する外来種。陸と海からその外来種の現状について研究者に話を聞き、ハワイからタスマニア、SFまでフィールドワークに同行していく、紀行ノンフィクションです。 前半はハワイが舞台です。主役はミナミオオガシラヘビ。グアムの鳥を絶滅の危機に陥れ、生態系を変えてしまった...

人の移動とともに侵入する外来種。陸と海からその外来種の現状について研究者に話を聞き、ハワイからタスマニア、SFまでフィールドワークに同行していく、紀行ノンフィクションです。 前半はハワイが舞台です。主役はミナミオオガシラヘビ。グアムの鳥を絶滅の危機に陥れ、生態系を変えてしまったオーストラリア原産のヘビです。ミナミオオガシラヘビのハワイへの侵入を防ぐ学者たちの試みが詳しく語られます。 その中で著者は、何が外来種か、生物の多様性は何故必要か、ということについて思いをめぐらせます。生態系は均衡するものではなく、非均衡するモデルが今の主流であり、そうなると何故自然保護が大切か、そもそも変動するものが自然ではないか、ということになります。では何故自然保護が必要なのか、環境を、多様性を守ることが大事なのかについて、 「守るべき自然のバランスなどというものは存在しない。むしろ人間は自分たちのために自然を守るべきなのである。われわれは、自然からさまざまな思想ー美的、精神的な恩恵や科学的、経済的な恩恵をえているからである」 という主観的、個人的思いが自然保護の最も強固な論拠だという結論に至ります。 後半は海。メイン舞台はSFで、主役はチチュウカイミドリガニ。昔は船により、最近はバラスト水により侵略が促されます(日本でも要注意外来生物に指定!)。陸と違い、海中ではそもそもの手付かずの自然が失われており、元の姿が分からなくなっているという研究者の指摘もあり、海中では何が在来種か、ということを判断するのが難しくなっています。 新鮮だったのが、多様性の概念。多様性にもα多様性とβ多様性があり、αはエリアの生物の種類数の多様性。βはそれを俯瞰した、画一化がどれだけ進んでいるかという概念だそうです。αの世界で暮らしているので、生物の種類が増えるということは、それが他の生物を絶滅に追いやらない限り、α多様性は増しますが、画一化が進み β多様性は失われていきます。 著者は「ディスカバー」誌のエディターで、押し付けがましくなく、好感が持てます。400頁を超える本で、読み応え充分です。 しかし本の表紙には、著者名や訳者名よりも解説者(養老猛司)の方が大きいというのはよろしくありません。 あと印象に残ったのが、ローウェルの望遠鏡の話。 アメリカの天文学者ローウェルが1896年、望遠鏡を覗き、金星の表面に運河のようなものを発見したが、他の天文学者が観測しても再び見えることはなく、1903年にローウェルがもう一度見て絵を書き残したが、ローウェル死去のあとも一度も確認されなかった。最近ようやく、ローウェルの書き残したメモを調べ、望遠鏡の開口部を小さくしたため、それが鏡のようになり、目の網膜の血管が映っていたことが明らかになった... 内側を外側と思い込むこと、見えると思うもの、あるいは見たいを思うものと実際にあるものを混同すること-これはすべての科学者にとって悪夢とも言うべき決定的な錯誤である 確かにこれは悪夢です。科学者に限った話ではありませんが。

Posted byブクログ