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カント 信じるための哲学 の商品レビュー

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5件のお客様レビュー

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2021/09/17

イマヌエル・カントの哲学の入門書である。カントの主著である『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三批判書を平易に読み解いていく。そこでは他の思想家(デカルト、ニーチェら)の思想と照らし合わせており、カントのみならず西洋哲学の潮流も理解していくことができる。 本書の特徴は...

イマヌエル・カントの哲学の入門書である。カントの主著である『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三批判書を平易に読み解いていく。そこでは他の思想家(デカルト、ニーチェら)の思想と照らし合わせており、カントのみならず西洋哲学の潮流も理解していくことができる。 本書の特徴は入門書でありながら、カントの思想を概説するだけでなく、一つの問題意識に沿って論を展開している点にある。まず現代は、ひとそれぞれの主観的な感覚や考えが尊重される価値相対主義の中にあると位置付ける。これは一つの考え方を絶対的な真理として抑圧が正当化されていた時代への反省に基づくものである。 それ故に「みんな違って、それでいい」という価値相対主義は大きな進歩である。しかし、価値相対主義が普及した先には新たな問題が生じる。あらゆる物事が「みんな違って、それでいい」で済むかという問題である。善悪や優劣を定めなければならない局面があるのではないか、その場合にどうするのかという問題である。 カントは「対象というものは、客観的にあるものではなく、わたしたちの認識(主観)にとってのみあらわれている」と主張した(106ページ)。絶対的な真理は知り得ないとした点で価値相対主義の側に立つ。一方でカントは個々人の主観がバラバラであることを前提としつつ、その主観から人間に共通する普遍性を取り出そうとした。 この普遍性を取り出すカントの哲学は価値相対主義によって他者と共有できる価値観が乏しくなった現代において実践的な意義を持つと本書は位置付ける。そして絶対的な真理を振りかざすのではなく、より多くの人の納得できるような言葉を作り出す態度によって、他者と共に試され、鍛えられることが普遍性を獲得する道と主張する。 私は本書で規定した前提に基づく結論(価値相対主義の中での普遍性の獲得方法)には同意する。但し、現実の日本社会では建前の市民社会レベルでは価値相対主義を咀嚼していても、個々の集団内部では絶対的な真理の押し付けが幅を利かせている。この現実を踏まえると本書の前提は、まだまだ遠い先の話と思えてしまう。 価値相対主義の下では私の意見が他者とは別人格の意見であるということだけで尊重されるべきである。これは私の意見に普遍的な価値があろうとなかろうと、普遍性を持たせる努力をしようとしまいと変わらない。しかし、この常識が日本ではまだまだ通用しない。それは市民メディアの記事に「記事として相応しくない」云々とコメンターの基準で記事の存在価値を全否定するコメントが散見されることからも明らかである。 ここでは「私の自由であり、他人が口を挟む問題ではない」ことを確立することが先決問題となる。このような状況においても、言葉を交わすことで他者と共に普遍性を鍛えていくべきであるのか。これが本書の射程からは外れるが、本書の前提に到達していない環境にある私が感じた疑問である。 一般に哲学書や哲学の解説書には難解という印象がある。それは平易な表現を心掛けている本書でも完全には免れていない。しかし、本書は価値相対主義の中で如何にして普遍性を見出していくかという上述の問題意識で一貫している。このため、一読して頭に入らない表現があったとしても趣旨の理解は容易である。世界的なベストセラーになった哲学の入門書に『ソフィーの世界』があるが、これも「私は何者か」という問いを考えていくものであった。哲学が知識体系の学問ではなく、考える学問であることを再認識した一冊である。

Posted byブクログ

2024/05/05

竹田青嗣のもとで哲学を学んだ研究者による、カント哲学の入門書です。 デカルトのコギトにはじまる「ひとそれぞれ」の世界の発見は、ヒュームによって徹底されるにいたりました。そのヒュームによって「独断のまどろみ」から目覚めさせられたと語るカントは、『純粋理性批判』において、「ひとそれ...

竹田青嗣のもとで哲学を学んだ研究者による、カント哲学の入門書です。 デカルトのコギトにはじまる「ひとそれぞれ」の世界の発見は、ヒュームによって徹底されるにいたりました。そのヒュームによって「独断のまどろみ」から目覚めさせられたと語るカントは、『純粋理性批判』において、「ひとそれぞれ」のうちに「普遍性」を求める独創的な哲学を構築することになったと著者は主張しています。 さらに『実践理性批判』『判断力批判』についても、著者自身の見解をまじえつつ、わかりやすいことばで解説が試みられています。 著者が、哲学のなじみのない読者にもカント哲学を理解してもらえるような、親しみやすい文章を心掛けていることは十分に読み取ることができます。本書のカント解釈は竹田のそれを継承しており、わたくし自身は不満に感じる点もあるのですが、平明なことばで西洋哲学の根本問題を語ろうとする著者の姿勢は、竹田の仕事のもっともよいところを受け継いでいるといってよいと思います。

Posted byブクログ

2015/11/26

倫理の勉強も兼ねて。〈ひとそれぞれ〉のキーワードを用いてカントを中心とした近代哲学を現代にも通じるように解説。結局は「信じる」ことに帰結するのがなんとも不思議なような。

Posted byブクログ

2011/06/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

[ 内容 ] 現代に生きるわたしたちは、ひとそれぞれの主観的な感覚や考えを持つ自由と引き替えに、共有する絶対的な真理を失い、猜疑と孤独に陥るしかないのか。 カントは、人間の考える力を極限まで吟味し、絶対的な真理は知り得ないという「理性の限界」を証明した上で、人間に共通する〈普遍性〉を、「わたし」の主観の中に見出した。 この「アンチノミー」「超越論的哲学」という方法に注目し、デカルトからアーレントまでの「主観」理解と照らしつつ、『純粋理性批判』をはじめ三批判書を、平易に読み解く。 若き俊英が、等身大の「わたし」から説きおこす清新なカント入門。 時に矛盾した姿で現れ問題を投げかけるこの世界を、どうしたら理解し解決できるのか。世界を信じるための道筋を探るカント哲学入門。 [ 目次 ] 序章 “ひとそれぞれ”の時代のカント 第1章 近代哲学の「考える力」-合理論と経験論 第2章 理性の限界-『純粋理性批判』のアンチノミー 第3章 「わたし」のなかの普遍性-感性・悟性・理性 第4章 善と美の根拠を探る-『実践理性批判』と『判断力批判』 第5章 カントから考える-ヘーゲル、フッサール、ハイデガー、アーレント 終章 世界を信じるために [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]

Posted byブクログ

2010/04/05

カント哲学とは?と思い一番読みやすそうな内容かつ薄い本として手にした。 「自分」から生じる「他者」との共通点とは。 この世界を信じる為に必要なものとは。 生きていく上で一度は考え一度は悩む内容を判りやすく書いている。

Posted byブクログ