創造者 の商品レビュー
『バベルの図書館』を読んで以来、僕にとっての図書館はその意味を二重化された。書架の詰まった実体としての図書館は概念化されて「図書館」となり、それ自体として単独の宇宙を形成する新たな意味へと開かれた。『伝奇集』に収められたこの奇妙な数十ページは、「図書館」という概念を通して書物と知...
『バベルの図書館』を読んで以来、僕にとっての図書館はその意味を二重化された。書架の詰まった実体としての図書館は概念化されて「図書館」となり、それ自体として単独の宇宙を形成する新たな意味へと開かれた。『伝奇集』に収められたこの奇妙な数十ページは、「図書館」という概念を通して書物と知の関係を一層混乱させる。そしてその混乱は、読むことと知ることに関するいくつかの鮮やかな問いとして立ち上がる。以来、それらの問いに立ち向かい、背負い込むことを選んだ僕は、未だにバベルの図書館から抜け出せず、その無限廻廊を当て所なく彷徨っている。 有り体に言えば、バベルの図書館とは、これまでに出版され、そしてこれから出版されるあらゆる書物が収められた六角形の図書館である。そこでは全ての書物が「既に書かれたもの」としていずれかの書架に眠っている。そこは完全な秩序を持ったロゴスの充満としての宇宙を形成しており、それぞれの本は一つでありながら全体でもあるというライプニッツ的モナドとして存在している。 ボルヘスはアルゼンチンの国会図書館の館長を務めている最中、遺伝的な眼疾が悪化し、幾度もの手術の甲斐なく光を失う。失明した彼にとっての図書館が従来の意味から「図書館」へと逸れてゆく道理は、読書人なら想像に難くないはずだ。マッハ的視界、有限の視界を失うことで、「図書館」は無限として迫り来る整然とした宇宙となった。 本書『創造者』は、ボルヘスが全集出版の折依頼を受けて自身で編纂した詩集であり、雑文集である。鏡、虎、河、夢、月、六角形、などの清冽な象徴を星屑のように散りばめて、彼は人を、光景を、過去を追憶する。 ボルヘスは概念と抽象の作家である。彼の文学は精確と簡潔を旨として冗長を嫌い、具体を避け、説明を拒否する。しかし、この『創造者』には、確かに生身の、肉体を持ったボルヘスがいる。高鳴る鼓動があり、掠れる声が響いている。本書が「ボルヘスの文学大全」と評される由縁はこの辺りにあるのだろう。 『創造者』とは、いわばボルヘスによる『一千一秒物語』なのだ。このボルヘスこそ、我々が手を取り合って温もりを感じることを許された唯一の彼である。ここからボルヘスを始めることが、僕の考える正解である。文藝的情緒を余すところなく綴った名訳にも、最大限の賛辞を贈りたい。
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昨年、国書刊行会の何十周年記念だかのフェアがあった。『創造者』の単行本も売っていた。造本が素晴らしくてすごく欲しかったのだが、高くて手が出なかった。 国書刊行会発行の本は高い。20年以上前から昔からずーっと高い。 加筆修訂してあるっていうし、こっち(岩波文庫版)でいいや。 前半は短い物語形式、後半は詩作——“幻想譚”ってことでいいのかな? ボルヘス作品は、マルケスにハマる前に少し読んだだけだった。当時、日本ではまだマジックリアリズムという言葉自体、浸透していなかった気がする。 マルケスよりずっとシンプルな表現方法を取りながら、難解というか、今ひとつ入り込めない。それが私がこれまで抱いていたボルヘスのイメージだった。 今はどうか。 いや、やっぱ詩はね、よく解らんよ。ボルヘスじゃなくても解らんもん、たぶんw でも、めっちゃ好み。 鏡について謳われた詩では、コクトーの『オルフェ』『オルフェの遺言』を連想し、回廊等の表現は澁澤龍彦と似通ったものを感じる。 順序としてはたぶん逆だろうけど。 だから、後半ラストで、いきなり『J.F.K.を悼みて』というタイトルが出てきたときは一瞬絶句した。内容は違ったけど……え?ってなるよ、あれは(笑) 次は『ブロディーの報告書』を読む。もう全部読んでやる!(笑) ボルヘスとウンベルト・エーコ、どっちが(本の)狂人だろう?
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ボルヘスの詩集です。 南米の作家の詩集ですが、 緑豊かな自然をたたえているとか、 そういうのを期待すると面を食らうでしょう。 解説で”ボルヘスはロマンティックな古典主義者”と述べられていますが、 まぁ、たしかにその通りで、 とりわけ歴史上の偉人たちが多数登場する前半部では、 ...
ボルヘスの詩集です。 南米の作家の詩集ですが、 緑豊かな自然をたたえているとか、 そういうのを期待すると面を食らうでしょう。 解説で”ボルヘスはロマンティックな古典主義者”と述べられていますが、 まぁ、たしかにその通りで、 とりわけ歴史上の偉人たちが多数登場する前半部では、 無教養なぼくは脚注と本文を往復する読み方をせざるをえず、 あまり内容に集中できなかったというのが正直なところです。 それでも、良いなと感じられるところはちょくちょくあり、 とくに長い年月を意識させる描き方が印象的でした。
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読後。 その小説にそっくりだと思ったが、考え直す。、 その小説が詩に似ていたのだと。 短く短く切り詰めたのもそう。 酔眼でロマンティシズムで特に素晴らしいと感じたのは。 覆われた鏡 わたしがいつも映って追ってくる。 捕えられた男 子供のころに隠したナイフ!! デリア・エレーナ・サン・マルコ さよならを口にするのは、別離を否定すること。 死者たちの会話 これから生まれようとする別の人間によって夢みられている夢、だよ→呼ばれて 黄色い薔薇 薔薇を記述や暗示することはともかく、表現することはできない という啓示 証人 この男の死によって、ほんの少しだが世界は貧しくなる 変化 道具がシンボルの身分におとしめられる 天国篇、第31歌、108行 人間たちはひとつの顔を、二度と取り戻せない顔を失い 王宮の寓話 よくも、余の王宮を奪いおったな! この世に同一の物がふたつ存在することはできない 全と無 お前はわたし同様…… 地獄編 失った ボルヘスとわたし わたしの生はフーガなのだ 鏡 生殖の行為さながら…… 月 月を定義するという秘密の務め 雨 おそらく雨は……
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その著作全体を「宇宙」とか例えたくなる人は、それだけで読む前から一定の魅力を読者に与えていると思う。
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買いました。 新聞の広告では「ボルヘスが最も愛した代表的詩文集」となっている。 好きな作家なのに、そういえば持ってなかったなと。 早く読みたいが、すぐ読むのももったいないような気もする。
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ボルヘスを読むのは『不死の人』(白水社)に次いでこれで二度目だが、今回もまたあまり感銘を受けなかった。 ボルヘス自身が「自分は退屈な男である、一貫して限られた少数のテーマを歌ってきたに過ぎない。」と述べているらしいが、彼が関心をもつ少数のテーマが、私の関心とたまたま重なっていない...
ボルヘスを読むのは『不死の人』(白水社)に次いでこれで二度目だが、今回もまたあまり感銘を受けなかった。 ボルヘス自身が「自分は退屈な男である、一貫して限られた少数のテーマを歌ってきたに過ぎない。」と述べているらしいが、彼が関心をもつ少数のテーマが、私の関心とたまたま重なっていないのだろう。 そう考えると、この先何冊読もうとも、私はボルヘスに感心することはないのかもしれない。 ただ、本書においてはわずかに「セルバンテスとドン・キホーテの寓話」とシェイクスピアを歌った「Everything and Nothing」は興味深かった。
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