夜想曲集 の商品レビュー
人生って、誰か1人を愛することよりずっと大きいんだと思う。あなたはその人生に出ていくべき人よ、スティーブ
Posted by
才能と野心を巡る物語というと、少し身構える。しかし“音楽について”となるとちょっと受ける印象が変わってくる。手を伸ばしても届かない夢と挫折の哀しみが浮かぶから。 『降っても晴れても』にはミュージシャンは出てこない。大学時代からの友人である男女3人(二人は夫婦になり、主人公は独身...
才能と野心を巡る物語というと、少し身構える。しかし“音楽について”となるとちょっと受ける印象が変わってくる。手を伸ばしても届かない夢と挫折の哀しみが浮かぶから。 『降っても晴れても』にはミュージシャンは出てこない。大学時代からの友人である男女3人(二人は夫婦になり、主人公は独身を通している)の話だ。これが笑えるし、身につまされる。 「まだ四十七…その“まだ”ってのが問題。それと“ただ”ね。ただベストを尽くしているだけ。」古くからの友人に向けた言葉としては辛辣だ。でもこの後半は間接的に夫への当てつけだ。前半には、知らずに自分自身への苛立ちが滲み出ている。 遣り手のビジネスマンだが、妻からのプレッシャーに参っているチャーリー。成功している男性と夫を比べずにはいられないエミリ。レイモンドは大学時代と変わらない気楽さを装っているが、語り口以上に切羽詰まった精神状態なのは明白だ。 三人のコミカルながらも痛々しいやり取りが露わにするのは、前にも進めず後にも引けず、沈まぬよう必死に立ち泳ぎでもがいている姿だ。47歳という設定が絶妙。 ラストで、エミリとレイモンドがダンスをする「パリの四月」は、甘い恋の予感を感じる歌詞とはうらはらにサラ・ボーンのヴォーカルは哀愁に満ちている。ーもう戻れない美しい季節を想い、慈しむかのようにー。
Posted by
「老歌手」のなかで、語り手が老歌手の歌を次のように評した部分に、筆者の表現の精緻さを感じた。 「歌声にはじれったさがこもり、こんな風に心の内をさらけ出すことには慣れていないというためらいの気配さえあった。優れたアメリカ人歌手は皆そうだ。偉大な歌手は皆そうやって歌う。」 歌手を...
「老歌手」のなかで、語り手が老歌手の歌を次のように評した部分に、筆者の表現の精緻さを感じた。 「歌声にはじれったさがこもり、こんな風に心の内をさらけ出すことには慣れていないというためらいの気配さえあった。優れたアメリカ人歌手は皆そうだ。偉大な歌手は皆そうやって歌う。」 歌手を評すときにはただ「歌唱力」と表すのではなく、このような美しい表現をしたいものだ。芸術を「〜力」と表すのは退屈である。
Posted by
イシグロ初の短編集。音楽をテーマとした5編を収録。音楽そのものを楽しむというより、音楽にまつわる人間模様を描いている。どの作品も、ユーモラスな場面設定の中に、哀愁を帯びたイシグロ独特の表現力が混じっており、長編では味わえない喉ごし感があった。けっして気持ちよく派手に着地する作品は...
イシグロ初の短編集。音楽をテーマとした5編を収録。音楽そのものを楽しむというより、音楽にまつわる人間模様を描いている。どの作品も、ユーモラスな場面設定の中に、哀愁を帯びたイシグロ独特の表現力が混じっており、長編では味わえない喉ごし感があった。けっして気持ちよく派手に着地する作品はないのだが、音楽を聴いたあとのようなメロウな感覚が、読後にじんわり体に伝わってくる。イシグロって、こういう作品も書けるんだと意外に感じた一冊であった。
Posted by
5つの短編を一気に読んでしまうのはもったいないが、あまり間を空けてしまってもよくない。どの作品もそれぞれにいい。そして5つの作品で1つのまとまりを構成していることもしみじみわかる。ゆっくり、しかし焦らずに、落ち着いた気分の時に味わいたい。
Posted by
予想外のユーモア、カップル(夫婦)のすれ違う物悲しさ(まさに夕暮れという時間がしっくり来る)が、入り混じった、大人の小説。カズオ・イシグロさんってこんなお話書かれる方なのですか!是非他も読んでみたい、と思いました。 5つの短篇のうち、「降っても晴れても」には大いに笑わせられた。「...
予想外のユーモア、カップル(夫婦)のすれ違う物悲しさ(まさに夕暮れという時間がしっくり来る)が、入り混じった、大人の小説。カズオ・イシグロさんってこんなお話書かれる方なのですか!是非他も読んでみたい、と思いました。 5つの短篇のうち、「降っても晴れても」には大いに笑わせられた。「夜想曲」も面白かったし、最後の「チェリスト」は、不思議な余韻が残る。Barでお酒飲みながら読みたい一冊。
Posted by
音楽と夕暮れを背景に、様々な男女の物語が描かれている短編集。優しい印象のタイトルとは裏腹に 、作中の男女関係もいずれも現実的でかなりほろ苦め。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
音楽を題材とした短編集。それぞれ独立した話だが、叶わない夢、危機的な男女の関係、ノスタルジーが共通テーマとしてあるように感じた。 映画を観ているようで、読みやすい作品だった。 特に[降っても晴れても]が、喜劇的で面白い。
Posted by
短編集5篇 夫婦の危機と音楽家の悩み,才能とプライドなどをユーモアに包んで見事に料理している.「老歌手」が良かった.
Posted by
思っていたように人生を送れる人なんて、そうそういないのだと思う。何かしら上手くいっていない人たちが登場する5篇の短編は、どの物語もイシグロのユーモアに溢れた文章の中で、しみじみとした切なさだけではなく人生に対する肯定感を感じさせられた。
Posted by