f植物園の巣穴 の商品レビュー
◼️ 梨木香歩「f植物園の巣穴」 いやー梨木ワールド。木のうろにおちて、主人公が体験する不思議で長い異次元の旅。らしさを感じる長編。 先に読んだ「万葉と沙羅」に「目が合った本を読む」というのがあった。ようはパッと見て、ああこれが読みたいなあ、と思う本のこと。私も書店で図書館で...
◼️ 梨木香歩「f植物園の巣穴」 いやー梨木ワールド。木のうろにおちて、主人公が体験する不思議で長い異次元の旅。らしさを感じる長編。 先に読んだ「万葉と沙羅」に「目が合った本を読む」というのがあった。ようはパッと見て、ああこれが読みたいなあ、と思う本のこと。私も書店で図書館で、同じ体験をしている。本読みの真理ですな。もともと梨木香歩はフェイバリットな作家さんとはいえ、この本もやはりそうだった。 植物園に勤める専門家の男、一度結婚したが妻は身籠った子とともに亡くなった。植物園にある大きな木のうろに落ち、そこから現世に似ているものの不思議な事象が次々と起きる世界を彷徨う。前世が犬で忙しいと姿が犬化する歯医者の家内、鶏頭となる下宿の大家、不思議な神主・・そして自分の幼少の頃を追体験し、忘却の彼方にあった事実を思い出すー。 いやーもう梨木さんの想像の庭へ紛れ込んだ感触。長くはない作品、でも読み手も延々と訳のわからない道行きを進む。変な神主、キツネ、河童のような少年、歩く鯉・・幼少の頃優しくしてくれた女中は千代、亡くなった妻も千代、洋食屋の接客係の千代さん、千代があふれる。 主人公は植物園の係員。自然必然著者の得意な植物の名称が乱舞もする。またキーワードは水。川の氾濫、雨、心の旅路ではあたかも竜宮城のように水底に沈んだ幼少の頃の家を見つける。 この作品は脱出&そして新しい自分の物語か。ある意味村上春樹に似ている気がする。想像を遊ばせ、内省の旅路を辿り、潜り抜ける。異世界はまるで理の通らない、夢に似た世界で、しかし自分と確固としたつながりを持っている。 幻想の世界はどこまでも続く気がする。冗長でもあるが、脱出するための洞窟が長いのは、到達した世界を納得させるためで、手法としてはふつうかも。 そこに不可思議な現象がいくつも出てくる。その、動物の人間化など、和風なおどろおどろしさもまた梨木香歩らしい。少し「家守綺譚」に似てるかなと。 大きな驚きや感銘はないかもだが、エピローグの淡々としたさままで著者らしさを感じる作品でした。
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f植物園の巣穴 「家守綺譚」がすばらしく幻想的でよかったので、今回も期待して手に取りました。 主人公はf植物園の職員で、植物園内にある洞に落ち込んでしまい、不思議な国のアリス的な不思議を体験します。大家の頭が鶏になったり、歯医者の奥さんが犬顔になったり。自分が幼くなったり、自分の昔の家があったり。そして、主人公は幼い自分から再び成長をはじめる成長物語でもあります。 内容的には百間先生よりはおとなしめですが十分不可思議な世界ですし、谷崎先生のようなエロティックさがありません。「家守綺譚」の時ほど楽しめなかったのは、主人公のキャラクターに感情移入できなかったことによるのかな?と思います。 まあ、携帯小説みたいな作文みたいな小説が増えてきた昨今、次の作も期待しております。梨木さん。 竹蔵
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夢現、ずーっと歯が痛い、物語だった。 植物に見識が無いとちと想像がし辛い。 ずっと繋がりを考えていたけど、思っていたよりするするつながらず、最後の最後でなるほどと府には落ちた。 ジャパニーズアリス(男)だと思えば…。
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始めから、どういうこと?どういうこと?と思いながら読み進めた。 手探りで読み進めていくと予想もつかないところへ辿り着く感じは『冬虫夏草』でも感じた。 疑問ばかり沸くのに、時折感じる不思議な吸引力に読むのを止められず、最後には美代が生きていたことに驚かされた。 妻子を失った割に坦々としているなと思ったが、そうではなかった。受け止められていなかっただけだった。 独特な不思議ワールドは、学生の頃読んだ村上春樹を思い出させた。 あちらは洋でこちらは和だが。
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某ボートから出てくる人のシリーズから手に取った人には 区切りがないために読みづらさを覚えるかもしれません。 アチラよりも現実と非現実の境界が 非常にあいまいというかフッツーにいらっしゃるので。 別のf植物園にやってきた男は いつの間にか姿は子供へと変わっていました。 そして一人の少年と出会うことになるのです。 これってこの作品はフィクションだけれども 彼のような人間っていっぱいいるんだ。 時に、それと向き合う必要ってあるのよね。 今回はこの巣穴に迷い込んで 彼は真実と、現実と向き合うことができたわけで。 ホッとしたね、結末は。
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アゲハチョウはミカン科が好きで、その葉に卵を産み、モンシロチョウはアブラナ科が好きで、その葉に卵を産むことは知っています。そして、芋虫が蛹でいったん液体になり、それが成虫としてふ化する不思議さに驚いています。そんな世界を彷彿とさせる梨木香歩さんの作品「f植物園の巣穴」(2009.5発行)。歯の治療の進行に合わせた摩訶不思議な世界の描写、よく創作されるものだと、いたく感心しました。
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後半まで主人公はどこにいるのか?現実世界の日常なのか、不思議な世界の中にいるのか分からない。後半で、彼の心の枷となっていることが反映されている世界なのだと分かる。夢の中で、自己と向き合い癒していく物語なのだと思った。 本に出てくる植物は名前だけだとイメージがつきにくく調べながら読...
後半まで主人公はどこにいるのか?現実世界の日常なのか、不思議な世界の中にいるのか分からない。後半で、彼の心の枷となっていることが反映されている世界なのだと分かる。夢の中で、自己と向き合い癒していく物語なのだと思った。 本に出てくる植物は名前だけだとイメージがつきにくく調べながら読み進めると時間がかかってしまった。
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またまた不思議な世界に入り込んだ。 無意識に蓋をしていた現実に、向き合うことができるまでの彷徨い。 歯の穴の中の乳歯、椋の木のうろの中の乳歯、流れてしまった自分の子ども、歯のために死んだ千代、傲慢な自分。全部受け止めて、もう一度新たに生きていく。 一度読んだだけでは、全体の構造が...
またまた不思議な世界に入り込んだ。 無意識に蓋をしていた現実に、向き合うことができるまでの彷徨い。 歯の穴の中の乳歯、椋の木のうろの中の乳歯、流れてしまった自分の子ども、歯のために死んだ千代、傲慢な自分。全部受け止めて、もう一度新たに生きていく。 一度読んだだけでは、全体の構造がわからない。 でも、登場人物が佐田を導いてくれているということは感じる。 なんだかもやもやしているけど、嫌な気分ではない。
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なんとも不思議な世界観と読後感。 好きな人はすごくハマると思う。 主人公の心情や境遇と、出て来るキャラクターが比喩的に使われて、深く読むことができる。一度だけではそこまで読み込めなかったが、国語の問題を解くように読むとまた面白いのではないか。
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植物園の園丁氏は、赴任したf郷で放置していた虫歯の痛みに耐えかね、f郷歯科を訪れる。そこで歯科医の妻の姿が犬に見え… 先に『椿宿の辺りに』を読んでしまったので、遅ればせですが。 まるで他人の夢の中を手探りで進むような感触でした。読み終えてすぐだからか、頭の中にあるその感触を、...
植物園の園丁氏は、赴任したf郷で放置していた虫歯の痛みに耐えかね、f郷歯科を訪れる。そこで歯科医の妻の姿が犬に見え… 先に『椿宿の辺りに』を読んでしまったので、遅ればせですが。 まるで他人の夢の中を手探りで進むような感触でした。読み終えてすぐだからか、頭の中にあるその感触を、うまく言葉にすることができません。つまり、そういう小説なんでしょう。夏目漱石の『夢十夜』か、あるいは村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ時の感じに似ているような… とにかく、涼しくなったら小石川植物園に行こう‼︎と強く思っています。
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