ひとがた流し の商品レビュー
<再登録>人生の折り返しに入った女性3人の物語。 大切な人の命が僅かだと知った時、何をしてあげられるのか?もしくは自分の命の終わりを知る側だったら?夫や娘の視点も含めて進んでいく中、色々と考えさせられました。
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三人それぞれの考え、矜持、スタンスがありながらも、何十年も続いていく絆にしんみりと浸ることができる。「思い出すたびに、トムさんが帰って来る」(p.384) の台詞は、寂しくもあり、温かくもある。
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"円紫"シリーズといい、北村薫は女性の心情を描くのが本当にうまい。 何気ないエピソードの積み重ねが心情を紡ぎ、危機に直面して結びつきが強まる。 友情や愛情の本質を見せつけられる思いがする。 こういう友情は女性ならではだろうか。 新潮文庫版は詩人佐藤正子の...
"円紫"シリーズといい、北村薫は女性の心情を描くのが本当にうまい。 何気ないエピソードの積み重ねが心情を紡ぎ、危機に直面して結びつきが強まる。 友情や愛情の本質を見せつけられる思いがする。 こういう友情は女性ならではだろうか。 新潮文庫版は詩人佐藤正子の解説がすばらしい。言語感覚、表現力に優れた評者にかかると、かくも的確な評論が書けるのか。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『ひとがた流し』 北村薫 (新潮文庫) 「第一章 桜」という真面目な章題を見た瞬間、ああやっぱり北村さんだわーと思い、前回の町田康のめくるめく謎の曼荼羅世界から、一気に日常に飛ばされて帰って来たような気がした。 これは四十代の女性たちの物語である。 また私と同年代だ。 前々回の『ブラバン』もそうだったし、最近やたら主人公が四十代という小説に縁がある。 しっかりせえよ、と言われているみたいだ。 主人公の石川千波はアナウンサーである。 真面目で責任感の強い彼女は、朝のニュースショーのメインキャスターに抜擢される。 が、その矢先、自分が病に冒されていることを知る。 病名は作中でははっきりとは書かれておらず、「胸の悪い病気」となっているが、これは佐藤夕子さんの解説(いつもながら的確で温かい)の中で、北村さんの言葉として、その病名の単語と、もう一つ「涙」という言葉は使うまいと思った、と書かれている。 実に北村さんらしい。 病気を扱うことは簡単なようで難しい。 実際に病気と闘っている人やその家族、もしかして近しい人を亡くしている人もいるかもしれず、作者がきちんとした考えを持っていないと、うわべだけの感動物語になってしまう。 どこまで踏み込むか、どの立場で見るか。 読んでいくと、物語の中心が千波の闘病生活ではないことが分かる。 病気は静かに進行していくけれど、その部分がことさら大げさに描かれているわけではない。 描かれているのは、登場人物それぞれの日々の生活だ。 牧子や美々とその家族、そして何より、こりゃちょっと出来すぎじゃないの?と思えるほどの優しい鴨足屋(いちょうや)良秋との出会い。 解説の佐藤さんも私と同じことを思ったらしく、直接北村さんに、「いちょうやさんみたいな男の人いるでしょうか?」と訊いたらしい。 北村さんは即座に、「います。僕だってああしますよ」と言ったのだそうだ。 「います」は分かるが、「僕だってああします」はなかなか言えないですよ。 なんちゅう格好いいおじさまなのだろう。 ホスピスでわがままを言って荒れた千波を看取った後、良秋はこう言った。 「いいんですよ。そのために、ぼくがいたんだ。」 この一言だけでも、この本読んだ甲斐があったなぁ。 感動… 足の怪我をした牧子の病院に、千波が来るシーンがすごくよかった。 秋の西日が斜めに差し込む病院の渡り廊下。 一日の疲れを残した、まったりとした琥珀色の風景の中で、怪我人の牧子と病人の千波が、最後のひと時を過ごす。 これは、この物語の中で一番心に残ったワンシーンだった。 病気の人に対して、健康な人は立場が弱い。 実際に経験した人にしか私の気持ちは分からない、と言われてしまえば、その通りですごめんなさいと言うしかない。 だから本当は、病気を扱った話は私は苦手なのだ。 この『ひとがた流し』も、そんな話だったらきっと最後まで読めなかったに違いない。 千波が手術前に撮った写真のフィルムを、彼女の死後、良秋が日高類に返すシーンがある。 心がふっと緩んだ。 この病気に対する作者の姿勢、気持ちが伝わってきた。 これなら私も納得できる。 決してハートウォーミングな物語ではないけれど、登場人物たちに向けられた作者の優しい眼差しが、千波たちと同じ四十代の私にも、同じくらい優しかった。
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これが「月の砂漠をさばさばと」の続編だと知らなかった。NHKでドラマになっていたのも知らなかった。 読むに連れてあのほのぼのとした母と娘の暮らしを思い出した。あ~いい本だったな。 この本は作者と題名が気になったので手に取った。流れると言う言葉に少し拘って、というより生きていくこと...
これが「月の砂漠をさばさばと」の続編だと知らなかった。NHKでドラマになっていたのも知らなかった。 読むに連れてあのほのぼのとした母と娘の暮らしを思い出した。あ~いい本だったな。 この本は作者と題名が気になったので手に取った。流れると言う言葉に少し拘って、というより生きていくことは言葉にすればそういうことだと日ごろから思っているし。「ひとがた流し」いい題名だと思った。 今度はお母さんの牧子さんと二人の親友の話になる。 メインは、独身のままアラフォーを迎えている千波。二人からは「トムさん」と呼ばれている。 駆け出しの報道時代を経て念願のメインキャスターの席を得た。そこで悪性の腫瘍が見つかる(胸の悪い病気と書いてある) もう一人美々は子連れで離婚、今は写真家と結婚している。結婚したときはまだ物心ついていなかった子供は実の父親だと思っている。この親子関係が実に温かく、高校生になった娘が父の写真を理解して同じ目で写真を写し始めている。このあたり、優しさとともに、実子でない親子にある現実が少し重荷であって、どう解決しようかというあたり、心温まる結末がジンとくる。 サバの味噌煮を作りながら歌っていたお母さんの牧子さんと、大学受験前のさきちゃん、時間は流れ、それぞれ三組の家庭の話も、あたたかいふれあいの中で時が過ぎている。 千波は局で知り合った後輩のイチョーヤさん(君)と最後の時間をすごすことになる、このあたりは出来すぎかもしれないが、事実は小説よりも危なり。そういうこともありかもしれず。大きな試練を越える千波に最後の贈り物は哀しくて美しい。 そんな、目の前の厳しさも包み込むようないい本だった。
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使われている文字に特別なものはない。 普通の文字を重ね合わせ、日常的に起こりうるエピソードが、柔らかく、そして印象深く描かれ、読み手の心に残って行く様は、作家の文章に対する愛情すらうかがえる。 物語は、主要な登場人物が、各章ごとにその役割に沿って描かれており、読み終わった頃に...
使われている文字に特別なものはない。 普通の文字を重ね合わせ、日常的に起こりうるエピソードが、柔らかく、そして印象深く描かれ、読み手の心に残って行く様は、作家の文章に対する愛情すらうかがえる。 物語は、主要な登場人物が、各章ごとにその役割に沿って描かれており、読み終わった頃には、登場した各々に対して思い入れが強くなり、読後の余韻を味わうことができる。
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3.1 女性の友情の物語。だれかに必要だと思われることの への切実な思い。人とつながるには、具体的な行動が大切だと教えてくる話。自分はここまで思い入れる人はいないかな。
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なかなか読むのに時間がかかってしまった。。。 幼い頃からの女友達3人。 結婚していても、子供がいなくても、環境に左右されずずっとつむがれてきた友情が、ひしひしと感じられた。
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「円紫さんと私」シリーズは NHKドラマで青春ミステリと題され表されるようなそれだが 本作はミステリからより日常に寄る題材 こういう形式様式の小説をどう分類する言葉があるのか かぶんにしてご存じございませんのですが 地の文でなく作中人物のあたりまえな会話にも聡さを表すさまは 作者...
「円紫さんと私」シリーズは NHKドラマで青春ミステリと題され表されるようなそれだが 本作はミステリからより日常に寄る題材 こういう形式様式の小説をどう分類する言葉があるのか かぶんにしてご存じございませんのですが 地の文でなく作中人物のあたりまえな会話にも聡さを表すさまは 作者の背景を見ればミステリのようであり 解説の例にある古典文芸の芸であるようでもある 日常の部分を日常にありうべからざる様式で表現する形式に対して 意識的である作法が作者の芸
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「どんなお話?」と聞かれたとき、言葉に詰まる本というものがある。 とてもじゃないけど、ひと言では到底言い表せない、そんな本。 語れば語るほどに空虚な言葉が宙を飛んでいく、そんな錯覚に囚われる。 話せば話すほど、その本が詰まらなく感じてしまう、そんな本。 説明すればするほど、空虚で...
「どんなお話?」と聞かれたとき、言葉に詰まる本というものがある。 とてもじゃないけど、ひと言では到底言い表せない、そんな本。 語れば語るほどに空虚な言葉が宙を飛んでいく、そんな錯覚に囚われる。 話せば話すほど、その本が詰まらなく感じてしまう、そんな本。 説明すればするほど、空虚でグダグダになってしまうような、そんな本。 けれど、間違いなく、自信を持って名著であると言い切れる、そんな本。 読書中には、ぐいぐい引き込まれてページを繰る手が止まらない。 読後には、心に豊かな感情が湧き起こる。 ああ、この本と出会えてよかったな―、と幸福を噛み締められる。 本書は、そういう作品です。 「良かったよね」「うん、とても良かった」 「素敵な作品だよね」「うん、本当に素敵」 そんな会話を、ぽつぽつと誰かと交わしたい。 そして、互いの間に交わされる、目に見えない共感の糸を感じていたい。 緩やかで暖かい雰囲気を感じながら、互いを包み込んでいる幸福感に身を委ねたい。 そんな、至福の時間を誰かと共有したい。 なんとなく、人恋しくなる。そんな作品です。 北村薫氏は、やはり天才なのだなあと思いました。
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