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このあいだ東京でね の商品レビュー

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12件のお客様レビュー

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2009/12/06

「その銀座通り、また並木通り、ガード沿いのコリドー通りと、行き方はいろいろとあるにせよ新橋方面から歩いて晴海通りへと出て、どの道を行こうとも結局は数寄屋橋交差点あたりで合流して最後には、有楽町マリオンのビルのあいだを通り抜けてJRの改札に向かう。」-『さようなら、またいつか』 ...

「その銀座通り、また並木通り、ガード沿いのコリドー通りと、行き方はいろいろとあるにせよ新橋方面から歩いて晴海通りへと出て、どの道を行こうとも結局は数寄屋橋交差点あたりで合流して最後には、有楽町マリオンのビルのあいだを通り抜けてJRの改札に向かう。」-『さようなら、またいつか』 「四十日と四十夜のメルヘン」から数えて三冊目となる青木淳悟だ。相変わらず言葉が溢れている。作家に対する印象は作品とともに作家も変わっていくので変わっても当然と思うけれども、「このあいだ東京でね」を読みながら、作家の尽くす言葉が「思い」から「固有名詞」にはっきりと移った印象を持った。スタイルが変わったとは思わない。溢れる言葉は次々と浮かぶ思いに促されて書き連ねられているという印象は、これまでと同じように残る。しかし読む側の思いの速度は立ち止まり気味となる。 次々と頭の中に浮かんでくる思いがどんどん言葉に置き換えられるのを見るのは嫌いではない。それらの思いが物語の流れとは直接関係なくても、それを読み進めることはちっとも苦だとは感じない。しかし、固有名詞が溢れてくると読み続けるのは苦しくなる。それは言葉が何かを喚起する力が固有名詞では強過ぎるからだろうと思う。 もちろん作家がただ単に固有名詞を放り込んでいる訳ではないことは解る。そこから立ち上がる思いが見え隠れもする。しかし胸が苦しいような、酸素が足りていないような、そんな気分になってくるのである。 話は違うけれども、自分も日本で勤務する時には、西新橋に事務所がある会社へ通わなければならない。毎朝少しでも会社に行くのが遅くなるように、大手町で地下鉄を下りて歩く。その時間は、頭の中に様々な思いが浮かんでくるように身体をほぐす準備体操の時間のようなものでもある。目に写るもの、花、雲、水、鳥、石、建物、人、そんなものが何かを喚起していく。そうして生まれた思いの種を掌で温めるように言葉を巡らす。それは青木淳悟が「このあいだ東京でね」の中で繰り広げて見せてくれることと似たようなところがある。しかし、そんな何の脈絡もない数々の思いをことごとく言葉に直したものを読んだとしても、もちろん、息が詰まったりはしないだろう(それは自分の言葉だからということではなく、もし同じような物語を誰かが書いていたとしても窒息はしないと思う)。その違いはなんだろうか、と考えてみる。 ひょっとすると自分は固有名詞の持つ、何かがオートマチックに決定される感じが苦手なのかも知れない。例えば、大手町にある赤いレンガを模した外観の建物に貼り付いた「○○ビルヂング」という言葉を目にしても「○○」の方には余り思いが吸い寄せられずに、どちらかと言えば「そういえばこの通り沿いに『ビルヂング』という名前を冠した建物は幾つかあるなあ」という方へ漂ってしまう。 あるいは、自分の職業では地表や地下を構成するものに付いた名前(まどろこしい表現ですが一般的には地層名と言います)を使って過去の出来事を説明するのが常識であるのだけれど、自分にはそれがいつもしっくりとしない、ということとも繋がっているかも知れない。地層名というのは、同じ時代に同じような環境で生成されたものにも異なる名前が付いていたりするのだけれど、地層に付いた名前には、付随する地質学的概念や地域性がべったりと張り付いているので、それを符丁としてコンパクトに主張を伝えることができる(それはどの分野でも用いられる専門用語の利便性である)、とは解っているのだけれども、その固有名詞の持つ強権発動的な雰囲気が苦手なのである。それと似た違和感があるのかも知れない、と思い至る。 それは、二桁の積算を筆算で行うのと計算機で行うことの間に存在する違いのようでもある。その時に感じる、取り残されたような気分(特定の言葉に付随する概念を物理的に頭の中で再現する間に話者は先に進んでしまうので)を、今回の青木淳悟には感じてしまったのだった。

Posted byブクログ

2011/09/18

うーん…なんといったらよいのでしょう。8つの作品集のうち表題作は、一切の感情表現はなく、都内に住居を持とうと考えた者の語りは延々流れるビデオを見せられているようです。実験的?もっと楽しさがほしいなぁ。全部は読めず飛ばしてしまいました。

Posted byブクログ