松本清張短編全集(06) の商品レビュー
社会派ミステリー作家としての人気を得る前のデビュー直後、多くの短編小説や歴史小説を書いていた頃の松本清張作品集。どの作品も自分の生き方に弱気になってしまった人間たちの苦悩、諦めがテーマ。 「地方紙を買う女」。タイトルはこの短編集一番のカッコよさだが、その内容は締切に追われてとり...
社会派ミステリー作家としての人気を得る前のデビュー直後、多くの短編小説や歴史小説を書いていた頃の松本清張作品集。どの作品も自分の生き方に弱気になってしまった人間たちの苦悩、諦めがテーマ。 「地方紙を買う女」。タイトルはこの短編集一番のカッコよさだが、その内容は締切に追われてとりあえず、書き上げたという印象。この作品を通して、人気作家となった松本清張の苦悩、諦めを感じる。 ベスト作品は短編集タイトルの「青春の彷徨」だろう。心中しようとする男女が死に場所を探して彷徨すると同時に、彼らの心理も生と死の間を彷徨する。しかも、その男女を、死ぬことなんて考えもしない野次馬がああだこうだと語り合う対照が面白い。「死」をエンターテイメント化するミステリー作家の誕生だ。
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「ひとりの武将」が印象に残った。淡々とした筆致で、戦国時代における、ある生き様を描く。私が戦国武将だったら、彼のように不器用に行動したかも知れない。生まれ持った人間の器が小さければせっかくの熱意や努力もその限度を超えず、自ら台無しにしてしまうのである。誰のせいでもなく自分の宿命と...
「ひとりの武将」が印象に残った。淡々とした筆致で、戦国時代における、ある生き様を描く。私が戦国武将だったら、彼のように不器用に行動したかも知れない。生まれ持った人間の器が小さければせっかくの熱意や努力もその限度を超えず、自ら台無しにしてしまうのである。誰のせいでもなく自分の宿命というものかもしれない。
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清張の作品には、阿蘇を舞台にしたものがある。 この作品の中の「青春の彷徨」がそうだし、短編全集1に収められている「情死傍観」もそうである。 多分、清張が北九州市生まれだからだろう。 収録作品は、 ・喪失(1956年) ・市長死す(1956年) ・青春の彷徨 ・弱味 ・ひとりの武...
清張の作品には、阿蘇を舞台にしたものがある。 この作品の中の「青春の彷徨」がそうだし、短編全集1に収められている「情死傍観」もそうである。 多分、清張が北九州市生まれだからだろう。 収録作品は、 ・喪失(1956年) ・市長死す(1956年) ・青春の彷徨 ・弱味 ・ひとりの武将 ・捜査圏外の条件(1957年) ・地方紙を買う女(1957年) ・廃物 ・運慶
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「市長死す」(S31)数年前に2時間サスペンス化されていたが、これをよくぞ2サスに。原作では「芳子」は殆ど描かれない。本人の気持ちを全く考えようともせず、返してくれとか、なんちゅー勝手な男じゃ、と脚本家も思って、(原作にない)「気持ち悪い」という痛烈な一言を言わせたのか。 「青春の彷徨」(S28)なんか耶馬溪に行きたくなった。 「ひとりの武将」(S31)佐々成政の「空回り」人生を、同年の前田利家へのライバル心、後には秀吉の成功への理不尽感も加わってのあがきで説明した話。常軌を逸した沙羅沙羅越えは、そういう強いコンプレックスゆえ、ということで物語を作ったのだろう。 「捜査圏外の条件」(S32)と「地方紙を買う女」(S32)は、主人公の犯罪がうまくいくよう応援したのに。特に「地方紙」は、今だったらありえない個人情報の取り扱いで、作家の粘着ぶりが気持ち悪いよー。調べ方もヘンだし。購読やめたのは目的を達したからだということで、やめた日から遡って記事調べるのがふつうでしょう。購読始めた日から順を追ってなんて非効率的だし、そもそもそれで1カ月近くの中で東京が関係する記事がどんぴしゃりの1件だけなんて、いくらなんでも嘘くさいだろう。 大久保彦左衛門を描いた「廃物」(S30)と「運慶」(S32)は、ともに死の床にある主人公が過去を振り返ってぼやいたり憤慨したりするという形式をとっている。 そのほか、「喪失」(S31)「弱味」(S31)を収録。
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現代物が推理小説の方向へ傾倒していくのに対して。歴史小説が相変わらず人間の妬み嫉み恨み辛みを描いているという対比が何となく面白かった。そして「運慶」に描かれる芸術の、いや世の中の無常感とそこにあがなえない人間の哀しさが何とも言えない。
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