神器(下) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
軍隊ミステリーの傑作。上下巻を一気に読み終えてしまった。 1945年4月、「大和」が沖縄に向けて片道特攻に赴いたその時期に、真の「高天原」=ムー大陸を目指す妖しい天皇カルトが日本海軍の巡洋艦をハイジャック、単艦南太平洋を目指していく――。小栗虫太郎にかぶれたミステリー作家志望の上等水兵・石目鋭二を狂言まわしにしながら明らかになっていく「謎」とは、男たちが「恋闕」し、聖と性とが妖しく交わるカルトとしての天皇制の物語に他ならない。 この作品が描いたカルト「皇祖神霊教」は確かに天皇制のニセモノだが、それでは現在の天皇家がニセモノではない保証がどこにあるのかと考えたとき、この作の問題性が浮かび上がる。軍艦「橿原」の中央に巣くった「奥の院」が艦全体を狂わせていくという物語の構図は、まさに近代天皇制の物語そのものであり、「皇祖神霊教」は、天皇を戴く「神の国」ニッポンの根幹をごく散文的に記述したものに他ならない。つまりこの作品は、裏返された「英霊の声」としてある。あっけらかんと天皇制を棄て去ることができなかった「ニッポンジン」には、未だにその神国思想の残滓が亡霊のように漂っている。
Posted by
虚と実が入り混じる奥泉ワールド。 語り手や時点、表現形式が複雑に交錯し、読者は落ち着かない気分を強いられる。 小説的試みはいろいろされているが、物語を引っ張る軸は余り強く感じられず、読了感は整理しづらいものであった。 戯曲形式をとっていないところも含め、全体として一種戯曲を見てい...
虚と実が入り混じる奥泉ワールド。 語り手や時点、表現形式が複雑に交錯し、読者は落ち着かない気分を強いられる。 小説的試みはいろいろされているが、物語を引っ張る軸は余り強く感じられず、読了感は整理しづらいものであった。 戯曲形式をとっていないところも含め、全体として一種戯曲を見ているかのような感じも受けることがしばしばあった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
上巻レビューの続きです。 やっぱりタイトルは偽りであって、「殺人事件」といってもミステリー物ではなかったですよ。 時に昭和二十年、皇国の存亡を賭けた密命を帯びる軍艦「橿原」の航海はますます狂気じみたものになっていく。艦長の公開切腹やら、催眠術のように思想伝染する狂信的な一党の躍進やら、そして極秘裏に格納されている●●が発する七色電波を浴びたものが●●になってしまうとか、ポリネシア洋上にある「本当の日本人の故郷」を目指す壮大な計画など、次から次へとびっくりエピソードのたたみ掛け、いったい物語はどこへ向かうのかという気になるが、ついに最期の時が訪れる… さて、では果たしてこの戦記ファンタジーは一体何を描こうとしているのかといえば、ことさらSFや神秘オカルトの味付けで誇張しているものの、きっとイデオロギーが過熱していく渦中で、一人の人間が個ではなく、集団の一部に溶けあってしまうことの寓話なのだ。 対して、我らが主人公・石目上水兵の斜に構えたモノの見方、狂気に汚染されていく状況をドライに客観視するスタンスは気持ち良く、物語のラストシーンは個人的にとても清々しく感じた。同じ(?)戦艦モノとはいえ『男たちの大和』みたいなものとは真逆の精神で書かれているので、間違ってもあれを見て泣いた人とかは、コレを読むのは止めておきなさい。とだけ言っておきたい。 そもそも、この本を手に取ってみたのは朝日新聞での斎藤美奈子の書評コーナーがきっかけだった。斎藤先生のおススメは結構自分には、どストライク。それにしてもロンギヌスの槍だの、球体をした超空間だの、某エヴァンゲリオンの香りのするのは気のせいか?
Posted by
太平洋戦争を通じて日本人の精神性を描くのが主題か。 そういう意味では「浪漫的〜」に続く作品だ。 「座りの悪い」話なのはいつものことだが、それにしても難解。 (構成が「白鯨」のオマージュらしい。わからん) そして文章の密度は過去最大級。 終盤のSF的展開にニヤリとするし(ロンギヌス...
太平洋戦争を通じて日本人の精神性を描くのが主題か。 そういう意味では「浪漫的〜」に続く作品だ。 「座りの悪い」話なのはいつものことだが、それにしても難解。 (構成が「白鯨」のオマージュらしい。わからん) そして文章の密度は過去最大級。 終盤のSF的展開にニヤリとするし(ロンギヌスw)、 毛抜け鼠の存在は奥泉にしか出せない「語り」のマジックだ。 まぁビギナーにはすすめにくい、奥泉プロパー向け作品だろう。
Posted by
●読了しました。 軍艦「橿原」で発見された不可解な死者とは? 「橿原」に乗り込んできた黒装束の男たちとは!? そして「橿原」に課せられた謎の使命とは!!? あとはネズミとかネズミとかネズミとか人間鼠とか! 異常な緊張感と閉塞状況の下で次々に死者が増え、奥の院ではソドムとゴモラの如...
●読了しました。 軍艦「橿原」で発見された不可解な死者とは? 「橿原」に乗り込んできた黒装束の男たちとは!? そして「橿原」に課せられた謎の使命とは!!? あとはネズミとかネズミとかネズミとか人間鼠とか! 異常な緊張感と閉塞状況の下で次々に死者が増え、奥の院ではソドムとゴモラの如き痴態が繰り広げられる中、艦内の一兵卒に至るまで急速に狂気へと染まりゆく・・・・・! ●・・・・・・・・・って。タイトルに完全にだまされましたな・・・(´Д`;) 『鳥類学者のファンタジア』的なものを期待したら『浪漫的な行軍の記録』の方向だったような。 読了後下巻の作品紹介を見たら、「日本人論や戦争論が展開される純文学長編」となっていましたが、ええまあそんな内容です。最後の方はなんだか戯曲調。コロスもあるよ! 石目青年視点の文体は、やっぱり変なユーモアがにじみ出ています。よい。 左翼的文化人みたいな人にすすめるのは読みが甘すぎるだろうか・・・・・。
Posted by
軍艦「橿原」には、「神器」がひそかに持ち込まれていた―。大量発生した鼠、そして極秘任務の真偽を巡って錯乱する兵士達を運んで航行を続ける「橿原」の艦底で、時空を超え、民族を超えたスケールの日本人論、戦争論が展開される。記念碑的純文学長編。
Posted by
靖国神社には 勝った物しか祭られないというのがそうかもなぁ とっていうか 自分的には 自分の祖先はやっぱ お墓に祭られていて仏様になっていて神社で神様になったというのはなじめない感じはあります
Posted by
死にいくことこそが正義である時代の海軍の様子が、軍艦萱原に乗った乗組員たちの生き生きとした動きとともに伝わる。彼らが人として、生き生きとしていればしているほどに、せつないその人生。戦争が悪いとひと言で言ってしまえない、心の奥底にある何かに、言いようのない憤りを感じずにはいられない...
死にいくことこそが正義である時代の海軍の様子が、軍艦萱原に乗った乗組員たちの生き生きとした動きとともに伝わる。彼らが人として、生き生きとしていればしているほどに、せつないその人生。戦争が悪いとひと言で言ってしまえない、心の奥底にある何かに、言いようのない憤りを感じずにはいられない。 戦争に踊らされただけかもしれない、愚かだったかもしれない。でも、今も昔も一般小市民はあらがえないのである。あらがえない以上、そこに自らの信念があると信じて、突っ走っていくしかない。いや、信じられるものがあっただけ、彼らの方が幸せだったのだろうか。いきとし生きることの永遠の真理を求めるかのような奥深い彼らの情念を感じずにはいられない。 読破するのに、実に一ヶ月もかかってしまった。重くて退屈な部分も多いけれど、途中で放棄することを許さないようなそんな作者の、いや今は亡き海軍兵たちの怨念のようなものに取り付かれてやっと読み終えた。
Posted by
戦記小説・ミステリー・幻想奇譚から戯曲・俳諧まで様々なスタイルに則り、抒情的で格調すら帯びた「美文」から「なんかヤバくね」まで多様な語り口から描かれるのは、戦争。 戦争と日本。虚構と歴史。ナショナリズムと物語。死者と言葉。これら重厚な主題が重層的に語られ戦争が戦争と現代が問い直さ...
戦記小説・ミステリー・幻想奇譚から戯曲・俳諧まで様々なスタイルに則り、抒情的で格調すら帯びた「美文」から「なんかヤバくね」まで多様な語り口から描かれるのは、戦争。 戦争と日本。虚構と歴史。ナショナリズムと物語。死者と言葉。これら重厚な主題が重層的に語られ戦争が戦争と現代が問い直されていく。単純な修正や盲目的な反省とは別の仕方で戦争と現代を問い直すために、一読だけでは分かりかねた本書を何度でも読み返したい。
Posted by
- 1