ブロデックの報告書 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
閉鎖的な小さな村の粗野な人々、戦時下、人が狂気に囚われる様子が淡々と描かれる。 家族を連れて村を離れるブロデックが振り返ると村は見えない、存在していない。ブロデックがトラウマや恐ろしい記憶から解放されることを暗示しているように思えてホッとする。
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戦後の封建的な雰囲気の残る町にあるひとりの男が、驢馬と馬と一緒にやってきた。彼は村のなかを歩き回り、何かを手帖に書きつけたり、風景をスケッチして回った。 しかし、次第に村人は彼はなんのためにそのようなことをしているのかを疑問に思うようになり、最後は驢馬や馬と同じように彼も惨殺して...
戦後の封建的な雰囲気の残る町にあるひとりの男が、驢馬と馬と一緒にやってきた。彼は村のなかを歩き回り、何かを手帖に書きつけたり、風景をスケッチして回った。 しかし、次第に村人は彼はなんのためにそのようなことをしているのかを疑問に思うようになり、最後は驢馬や馬と同じように彼も惨殺してしまう。 なぜ、悲惨な事件は起こってしまったのか、村民のブロデックは報告書を書くよう命じられる。 フィリップ・クローデルは、良質の作品を書く作家である。
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『あれから僕はこの名を記憶がら消し去ろうと努力してきたが、人は自分の記憶に命じることはできない。ときどき少し眠らせることができる程度だ』-『XVI』 「リンさんの小さな子」「灰色の魂」でもそうだったように、フィリップ・クローデルは未だ語っていないことを知らしめることに少しも頓着...
『あれから僕はこの名を記憶がら消し去ろうと努力してきたが、人は自分の記憶に命じることはできない。ときどき少し眠らせることができる程度だ』-『XVI』 「リンさんの小さな子」「灰色の魂」でもそうだったように、フィリップ・クローデルは未だ語っていないことを知らしめることに少しも頓着せずに物語を始め、紡ぎ続ける。まるでそんな当たり前のことなど語る必要もない、と決めつけているかのように。しかし謎解きのように語られていないことは少しずつ明らかになってゆく。わざと中心からずれた辺りの事実だけが見えるように物語は進み、読む側には重苦しさが積もってくる。それもまた以前の読書と同じようだな、と思う。 その重苦しさの正体は、「語られていない」ことが、ひょっとしたら「語られるべきではない」ことなのだろうか、という予感に起因するものだろうと思う。そしてフィリップ・クローデルの小説の中では、その予感は大体において的中することになる。 しかし、よくよくその中身を覗いてみると、重苦しさの中には何か罪悪感に由来するようなものが潜んでいることにも気付く。それはきっと「知るべきではない」ことを「知りたい」と思うことに対する恥の意識、あるいは、恐らくそれが人倫にもとることだと予感しつつ言葉になることを期待している相反する思い、そしてそれを持て余している自分に対する苛立ち、目の前に曝け出されればそのグロテスクな様に思わず目を逸らしてしまうだろうというのに見てみたいと疼く業の深さ、そんなものがドロドロとした感情になって重苦しさを更に持ち上げているのだ。 しかし一端そのグロテスクな事実らが脳の中にしまい込まれてしまうと、それは後々まで記憶となって、二重の意味で自分を苦しめる。記憶された事実によって引き起こされる直接的な身震いする恐怖、と、その記憶を引き寄せてしまったのが結局は自分自身であるという事実による責苦、によって。 そんなことを考えていたら、フィリップ・クローデルのこの本と他の二冊には共通して、少し精神を病んだ人の多幸感が描かれていることに思い至る。他人からはどう見えようとも、自分自身の精神世界の中に生きる者にとってそれは大きな問題ではない。その幸せそうな生き方に、思わず引き込まれそうにもなる。しかしその誘惑をどう受け止めるべきなのか、何故そう思ってしまうのか、思ってしまうのは正しいことなのか、そんなことが自分の中でたちまちに疑問となって頭をもたげてくる。 それでは余りに世界に対して閉じてしまっているのではないか、と思いながらも、現実が耐え切れぬほどに過酷な時に、現実を理性的に受けとめてやれる筈もない、とも思う。そんな風に半ば放り出したようなことを言葉にしてみると、ただちにそれは手元に切っ先を向けて返ってくる。さて、今の自分にとっての現実はどうなのか? 自分の精神は病んで引き籠りそうになっていないだろうか? フィリップ・クローデルを読むと、少し世界が自分から遠のいてゆくような錯覚に陥ってしまうのだ。 Gatekeeper you held your breath / Made the summer go on and on Feistの声がどこか頭の片隅で、鳴る。
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人生とはいかにも奇妙なものだ。ひとたびそこに身を躍らせてしまえば、自分のしていることをしょっちゅう自問するはめになる。まるで掴めないものを掴もうとしているかのようだ。しかもそれをやめられない。 私が何をしているのか、そこにはどんな意味があるのか?死ぬときにはそれがわかるんだろうか...
人生とはいかにも奇妙なものだ。ひとたびそこに身を躍らせてしまえば、自分のしていることをしょっちゅう自問するはめになる。まるで掴めないものを掴もうとしているかのようだ。しかもそれをやめられない。 私が何をしているのか、そこにはどんな意味があるのか?死ぬときにはそれがわかるんだろうか?その時私は何を思うのだろう?もっと生きていたい?何もかもに満足している? マルク・ペレス 画家 どんなことがあっても、もう立ち上がる力すらないと感じても、人は何度でもやり直せる。
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フランス作品。終戦直後の寒村で、1人の「よそ者」が殺される。強制収容所帰りのブロデックという男が、この事件に関する報告書を書くように言いつけられる。ブロデックは事件の報告書を書く傍ら、収容所での体験やそれ以前の出来事を夜ごと書き続け、行きつ戻りつしつつ、逃れられない自らの過酷な記...
フランス作品。終戦直後の寒村で、1人の「よそ者」が殺される。強制収容所帰りのブロデックという男が、この事件に関する報告書を書くように言いつけられる。ブロデックは事件の報告書を書く傍ら、収容所での体験やそれ以前の出来事を夜ごと書き続け、行きつ戻りつしつつ、逃れられない自らの過酷な記憶をたどっていく。あらすじを書くとそんな感じだが、構成が骨太で、底力を感じさせる。哀しい話だし、読後感は重い。謎も残るのだが、それがずさんな感じがまったくしない。戦争の狂気、集団の狂気、人の弱さと強さについて、改めて考えさせられる。もう1つすごいのが、本作が「高校生ゴングール賞」なる、高校生読者の投票で決まる賞を取っていること。フランスの高校生、読書の基礎体力が高いと思う。
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人間の愚かさ、醜さ、残酷さを描きながら寓話的。 というより、寓話も、そもそもは残酷だったりするわけで。 この手法のおかげで、悲惨なはずの運命が、どこかおとぎ話のように思えて 少しだけ救われる。
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「僕はブロデック、この件にはまったく関わりがない。僕は何もしなかったし、何が起こったのかを知ったときでも、できればいっさい語らず、自分の記憶に縄をかけ、金網の罠にはまった貂(てん)のようにおとなしくさせるためにきっちり縛り上げておきたかったのだ。」 戦争が終わって間もない小さな村...
「僕はブロデック、この件にはまったく関わりがない。僕は何もしなかったし、何が起こったのかを知ったときでも、できればいっさい語らず、自分の記憶に縄をかけ、金網の罠にはまった貂(てん)のようにおとなしくさせるためにきっちり縛り上げておきたかったのだ。」 戦争が終わって間もない小さな村の住民による「よそ者」の集団殺人。事件を記録するように命じられたのは、強制収容所を生き延びるためにした人間の尊厳を賭けた体験のトラウマから今も逃れられないでいるブロデックであった。 彼自身と村の人々の傷ついた記憶と現在が巧みに入り交じるこの物語は、人間心理の深部に潜り込み、強い印象を残す挿話を語り継ぎながら、謎めいたラストに向かって力強く突き進んで行く。文学の底力を見せた、2007年高校生ゴンクール賞受賞作。
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