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めくるめく世界 の商品レビュー

4.1

9件のお客様レビュー

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2024/03/15

奇想というよりかは空想の爆発。一人称二人称三人称が交錯していく形式は面白かったし、詩的で文学的なんだけどめちゃくちゃ笑える。段落替えが殆ど無くて、ばーっと文章を羅列していく感じだった。けど『襲撃』のときのような息苦しさは無くて、次々と繰り出される「めくるめく世界」を表現するのに一...

奇想というよりかは空想の爆発。一人称二人称三人称が交錯していく形式は面白かったし、詩的で文学的なんだけどめちゃくちゃ笑える。段落替えが殆ど無くて、ばーっと文章を羅列していく感じだった。けど『襲撃』のときのような息苦しさは無くて、次々と繰り出される「めくるめく世界」を表現するのに一役買っていた。ページ数の割に文章多い。長い。けどこの小説の波長に合ったとき一気に読み進められる。ただただ楽しい読書体験だった……

Posted byブクログ

2020/02/28

 キューバの作家、レイナルド・アレナスの長編小説。ずいぶん前にアレナス自身を描いた映画「夜になる前に」が東京で公開されていたけれど、見るチャンスを逃してしまい、アレナス作品に触れたのは事実上これが初めてである。率直に言えば途中まで読んでから長らく放置していて、このたびようやく読了...

 キューバの作家、レイナルド・アレナスの長編小説。ずいぶん前にアレナス自身を描いた映画「夜になる前に」が東京で公開されていたけれど、見るチャンスを逃してしまい、アレナス作品に触れたのは事実上これが初めてである。率直に言えば途中まで読んでから長らく放置していて、このたびようやく読了した作品でもあった。読み終えるまでに10年以上かかったのは個人的には最長記録。  どうやら現実の人物であったらしい修道士、セルバンド・デ・ミエル師に取材した奇想の物語である。18世紀中葉のメキシコに生まれ、動乱の新旧大陸を股にかけて活躍してはあまたの著名人と交わり、メキシコの独立を見届けて昇天したこの怪僧、ほんとうに実在したのだろうかと疑いたくなるほどの破天荒さであり、実際にこの小説の特異な叙述が混乱に輪をかけている。当人の語る一人称、かくあれかしと作者の語る二人称、事実を客観的に叙述する三人称という戦略をとって、この怪僧の奔放な生涯が足跡が存分に語られる。  とはいえ、当初は比較的厳密に一・二・三人称が交互に語られて一つの事実を多面的に照射しているのだが、だんだん一人称が優勢になり、客観的叙述であるはずのところにもあまたの歪曲や誇張が入り込んできて、見事に物語が混乱してゆく。まあこういうコンセプトをシステマティックに徹底すると、いわゆるポストモダン小説みたいに「よく書いたなとは思うけど小説としてはちっとも面白くない」ものに堕してしまいがちなので、これでいいのだろう。とはいえ少々くたびれるのも事実であって、ちょっとは現実に碇を下ろしてくれ! という気分になることはあった。  基本的には「こうあって欲しかったセルバンド師」像が極めて優勢で、作者自身の憧憬が強く投影されているように思う。そもそもが18~19世紀の欧州に新大陸、混乱を極めていたのは事実だし、このような怪人物に事欠かないこともあって、こういった趣向はむしろふさわしいのかも知れないが。  なお本作、随所からゲイポルノ的な雰囲気が感じ取れるのが興味深く、はっきり言えばかなり面白かった。たとえば「14 国王の庭園を訪れた修道士の見聞について」などはわかりやすいけれど、「24 ロス・トリビオスの監獄について。修道士の幽閉」で丹念に執拗に描写される修道士の緊縛のようすなど、倒錯しまくっていて、これは作者は書いていて相当に楽しかったんじゃないだろうか。このあたり、ゲイカルチャーからの影響と簡単に書いてしまいたくもなるんだけど、なにしろ執筆時は60年代半ば、革命直後のキューバにそういうものがあったかどうかはまったく明るくなく、むしろレイナルド・アレナスの奔放な創造力のなせる技という感じもする。  なお鉄鎖で緊縛されまくったセルバンド師は最後にはほとんど球体になってしまい、その重みで監獄とセビーリャの街じゅうを破壊しまくって脱獄に成功した模様。ほとんどお馬鹿なインド映画のノリですが、実のところそういう小説なんだよな。そう、かしこまって読む小説じゃないんです。  毎度こういう小説を読むたび、歴史をこうやって再構築する力が文学にはあるのだと言うことを再認識もするし、日本の小説に乏しい要素でもあると思っている。そもそもこれほどの怪人物があまり出てきにくい風土なのかも知れないが。  それにしても巻末の年表を見てのけぞったのだが、執筆時のアレナス、弱冠22歳だったそうで……。ウムムムム、それはとんでもないことじゃないか……。

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2020/01/13

魔術的リアリズムという小説技巧は、尊いもののように崇めるのも悪くないけれど(実際、本作のように威力を発揮した際の力はとてつもない)、実は「爺さんその話は何度も聞いたよ」的な、与太話として楽しむ方がその出汁をすべて味わい尽くせるのではないかと思う。 本作は、実在した修道士を肴にし...

魔術的リアリズムという小説技巧は、尊いもののように崇めるのも悪くないけれど(実際、本作のように威力を発揮した際の力はとてつもない)、実は「爺さんその話は何度も聞いたよ」的な、与太話として楽しむ方がその出汁をすべて味わい尽くせるのではないかと思う。 本作は、実在した修道士を肴にして与太話を愉しめる、そんな作品。このセルバンドという修道士は、捕らえられても脱獄につぐ脱獄。脱獄の合間にトラファルガー海戦に遭遇してしまうという謎の引きの強さをもつ怪人なのだが、その生涯を作者アレナスが魔術的リアリズム手法により、超絶レベルのおかしみに昇華している。 一方で、本作はアレナスの不遇の生涯を投射させることも可能。キューバ島を「島そのものが牢獄」と例えたアレナス。投獄と監視のさなかに書かれたのが本書である。牢の格子も、国境の山脈も海峡も、乗り越えて逃避行を続けたセルバンドに自身の思いのたけを仮託したことは、確かだろう。

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2012/10/04

実在したメキシコの修道士、セルバンド師の文献をもとにした冒険伝記小説。 「私」「彼」「あなた」と3つの人称を使い分ける叙述トリックが特徴で、それぞれ事実と、推測と、願望をあらわしているそう。こんな文学的なテクニックを駆使していると聞くと、さぞかし難解だろうと身構えてしまいそうで...

実在したメキシコの修道士、セルバンド師の文献をもとにした冒険伝記小説。 「私」「彼」「あなた」と3つの人称を使い分ける叙述トリックが特徴で、それぞれ事実と、推測と、願望をあらわしているそう。こんな文学的なテクニックを駆使していると聞くと、さぞかし難解だろうと身構えてしまいそうですが、さにあらず。文体なんてどうでもよくなるほど、パワフルで豪快でユーモアたっぷりのほら話にたちまち引き込まれてしまいます。 ところは独立戦争前のメキシコ。セルバンドは説教中にカトリック信仰の欺瞞をあばくかの問題発言をしたかどで捕らえられ、スペインの牢獄へと送られます。そこからが脱獄と逮捕を繰り返す、波乱の人生のはじまり。 それぞれの牢獄の描写がまあ面白いの面白くないの。部屋の天井近くまで海水で満たされているとか、ネズミや南京虫の大群が棲んでいるとか、まあありえない誇張表現なんだけれど、とにかく最低の環境だと言いたいことはよくわかります。しかもそこでの身の処し方がまた常識はずれで、ネズミと話して仲良くなって乗り切っていたりする。自らもキューバで思想犯として監視されていたレイナルド・アレナスならではの思いが多分に込められていることでしょう。 セルバンドはスペイン、フランス、イタリア、ポルトガル、イギリス、アメリカと世界中を逃亡し旅します。彼は歴史上の有名人と知り合っては、不思議とぜいたくな暮らしも経験したりする。通り過ぎる国ぐにに対する辛辣な寸評も読みどころです(実際のセルバンドの著作からの引用だったりします)。 自由を渇望するセルバンドは、我が身をスペイン植民地である故国に重ね合わせ、やがてメキシコの独立を夢見るようになります。何しろ彼は稀代の説教師。彼が弁舌をふるう革命や政治に、大衆が熱狂するのも道理です。そんな反権力的な言動に当局は警戒を強め、牢獄の警備はますます厳しくなります。 あと少しでメキシコの革命が成るか、というところでまたもやスペインの牢獄につながれてしまったセルバンド。ここの執拗なまでの描写は本作でも白眉といえます。スペイン人はセルバンドの脱獄を怖れに怖れ、彼を厳重に拘束します。手足はもちろん頭髪の1本1本に至るまで無数の鉄の鎖に縛られ、牢屋の扉には鍵と鎖が巻かれ、牢獄自体にも鍵と鎖が巻かれ…。トゥーマッチを通り越してナンセンスで涙が出るほど可笑しいんだけれど、ある時からそれが感動の熱い涙に変わるのです。 なぜなら、どこまで自由を奪われても、彼の空想や思想だけは奪えないことが、いつ終わるともしれない鎖の描写の中から強烈に立ち上がってくるからです。タイトルは、世界を股に掛けたセルバンドの冒険のことでありながら、何よりも彼の内にある、豊穣な空想の世界のことなのだ!そう思いながら読み進めると、今度は快哉の涙が…。 アレナス自身の想像力の奔放さにも、ブラヴォー!本当に楽しい小説でした。

Posted byブクログ

2010/06/13

[ 内容 ] [ 目次 ] [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った...

[ 内容 ] [ 目次 ] [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]

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2020/05/17

キューバの作家アレナスの幻想的文学。 === メキシコの神父セルバンド師は、グアダルーペの聖女について異説を唱えたことから異端として告発される。スペイン監獄からの体中に鎖を巻いたままの脱走劇や、フランス王宮の大袈裟な語り口、両性具有のオーランドーとの交流、最期は独立戦争に加わり...

キューバの作家アレナスの幻想的文学。 === メキシコの神父セルバンド師は、グアダルーペの聖女について異説を唱えたことから異端として告発される。スペイン監獄からの体中に鎖を巻いたままの脱走劇や、フランス王宮の大袈裟な語り口、両性具有のオーランドーとの交流、最期は独立戦争に加わり命を落としたセルバンド師の生涯の、そして死後も続く放浪を饒舌でユーモラスに語る。 物語は同時に三つの目線から語られる。三人称による俯瞰的目線、一人称・二人称による「こうだったらよかったのに」という幻想的な描写。現実とホラ的に大袈裟な話が交じり合った奥行き深い語り口となっている。 === アレナスはこの後カストロによる革命に参加するが幻滅し批判、反体制と同性愛で国内を逃げ回り、収容所に入れられ、アメリカに亡命する。この体験を書いた「夜になる前に」では、「小説で描いた放浪生活を自分が辿ることになるとは…」と嘆いている。作者のその後を知って読むとまた感慨深い。

Posted byブクログ

2010/01/24

異端の僧セルバンド・デ・ミエルがヨーロッパ各地を旅(逃亡)する奇想天外伝奇小説。 読む前の期待値が高かっただけに、個人的には物足りない読後感。。。 外国文学はとにもかくにも訳がキモだ。

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2009/10/04

実在したセルバンド師を主人公にした歴史・冒険小説。内容は一言でいって荒唐無稽。1ページ前に死んだと思った人物がもう次のページで蘇ってたりする。作者の語りを話半分に読むのがちょうどいいだろう。 もっとも、ただ単にメチャクチャなだけでなく、セルバンド師の最後まで止むことのなかった自由...

実在したセルバンド師を主人公にした歴史・冒険小説。内容は一言でいって荒唐無稽。1ページ前に死んだと思った人物がもう次のページで蘇ってたりする。作者の語りを話半分に読むのがちょうどいいだろう。 もっとも、ただ単にメチャクチャなだけでなく、セルバンド師の最後まで止むことのなかった自由の渇望は一貫して描かれており、心に残る。

Posted byブクログ

2009/10/04

読了するのに相当時間がかかった。2001年10月にレイナルド・アレナスの映画、「夜になる前に」を見に行ってその時に買ったんだもんな。帯にある「百年の孤独」に並ぶ傑作、みたいなコピーにひかれて買ったんだけど。んーむ。たしかに奇想天外ではあるんだけど。個人的には「百年の孤独」の圧倒的...

読了するのに相当時間がかかった。2001年10月にレイナルド・アレナスの映画、「夜になる前に」を見に行ってその時に買ったんだもんな。帯にある「百年の孤独」に並ぶ傑作、みたいなコピーにひかれて買ったんだけど。んーむ。たしかに奇想天外ではあるんだけど。個人的には「百年の孤独」の圧倒的なパワーとはちょっと違うかな、と。かなり読んでいて混乱するんだけど、たぶん深く考えずに読む方がいいんだろうな。人称を変えて、不条理を盛り込みつつ、一人の神父の奇想天外な人生を語るんだけど。「夜になる前に」を見てしまった私としては、それがレイナルド・アレナス自身の人生に非常に重なる気がする。そして、彼自身が、投獄されて牢獄の中であれこれと空想妄想をめぐらせていただろう様子が浮かぶような。とにかく非常に実験的で野心的な作品なので、そういうおもしろみはあるですよ。(2003 Feb)

Posted byブクログ