ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ の商品レビュー
源氏物語千年紀にちなんで、有名なエピソードを現代語で書き直したアンソロジー。 ほとんどそのままの新訳もあれば、性格や心境を独自に書き込んだもの、まったく別な時代の話にしているものも。 なかなか変化に富んだ面々なので、楽しめました。 年の初めに読もうと、図書館から借りておきました。...
源氏物語千年紀にちなんで、有名なエピソードを現代語で書き直したアンソロジー。 ほとんどそのままの新訳もあれば、性格や心境を独自に書き込んだもの、まったく別な時代の話にしているものも。 なかなか変化に富んだ面々なので、楽しめました。 年の初めに読もうと、図書館から借りておきました。 2011年に別なタイトルで文庫化されています。 松浦理英子「帚木」 え、一番最初が空蝉?と思ってしまった‥ なるほどねえ~ある意味、現実味のある女性? 紀伊守の父の後妻という受領階級の人妻で、身分の高い貴公子に迫られまくって一度はそういう仲になったが、その後は源氏をきっぱり拒絶した女性。 源氏はまだ10代と若く、正妻の葵に冷たくされてふらふらしていた時期。 雨夜の品定めで中流階級の女性がいいと聞かされて、好奇心を起こしたもの。 当時はまず通い婚が主流だったけど、この場合は夫が同じ屋敷内に戻っているので、そりゃ、続けたくないんじゃない? もし違う立場だったならと、空蝉が内心考えるのも正直な。 江國香織「夕顔」 どこか頼りなげで素直な夕顔。 男性の人気ナンバーワンだそうですよね。 ほとんど人生をあきらめているかのような面と、ふわふわと女っぽい面と。 夕顔はまあ‥ 六条御息所がかわいそうなのよね。 角田光代「若紫」 現代版に大胆な書き直しをした辛口な作品。 東南アジアかどこか?父に売り飛ばされた少女が、まだ店には出られない年齢で下働きをしている。 そこへ現れた金持ちの男に、自分を引き取らせようと思い‥? 町田康「末摘花」 これ、傑作!吹き出しちゃいました。 美貌を誇るいい調子の若者の一人称で、でもけっこう周りに振り回されているのね。 頭の中将がストーカーめいたキャラになっていて、おかしい。 末摘花の家が質素を通り越した貧乏なのを勝手に理想化するあたりも、いかにも。 金原ひとみ「葵」 現代に舞台を移し、光の母親も生きているが上手くいっていないという設定。 妊娠がわかって動揺する葵と、頼りない若い夫?の光。 いつしか強くなろうとする葵。 生々しさで読ませるが、源氏物語と関係なさすぎかも。 島田雅彦「須磨」 別れの寂しさを嫋々と描いて、独特な雰囲気。 歌のやり取りを丁寧にしていく文化が、ありありと感じられます。 日和聡子「蛍」 源氏の元に引き取られている玉鬘の君。 父親のように思っていた源氏に言い寄られて困惑する。 源氏はほかの男性に引き合わせることも考えていて、玉鬘の姿を垣間見させるために蛍を飛ばすという手も使う。 落ちがないけど、当時の生活ぶりや源氏の考えが出ているくだり。 桐野夏生「柏木」 尼になっている女三の宮の一人語りが、面白いです。 皇女だったが、14で40歳ほどの源氏に降嫁した。 ほんとうは三の宮は気が進まなかった。 教養豊かな美女揃いの六条院の館で、源氏は紫の上に気をつかって、あまり渡っても来ない。 おっとりして気が利かない三の宮は、何かと叱られてばかり。 柏木に姿を見せたうかつさは、実は確信犯だったという。 小池昌代「浮舟」 現代の女性が、わがことのように浮舟を感じ取る。 一人暮らしで、勤めて50年になる会社でもうすぐ定年を迎える。 源氏物語にはまり、毎晩読みふけっていた。 浮舟の心境を実感する様子が無理なく描かれていて、いい読後感でした。
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これの「夕顔」が素晴らしいというので読んでみた。 確かに素晴らしい。というか、やっぱり「夕顔」が良い。 光源氏は夕顔が一番好きだったんだろうなというのが個人的な解釈なので、一番好きな巻は夕顔ですね。 源氏物語は、寂聴訳しか読んだことなかったので、他の人の訳で読むのは非常に...
これの「夕顔」が素晴らしいというので読んでみた。 確かに素晴らしい。というか、やっぱり「夕顔」が良い。 光源氏は夕顔が一番好きだったんだろうなというのが個人的な解釈なので、一番好きな巻は夕顔ですね。 源氏物語は、寂聴訳しか読んだことなかったので、他の人の訳で読むのは非常に新鮮でした。 寂聴訳はちょっと上品過ぎて微妙かなと思ってましたが、他の人と比べてわかったんですが、凄く上手な訳だなあと思います。 違和感なく現代語訳するのは相当難しいんでしょうね。 妙に現代的にしすぎるとそれはそれで違和感が出てしまうし、古めかしすぎると伝わらない部分が多すぎる。 そのバランスという意味では、寂聴の訳本はかなり素晴らしいんじゃないかと思います。 宇治十帖はほぼ入ってませんが、源氏物語の大略を掴むという意味では面白い本だと思います。 あと、作家の個性が如実に現れているので、その辺も読みどころなのかなと。
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重要文化財の源氏物語絵巻を、薄紫の無地で惜しげもなく覆い 「九」の文字の部分だけ切り抜いてちらりと垣間見せるという、なんとも贅沢な表紙! 表紙を捲ると、見返しの豪華絢爛な絵巻が目に飛び込んできて、素敵です。 源氏物語の中でも有名なエピソードを、松浦理英子、江國香織、角田光代、 ...
重要文化財の源氏物語絵巻を、薄紫の無地で惜しげもなく覆い 「九」の文字の部分だけ切り抜いてちらりと垣間見せるという、なんとも贅沢な表紙! 表紙を捲ると、見返しの豪華絢爛な絵巻が目に飛び込んできて、素敵です。 源氏物語の中でも有名なエピソードを、松浦理英子、江國香織、角田光代、 町田康、金原ひとみ、島田雅彦、日和聡子、桐野夏生、小池昌代という 9人の人気作家が自由にアレンジして描いたアンソロジー。 書籍広告では、源氏物語のお気に入りの段をモチーフに、 それぞれの作家が個性あふれる創作を展開するイメージだったのだけれど 意外に原作に忠実に、自分の言葉で新訳を試みている方が多くて やっぱり源氏物語って、作家にとってはおいそれと換骨奪胎できない作品なのね、 と思い知らされたりして。 そんな中、『末摘花』に、夜中まで寝ないでジャガリコに湯を入れて マッシュポテトみたいにして食べる女房を登場させてしまう町田康さん 埋めようのない男女の温度差を美しい言葉づかいで 『夕顔』の物語に封じこめた江國香織さん 源氏物語の中では聖母のごとく描かれた紫の上の少女時代、『若紫』を 場末の風俗店で、幸せを手に入れるために、10歳にして手練手管で 美しい上客に自分を「連れていかせる」よう仕向ける少女の物語として 鮮やかに描いてみせた角田光代さんの筆が光ります。 それにつけても、小学生向けに編集された『源氏物語』を読んで いくら美しくても、こんな浮気な男の人が許されていいの?! と信じられない思いだった自分が懐かしい、今日このごろ。
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いつかは読みたいと思っていた物語の一つに「源氏物語」があります。 新訳にチャレンジした事も数知れず・・・新訳の筈なのに、意味不明に陥り、ことごとく挫折。自分には理解出来ないと諦めたり、諦められなかったりの繰り返しでした。この本も図書館の棚で見かけたて、また性懲りもなく、どうか...
いつかは読みたいと思っていた物語の一つに「源氏物語」があります。 新訳にチャレンジした事も数知れず・・・新訳の筈なのに、意味不明に陥り、ことごとく挫折。自分には理解出来ないと諦めたり、諦められなかったりの繰り返しでした。この本も図書館の棚で見かけたて、また性懲りもなく、どうかな~と手に取ってみました。 現代用語に訳しているものだと思っていたら、かなり違っていました。 新訳、現代風会話にアレンジ、話を基に場面を変えてとそれぞれに嗜好を凝らしてあって、不気味に思ったり、笑ったり悲しくなったりと案外楽しめました。
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江國さん、そして久々の金原ひとみさんが気になって手に取りましたが 題材が源氏物語。現代語訳でかかれてるのですがだいたいを読みにくかった。 まぁ苦手分野ってだけですが
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源氏物語でアンソロジーを作るっていう発想がすてき。 町田康さんと桐生夏生さんのが特に好きだなあ。 完璧じゃない光源氏が好きみたい。 性格歪んでるくらいがお話として面白いの。
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古典の授業でちょびっと習ったのと、現代語訳で1回読んだっきりの「源氏物語」。知識不足で、比べてどうなのか分かりません。原作を気にせず楽しめたのは、金原、町田、小池の三氏の作品です。特に町田氏のは笑えました。「末摘花」、というのもありますが。 表紙のタイトルの筆書が、翻訳され欧米の...
古典の授業でちょびっと習ったのと、現代語訳で1回読んだっきりの「源氏物語」。知識不足で、比べてどうなのか分かりません。原作を気にせず楽しめたのは、金原、町田、小池の三氏の作品です。特に町田氏のは笑えました。「末摘花」、というのもありますが。 表紙のタイトルの筆書が、翻訳され欧米の書店に並んでいる日本文学の表紙に通じるものがある気がして苦笑しました。
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たなぞうで教えてもらった本です。 「白の祝宴」以来、源氏と細い糸で繋がっている感じが、なんか嬉しいです。 9人の小説家が描く彼らなりの源氏物語。 江國香織による「夕顔」が、源氏に会った時点で人生を余生を考えていた故の、あのふわふわ感だったのだ、とか、源氏の独白のぶっとびぶりに...
たなぞうで教えてもらった本です。 「白の祝宴」以来、源氏と細い糸で繋がっている感じが、なんか嬉しいです。 9人の小説家が描く彼らなりの源氏物語。 江國香織による「夕顔」が、源氏に会った時点で人生を余生を考えていた故の、あのふわふわ感だったのだ、とか、源氏の独白のぶっとびぶりに爆笑の町田「末摘花」(これは新解釈なんてもんじゃないよね、もうパンクだぁ!)とか、数々のうかつさを示すエピソードが実は確信犯だったという桐野夏生「柏木」の女三宮とか。(源氏が年取って口うるさい、というのも、絵柄として浮かんでくるのが可笑しい。) シェイクスピアと同じで、どんなアレンジも許してしまう源氏物語を持っている日本国民は幸せなのだなぁ、なんてまで思ってしまった次第。(*^_^*) 面白く読みました。
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源氏物語ベースの短編集。もっといろいろアレンジされているのかと思っていたが、意外に原典よに感じられた。 源氏物語を読んだことがないため(古典の授業で部分的にしか)、こういうストーリーなのかと思ってしまい、どのあたりがアレンジされているのかわからなかったのは、ちょっと悲しかった...
源氏物語ベースの短編集。もっといろいろアレンジされているのかと思っていたが、意外に原典よに感じられた。 源氏物語を読んだことがないため(古典の授業で部分的にしか)、こういうストーリーなのかと思ってしまい、どのあたりがアレンジされているのかわからなかったのは、ちょっと悲しかった。
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角田光代、江國香織、桐野夏生、町田康、金原ひとみなど、人気作家9人が、源氏物語から一つの章を選んで、現代風に換骨奪胎したパロディ小説集。 たとえば、角田光代の「若紫」は、少女の紫の上が、何らかの事情で身売りにあってキャバクラで働いているという設定で、そこにやってきた得意客の...
角田光代、江國香織、桐野夏生、町田康、金原ひとみなど、人気作家9人が、源氏物語から一つの章を選んで、現代風に換骨奪胎したパロディ小説集。 たとえば、角田光代の「若紫」は、少女の紫の上が、何らかの事情で身売りにあってキャバクラで働いているという設定で、そこにやってきた得意客の若くて美しい源氏が、身請けするという話。生娘のはずの紫の上が(だいたい8〜12歳くらいの設定のよう)、源氏に出会った事をきっかけに、本能的に媚態を演じている自分に気づくという解釈が新しくてよい。 しかし、断トツで面白いのは町田康の「末摘花」。劣等感のある人間のぐにゃぐにゃとした内面を描かせたら随一のこの作家が「末摘花」を選ぶとあって、絶世の不美人である末摘花の自意識を浮き彫りに?と期待していたが、予想を美しく裏切って、光源氏の自意識を現代ジゴロ風に(しかもかなりパンクに)解釈しなおしていた。 源氏の「貴族で楽器も歌も超絶にうまくて玉のように美しい俺」の、色好みで自堕落な自意識のありようを余すところなく描いている。粗末な家に住んでる末摘花に、「あえて質素で粗末なところに住んでいるのだから、逆説的に真実の愛を知っている人に違いない」と身勝手で強引な誇大妄想を抱き、無理矢理押し倒しちゃって、翌日に顔を見たら失望して、それでも自分の対面を重んじて嫌々ながら面倒を見る。 末摘花が壁越しに琴を弾く場面では、「ミュートして音がぜんぜん聞こえない」とムズがる源氏に爆笑!ミュートて!笑 もうひとつ面白いのは「頭の中将(とうのちゅうじょう)」の描き方。オリジナルでは源氏の血縁つながりであり、ライバルであり、源氏と一緒に「抱きたい女の条件」について夜な夜な語り合っちゃうような男友達なのだが、町田康の創作では、「源氏に憧れているんだけど、その憧憬が執拗なかたちで表出しちゃう奴」と再解釈されていて、御忍びの帰りの牛車のなかで、横笛で「セッションしようよ」と強要してきたり、女を抱いた後になぜか庭からぬうっと顔を出して「寝たの?」みたいに話しかけてきたり、気持ち悪くて笑える。 オリジナルストーリーから最も大胆に飛躍しながら、それでもなおこの物語をもっともよく解釈しているのが町田康なのではないかと思わせる、すさまじい筆力であった。
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