ペスト大流行 の商品レビュー
村上陽一郎著『ペスト大流行 : ヨーロッパ中世の崩壊 (岩波新書)』(岩波書店) 1983.3発行 2020.4.21読了 2020年3月11日にWHOが新型コロナウイルス感染症につき「パンデミック」表明を行った。同月24日に東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、同...
村上陽一郎著『ペスト大流行 : ヨーロッパ中世の崩壊 (岩波新書)』(岩波書店) 1983.3発行 2020.4.21読了 2020年3月11日にWHOが新型コロナウイルス感染症につき「パンデミック」表明を行った。同月24日に東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、同月30日には「志村けん死亡」が報道された。4月7日、7都道府県に緊急事態宣言が発令され、最低7割、極力8割の接触削減のため、外出自粛などの要請を受けるに至った。これに基づき、大阪府も同月14日、映画館、パチンコといった幅広い業種に休業への協力を要請。しかしながら、国内感染者数(クルーズ船を除く)は同月18日に一万人を突破。本日21日は緊急事態宣言が発令されて、ちょうど2週間になる。 新型コロナの影響で、歴史的な感染症についての注目が集まっており、この本のことは3月23日の読売新聞朝刊で知った。 ペストは、6世紀、11世紀、14世紀中葉、17世紀中葉、19世紀末に大流行し、特に14世紀中葉にヨーロッパ一円に蔓延したペストは黒死病と呼ばれ、ざっと7千万人が死亡したとされる。当時は病原菌という観念がなく、神の意志や天体の位置などが引き起こすとされてきた。なかにはキリスト教徒の敵であるユダヤ人の仕業とされ、多くのユダヤ人が迫害を受けた。黒死病の大流行が終息を迎える頃になって、ようやく隔離政策が採られるようになったが、およそ人権を無視したやり方で、多くの患者が遺棄された。筆者の談によれば、中世の封建的荘園制度の変化が黒死病によってもたらされたと断ずるのは誤りだが、かといって、黒死病の大流行がこの変化の動きを決定的にしなかった、というのも誤りだそうである(p160)。今、新型コロナ後の世界について色々議論がなされているが、著者の言葉を借りれば、「黒死病そのものは、時代の担っていた趨勢のなかから、次代へ繋がるものをアンダーラインした上でそれを加速させ、その時代に取り残されるものに引導を渡すという働きをしたにせよ、次代を造り出す何ものかを積極的に生み出」(p176)すわけではないのだ。 GAFAに代表されるIT企業の台頭、アメリカの衰退はもう避けられない。資本主義体制を崩壊させる程のインパクトはないかもしれないが、民主主義は大きな試練を迎えるだろう。現代は多様化と一様化が同居している。どちらに傾くのか。黒死病の時代には、ひたすらなる祈りが打ち棄てられた。今、我々は民主主義の黄昏を見ているのかもしれない。 https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001611658
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パンデミックが起こる度に紐解く本。 コロナ禍にあって、カミュの「ペスト」を読み、そして次はこの本を読んだ。 歴史書では軽く触れられるだけの疫病のインパクトを、ヨーロッパ14世紀のペスト大流行に焦点を当てて描き出す、岩波新書のベストセラー。 歴史家の重視しない題材に焦点を当てた科...
パンデミックが起こる度に紐解く本。 コロナ禍にあって、カミュの「ペスト」を読み、そして次はこの本を読んだ。 歴史書では軽く触れられるだけの疫病のインパクトを、ヨーロッパ14世紀のペスト大流行に焦点を当てて描き出す、岩波新書のベストセラー。 歴史家の重視しない題材に焦点を当てた科学史家の着眼点の勝利。 科学史家村上陽一郎の出世作と言える。 ペストは歴史に登場して以来、かっきり300年サイクルで大流行を起こしているという。 14世紀、17世紀、そして20世紀。 突然アウトブレイクし、大量の死者を出した後、これまた突然収束していく。 カミュの「ペスト」でも、この病は、何の前触れもなく突然猛威を奮い始め、多くの人々の生命を奪って、社会に大混乱を与え、そして、人間の努力に関わりなく、突然消え去る。 300年サイクルが正しいとすると、体力を蓄え、変化を遂げつつあるペストが次にアウトブレイクするのは2200年頃か。
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あっと言う間に読了できました。疫病の中でも最大級のインパクトを持っていたペストについて、特に中世ヨーロッパへの影響について勉強したく本書を手に取りました。ペストは古代にも発生したらしいことがいくつかの文献から明らかですが、その状況が詳しくわかるのは、本書が中心的に書いている中世ヨ...
あっと言う間に読了できました。疫病の中でも最大級のインパクトを持っていたペストについて、特に中世ヨーロッパへの影響について勉強したく本書を手に取りました。ペストは古代にも発生したらしいことがいくつかの文献から明らかですが、その状況が詳しくわかるのは、本書が中心的に書いている中世ヨーロッパ(14世紀)でしょう。ボッカチオの「デカメロン」はじめ、当時のペストの状況を記述する手掛かりが多数残されています。 本書で興味深かったのは、様々な病因論です。14世紀当時の医学ではまだペスト菌は発見されていませんから(それが発見されるのは19世紀、北里柴三郎とイェルサンによる)、当時の人々は様々な原因を考えていたわけです。ただ病気が「感染する」ということ、また「隔離されていた」人々が罹患しなかった、という知見から、感染地域からの人々を一定期間隔離するような政策も打ち出されますが、本書によるとそれもペストの大災害が落ち着いた後だったとのこと。ペストは、それが主因ではなかったにせよ、それまで進行していた中世ヨーロッパの様々な社会制度終焉(例:荘園制度の終焉)や宗教改革へのダメ押しになったということが本書から理解できました。 ひるがえって現在に目を向けると、我々はCovid-19という疫病を経て、テレワークのような働き方の劇的な変化を目の当たりにしています。またCovid-19によってこれまで進んでいた社会のデジタル化に拍車がかかったことも間違いありません。大きな疫病が持つ社会変革の力を感じる本でした。
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本書で考察されている主に中世ヨーロッパでのペストの流行はさまざまなことを引き起こし、世の中もかえた。この時もユダヤ人の迫害が行われたりした事もあったのが描かれている。日本での関東大震災時の流言蜚語を思い出す。 人間の本質的な考え方や行動は変わらないと思う反面、現代では科学の進歩...
本書で考察されている主に中世ヨーロッパでのペストの流行はさまざまなことを引き起こし、世の中もかえた。この時もユダヤ人の迫害が行われたりした事もあったのが描かれている。日本での関東大震災時の流言蜚語を思い出す。 人間の本質的な考え方や行動は変わらないと思う反面、現代では科学の進歩もあり、中世のペストの大流行時と、今回のコロナに対する人々の臨みかたは違ってもいる。ここに明るい人間未来を見たいと思う。
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科学史家の村上陽一郎氏による中世ヨーロッパのペスト禍についての概説。ペストの大流行は何回かあるが、本書が主に扱うのは14世紀半ばのもの。流行を深刻化させた背景として、干ばつ・洪水・バッタの大発生といった自然環境の悪化に伴う人々の抵抗力の低下と、ヨーロッパにおける商業の活発化を指摘...
科学史家の村上陽一郎氏による中世ヨーロッパのペスト禍についての概説。ペストの大流行は何回かあるが、本書が主に扱うのは14世紀半ばのもの。流行を深刻化させた背景として、干ばつ・洪水・バッタの大発生といった自然環境の悪化に伴う人々の抵抗力の低下と、ヨーロッパにおける商業の活発化を指摘した上で、当時の病因論(地震を原因とみる説まであったそうだ)から、流行がヨーロッパ世界に及ぼした影響にまで筆が及ぶ。また、流行時になされた凄惨なユダヤ人迫害についても、詳述されている。 40年前の著作なので、現在の研究水準からみて不十分な点や誤りもあるのかもしれない。しかしながら、感染症を医学だけではなく、人文・社会経済的な視点も交えて考察する視点は、まったく古びていないし、現在進行形のコロナ禍にも必要不可欠だろう。
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ペストについては歴史の授業でちらっと聞いた程度だったけど、ヨーロッパの中世の時代はペストと切っても切れない関係で甚大な被害が出ていたと知らされた。当時からユーラシア大陸の多くの地域が繋がっていたのだと改めて驚いた。
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【琉球大学附属図書館OPACリンク】 https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BN00332888
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ペストは聖書にも「災厄」として登場しており、中世ヨーロッパや十字軍、黒死病など周期的に発生してきたそうです。ペストの流行と蝗害(バッタの大量発生)が不思議と重なることが多かった、と書かれていますが、昨年からサバクトビバッタ大量発生していますよね。。歴史は繰り返すのかもしれません。...
ペストは聖書にも「災厄」として登場しており、中世ヨーロッパや十字軍、黒死病など周期的に発生してきたそうです。ペストの流行と蝗害(バッタの大量発生)が不思議と重なることが多かった、と書かれていますが、昨年からサバクトビバッタ大量発生していますよね。。歴史は繰り返すのかもしれません。 続きはこちら↓ https://flying-bookjunkie.blogspot.com/2020/10/blog-post.html Amazon↓ https://amzn.to/36vCBAr
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今回の新型コロナウィルスの流行があって、過去の疫病の蔓延が現実にどのような影響を及ぼすのか興味を持って本書に当たりました。この手の本としては比較的読みやすいほうで、当時の記録の要点をまとめることが主眼となっており、著者の思想や分析についてはあまり語られません。 何度かあったとさ...
今回の新型コロナウィルスの流行があって、過去の疫病の蔓延が現実にどのような影響を及ぼすのか興味を持って本書に当たりました。この手の本としては比較的読みやすいほうで、当時の記録の要点をまとめることが主眼となっており、著者の思想や分析についてはあまり語られません。 何度かあったとされるペストの流行のうち、14世紀中ごろヨーロッパでの蔓延を主としてペストが猛威をふるった様子が描かれています。推定で当時のヨーロッパの人口の3割が死亡したともされるペストに比べれば、今回の被害はいまのところですが明らかに規模が小さく、医学や情報伝達にも大きな差があるため直接比較できるものではありませんが、いくつかの今後に懸念されるような事がらも読み取れました。 疫病蔓延の最中の影響として慈善活動が廃れ、人々は決して団結に向かわずに不和があった集団同士では対立がさらに深まり、特にヨーロッパ各地でペストの原因としてスケープゴートとして多くのユダヤ人が虐殺されていたことがあり、著者も日本でも関東大震災時の朝鮮人虐殺事件を類似として触れています。コロナ騒動はかなり長期になる可能性も指摘されており、今後何かしらのいさかいが起こる可能性もあるでしょう。 そして現在も既にコロナ後の世界の変化について様々な推測がありますが、本書では14世紀のペストが収束後の社会の変化が示されています。結論として、人口の激減で結果的に農民の地位が向上したことで封建制社会の崩壊を早めて資本主義発生の手助けをすることで、「時代へつながるものを(中略)加速させ」「取り残されるものに引導を渡すという働きをしたにせよ、時代を作り出す何ものかを積極的に生み出したわけではなかった」としています。現代の潮流に置き換えて思いつくのは「貧富の差の拡大」「各国の孤立主義への回帰」「個人の分断」といったところでしょうか。
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感染症3冊目。 14世紀に世界中で大流行したペストについて、科学思想史の専門家が、歴史資料から読み解いた本。 1347年、ペスト(黒死病)は、イタリアに現れ、フランス、スペイン、ドイツ、そして、海を渡ってイギリスと、ヨーロッパ全体に拡がり、1370年ごろ終息を迎えるまでに、当...
感染症3冊目。 14世紀に世界中で大流行したペストについて、科学思想史の専門家が、歴史資料から読み解いた本。 1347年、ペスト(黒死病)は、イタリアに現れ、フランス、スペイン、ドイツ、そして、海を渡ってイギリスと、ヨーロッパ全体に拡がり、1370年ごろ終息を迎えるまでに、当時のヨーロッパ全体の人口の実に1/4にのぼる30百万人もの犠牲者を出したという。 ペスト菌の発見は、19世紀末に、日本の北里柴三郎と、フランスのイェルサンによってなされたので、14世紀当時は、その真因について知る由もないが、当時の医学者達が、その観察から、さまざまな病因論が議論され、その中で、大気の腐敗による感染や、隔離による感染予防の制度化につながっていく。 この14世紀は、中世から、ルネサンス、宗教改革という、ヨーロッパが次の時代に移行する時期にあたるが、著者は、このペスト大流行が、この時代の流れを動かす要因の一つになっていた可能性があるのではないかという。 農村人口の大幅な減少による荘園制度の崩壊。ラテン語教師がいなくなったので、英語などの日常語で、学問をし、本を書くようにならざるを得なかったこと。また、鞭打ち運動のような反体制につながりかねない宗教運動があげられている。確かに、急激な人口構成の変動は、時代の流れを動かす要因になり得ますね。 面白いのは、ペスト大流行は、その後、1660年代、1890年代と、300年周期で起きていること。ちなみに、その前は、1030年代なので、やはり300年周期。となると、次は、2200年頃か? YH
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