四人の兵士 の商品レビュー
第一次大戦終結直後、敵兵に追われたロシア赤軍は、国境近くの森に逃げ込む。 偶然にチームを組んだ4人の若者は、沢山の凍死者を出した過酷な冬を乗り越え、暖かな春を迎える。 淡々と、しかし執拗に描かれる気の合った仲間たちによる短い夏休みのような日々。秘密の沼地、煙草を賭けたサイコロ、女...
第一次大戦終結直後、敵兵に追われたロシア赤軍は、国境近くの森に逃げ込む。 偶然にチームを組んだ4人の若者は、沢山の凍死者を出した過酷な冬を乗り越え、暖かな春を迎える。 淡々と、しかし執拗に描かれる気の合った仲間たちによる短い夏休みのような日々。秘密の沼地、煙草を賭けたサイコロ、女性の写真が入った時計。短いエピソードの連続で4人の若者とその関係性が描写されていく。 そして再び戦いに巻き込まれたラスト数ページの衝撃。 声高ではないが、文学の持つ力を感じさせる作品。
Posted by
ロシア赤軍で出会った四人の兵士。過酷な戦争と極寒の森で彼らはふざけあい、協力しあって冬を越す。 戦争や軍隊生活や森の生活の過酷さが根底にあるからこそ、彼らの少ない心の充足感はなんとも優しく哀切に満ちている。 年末にたまたま選んだこの一冊は、読んだ後に残る余韻、このレビューを書きな...
ロシア赤軍で出会った四人の兵士。過酷な戦争と極寒の森で彼らはふざけあい、協力しあって冬を越す。 戦争や軍隊生活や森の生活の過酷さが根底にあるからこそ、彼らの少ない心の充足感はなんとも優しく哀切に満ちている。 年末にたまたま選んだこの一冊は、読んだ後に残る余韻、このレビューを書きながらもほろほろと涙がこぼれてれてしまう珠玉の一冊だった。 語り手のベニアの所属するロシア赤軍の中隊は、ルーマニア軍、ポーランド軍から逃げる途中で、極寒の森で一冬を越し春を待つことになった。 ベニヤはたまたま出会った三人の仲間たちと小屋を作って過ごすことにする。初対面から気が合い計画と実行力のあるパヴェル、単純な性格だが気の優しい力持ちのキャビン、冷静で優しく銃の扱いに長けているシフラ。 彼らは小屋を作り、暖を取り、食料を調達し、配給の少ないお茶を分け合い、タバコを賭けてサイコロを振り、見つけた沼を秘密の場所としてくつろぐ。 <ぼくたちはきっと、戦争が終わるまでこうしてふざけあっているんだ。P113> ベニヤは死んだ両親に語りかける。ぼくには友達がいます、見てください、ぼくは大丈夫です。 初期のロシア赤軍兵士は、学のない労働者や農民が多かった。彼らもほとんど文字は読めない。物語でのベニアの語りは、そんな彼らの心のそのままのように簡素であり素直だ。 だからこそ胸を打つ。 戦争や軍隊生活や森の生活の過酷さが根底にあるからこそ、彼らの少ない心の充足感はなんとも優しく哀切に満ちている。楽しくも戦場での日々に悪夢にうなされることもある。 <ぼくはまずシフラの笑顔に釘付けになった。キャビンが上手に馬を進めるようになったおかげで、それはほんとうに安心しきった笑顔だったのだ。それからゆっくりと確実に歩を進めるキャビンの足取りにも目を奪われたし、それにパヴェルもまた、ぼくの傍らを歩いていたので、ぼくはにわかに胸がいっぱいになってしまった。みんながそれぞれ、いるべき場所にいるような、その瞬間は、森で過ごしたあの冬から、はるか遠くにいるような、そんな気がしたのだ。そして冬が終わったからには、やがて再開されるであろう戦争からも遠くにいるような。 P98> 途中で少年兵エウドキンの面倒見を頼まれた四人は、エウドキンが経験したすべてをノートに書き留めていると知り、彼に頼む。 おれたちがしたことを書いたか?おれたちが出会ったことを書いたか?おれたちの思いを書いたか?二度と戻れないこの日々のことを書いたか? <ここではいい時間を、とてつもなくいい時間を過ごしたんだからな。だけど、みんな分かっているんだ。もうそんな時間は過ごせない。おれたちが行くところはそんなところじゃないし、いい時間なんか二度と過ごせないってことがさ。なにもかも過去の音になっちまうんだ。だからおまえは、そういうことを書かなきゃいけないんだよ。(中略)そうさ、そういうことを書いてほしいんだ。P130> 文字の読み書きのほとんどできない彼らは、自分たちの存在や思いや、そんな素晴らしいものを文字で残すことに夢中になる。言葉は残るものであり、他の人達が知らないこともだれにも言えない気持ちも、書くことにによって事実となる。この少年のノートにみんなが夢中になる場面は、人間と言葉の関係、言葉の持つ力や言葉に人々が求める思いを感じた。 <そう、でも、ぼくには分かっていた。まだ、はじめもしないうちから予感があったのだ。空は果てしなく、言葉にはできない、と。 どれほど多くの歳月が過ぎ去ろうと(…)そう問わずにいられない。 ぼくは今、この思いをわかってもらおうとして、ひたすら途方に暮れている。徒労をかさね、逃げも隠れもできなければ、身の置きどころもなく、うなだれるばかりだ。 P176より抜粋>
Posted by
今年ベストに入るかも、というくらい素敵な小説、大好きな小説だった。戦争に徴収された四人のわかもの。敗走の合間のつかの間の空白。その時間の四人の楽しさったら。ずっと永遠に続けばいい、と誰もが思うにちがいない。
Posted by
1919年、第一次大戦終結直後。ロシア赤軍の兵士たちは、敵兵に追われ国境近くの森に逃げ込む。そこで偶然巡り合った四人の若き兵士──語り手であるベニヤ、頭の回転の速いリーダー格のパヴェル、力持ちでちょっとおつむの弱いキャビン、慎み深くやさしい眼差しのシフラ──は、極寒の地で生き延び...
1919年、第一次大戦終結直後。ロシア赤軍の兵士たちは、敵兵に追われ国境近くの森に逃げ込む。そこで偶然巡り合った四人の若き兵士──語り手であるベニヤ、頭の回転の速いリーダー格のパヴェル、力持ちでちょっとおつむの弱いキャビン、慎み深くやさしい眼差しのシフラ──は、極寒の地で生き延びるため、一緒に小屋を建て共同生活を営むようになる。過酷な状況下、サイコロ遊びに興じたり、わずかなお茶を分け合ったりと、四人はささやかな日常の喜びを共有し、しだいに絆を深めていく。 やがて春が訪れ、四人は森をあとにする。しかし、今度は飢えの苦しみに襲われる。そこへ、戦争孤児であるエヴドキン少年が仲間に加わる。ただひとり読み書きのできる少年は、いつからか日々の生活を記録し始める。彼らが愛した、美しい秘密の沼のことを、またそこでキャビンが魚を捕ったことを。彼らがたしかに生きた証を残そうと、少年は必死にノートに書きつづる。一方、飢えは限界に近づき、いつ敵兵に襲われるともわからない生活。破滅は一歩一歩近づいていた......。メディシス賞受賞作。
Posted by
戦争の小休止。 その中で出会った4人と一人の少年兵。 戦時下の中、一時の穏やかなときを過ごす彼らの日々を 少年はノートへと記述していく。 それはたぶん、彼らが生きた足跡。 ユベールマンガレリ、この著者が 創り出す世界はなぜこんなに美しいのだろう。
Posted by
豊崎由美さんの書評を読んで。 第一次世界大戦、ロシア赤軍に所属する四人の兵士の駐屯地でのつかのまの休息を描いた中編です。 言葉少なに語られる兵士仲間とのたわいもない思い出。戦場の現実についてうっかり口を滑らせれば壊れてしまう良き日々の思い出を大切にする語り手の思いが痛切に伝...
豊崎由美さんの書評を読んで。 第一次世界大戦、ロシア赤軍に所属する四人の兵士の駐屯地でのつかのまの休息を描いた中編です。 言葉少なに語られる兵士仲間とのたわいもない思い出。戦場の現実についてうっかり口を滑らせれば壊れてしまう良き日々の思い出を大切にする語り手の思いが痛切に伝わってきました。 水浴びをした沼、サイコロ遊びをした貨車などなんでもない場所でだらだら仲間と過ごした時間を情感を込めて思い出す主人公。舞台も時代も異なりますが、最近読んだ中島京子さんの「小さいおうち」を思い出しました。 語り手と文の書き手をめぐるちょっとした驚きにもハッとさせられました。 しかし、こういう筋のおはなしを読むと「なんでもないようなことが~」って、THE 虎舞竜の「ロード」(第何章までいったんでしたっけ?)が頭に浮かぶ私の貧しい教養に辟易する今日この頃です。
Posted by
海外の戦争モノ、自分ではなかなか手に取らないが、職場の先輩のススメで読んでみた。意外と読みやすくて1日で読了。全然主題とは離れるけど、主人公は同性愛者なのかな〜と思った。
Posted by
淡々と書かれている、彼らの日常が、私の奥深くに染み込んで、彼らの沼のような静寂さが広がっていきました。安全なとこなど、どこにもない時代。なのに、あの沼に居る彼らは、とても安全なところに居るかのように、私の心に映りました。 パヴェルが時々見つめていたもの、それは孤独ではないでしょ...
淡々と書かれている、彼らの日常が、私の奥深くに染み込んで、彼らの沼のような静寂さが広がっていきました。安全なとこなど、どこにもない時代。なのに、あの沼に居る彼らは、とても安全なところに居るかのように、私の心に映りました。 パヴェルが時々見つめていたもの、それは孤独ではないでしょうか。 誰もが、孤独。だけど自分達には5人の仲間が居たこと。それを5人は、私に伝えてくれました。
Posted by
1919年、第一次大戦終結直後。 ルーマニア戦線から退却するロシア軍兵士の連隊の中、行動を共にすることになる四人の若い兵士。 物語の語り手である天涯孤独のベニヤ、リーダー格のパヴェル、力持ちのキャビン、大人しいシフラ。 極寒の森で生き延びるため、一緒に小屋を建て共同生活を営む彼ら...
1919年、第一次大戦終結直後。 ルーマニア戦線から退却するロシア軍兵士の連隊の中、行動を共にすることになる四人の若い兵士。 物語の語り手である天涯孤独のベニヤ、リーダー格のパヴェル、力持ちのキャビン、大人しいシフラ。 極寒の森で生き延びるため、一緒に小屋を建て共同生活を営む彼らは、いつしか親友となり、家族となっていく。 サイコロ遊びに興じたり、わずかなお茶を分け合ったり、静かな沼のほとりで過ごしたり。 やがて春が訪れ、連隊が森をあとにする時、過酷ながらも安らかな日々は終わりを告げた。 四人が愛した、美しい秘密の沼。あの時、彼らはたしかに生きていた。 戦火の中に消え去った日々、美しい人々。 かけがえのない思い出を永遠にしたいと願いながら、文盲であるがゆえにそれができない悲しみと喪失を描く2003年メディシス賞受賞作。 「終わりの雪」「しずかに流れるみどりの川」に続く邦訳第三作目。 静謐な風景、ささやかだけど心満たされる幸福、その喪失と忘却への恐れと悲しみ。 マンガレリ作品の特徴は、胸を揺さぶるような激しさはないにもかかわらず、美しいものが浸み込んでくる読後感の良さにあると思います。
Posted by
忘れたい記憶だってある。けれど、忘れたくない記憶だってある。 たとえ文字として記録に残せなくとも、心の中でいつまでも語られていくだろう…。 戦争の日々の中に見つけた幸福の細やかさが、あまりにも切ない物語でした。
Posted by
- 1
- 2