万葉の旅(中) の商品レビュー
中巻では、近畿・東海・東国にまつわる歌がとりあげられています。ただし奈良を舞台にしたものにかんしては上巻であつかわれており、また瀬戸内海に面した兵庫県は万葉集の歌においては山陽に含めてあつかうことが適切であるという判断から、下巻に譲られています。 すでに上巻でも、景観の変わって...
中巻では、近畿・東海・東国にまつわる歌がとりあげられています。ただし奈良を舞台にしたものにかんしては上巻であつかわれており、また瀬戸内海に面した兵庫県は万葉集の歌においては山陽に含めてあつかうことが適切であるという判断から、下巻に譲られています。 すでに上巻でも、景観の変わってしまった土地がしばしばありましたが、とくに本巻でとりあげられている大阪は都市化による大きな変化があったために、万葉の故地を訪ねることで万葉歌人の心にアプローチするという著者の方法がどこまで有効なのか、やや疑問に感じるところもあります。なお本巻は東国を対象地域としていることから、巻末の解説では東歌・防人歌について著者の説明がなされています。 和歌山県の和歌浦を舞台にした山部赤人の歌をとりあげたところで著者は、「赤人の歌以後こんにちまで、人は何らかの程度でこの歌のことを意識することなしには、和歌浦の風光を考えられなくなっていることを思えば、赤人はついに文芸的な風土を創造したといってもよい」と述べています。著者の考える風土が、たんなる自然的条件なのではなく、自然と文化の協働によって形成されたものであるということがこの文章からうかがえるように思います。
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