肖像のエニグマ の商品レビュー
「プロローグ」と8編の論考が収録されています。 「プロローグ」に置かれているのは、「イメージの中へ―宮川淳再訪」と題された文章で、宮川が「見ること」という制度についていち早く主題的に論じていたことに触れられています。さらに著者は、宮川の名著として知られる『鏡・空間・イマージュ』...
「プロローグ」と8編の論考が収録されています。 「プロローグ」に置かれているのは、「イメージの中へ―宮川淳再訪」と題された文章で、宮川が「見ること」という制度についていち早く主題的に論じていたことに触れられています。さらに著者は、宮川の名著として知られる『鏡・空間・イマージュ』(1987年、風の薔薇叢書)において、「イマージュの前に」立つことではなく、「イマージュの根源」へと降りていくことについて語っていたことや、アガンベンの論じた「身振りとしての批評」という考えに通じるような洞察がなされていたことに注目しています。 こうした著者の宮川に対する評価は、本論で展開されている議論を読み解く際の、導きの糸になります。本論では、レオナルド・ダ・ヴィンチやモランディなど、これまで著者がとりくんできたテーマのほか、ヴァザーリの美術史解釈やマニエリスム、そして本書のタイトルにもなっている肖像というイマージュが考察の対象にとりあげられていますが、そこでの議論は芸術作品の受容理論と呼ぶべきものとかさなるところがあります。ただし著者は、芸術作品の解釈をもっぱら鑑賞者の立場へと収斂させて論じるのではなく、たとえば肖像画であれば画家とモデル、そして鑑賞者(注文主や解釈者)というエージェントによって織り成される生成のありように目を向けようとしています。
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