にぎやかな天地(上) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
全国の発酵食品を取材し、特装本を制作する編集者が主人公。 醤油やなれ鮨など、微生物が時間をかけて作り上げる豊かな味わい、登場人物たちが人生の中で練り上げてきた味わいが描かれる。 「いまの世の中は、時間をかけていない、拙速なものだらけだ…時間が作りだす絶妙な作用は、金でも技術でも高尚な理論でも獲得することはできないのだ」 なぜ、今の世の中は時間をかけたものが評価されにくいのか。単純な現代批判ではない、味わい深い長編小説。
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健康食品ブームのい今、昔から伝わる伝統的な食にスポットを当てながら 人間の生死について、家族について、恋愛、男と女 いろんな事柄が交わり、発酵食品の本を作り上げてゆく。 「時間をけける」今の私が忘れていたことを思い出させてくれます <「にぎやかな天地」の内容> 主人公は、豪華...
健康食品ブームのい今、昔から伝わる伝統的な食にスポットを当てながら 人間の生死について、家族について、恋愛、男と女 いろんな事柄が交わり、発酵食品の本を作り上げてゆく。 「時間をけける」今の私が忘れていたことを思い出させてくれます <「にぎやかな天地」の内容> 主人公は、豪華限定本の製作を手がけるフリーの編集者、船木聖司。今回依頼された仕事は、「日本の発酵食品を後世に残すための本」でした。伝統的な手法で熟成される上質な熟鮨(なれずし)や鰹節、醤油、糠漬などを求め日本各地を取材し、微生物の偉大な営みに魅せられていきます。一方で、32年前に過失とはいえ聖司の父親を殺してしまった男の消息と、亡き祖母の知られざる過去が次第に明らかにされていきます。そのほか、依頼主である謎めいた老紳士や艶聞の絶えない料理研究家の数奇な人生、愛してはいけない女性との出会いなどが盛り込まれ、物語は「にぎやか」に展開していきます。過去と現在が織り成す不思議な縁と、時間をかけて熟成していく人生の面白さを描いた一冊です。
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『天地』とあるので、幽霊でも出てくるのかと予想したのに まったくもって掠ってもいなかったです。 毎度毎度題名で予想を立てて、まったく違う内容を引き当てます(笑) 主人公は本を作る人…というのでいいのでしょうか? 個人用の本を作っている職業の人がいるのか、と まったく違う所に着目...
『天地』とあるので、幽霊でも出てくるのかと予想したのに まったくもって掠ってもいなかったです。 毎度毎度題名で予想を立てて、まったく違う内容を引き当てます(笑) 主人公は本を作る人…というのでいいのでしょうか? 個人用の本を作っている職業の人がいるのか、と まったく違う所に着目してしまいましたw こういうのは、印刷業者がしているものだとばかり…。 祖母が通っていたパン屋さん。 そこになぜ通っていたのかを知った主人公がパン屋を訪問し そこの奥さんに好意を抱くのですが…。 不倫もの? と読みふけってましたが多分下巻も読まないと 不倫になるのか違うのかが分からないかとw とりあえず、上巻を読んでいて腹がたつ事がひとつ。 食べ物の話が出すぎです! 美味しそうで腹が立つのですが!!
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豪華装丁本を作る仕事をする男の話。 豪華装丁本製作者という職業も、発酵食品という題材も、未知の分野だったので興味深かった。 特に発酵食品という地味な題材を広げ、心をつかんでしまう宮本輝の力に感服。 主人公の淡い恋や、彼の家族に関わるストーリーも、優しく少し悲しく宮本輝らしい語り口...
豪華装丁本を作る仕事をする男の話。 豪華装丁本製作者という職業も、発酵食品という題材も、未知の分野だったので興味深かった。 特に発酵食品という地味な題材を広げ、心をつかんでしまう宮本輝の力に感服。 主人公の淡い恋や、彼の家族に関わるストーリーも、優しく少し悲しく宮本輝らしい語り口だった。
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とても豊かな、素晴らしい小説だった。 この頃、個性が強かったり、異端なキャラクターが登場する小説ばかりを読んで意たせいか、この作品に登場する人々がまっとうな人たちに思えて、しかもそれが嫌味だったりわざとらしかったりせず、とてもすがすがしい印象だった。 この本の中にはロハスという...
とても豊かな、素晴らしい小説だった。 この頃、個性が強かったり、異端なキャラクターが登場する小説ばかりを読んで意たせいか、この作品に登場する人々がまっとうな人たちに思えて、しかもそれが嫌味だったりわざとらしかったりせず、とてもすがすがしい印象だった。 この本の中にはロハスという言葉はまったく出てこないけれども、この作品がテーマとして語っているのは、それに通じる、じっくりと、長い長い持続的な時間をかけることによってしか得られないものについてなのだと思った。 人類が昔から利用してきた、発酵という仕組みもまた、まとまった長い時間を絶対的に必要とする。主人公が仕事の中で取材をする「発酵食品」の不思議な魅力とリンクして、主人公自身の人生観も、それまで積み重ねた体験を核として、少しずつ熟成していく。 この物語は、今より若い時に読んでも、きっと多くの部分を本当に理解することは出来ない話しだったのではないかと思う。そして、今であっても、この先もっと年を重ねて読んだ時と比べたとしたならば、だいぶその妙味を多く取りこぼしているのだろうという気がする。 この小説を読みながら、もう一つの人生を生きているような気持ちになり、そのもう一つの人生から多くの経験と知恵を学んだような気分に、この本はさせてくれた。小説が持つ醍醐味を体現した、素晴らしい作品だと思う。 何事も時間というものが必要なのだ。いまの世の中は、時間をかけていない、拙速なものだらけだ。いかなる先端の技術をもってしても、この時間というものだけは短縮できない。時間が作りだす絶妙な作用は、金でも技術でも高尚な理論でも獲得することはできないのだ。三次元とか四次元とかの物理学で、祖母のあの糠床は作れないのだ・・。(p.48) 仕事をするかぎりは、いっさい手抜きをせず、仕事とはかくあるべきだというものを為さなければならない。それは報酬とは無関係なのだ。いかに少ない報酬であろうとも、それが自分の仕事であるかぎり、決して手は抜いてはならない。仕事とはそうであらねばならない・・。(p.213) 時間をかけて作られたもの、手間暇を惜しまず作られたもの。そういうものはこれからますます見直されていくであろう。そのようなことを知っている家庭で育った子は、舌そのものが、大量に作られたいかがわしいものに気づくようになる。(p.333) 時間というものは、思いもよらんものを造りだしてくれる。時間というものが造りだす事柄を、人の手で速めようとすると、失敗するんや。感情というものも、おんなじやなァ。五十年間、怒り続けた人間なんておらんし、五十年間、哀しみつづけた人間もおらんわ。(p.361)
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