道祖土家の猿嫁 の商品レビュー
藤沢周平氏の「鬼」を…
藤沢周平氏の「鬼」を思い出しました。時代は違いますが女性が虐げられている時代は本当に血なまぐさくていやですね。蕗みたいな人生を送っている女性は違う形で現在にもたくさんいると思います。
文庫OFF
道祖土家に嫁いできた…
道祖土家に嫁いできた蕗は、容姿から「猿嫁」と呼ばれます。蕗の一生を通しての生活がかかれてます。こんな風に生きてきたんだと、感じました。
文庫OFF
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
この小説は猿に似た風貌から猿嫁と呼ばれた蕗の一生を明治中頃から現代に至るまで日本の歴史の移ろいを重ねて語ったもの。そこには自由民権運動から始まり、日露戦争、太平洋戦争、東京オリンピックなどが蕗の人生に織り込まれ、彼女の人生に色んな影響を与えていく。 また作者の緻密な筆致は健在で、吹きぼぼ小屋、若者の間で行われた和歌の会などの当時の風俗、火振村の伝統行事である七夕祭りに、その時に行われる女房担ぎなる駆け落ち、「女の家」という風習、道祖土家の先祖を讃える玄道踊りなどを交え、エピソードに事欠かない。 火振村の大地主の長男の嫁として迎えられた蕗は、予想に反して大地主の嫁として村に一目置かれる存在として扱われずに、家内では舅、姑、そして夫にこき使われ、半ば下女のように使われる。家族に隠れて飲む酒を唯一の愉しみにして、明日をまた生きるのだ。 そんな彼女にも転機は訪れる。一度目は夫を亡くして実家に帰ってきた義姉の蔦の父知らずの子を引き取ると決めた時。そこに母親としての強さが芽生えるのだった。 二度目は後に火振合戦と呼ばれる警官と自由民権運動を支持する者達の戦いにおいて、夫と家族を助けるために、牛馬を放ち、警官達を一網打尽にする。 しかし、それらは蕗にとっては一時の転機に過ぎず、蔦の子、秋英は学生時分に家出して、音信不通となり、火振合戦で牛馬を放つきっかけとなった大楠からの啓示から家に植わる大楠を生き守様と拠り所にして、報われない日々を生きていくのだ。 そう、この主人公はいやに報われない。 村の者達から猿嫁と馬鹿にされ、家では下女同然の扱いを受け、老境に入ってからも戦争で若い労力を取られることでなかなか隠居できずに家事に追われる始末。 そして、子供4人のうち、1人は家出して行方知れず、1人は台風に河に落ちて死亡。さらに将来を期待された孫、辰巳に関しては太平洋戦争でビルマへ出兵し、そのまま還らぬ人に(最後にサプライズあるが)。 こういった境遇はもちろんながらも、最も酷いと感じたのは、蕗がセックスにおいて女性の悦びを知らずに死んでしまったことだ。 92歳になって始めて孫夫婦の交わりを目の当たりにし、夫婦の営みとはかくも心地よい悦楽を得られるものかと愕然とするその事実。その股座に手を当てても渇ききってしまっており、もはや潤いは沸かない。その事実に蕗は涙を流すのだ。 この扱いは確かに残酷だと思う。ここに蕗の人生の答えが出ていると私は思った。 人生、楽しい事は僅かしかなく、大抵が辛い事だろう。価値観が多様化した今、全ての人がそうであるとは云わないにしても、ほとんどがそうだと思う。 しかし、そんな毎日の中に、確かに幸せを感じる瞬間はある。 実際、自分の人生を振り返っても、幸せの時というのは頻繁にはないにせよ、決して少なくはない。そんな事を思い浮かべながら、老後に、人生楽しかったと感じるのではないだろうか? しかし、この蕗の人生はどうだろう? 道祖土家の知り合いの紹介で断るに断りきれない気まずさから結婚した夫清重は、蕗との間に夫婦愛というものを介在せず、単純に身の回りの世話をし、時に欲情を覚えた時には一方的に交わるだけの女としてしか蕗を見ない。 最初は猿に似た風貌を注視するのを避けて向き合っても視線を宙に浮かして喋るほどだ。 夫婦間との関係がそんな状態だから、蕗は常に居るべき所にいず、居てはいけない所に腰を据えている居心地の悪さを常に感じながら、とうとう生まれ故郷の狭之国に還ることなく、一生を終える。 一度、離縁を決意して里帰りを決行した時もあるが、結局は引止めに来た夫に負けてそのまま還ってしまった。もしあの時故郷へ帰っていたらという思いが最期の間際でも過ぎる蕗。 これは人生のターニング・ポイントを見過ごした者の行く末を描いた小説なのだろうか。 いや、必ずしもそうではない。 作者は道祖土家に残った蕗を中心に道祖土家の血縁者ら、蕗の子供ら、孫らのそれぞれの旅立ちを描くが、彼ら・彼女らが決して幸せになったという風には書いていないのだ。 作者のメッセージは終章に出てくるある人物からの手紙に書かれている、「常に自分の真の故郷は(中略)母と子供のいる場所だ」の一文になるのだろう。 とすると、作者は蕗の一生は幸せだったと云っているのか? 幸せとはこういうものだと云っているのだろうか? ここに来て私は、またもや首を傾げてしまうのだった。
Posted by
明治から昭和まで、高知県の山間部の集落から贄殿川流域農村へ嫁いだ蕗の100年の物語。 蕗は猿みたいな見た目の嫁だというだけで、特別な人ではない。脈々と現代にまでつながる人々の生活と家族の中で働く嫁の姿を映し出す。 道祖土家は地主で、嫁いだ家には義父母と義祖父母がいて、さらに出戻...
明治から昭和まで、高知県の山間部の集落から贄殿川流域農村へ嫁いだ蕗の100年の物語。 蕗は猿みたいな見た目の嫁だというだけで、特別な人ではない。脈々と現代にまでつながる人々の生活と家族の中で働く嫁の姿を映し出す。 道祖土家は地主で、嫁いだ家には義父母と義祖父母がいて、さらに出戻りの義姉が誰の子かわからない子を身籠る。 時代は自由民権運動が激しくなっていて、夫も義姉も政治活動に忙しい。 運動家と権力側との火振り合戦が起き、蕗は牛や馬を放ち、騒動をおさめる。 特別な事件はなくても、子どもの成長、夫の浮気、子どもの家出、義父母のこと、などなど、 戦争に孫が取られ、終戦後には孫が結婚して終盤には曽孫まで出てくる。 決して派手な性格ではない蕗にもふつふつと湧き上がる不満があって、そのストレスを溜めないための秘密のお酒の習慣があったりして、親近感がわく可愛い主人公なのだ。 私自身、今家族の結婚の話があって、家族の行く末とか自分たちの老後とか想像しながら読んでました。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
【あらすじ】 土佐の山村で、ワールドワイドな百年物語の幕が開く。 祭りの唄は海を渡り、男と女は血を超えていだきあう。日本人はどこから来て、どこへ行くのか──。濃密な筆致でこの国の根源に迫る大河歴史ロマン! 明治中期、土佐・火振(ひぶり)村の名家、道祖土家(さいどけ)に18で嫁いできた蕗(ふき)。その容貌のため“猿嫁”と陰口をたたかれるが、不思議な存在感で少しずつ道祖土家に根を下ろしていく。近代化への胎動の中、時代は大正、昭和と移ろい、多くの戦の火の粉が火振村にも容赦なく襲いかかって人々の運命を弄ぶ──すべての日本人が得たもの、失ったものを見据え、百年のタイムスパンで壮大に描きあげた、著者の新境地を拓く前人未到の野心作! (講談社books 商品ページより) _______________________ 戦前、戦時、戦後を通して生きた女性の一生を追う中で、生きることのひたむきさや血・家族の絆、命の力強さについて描いた壮大な物語でした。力強い筆致も良かったし、民族文学的な面白さもあり、一気読み出来た。「火振合戦」「七夕女房」「玄道踊り」あたりが好きかな。 蕗という女性の視点で追った話の中で、不思議な(妖的な、神様的な)ものが見えるんだけど、最後の最後、終章でそれがないのが私は残念だった。そりゃ蕗視点じゃないし時代が変わってるから感じ入る感性はここにはもうないのかもしれないけど、啓助の話を好み、蕗に懐いていた十緒子だからこそ最後になにか見たっていいじゃん!?という気持ちになってしまう。我慢の多い人生だったから、その後の蕗が好き放題してるって思いたかった、読者としてはさ…。 面白かったです。
Posted by
自由民権運動が盛んだった明治時代、火振村の地主の道祖土家に嫁いだ蕗(ふき)の一代記。終章は、彼女の33回忌に曾孫の十緒子が道祖土家を再訪するところまでを描いています。 道祖土清重のもとに猿そっくりの顔をした蕗が嫁いでまもなく、義姉の蔦が私生児を産むという事件が起こります。家長の...
自由民権運動が盛んだった明治時代、火振村の地主の道祖土家に嫁いだ蕗(ふき)の一代記。終章は、彼女の33回忌に曾孫の十緒子が道祖土家を再訪するところまでを描いています。 道祖土清重のもとに猿そっくりの顔をした蕗が嫁いでまもなく、義姉の蔦が私生児を産むという事件が起こります。家長の治之進は、秋英と名づけられたその子を、清重と蕗の子として育てることに決めます。若い頃は民権運動にかぶれていた清重も村長となり、秋英の下に春乃、俊介、保夫という子を授かります。しかし、秋英は家を飛び出し、俊介は若くして死に、三男の保夫が家を継ぐことになります。 終戦の日まで小国民だった保夫の子の篤は、洋子という妻を得て十緒子を授かりますが、やがて洋子の浮気によって離婚し、十緒子はこの家を離れることになります。蕗は、そんな彼らの姿を見守り続け、波乱に満ちた人生に幕を下ろします。 明治以降の100年に日本が歩んだ激動の歴史を、田舎の名家に嫁いだ蕗という女性の視点から見ていくことで、土着的な変わらないものが浮き彫りにされているように思えました。
Posted by
高知の一村に漂う伝奇的な空気と近代日本史が融合した一冊。 だけど、蕗と蔦くらいしか印象に残らなかった。 百年の物語は軽くも重々しくもない文章で書かれ、テンポよく読めた。
Posted by
最初、道祖だの猿嫁だのという単語があったので、民俗学を取り入れたホラーなのかと思いましたが、全然違って、蕗という一女性の一代記でした。 蕗は猿みたいない顔なので、嫁入りしたときに「猿嫁」と軽蔑されます。しかし懸命に、地道に日々励むなかで、次第に閉鎖的な村社会にも受け入れられて...
最初、道祖だの猿嫁だのという単語があったので、民俗学を取り入れたホラーなのかと思いましたが、全然違って、蕗という一女性の一代記でした。 蕗は猿みたいない顔なので、嫁入りしたときに「猿嫁」と軽蔑されます。しかし懸命に、地道に日々励むなかで、次第に閉鎖的な村社会にも受け入れられていき、かけがいのない存在へと変わっていきます。 もちろん架空の人物ですが、土佐地方の歴史を織り交ぜつつ、明治・大正・昭和と激動の時代を股にかけて、次々に襲いかかる困難に力強く立ち向かう主人公の生き方が、とても痛快です。 こういう小説を大河小説というんだな、と納得した作品です。
Posted by
郷土の高知を舞台にした作品は多く、明治中期とか山村というのも別作品とイメージがだぶりました。しかし、旧家地主に嫁した女性の話は、民権運動、大正デモクラシー、第二次大戦、オリンピックまで続き、死後のエピソードを現代の曾孫が締める。 都会や事件からでなく、昔からの因習を抱えた田舎村の...
郷土の高知を舞台にした作品は多く、明治中期とか山村というのも別作品とイメージがだぶりました。しかし、旧家地主に嫁した女性の話は、民権運動、大正デモクラシー、第二次大戦、オリンピックまで続き、死後のエピソードを現代の曾孫が締める。 都会や事件からでなく、昔からの因習を抱えた田舎村の視点で歴史を見ると、また違うものです。ただ、坂東さんらしく重い。こういう本を読むと、次は軽い恋愛短編はないかと探してしまいます(笑)
Posted by
- 1