詩集 死者の贈り物 の商品レビュー
長田弘さんの詩集ですね。 ドキリとする題名ですね。 「『死者の贈り物』は、いずれも、親しかったものの記憶にささげる詩として書かれた。」と、あとがきに記されています。 「イツカ、向コウデ」 人生は長いと、ずっと思っていた。 間違っていた。おどろくほど短かった...
長田弘さんの詩集ですね。 ドキリとする題名ですね。 「『死者の贈り物』は、いずれも、親しかったものの記憶にささげる詩として書かれた。」と、あとがきに記されています。 「イツカ、向コウデ」 人生は長いと、ずっと思っていた。 間違っていた。おどろくほど短かった。 きみは、そのことに気づいていたか? なせばなると、ずっと思っていた。 間違っていた。なしとげたものなんかない。 きみは、そのことに気づいていたか? わかってくれるはずと、思っていた。 間違っていた。誰も何もわかってくれない。 きみは、そのことに気づいていたか? ほんとうは、新しい定義が必要だったのだ。 生きること、楽しむこと、そして歳をとることの。 きみは、そのことに気づいていたか? まっすぐに生きるべきだと、思っていた。 間違っていた。ひとは曲がった木のように生きる。 きみは、そのことに気づいていたか? サヨナラ、友ヨ、イツカ、向コウデ会オウ。 「その人のように」 川があった。 ことばの川だ。 その水を汲んで、 その人は顔をあらった。 草があった。 ことばの草だ。 その草を刈って、 その人は干し草をつくった。 この世界は、 ことばでできている。 そのことばは、 優愁でできている。 希望をたやすく語らない。 それがその人の希望の持ち方だ。 木があった。 ことばの木だ。 その木の影のなかに、 その人は静かに立っていた。 「アメイジング・ツリー」 おおきな樹があった。樹は、 雨の子どもだ。父は日光だった。 樹は、葉をつけ、花をつけ、実をつけた。 樹上には空が、樹下には静かな影があった。 樹は、話すことができた。話せるのは 沈黙のことばだ。そのことばは、 太い幹と、春秋でできていて、 無数の越田と、星霜でできていた。 樹はどこへもゆかない。どんな時代も そこにいる。そこに樹があれば、そこに 水があり、笑い声と、あたたかな闇がある。 突風が走ってきて、去っていった。 夕日が樹に、矢のように突き刺さった。 鳥たちがかえってくると、夜が深くなった。 そして朝、一日が永遠のようにはじまるのだ。 象と水牛がやってきて、去っていった。 悲しい人たちがやってきて、去っていった。 この世で、人はほんの短い時間を、 土の上で過ごすだけにすぎない。 仕事して、愛して、眠って、 ひょいと、ある日、姿を消すのだ、 人は、おおきな樹のなかに。 「碑銘を記し、死者を悼むことは、ふるくから世界のどこかでだろうと、詩人の仕事の一つだった。」 人生を語る時に、死を認識して語るのは、最良の仕事とも、言われます。 静かに、語りかけるように、大自然の生業を詩情豊かにもたらしてくれる詩集ですね。
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生と死は、いつでも背中合わせ。 年齢を重ねるほどに、ひしひしと感じる。 生きている間に、生きていないとできないことを、 ただ、一生懸命やることしかない。 いい本を読むことも、その一つ。 心に残ったフレーズは、 「この世で、人はほんの短い時間を 土の上で過ごすだけにすぎない...
生と死は、いつでも背中合わせ。 年齢を重ねるほどに、ひしひしと感じる。 生きている間に、生きていないとできないことを、 ただ、一生懸命やることしかない。 いい本を読むことも、その一つ。 心に残ったフレーズは、 「この世で、人はほんの短い時間を 土の上で過ごすだけにすぎない。」 「つかの間に人生は過ぎ去るが、言葉はとどまる、 人の心のいちばん奥の本棚に。」
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「こんな静かな夜」という作品がよかった。 生死について考えさせられた。 「死ぬとはもうここにはいないということ」 言い換えれば、 「生きるとはここにいるということ」 「ここ」とはなんだろう。 それは「今」 「今」とはなんだろう 「過去でも未来でもない」 … 考えがまとまらな...
「こんな静かな夜」という作品がよかった。 生死について考えさせられた。 「死ぬとはもうここにはいないということ」 言い換えれば、 「生きるとはここにいるということ」 「ここ」とはなんだろう。 それは「今」 「今」とはなんだろう 「過去でも未来でもない」 … 考えがまとまらない。 この詩を読んだ時、まどみちおの「リンゴ」という作品が頭に浮かんだ。 この作品が「ここにいる」ことについての本質を語っていると思う。 異なるそれぞれの詩をつなぎあわせて考えるのも面白い。
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死について、そして沈黙のことばについて。 「なつかしい時間」の中にも"死者と語らう"という章があった。その章と似たところが見受けられるかもしれない。 言葉では言い表せない、しかしそこにずっしりと存在していて、誰も真っ正面から見ていない。 そういうものの存在を詩...
死について、そして沈黙のことばについて。 「なつかしい時間」の中にも"死者と語らう"という章があった。その章と似たところが見受けられるかもしれない。 言葉では言い表せない、しかしそこにずっしりと存在していて、誰も真っ正面から見ていない。 そういうものの存在を詩として心に溶かしてくれる。静かに一行一行大切に読めば、きっとかけがえのない何かを手に入れられる本。
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詩は余白の芸術。 沈黙の表現。 言葉では表しきらないもの が あると 気づく。語られないことによって。 ページに詰め込まれない文字、情報。不経済。 それでも、その贅沢さが絶対に必要なのだ。伝えるには。届くには。残るには。広がるには。 ほんとうに美しい言葉がほんとうに美しく存...
詩は余白の芸術。 沈黙の表現。 言葉では表しきらないもの が あると 気づく。語られないことによって。 ページに詰め込まれない文字、情報。不経済。 それでも、その贅沢さが絶対に必要なのだ。伝えるには。届くには。残るには。広がるには。 ほんとうに美しい言葉がほんとうに美しく存在するのは紙の上と心の中だ。という気がして、ここで引用しても違ってしまうんだろうと思う。 最初の詩の、ページを繰った最後の二行、たった数十文字が腑に落ちて、涙が出たりする。 平仮名の曲線も妙に美しくて。 栄養を入れるみたいに、慌てて読みきってしまわないように、長田さんの詩集は一冊ずつ、間を空けて読むようにしている。
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証しであると思う。生きている、生きていた、そして今や過去を記憶するための証。人はとてもちっぽけなもので、世界の継続した時の流れの中では一瞬のごとき生なのかもしれない。けれども生には静かな力があるのだ。この詩集にもどっしりとして静かな不動の力があると思った。 私は生きることにおいて...
証しであると思う。生きている、生きていた、そして今や過去を記憶するための証。人はとてもちっぽけなもので、世界の継続した時の流れの中では一瞬のごとき生なのかもしれない。けれども生には静かな力があるのだ。この詩集にもどっしりとして静かな不動の力があると思った。 私は生きることにおいて、常に「正しさ」を求めていたように感じた。しかしこの詩集を読んで、「正しさ」なんかよりも大切なことがある、ということにはっとさせられる。それは「尊重」なのかもしれない。
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なぜこんなにも静かに、深深と、心に沁み渡ってゆくのだろう。 透明で清らかな温もりに、すべてを包み込まれる気持ちがする。 語らないものらが語る言葉、それを聴くことのできる幸せ。 もう、何にも要らない気がした。
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