泥棒日記 の商品レビュー
はじまり 従刑囚の服は薔薇色と白の縞になっている。もし、この、わたしが居心地よく思う世界を、自分の心の命ずるままに選びとったのだとすれば、わたしには少なくともそこに自分の欲するさまざまな意味を見いだす自由はあるだろう、——それで、花と従刑囚とのあいだには緊密な関係があるのだ。一方...
はじまり 従刑囚の服は薔薇色と白の縞になっている。もし、この、わたしが居心地よく思う世界を、自分の心の命ずるままに選びとったのだとすれば、わたしには少なくともそこに自分の欲するさまざまな意味を見いだす自由はあるだろう、——それで、花と従刑囚とのあいだには緊密な関係があるのだ。一方の繊弱さ、繊細さと、他方の凶暴な冷酷さとは同じ質のものである。わたしは、従刑囚——か犯罪者——を描くことがあるたびに、その男を数々の花で飾ってやるだろう、そのため彼は花々の下にその姿を消し、そして彼自身一つの巨大な、新しい花となるだろう。人々が悪とよぶものに向って、わたしは愛ゆえに、監獄へとわたしを導いた冒険を今日までつづけてきたのだった。 P126 ——16歳から30歳にいたる期間、感化院や刑務所や酒場で、わたしは英雄的な冒険を捜し求めていたのではなく、最も美しい、また最も不幸な犯罪者たちとの同一化を追い求めていたのだ。わたしは、恋する男についてシベリヤへ行く若い淫売婦、あるいは、彼の復讐をするためにではなく、彼を悼んで泣き、そして彼の名を顕揚するために、恋する男の死後も生き続ける淫売婦のようでありたいと・・・。 P138 この書物『泥棒日記』は、すなわち、「到達不可能な無価値性」の追求、である。 P175 わたしは先刻から語っている人間は、そもそもの始まりから死んでいるのだ、つまり、定着されているのだ。なぜならわたしは、始源の不幸を包含するとわたしが考えた終末以外、他のいかなる終末のためにも生きることを拒否するのだから。——わたしの生涯は伝説、すなわち、読みうるもの、であらねばならぬ、そしてそれが読まれるとき、わたしが詩(ポエジー)とよぶある新しい感動を生じせしめねばならぬ。わたしは、媒介具(プレテクスト)である以外、もはや何ものでもないのだ。 P263 大多数の不良少年と同様、わたしは、感化院製となるものを実現させる多くの行動を、熟慮のうえではなく、自然に遂行することもできただろう。そしてわたしは素朴な苦痛と喜びを知り、その生活は、誰もが表明することのできる、月並みな考えしかわたしに抱かせなかっただろう。しかしメトレーの感化院は、わたしの性愛上の嗜好をこそ十分に満足させてくれたが、わたしの感受性を絶えず傷つけていたのだ。わたしは苦しみ悩んでいた。わたしは、頭を丸坊主にされ、穢らわしい制服を着せられて、この卑しむべき場所に拘禁されていることの恥辱感に苛まれていた。——わたしに対するあらゆる非難に対して、たとえそれが不当のものであっても、心の底から、然り、と答えよう—— 彼の自己憐憫は、自己憐憫を、つきぬけている。なんて気持ちいいんだ。
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言語の力によって現実世界の価値をことごとく転倒させ、幻想と夢魔のイメージで描き出される壮麗な倒錯の世界。――裏切り、盗み、乞食、男色。父なし子として生れ、母にも捨てられ、泥棒をしながらヨーロッパ各地を放浪し、前半生のほとんどを牢獄におくったジュネ。終身禁固となるところをサルトルら...
言語の力によって現実世界の価値をことごとく転倒させ、幻想と夢魔のイメージで描き出される壮麗な倒錯の世界。――裏切り、盗み、乞食、男色。父なし子として生れ、母にも捨てられ、泥棒をしながらヨーロッパ各地を放浪し、前半生のほとんどを牢獄におくったジュネ。終身禁固となるところをサルトルらの運動によって特赦を受けた怪物作家の、もっとも自伝的な色彩の濃い代表作。
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ジャン・ジュネの『泥棒日記』は、まさしくフランス的だと思う。 華麗で洒落ていて繊細でいて装飾過多。 左脳じゃなくて右脳。 言葉を言葉として考えるのではなく、言葉の持つイメージだけがするりするりと脳の中に染み込んでくる。そして染み込んだそれは、忽ち像を成して広がってゆく。 たとえ...
ジャン・ジュネの『泥棒日記』は、まさしくフランス的だと思う。 華麗で洒落ていて繊細でいて装飾過多。 左脳じゃなくて右脳。 言葉を言葉として考えるのではなく、言葉の持つイメージだけがするりするりと脳の中に染み込んでくる。そして染み込んだそれは、忽ち像を成して広がってゆく。 たとえば他の本(文章)から、私は時々イメージを思い浮かべたり創作意欲が湧いたりインスパイアされたりするのだけれど、ジュネの文章はそれ自体がまるで美しい絵画のようだと思う。 だから私はそこから何かを得るのではなく、ただそこにある世界を受け入れ、鑑賞し、味わう。 まるで言葉が踊っているような感じ。 こういう文章は苦手な人もいると思うので、積極的におススメはできない。途中ちょっとつまらなく感じたりもするし、尻窄みの印象も否めない。読み終わった後の全体的な評価としては微妙。 でも私は案外好き。悪くない。 さらりと読める本に飽きた方、右脳で読むのが得意な方は是非どうぞ。
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ピカレスク(悪態)文学の最高峰とも言われる作品。 1人の泥棒(脱走兵∧男娼)の目線を通して既存の価値観に真っ向勝負して、そして敗北する。 「背徳の美学とは、いかなるものか?」ということが知りたければ是非一度手に取ってみてください。 ここまで世の中を斜めから見れたら『ホンモノ』だと...
ピカレスク(悪態)文学の最高峰とも言われる作品。 1人の泥棒(脱走兵∧男娼)の目線を通して既存の価値観に真っ向勝負して、そして敗北する。 「背徳の美学とは、いかなるものか?」ということが知りたければ是非一度手に取ってみてください。 ここまで世の中を斜めから見れたら『ホンモノ』だと思います。 この作品に関連して、 第一次世界大戦後に欧州でおこったダダイズムや デカダンスの概念などを一緒に考察すると 非常に深みのある社会の一面が垣間見えるように思います。 このジャンルに興味のある方は。 ○ランボー「地獄の季節」(これもある意味詩集です) ○ボードレール「悪の華」(詩集) など読んでみてください。
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圧倒的に重い小説でした。 理解できないことを当然のように並べられ、理解できるかと問われる。 「理解できない」と答えるしかないけれど、それでもその表現や奥にあるものは何なのか、必死で目を凝らす。 そんな作業の積み重ねで、読み終えた頃には疲労困憊でしたが、そういう作業と向き合わせてく...
圧倒的に重い小説でした。 理解できないことを当然のように並べられ、理解できるかと問われる。 「理解できない」と答えるしかないけれど、それでもその表現や奥にあるものは何なのか、必死で目を凝らす。 そんな作業の積み重ねで、読み終えた頃には疲労困憊でしたが、そういう作業と向き合わせてくれる何かがある、そんな小説であるように思います。
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父なし子として生まれ、母に捨てられ、裏切りと盗みをおぼえ、泥棒と男娼をしながらヨーロッパを放浪し、前半生のほとんどを牢獄ですごしたジュネの自伝的作品。
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この書物『泥棒日記』は、すなわち、「到達不可能な無価性」の追求、である。 この本、凄い。 善悪とか美醜、そんな基準を超えた、常識をぶち壊すジュネの感性。それが、視覚的でなく感覚的に迫ってくるから、怖くてしょうがない。脳みその1しわ1しわから、あぶら汗がびっしり出てくるような...
この書物『泥棒日記』は、すなわち、「到達不可能な無価性」の追求、である。 この本、凄い。 善悪とか美醜、そんな基準を超えた、常識をぶち壊すジュネの感性。それが、視覚的でなく感覚的に迫ってくるから、怖くてしょうがない。脳みその1しわ1しわから、あぶら汗がびっしり出てくるような恐怖とスリルは、もう、楽しむ以外に為す術が無い。興奮と感嘆の中に僕は取り残される。自分の母親に「涎をたれ流すか、彼女の両手の中にげろを吐くだけで我慢しよう」とか、「痰が人を感動させずにはいない生命力に満ち」ているとか、「糞をする犬が感動的」だとか、モノの観点が全然違う。真の芸術家の狂気、始めて感じた。
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愛すべきジュネ(笑)自分に誇りを持っていいんだよ?と教えてくれたのはジュネでした。もう、そんなの、忘れてしまってますけど。しかし、長くて濃かった…(笑)20代前半で読んだもの。捨てられず、売れなく(笑)納戸の本棚にも仕舞えない大切な本です。
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彼の小説の中ではこれと、「葬儀」が好きでした。もちろん、「薔薇の奇蹟」「花のノートルダム」もいいです。 ジュネに関しては堀口大学さんの訳も合ってますよ。
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少し(というか大分)前に出版された本だったので、文字が小さく詰まっていて、見かけ以上に長い話でした。 ジュネは醜いものを、本来醜いものに使うべきではない美辞麗句によって美しく描いているが、決して美しいものを醜く描いていると言うわけではない。それでも、あまりの乞食っぷり(当時それが...
少し(というか大分)前に出版された本だったので、文字が小さく詰まっていて、見かけ以上に長い話でした。 ジュネは醜いものを、本来醜いものに使うべきではない美辞麗句によって美しく描いているが、決して美しいものを醜く描いていると言うわけではない。それでも、あまりの乞食っぷり(当時それが至る所で見られたものとはいえ)の描写には驚きました。泥棒としての罪悪感のなさも。 ジュネの愛(男色)は配偶行動抜きの、まさに真実の愛だったといえるのではないのだろうか?そう思わせるような日記でした。
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