或る女 改版 の商品レビュー
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一人の男を愛し抜いても幸せにはなれなかった。 邪魔をしたのは婚約者への罪悪感か、女への嫉妬心か、自身の持病か、家族への愛情か。 何もかも捨てるつもりでいたのに、結局そういったものに足を引っ張られて自滅した、或る女の話。 強欲だが、心の奥で冷たくなりきれずにいるのはなんとも憎みがたい。 誰よりも美しく才気に富んだ葉子が狂い堕ち逝く様は、読んでいられないほど辛かった。
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この小説が書かれた年代は1911年~13年、物語の時間は1901年(明治34年)の秋冬春夏。しかしまったく時代を感じさせない「或る女」「早月(さつき)葉子」というヒロインのなまなましさ、よ。 要するに道具立ては古いが(明治時代の背景)1人のヒロインの強烈な個性を描きつくした有島...
この小説が書かれた年代は1911年~13年、物語の時間は1901年(明治34年)の秋冬春夏。しかしまったく時代を感じさせない「或る女」「早月(さつき)葉子」というヒロインのなまなましさ、よ。 要するに道具立ては古いが(明治時代の背景)1人のヒロインの強烈な個性を描きつくした有島武郎という作家の腕の冴えを味わった。 美人で才知あふれ、気が強くかつ傷つきやすい女に、時代の荒波が(といっても現代とさしてかわらず)世間が、男の論理が襲いかかる。情熱をもって立ち向かう姿は迫力があるのだけれど、少々方向違い。 そりゃぁ、初恋の彼「木部」から新婚2ヶ月めに脱走し、離婚し、密かにそのときの子供を産み落とし、その身を親の後ろ盾がなくなり親戚に進められたとて、アメリカにいる婚約者のもとに行く船上で(2週間かかる)、船の事務長「倉地」に熱烈な恋をして結ばれ、アメリカに上陸もせずとんぼ返りしてしまう、そんなわがまま女幸せになれるはずがない。 日本に帰ってきても、船で知り合ったほかの男やら、アメリカの婚約者ともどもつなぎとめながら、「倉地」と同棲し深みにはまっていく。 という物語内容で「葉子」の性格行動を、文学的な心理描写とともに素晴らしく表現され、夢中に読ませる。やはり古典的自然主義文学の傑作なのである。 解説(加賀乙彦)にもあるが、アンナ・カレーニナやボヴァリー夫人のごとく、あざやかに浮かびあがる日本の女性像のひとり「或る女」の性格、現代にも、いや現代だからなおいるだろうね。「風とともに去りぬ」のスカーレット・オハラのように好悪のはっきり分かれる、妖婦的主人公である。 巻末に注釈あり、モデル説もありそういう興味もいいが、一気に読んで心理描写、歴史的時代背景、文学の情緒を楽しめる。しかも、仮名づかいなど表記も読みやすくなっているから、昔、読み挫折したけれど取り戻した感じで嬉しい。ああ、名作はいい!
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美貌で才気溢れる葉子は従軍記者として名を馳せた詩人・木部と恋愛結婚するが2ヶ月で離婚。その後、婚約者の木村が待つアメリカへと渡る船の中で妻子ある倉地に魅了され、彼と共にアメリカには行かずに帰国してしまう。親類や世間から非難され、後ろ指を指されながらも激しい気性をもって愛に生き抜こ...
美貌で才気溢れる葉子は従軍記者として名を馳せた詩人・木部と恋愛結婚するが2ヶ月で離婚。その後、婚約者の木村が待つアメリカへと渡る船の中で妻子ある倉地に魅了され、彼と共にアメリカには行かずに帰国してしまう。親類や世間から非難され、後ろ指を指されながらも激しい気性をもって愛に生き抜こうとする葉子だが、次第に狂うばかりの猜疑に凝り固まってゆく。葉子の複雑な人格に圧倒されました。恋に生きようと奮闘し、話が進むにつれて抱いた疑惑に精神が激しく乱れていく様は読んでいて痛々しいほどでした。葉子は人を手玉に取るような妖婦的な一面もありますが、本当は心の底から誰かを信じることができない弱さを持った淋しい人。自ら信じなければ誰も信頼してはくれない。一心に人を信じることの難しさを葉子を通してまざまざと思い知らされました。
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理解されないって気持ちと1人で頑張ってるっていういろんな抑圧から悪女になったのかな?古藤と事務長と他の人との違いってなんだろう。古藤は女の空虚さを見破りそうで、事務長は自分の姿を重ねてる理解者?うーん。
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有島武郎の代表作の一つ。 有島武郎で有名作といえば「カインの末裔」、「惜しみなく愛は奪ふ」、「生れ出づる悩み」なども有名ですが、本作が"白樺派・有島武郎"を知るには最もふさわしいかなと思います。 「白樺」は武者小路実篤が中心となって、同窓の学生や顔見知りが集...
有島武郎の代表作の一つ。 有島武郎で有名作といえば「カインの末裔」、「惜しみなく愛は奪ふ」、「生れ出づる悩み」なども有名ですが、本作が"白樺派・有島武郎"を知るには最もふさわしいかなと思います。 「白樺」は武者小路実篤が中心となって、同窓の学生や顔見知りが集まって作られた同人誌で、ある程度裕福な学生が集まって作られました。 今も語られる著名な文豪が名を連ねているのですが、有島武郎もそんな白樺創刊のメンバーの一人で、本作も、「或る女のグリンプス」という題で白樺で創刊時から連載が始まりました。 今となってはその活動は日本文学史の重要なムーブメントと捉えられていますが、当時は上流階級のお坊ちゃまの活動に白樺を逆から読んで"ばからし"と批判する声もあったそうです。 以前、感想を書いた武者小路実篤の"お目出たき人"を読んだときなどはそれが如実に感じられ、いかにも文学家気取りの青年が書いた作品という感じがした記憶があります。 本作も、有島武郎の最初期の作品ということもあって、序盤は内容よりも読みづらさが勝りました。 場面はわかるのですが抑揚がなく、登場人物のキャラクター描写も貧困で内容が頭に入らず、読むのに苦労しましたが、後半、特に終盤のジェットコースター感が凄く、一気に加速します。 最初とっつきにくさがありますが、船から降りるまで、葉子の病気に重篤な雰囲気が漂ってきたあたりまでは、頑張って読むべきと思います。 主人公の早月葉子は、美貌と才能に溢れる女性で、大勢の中心となるような魅力的な人物です。 一方で、身内には疎まれていて、男性からは言い寄られますが、同性からはあまり好かれないようなタイプです。 そんな葉子が古藤という男から切符を受け取り、電車でどこかへ向かうシーンから物語は始まります。 葉子は木部という元従軍記者と恋愛結婚後、一女を儲けますが、2ヶ月で離婚、電車は、アメリカにいる婚約者の元へ行くためその友人が付添で船に向かっているシーンなんですね。 なお、本作の登場人物にはモデルがおり、葉子のモデルは佐々城信子というドラマを持つ女性です。 木部は国木田独歩、古藤は有島武郎だそうです。 結末はかなり悲劇的な内容で、信子は有島武郎に抗議をしようと思っていたが、その後、有島は人妻との恋愛に悩み情死したため適わなかったという逸話があります。 あらすじは是非読んでほしいので細かく書きませんが、葉子の身勝手さや、相手の好意を逆手に取った振る舞いから一転して、転がり落ちるように零落する様はある意味でカタストロフのようなものを感じました。 哀れな妄想に取り憑かれて、呪うように呻き続ける終盤の展開は本当に凄まじい、鬼気迫るものがありました。 それが懲罰とするのであれば残酷と思われる感じが評価の分かれるところと思いますが、私は読み物として楽しめました。 白樺派の作品としても有名ですが、単純にのめり込める作品だと思います。
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最初は悪女だ、とレッテルを張りながら読んだが、途中から悪女は悪女だが、こういう心の揺れ動き、思っていることとは真逆のことを言ったり行動したり、強がったり、、、その程度は別にして誰にでもあることじゃないか、と印象が変わってくる。葉子を通じて、人間の心の中にある矛盾や葛藤、感情と理性...
最初は悪女だ、とレッテルを張りながら読んだが、途中から悪女は悪女だが、こういう心の揺れ動き、思っていることとは真逆のことを言ったり行動したり、強がったり、、、その程度は別にして誰にでもあることじゃないか、と印象が変わってくる。葉子を通じて、人間の心の中にある矛盾や葛藤、感情と理性の衝突、など「意外とそういうものかもしれない」と葉子を受け入れている自分に驚く。 一方、葉子は体調の悪化とともに精神がむしばまれていく。精神を制御するためには健全な肉体が大事。いろいろな読み方ができた小説であった。長くても読む価値あり。
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少しずつ読み進めて、この日に読み終えることができた。 女性の自我の開放云々の前に、主人公・葉子の「すぐカッとなる性格」「後先を考えずに行動してしまう性質」が、色々と災いしてないか……? 一番読んでいて楽しかったシーンは、倉地+二人の美人妹と一緒に暮らしていた所。
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戦後復興の時代。天性の美貌と魔性を持つ葉子。狂気的な生・性への執着と激情を完膚なきまでに描き切る。派手なアクション無しでも伝わる壮絶なリアリティに、息が詰まる純文学の大傑作でした…教えていただき、ありがとうございました!
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連休を使って読み終わりました。文章は読みやすく、長編小説と言っても飽きさせない主人公の心理、言動が如実に描かれておりました。自分の気持ちに忠実に従った葉子の気持ちを時に海や嵐、木々の花々に擬えて表現している所が良いところです。男性に対する冷淡な姿勢もよく解ります。前半と後半では葉...
連休を使って読み終わりました。文章は読みやすく、長編小説と言っても飽きさせない主人公の心理、言動が如実に描かれておりました。自分の気持ちに忠実に従った葉子の気持ちを時に海や嵐、木々の花々に擬えて表現している所が良いところです。男性に対する冷淡な姿勢もよく解ります。前半と後半では葉子の落差が伺えて、少し胸が痛くなり、あれだけ憧れて読み進めた葉子の姿が変わり果ててしまい描写も独りよがりになって行った気がします。主観もありますが、評価は3ぐらいとなります。 無論墜落していく様を描き切っているところはこの小説の良いところです。それを筆者は描きたかったのだと思います。100年前の時代の女性達にとってはセンセーショナルな題材だと推測出来ますが、その当時の社会でこの様な生き様の女性が居たという事をこの小説を保って表現さす事により、時を経て女性擁立社会にも繋がって行ったのだと思います。
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今年は有島武郎生誕140年。クリスト教徒のくせに不倫をした上、心中自殺を遂げた人であります。故に内村鑑三は激怒しました。享年45。 『或る女』は彼の作品中でも代表作と目されます。ドナルド・キーン氏も絶賛してました。 主人公の「或る女」こと早月葉子にはモデルがあり、それは国木田独歩...
今年は有島武郎生誕140年。クリスト教徒のくせに不倫をした上、心中自殺を遂げた人であります。故に内村鑑三は激怒しました。享年45。 『或る女』は彼の作品中でも代表作と目されます。ドナルド・キーン氏も絶賛してました。 主人公の「或る女」こと早月葉子にはモデルがあり、それは国木田独歩の前妻である佐々城信子であります。独歩自身は「木部孤笻」として登場します。 葉子は十代で木部孤笻と恋に落ち、周囲の反対を押し切り結婚、一女(定子)を儲けますが、すぐに木部孤笻に失望して逃げてしまふ。そして両親亡きあとに、米国の木村なる実業家の元へ嫁ぐことになります。しかしこれは生活の為で、葉子には木村に対する愛情はなかつたのであります。 米国行きの船旅中に、今度は船の事務長である倉地と恋に落ちます。しかし彼には妻子がゐました。それを承知で不倫の恋に陥る葉子。米国に上陸するものの、もう木村には完全に関心はなく、病気を理由に日本に帰つてしまふのです。酷い奴だ。 日本では倉地との事実上の夫婦生活を始め、妹の愛子と貞世をも呼び寄せます。しかし倉地は新聞記事で不倫を暴かれ、醜聞で職を失ひます。やむなく彼は裏のヤバイ仕事に手を染めるのですが...... 一方木村は葉子を諦めきれず、手紙と送金を継続します。葉子は木村と結婚する気は皆無なのに、金だけは送らせてゐました。やはり酷い奴。 葉子は次第に倉地の自分に対する愛情を疑ふやうになります。美しく成長する妹の愛子や貞世にも嫉妬してしまふ。倉地のみならず木村の友人・古藤や、船旅中に知り合つた青年・岡にも、愛子との関係を疑ふのでした。ちなみに古藤は葉子からバカにされてゐますが、常に本質を見抜いてゐるのが古藤でした。古藤のモデルは有島本人らしく、好い男に描かれてゐます。 嫉妬から貞世に辛く当るやうになり、それが一因で貞世は腸チフスを患ひます。葉子は後悔し、必死の看病をしますが、自らも病に倒れます。 その後の葉子は段々と被害妄想が酷くなり、常人とは思へぬ言動を繰り返すやうになります。周囲の人間も次第に遠ざかり、それがますます葉子に疑心暗鬼を生じさせます。美しかつた葉子も、すつかり痩せこけて窶れてしまふ。かつての妖艶さは見る影もない...... モデル小説といふことで、発表当時はあまり評価されなかつたやうです。通俗文学と見做されたのですね。小説の後半は事実とはかけ離れ、あまりの相違に佐々城信子は激怒したとか。うむ、さうだらうなあ。 しかし徹底したリアリズムに支へられた本作は、ヒロインの悲劇(まあ、自滅といふか自業自得なのだが)を感情を交へる事無くハードボイルドに描ききつた佳作と申せませう。使用単語や言ひまわしに独特なものがある為、現代読者にはとつつきにくいかも知れませんが、そんなことも忘れるほど迫力に満ちた一作であります。 デハデハ、今夜はこれでご無礼します。 http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-741.html
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