火星のタイム・スリップ の商品レビュー
火星という現実とは異なる世界を舞台にしつつ,現実と虚構の狭間を曖昧模糊とし,我々の現実世界認識自体が如何に曖昧でかつ他者に影響され移ろいやすいものか,突き付ける実験作品と認識する.果たして,精神異常者が世界にとって異常なのか,それを観察する我々が異常なのか….相も変わらず毒の強い...
火星という現実とは異なる世界を舞台にしつつ,現実と虚構の狭間を曖昧模糊とし,我々の現実世界認識自体が如何に曖昧でかつ他者に影響され移ろいやすいものか,突き付ける実験作品と認識する.果たして,精神異常者が世界にとって異常なのか,それを観察する我々が異常なのか….相も変わらず毒の強い,読者の精神を抉る作品である.
Posted by
電気羊だけがディックじゃない!と思わせる一作。 1964年発刊。その30年後の1994年の火星が舞台。そこには人類が植民していますが、まだ社会基盤が脆弱なために水不足に悩まされていたり、闇取引が横行している世界。他に、人類と共通の祖先である原住民のブリークマンがいたり、ある種の...
電気羊だけがディックじゃない!と思わせる一作。 1964年発刊。その30年後の1994年の火星が舞台。そこには人類が植民していますが、まだ社会基盤が脆弱なために水不足に悩まされていたり、闇取引が横行している世界。他に、人類と共通の祖先である原住民のブリークマンがいたり、ある種の精神疾患を持つ人間は未来を見る事ができるという設定がされています。 これを書いている現在、1994年からちょうど30年経っていますが、いまだに火星に人類が足跡を残していないのが面白いですね。 あらすじは、修理屋を営むミスター・イーのもと、雇われているジャック・ボーレンは、依頼のあるままにヘリコプターで飛び馳せる毎日。ある日、依頼元の酪農場に修理に向かう途中、国連の保護対象である原住民ブリークマンの遭難を知らされます。現場に急行すると、同じく知らせを聞いた火星で絶対的な権力を持つ水利組合長アーニー・コットと出会い、口論を経つつも技術力を買われたジャックはイーとの雇用契約を買い取られて、アーニーの下で働くことに。実はアーニーには、ある秘密の計画があり、ジャックは思わぬ事件に巻き込まれて行きます… タイトルにタイム・スリップと付いていますが、一般的に想像するものとは異なり、精神疾患者との時間認識の差異を利用して表現しています。そのため、途中でループしているような感覚や現実が崩壊していくような不思議な感覚を覚えます。いろいろな登場人物たちが出てきますが、それらがラストに向かって収斂していく後半は読み応えがあり、ラストのオチも好きですね。 ただ、こういう世界はリアルでは体験したくないです。健常者との時間感覚の差から、他人の喋っている言葉が理解できず「ガブル、ガブル、ガブル」としか聞こえないなんてね… ところで、作中にブルーノ・ワルター指揮『モーツァルト:交響曲第40番ト短調』が出てきて、久しぶりに第25番とのカップリングCDを聴いています。ディックも好きだったんだなと思いつつ、彼が聴いていたのはレコードだったと思うと羨ましい限りです。 正誤 14刷 P62の8行目: そうことが ↓ そういうことが
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
1964年昨。読んでみた。分裂病は時間感覚が狂っているのだという仮説をもとに、自閉症の少年マンフレッド・スタイナーを中心に、火星の水利組合の代表、〝組合貴族〟のアーニー・コット、その愛人ドーリー、修理技術者ジャック・ポーレンが活躍する。物語は国連の火星投資の前に火星の土地(火星原住民ブリークマンの聖地)を買い占めようというアーニーの試みが中心となる。アーニーは分裂病(自閉症)には時間を自由に操作できると思っていて、マンフレッドの能力で大もうけをしようとするが失敗する。 このほかに、ジャックとドリーの不倫、ジャックの息子ドリーの通う火星の未来学校(ティーチャーマシンでアンドロイドで、エジソンやアリストテレスなど歴史上の人格が移植してある)の記述が興味深い。最後はポーレン夫妻がダブル不倫から家庭生活に安らぎを見いだすという内容。ループ小説のように同じ記述が何度もあらわれるが、精神病の内面世界と関係しているので、なんだかオドロドロしい。 例によってディックだから〝ニューエイジ〟風で、もうこういうのはいいかなと思う。傑作といえるかどうかは疑問。
Posted by
精神分裂病が引き起こす、時間感覚の崩壊。ディック作品おなじみ現実崩壊感の別バージョンな感じ。序盤では描写される火星開拓の行き詰まりがリアルに感じられて面白い。中盤は火星の住民たちと分裂病患者をとりまく人間ドラマが印象的。終盤でタイムスリップがキーとなって物語を飛躍させ、SFらしい...
精神分裂病が引き起こす、時間感覚の崩壊。ディック作品おなじみ現実崩壊感の別バージョンな感じ。序盤では描写される火星開拓の行き詰まりがリアルに感じられて面白い。中盤は火星の住民たちと分裂病患者をとりまく人間ドラマが印象的。終盤でタイムスリップがキーとなって物語を飛躍させ、SFらしい驚きの感動を与えてくれる。ディックで一番好きという声が多いようで、確かに他の長編に比べて読みやすかったと思う。ギミックが難しくなく、人物の感情の流れもわかりやすいからだろうか。個人的に自閉症や神経症に縁があるので、そのあたりの著述も興味深かった。
Posted by
現実との境目が曖昧になっていく感じが好きだった。 三人称の中に一人称があっても混同せずに読める。 人妻っていいよね。セールスマンにおれもなりてぇよ。
Posted by
久しぶりに読んでみたが、感動が薄れた。 初読5だったが3 程度。 あまりに古すぎて設定が古さが気になる。字が細かい。昔の本はこの細かさだったことを改めて実感
Posted by
表紙が違うけどなー。 読んでるうちに頭が混乱して、こっちが分裂しそうだったので「火星」はともかく「タイムスリップ」は追求しないことにしました。 でも、もしかして新しい土地への開拓団みたいな感じで送り込まれた人たちは(自分の意思で参加したとしても)こんな環境にはあったんじゃないかな...
表紙が違うけどなー。 読んでるうちに頭が混乱して、こっちが分裂しそうだったので「火星」はともかく「タイムスリップ」は追求しないことにしました。 でも、もしかして新しい土地への開拓団みたいな感じで送り込まれた人たちは(自分の意思で参加したとしても)こんな環境にはあったんじゃないかな?と思うし、護符とか言い伝えとか、馬鹿にできない部分があるのも事実。 なんか背筋が少し寒くなります。
Posted by
火星に住んでいるという以外は、普通の人間ドラマでSF星の少ない作品。自閉症の子供が、なぜか未来が見えてしまうという設定で、それを取り巻く大人たちのあれこれ。「設定で」と書いたのは、SF要素はそこくらいなんだけど、結構わかりにくいんだよね、 ディックの作品らしく、キャラクターの立...
火星に住んでいるという以外は、普通の人間ドラマでSF星の少ない作品。自閉症の子供が、なぜか未来が見えてしまうという設定で、それを取り巻く大人たちのあれこれ。「設定で」と書いたのは、SF要素はそこくらいなんだけど、結構わかりにくいんだよね、 ディックの作品らしく、キャラクターの立った登場人物に、順々に視点を移していき、誰にフォーカスが合っているのか最初はわかりにくいが、それほど登場人物は多くないので読みやすいだろう。 途中から、マンフレッドとジャックという、自閉症と分裂症の登場人物が、未来を見ているのか、それとも架空の時間軸を行っているのかわからないような展開が出始めた辺りで、まともな読者だと面食らうだろうけど、不思議とそれまでよりも掴みやすくなるのだな。 しかし、ハードなSF要素も少なく、展開は問題なく読めたものの、個人的にのめり込むほどの作品ではなく、「これが好きだ、最高傑作だ」と内容関係なくダラダラ褒めまくる解説にもちょっと面食らった。 ハヤカワの水色版で読んだけど、最近のは新訳だったりするのかしらん。
Posted by
何でこのタイトルにしたんだろう? 確かに火星だし、目的はタイムスリップなのだが、あくまでも副次的な要素でしかないように思う。 まず第一に、全然火星らしくないw 火星的な火星ではなく、完全にもう一つのアメリカ(西部開拓時代の)。 地球からの移民だから当たり前と言えば当たり前かもし...
何でこのタイトルにしたんだろう? 確かに火星だし、目的はタイムスリップなのだが、あくまでも副次的な要素でしかないように思う。 まず第一に、全然火星らしくないw 火星的な火星ではなく、完全にもう一つのアメリカ(西部開拓時代の)。 地球からの移民だから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、 彼らの関心・心配事はごく普通の(地球上と何ら変わらない)ことばかり。 原住民である火星人も、完全にネイティブアメリカンである。 とにかく、SF小説的な火星では全く無い世界観が描かれている。 そしてメインテーマは自閉症の子の内世界と他者の現実の混濁。 現実の現実性を否定するディックの世界観はやはり秀逸である。 クライマックスの捉え方を色々考えてみるのもまた一興だと思う。
Posted by
http://blog.goo.ne.jp/shirokuma_2007/e/a464ad420d7b2f680dde0a7701410fad
Posted by
- 1
- 2