天北原野(下) の商品レビュー
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貴乃はひたすらに耐え続けた。人間だから耐えなければならないと。しかしひたすらに耐え続けた貴乃は幸せだっただろうか? 完治と結婚した時から貴乃の心は凍てついてしまったように見えた。自分の心を凍らせなければ、耐え抜くことはできなかっただろう。 辛いことを耐えずに礼文島へ帰った女性は幸せに暮らしているという描写がある。 耐え抜くことが必ずしも正義ではなく、辛ければ逃げてもいいと言うメッセージだろうか? 天真爛漫なあき子はお金だけでは生きていけなかった。優しい夫がいるにも関わらずに。 あき子は貴乃と孝介の関係を知らなければ死ななかっただろうか? 知らなくともいつかは孝介の前から姿を消していたように思う。 どれだけお金があり、生活になんの不足も無く、夫から大切にされても愛がなければ寂しく不倫に走ってしまう。 あき子がイワンの子を2度身ごもっても、読者も孝介もあき子を憎むことはできない。これはあき子の天性にも感じる。 孝介の「幾人産んでもいいんだよ、幾人でも育てるから」と言う言葉に深い愛を感じずにはいられなかった。 戦争を知らない世代からすると、戦争が終わって国民は喜んでいたのかと思っていたが 終戦後の虚無が稚内にいる貴乃からひしひしと伝わってきた。 地上戦があったのは沖縄とよく言われるが、樺太でも地上戦があり、樺太から引き揚げを余儀なくされた人々が多くいることを忘れないで欲しい。
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愛憎劇と社会や戦争がもたらす人生の不条理が 人間の本質的な部分を浮き彫りにしていって 生とは、死とは何かを考えさせられる内容でした。 「氷点」に近いスキャンダラスな愛憎劇だけど、 生も死も、善も悪も肯定するような 壮大なスケールの精神性を感じました。 全体を通して、展開もテン...
愛憎劇と社会や戦争がもたらす人生の不条理が 人間の本質的な部分を浮き彫りにしていって 生とは、死とは何かを考えさせられる内容でした。 「氷点」に近いスキャンダラスな愛憎劇だけど、 生も死も、善も悪も肯定するような 壮大なスケールの精神性を感じました。 全体を通して、展開もテンションも結末も 常に程よい緊張感があり、個人的には今のところ三浦綾子最高傑作です。
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泥流地帯が良かったので、全くあらすじを知らないまま手に取った。舞台こそ戦前の樺太と北海道で三浦綾子の世界観だが、登場人物たちの複雑に絡み合った愛憎の人間関係は現代の昼ドラでもこうはいかないだろうというほど。 神は登場人物全員に過酷すぎる運命を与えるのだが、主人公の貴乃は身を捩りな...
泥流地帯が良かったので、全くあらすじを知らないまま手に取った。舞台こそ戦前の樺太と北海道で三浦綾子の世界観だが、登場人物たちの複雑に絡み合った愛憎の人間関係は現代の昼ドラでもこうはいかないだろうというほど。 神は登場人物全員に過酷すぎる運命を与えるのだが、主人公の貴乃は身を捩りながらただひたすら耐える。耐えて、耐えて、耐えた最後に戦争はさらに試練を与えていく。人間にとって耐えるということはーー。 2023/03
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まず、戦争が影を落としていても、孝介と貴乃の愛は変わらないところに感動した。 上下巻を読み通して、生きることについて考えさせられた。
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人間生まれてきた以上、幸せだけを受けるわけにはいかない。 幸せを受ける以上、不幸せも受けるしか仕方がない。 これがいちばん印象に残りました。 幸せしかなかったら幸せじゃないもんな。 ならば、25年間も耐え続けた貴乃と考介には最後には幸せになってもらいたかったとも思うけど。 ...
人間生まれてきた以上、幸せだけを受けるわけにはいかない。 幸せを受ける以上、不幸せも受けるしか仕方がない。 これがいちばん印象に残りました。 幸せしかなかったら幸せじゃないもんな。 ならば、25年間も耐え続けた貴乃と考介には最後には幸せになってもらいたかったとも思うけど。 三浦綾子の小説には教えられることが多いと改めて思いました。 ひさしぶりに手に取ってみてよかったです。
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数多くの三浦綾子作品を読んできたが、今回も罪なき人達に襲いかかる多くの試練とそれを耐え忍ぶことを通じて生きるとはなにか、人を愛するとはなにか、といった人生の根源的な部分を問うた作品であった。 孝介と貴乃の純な恋愛が須田原家の完治により引き裂かれることから始まるこのストーリーである...
数多くの三浦綾子作品を読んできたが、今回も罪なき人達に襲いかかる多くの試練とそれを耐え忍ぶことを通じて生きるとはなにか、人を愛するとはなにか、といった人生の根源的な部分を問うた作品であった。 孝介と貴乃の純な恋愛が須田原家の完治により引き裂かれることから始まるこのストーリーであるが、想像を遥かに上回る混沌とした愛憎劇で、中盤読んでいるのが辛くなるほどであった。「人を一度も傷つけずに生きてる人間なんて、ありはしない」という孝介の言葉に重みを感じつつ、完治の働いた行為によりここまでも多くの人が悲しみ・苦しみに陥れられている状況、更に完治本人の心の中には何も変化がない、その状況に読んでいる私自身も絶えず憤りを感じた。終始孝介と貴乃が結ばれることを願いながら読み進め迎えた終盤の展開は、涙をこらえることが出来なかった。どうして罪なき人がここまで苦しい思いをしなくてはならないのか、現代の自分の生き方を考え直さざるを得ない。
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日露戦争の戦果として樺太の南半分を日本が取得したと歴史で習ったが、その樺太の南半分を舞台に繰り広げられる、昼ドラや韓流ドラマなみの愛憎劇。北海道と違って樺太は外国だからそうそう簡単に行けないんですよね 主役のはずの綺麗な心持のご立派な貴乃と孝介よりも、その主役の敵となる完治と...
日露戦争の戦果として樺太の南半分を日本が取得したと歴史で習ったが、その樺太の南半分を舞台に繰り広げられる、昼ドラや韓流ドラマなみの愛憎劇。北海道と違って樺太は外国だからそうそう簡単に行けないんですよね 主役のはずの綺麗な心持のご立派な貴乃と孝介よりも、その主役の敵となる完治とあき子の俗な物言いや行動の描写がはるかに嫌な面も含めて印象に残り、その部分もまさにドラマ向けといえる。 昭和52年にドラマになったようで、ロケ製作費は大変だろうからリメイクとはいわないが、再放送の価値があるのでは、もろ昼間に。 著者は虚弱だったので、取材は全て本で済ませたのはないかと推察するが、だとしても描写が素晴らしい
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粗野で下品、道徳観念なし、アクの強い登場人物が多い中で、主人公貴乃の真面目さ、純粋さ、やさしさがひときわ目立ちます。その貴乃とお似合いの孝介、結ばれるはずの2人は完治の悪巧みによって引き裂かれ、それぞれの運命が激変していきます。 泣く泣く完治の家に嫁入りした貴乃ですが、主婦として立派に勤め上げることが驚きでした。運命に翻弄されて終わらず、「置かれた場所で咲く」ことのできる女性です。内心では恨み、つらみ、未練も多々あるのですが、それを押し隠して生きていく。誰にでもできることではありません。 一方、孝介も樺太で実業家として成功。完治の妹あき子を嫁にもらうのですが、もしかして復讐のため?と思ってしまいました。お嫁にしていじめたりするのかなと。実際は何不自由のない暮らしをさせてあげるけれど、ある一点においては復讐ともいえるような気がしました。 貴乃・孝介ともにそれぞれ配偶者の浮気があり、あき子は不倫の子を産むし、貴乃の息子に至っては完治の愛人と関係を持ったりと乱れた展開に。肝心の貴乃・孝介はお互いを思いながらもずっと清い関係のまま。2人は掃き溜めに鶴のような存在です。 その後、第2次世界大戦へ。終戦間近にソ連が参戦、樺太は大きな被害を受けることに。終戦後のソ連の攻撃には本当に腹が立ちました。 混乱期に貴乃・孝介それぞれが家族を失い、悲しみ・後悔に暮れるものの、最後になってやっとひとすじの希望が見えてきました。ようやく!と思った矢先に、また不幸が。 貴乃のことだから、きっと毅然とした最期を迎えるのでしょう。でも、数々の艱難辛苦を耐え忍んできたのだから、戦後のこれからという時代を孝介と穏やかに笑顔で暮らしてほしかったと切実に思いました。 上下巻で読みごたえある大作です。三浦作品の中ではキリスト教色がなく、読みやすかったです。
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先の戦争前後、北の北で生きる人たちが苦難に耐える物語。孝介と貴乃に幸せになってほしいと願いつつも、そうなれない所に色々と考えさせられる。 あと樺太についても興味が湧いた。
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圧倒的。思ってた以上にドロドロした愛憎劇。そして珍しくクリスチャンではない三浦作品、でも根底に通ずるその精神。長めでも一気に読めた。面白かった。20130914
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