東インド会社とアジアの海 の商品レビュー
『東インド会社』とはなんだったのか。 本書はそんな不明瞭な質問に直球で答えてくれるわけではない。 オランダ・イギリス・フランスそれぞれの東インド会社は歴史の発端になったというよりも、 大航海時代の荒波に揉まれ、飲み込まれ、すり潰された大勢の中の一人であったように思える。 ヨーロ...
『東インド会社』とはなんだったのか。 本書はそんな不明瞭な質問に直球で答えてくれるわけではない。 オランダ・イギリス・フランスそれぞれの東インド会社は歴史の発端になったというよりも、 大航海時代の荒波に揉まれ、飲み込まれ、すり潰された大勢の中の一人であったように思える。 ヨーロッパから東インドへ。 香辛料と香料を求め、関税と危険に満ちた数多の陸上国家を経由しない海路の開発は、西欧社会の悲願であった。 ポルトガルがそれに先んじることができたのは、単なる歴史のタイミングという他ない。 スペイン、フランス、オランダ、イギリス。 国の趨勢に応じたタイミングでそれぞれが東インドへと足を伸ばし、未開の地を砲と銃で征服する。 日本が幸運にもその被害を受けずに済んだのは、当時の徳川政権による統治が沿岸部まで届いており、攻略にはコストがかかりすぎると見逃されたからにすぎない。 時に強奪、時に交易と、砲と積荷を使い分けたが、成功すれば多大な見返りを得られ、失敗すれば全てを失うことは変わらない。 どの国の東インド会社も単一企業ではそのリスクの大きさを背負いきれず、設立当初から投機の対象となっており、利益の拡大を常にせまられていた。 ゆえに香辛料と香料のハイリターンをさらに超え、 莫大な需要により労働環境にまで影響を与えることになる茶と、既存産業との競合が発生する綿織物にまでその範囲を広げると、貿易の範疇を超えて社会へ深く関わらざるをえなくなる。 中でも拡大したイギリス現地勢力は、インドのムガル帝国の皇帝死去による混乱に巻き込まれる形で明確な領地を得るまでになるが、領地運営は貿易の延長で手がけられるものではなかった。 インドでの税収拡大とのイギリス企業の利益確保という相反する価値観の調整は一企業には難しく、ついには東インド会社は完全に国のものとなり、その後世界的な自由貿易の流れに埋没した。 以降、貿易は国家と帝国の戦略により運営される時代となり、戦力を奪われた企業の海外戦略は資本主義の到来までその鳴りを潜めることとなる。 果たしてこの経験は、当時の西欧社会にはどのように総括されたのだろう。 帝国主義の萌芽、資本主義のつまづき、 植民地経営のさきがけ、奴隷貿易の遠因。 単一の事象を記した本書からは歴史の流れを伺うことはできないが、この積み重ねこそが、全体を知るための唯一の方法だろう。
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竜頭蛇尾?? と言っちゃ悪いかな? 前書きが長くて、とっても期待させるって却ってマイナスかも。 いや、内容が悪かったというわけじゃ絶対にないんですよ。 普段は見逃されている観点から歴史を見るという試みには大いに共感を持ちます。 その観点とは、東インド会社を中心として、アジアの海の...
竜頭蛇尾?? と言っちゃ悪いかな? 前書きが長くて、とっても期待させるって却ってマイナスかも。 いや、内容が悪かったというわけじゃ絶対にないんですよ。 普段は見逃されている観点から歴史を見るという試みには大いに共感を持ちます。 その観点とは、東インド会社を中心として、アジアの海の帝国を語ること。 勿論、アジアの海には日本の長崎・平戸を介した貿易が含まれます。 歴史というものは陸上を念頭において語られますが、海から見るというのはとてもチャレンジングな試みです。 とても興味深く読めましたが、ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰経由でアジアに至る海路を発見したときから、16世紀から18世紀までの200年間に絞って語られ、残念ながら植民地支配には踏み込みません。 何故なら東インド会社はそれ以前に終わってしまうからです。 もちろん東インド会社は植民地支配の先導役を果たします。 しかしながら、海からの観点からは植民地支配は描けません。 そこで終わるのは仕方ないことで、著者に対して竜頭蛇尾だと批判するのは的外れなことは分かっています。 さらに著者に気の毒なのは、主役たちがろくでもない連中ばかりで品格に欠けることです。 一攫千金を目論んで、命がけで海に乗り出す連中です。 金儲けが総ての連中に、品格のある歴史が作れるはずがありません。 でも、品格があろうがなかろうか、それは紛れもない歴史であり、彼らの活動によって歴史の大きな流れが確実に影響されたのは間違いのない事実です。 人類の進歩というものは、実に多くの紆余曲折があったんだなぁと改めて思わされます。
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オランダからインドへ、そしてマカオを超えて出島まで、やや物語的に過ぎるところもありますが、興亡の世界史シリーズでもっとも知的興奮を味わったのはこの本でした 貿易を主軸に幅広いテーマにきっちり目を配られていて、是非とも読むべき一冊です
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世界史の視点で東インド会社を捉える意欲作。各国史に分かれず全体を眺めると、ここまでダイナミックな時代だったのか。技術はあるが商品競争力のないヨーロッパと、物量豊富なアジアとの交流、今の西洋文明の基礎をもたらした、など、目から鱗の連続。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
興亡の世界史シリーズは各国の歴史を「横断」して語ってくれるので面白い。今作はまさにそのパターン。ポルトガルから始まった欧州とアジアの貿易、そっから英仏蘭東インド会社の栄枯盛衰を描く。大変わかりやすい。 しかし、バスコダガマの時代から西洋至上主義は存在してたんだなー。というか、西洋と非西洋の文化の違いが面白い。アジア~インド諸国の「非主権国家」っぷりというのは今後の世界の有様をみるうえでも大事なことなのではないだろうか。つまり、「西洋的な主権国家」という概念が行き詰まりをみせる昨今、それに代わる、というか、それよりもより有効な国家(?)の在り方が、そこにあるのではないか、など。ようは、今フツーに思ってるシステムがフツーじゃないって思うことって大事ですよね。という。
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世界史とってない私にも読める易しい本。大まかな流れが掴める。 バスコダガマってやなやつだなー。歴史は勝者のものなんですね。
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●構成 はじめに 第一章 ポルトガルの「海の帝国」とアジアの海 第二章 東インド会社の誕生 第三章 東アジア海域の秩序と日本 第四章 ダイナミックな移動の時代 第五章 アジアの港町と商館 第六章 多彩な人々の生き方 第七章 東インド会社が運んだモノ 第八章 東インド会社の変質 第...
●構成 はじめに 第一章 ポルトガルの「海の帝国」とアジアの海 第二章 東インド会社の誕生 第三章 東アジア海域の秩序と日本 第四章 ダイナミックな移動の時代 第五章 アジアの港町と商館 第六章 多彩な人々の生き方 第七章 東インド会社が運んだモノ 第八章 東インド会社の変質 第九章 東インド会社の終焉とアジアの海の変容 おわりに -- 当初ヨーロッパにおいてのみ活動していた西洋人は、次第にその版図を広げ、また新たな産物を交易することで富を得るために、西インド諸島を皮切りに少しずつ活動範囲を広げていった。 本書は、喜望峰を越えた東アフリカからペルシャ湾、インド海、東南アジアを経て極東の日本まで及ぶ広大な世界で活動した、オランダ・イギリス・フランス各国の東インド会社の誕生の背景から終焉までのおよそ2世紀にわたる、東アジアでの西洋と東洋の係わり合い――交易、政治、文化など様々な領域での接触――を概観する。各国それぞれの東インド会社だけを中心に、西洋から見た東アジアを捉えるだけでなく、もう一方の当事者である東アジア各国の視点から東インド会社や西洋世界についても詳述する。 概観しているからといって広く浅く、薄まったような概説書ではない。関係する様々な先行研究を敷衍し、インド、東南アジア、日本などを「発見」した西洋人がどのようにこの世界で影響力を広げていったかを丹念に記している。ハードカバー390頁で文庫ほど気軽には買えないものの、東インド会社についての全体的な知識を得るためにはお勧めの一冊である。 -- 【古本】
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まさしく「歴史観がかわる」本。従来みたく一国の東インド会社について見るのではなくすべての会社を取り上げ、そして地域もその航路になぞらえた「アジアの海」という広大な範囲を視野にいれる。そのことにより世界のダイナミックな広がりが見え、国民国家という観念にとらわれがちな考え方を改めさせ...
まさしく「歴史観がかわる」本。従来みたく一国の東インド会社について見るのではなくすべての会社を取り上げ、そして地域もその航路になぞらえた「アジアの海」という広大な範囲を視野にいれる。そのことにより世界のダイナミックな広がりが見え、国民国家という観念にとらわれがちな考え方を改めさせられる。とても読みやすく面白いのでおすすめ!
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